御盆(長閑様)












  私...幸せです。





「何...してるんですか?」



セイの目の前にいるのは、胡瓜や茄子に棒を刺している歳三の姿。
「あん?何、って...盆の準備に決まってるだろうが」
さも当たり前、といった調子で言った。
「...盆って...ここには位牌も何にもないのに...」
ふぅーっとため息をついて、歳三のとなりに座った。



ここは、土方宅。
今年、歳三と恋仲だったセイに、新しい命が宿ったこともあり、
セイは新選組から脱退し、二人は晴れて夫婦となった。
そして、この家で暮らしている。
歳三は夫婦になる前からは想像できないほど、セイを大切に、大切にしていた。
仕事が終わるとまっすぐセイの待つ家に帰って来る。
妓遊びも、付き合い程度になった。
そんな歳三を心底周りは驚いたが、
歳三の弟分で、セイの上司だった沖田総司と、新選組局長で歳三の幼なじみの近藤勇だけは

「あはは。土方さんらしいなぁ〜」
「確かにトシらしい」

と笑っていた。



「これ、わざわざ買ってきたんですか?」

ひょいっと、もう出来ていた茄子の馬を持ち上げる。
なかなか器用に作られている。
「あぁ。まだいくつか残ってるから、夕飯に使えるぜ」
「あ、分かりました。...って、それより、誰の為の盆の準備なんです?
 歳三さんのご家族のでしたら、ご実家でしてるでしょう?」
きょとんとした顔で、セイが歳三に訊ねた。
すると、歳三は大きくため息をつき



「お前の両親と兄のに決まってるじゃねぇか」



「...え?」
セイは小さく目を見開いた。
「...ったく...お前なぁ〜神谷家で生きてるのはセイだけだろ?
 なのに盆の準備もしてやらなきゃ、帰って来て行く場所がなくて迷うだろうが」
そう言って、優しく小さく笑った。
「...歳三さん...」

目頭が、じわっと熱くなる。

「......私の...家族を...迎えてくれるんですか?」
「ったり前だろうが?お前の家族は、俺の家族でもあるだろ」
「......」


...泣きそうだ。
セイは、心から、この人と結ばれてよかった...そう、思っていた。




「歳三さん...大好きです」




「...何、言ってやがる」
セイの満面の笑みに、無類の照れ屋は真っ赤に顔を染めた。




———ホントに、ホントに...大好きです...




その夜、家の前で迎え火を焚いた。






あっという間に時は過ぎ、盆も終わりを迎えた。
送り火が、パチパチと燃えている。

「父上...母上...兄上...」

小さく、セイがそう呟いた。
そのセイをぐっと、歳三が抱き寄せる。
「歳三さん?」
「いや...」
そう言って、フッと笑った。
「何?」



「お前の...家族に逢ったよ」



「...え?」
意味が分からなくて、歳三の顔を見上げる。
「いや...幻かも知れねぇけど...見えたんだよ、幽霊ってヤツか...」

「え、えぇ!?」

驚いて、目を見開いた。
「あ、逢ったんですか!?父上や母上や兄上に!?」
「あぁ」
「ほ、ホントに!?...ズルイ...」
心底残念そうに瞳を伏せるセイを、くくっと笑って、頭を撫でた。

「それで...何か、言ってましたか?」



「...セイをよろしく、だと...」





   『セイ!』



鮮やかに思い出が蘇ってくる。
そう呼ばれた、懐かしい声が聞こえた気がした。

「......父上...母上...兄上...」
堪えきれず、ぽろぽろと涙が流れた。
...止まらない。
そんなセイを、優しく抱き寄せる。

「...言われなくっても、大切にするに決まってる」
「...歳三さん...」
優しい口付け。
本当に愛しむように、お互いを包み込む。


「来年は...三人で迎えましょうね?」
「そうだな...」


お互いを見つめて、優しく笑いあう。








父上...母上...兄上...

まだまだ未熟な私ですが、今、胸を張って言えます。



私は、今幸せです。



だから、見守っていて、下さいね?
















長閑様より、書中見舞いにいただきましたー。
歳セイは、綺麗になりますねー。
絵になりますねー。 大人ですねえ…。
ステキな涼しげなオトナの読み物を有難うございました!!