人魚姫さん
これは、人魚姫を元にした風光る小説です。
広い海の底には、綺麗なお城がありました。
珊瑚が色とりどりに輝く、とても大きなお城でした。
そこには、とても美しいと評判の人魚姫がすんでおりました。
これからお話しするのは、その人魚姫の恋のお話。
人魚姫の恋は叶うのでしょうか?
では、はじまり、はじまり。
美しい人魚姫は、今日もお姉さんと仲良く海の散歩へと出かけていました。
海の仲間達と挨拶をかわしながら、楽しそうに泳ぐ人魚姫。
楽しそうに、おかしそうに。
そう、とてもおかしそうに………
「何時まで笑ってやがんだ!!!(怒)」
お姉さんは何故か、ふくれっ面で珊瑚の椅子に座っています。
その姉を指さしてげらげらと笑う人魚姫。
「だ、だって…ふ、副長が何で人魚なんですか〜!!」
「うるせえ!文句あるか!」
美しい人魚姫はなおも笑います。
「も、文句は無いんですけれど…その胸の貝殻はないですって〜!」
その言葉に憮然としてお姉さんは抗議します。
「笑うなってんだろ!その前にお前も着けてるはずじゃあなかったのか!?」
「うっ?!」
人魚姫はぎくり、と心臓を鳴らしてしどろもどろに言いました。
「や、やはり武士たるモノ隊服は常に身につけていないとと思いまして…」
「ったくなんで俺だけが…」
「隊服の下にちゃんと着てますよ〜」
副長は納得のいかないという顔で首を掻きます。
そんな格好ではさすがにおなごだとばれちゃいますし、と人魚姫は冷や汗ながらも心の内でつぶ
やきました。
「それより副長、王子様の所へ遊びに行きましょうよ!」
人魚姫は話題を変えようと、とっさにそう言いました。
「…嫌味言ってやがんのか」
お姉さんはしかめ眉をさらに寄せて答えます。
「何でですか?地上に行けばすぐですよ」
人魚姫はきょとんとして言います。
「王子役って確か総司だろうが!!あいつにこの格好見せられるか!!」
「ああ…そうですよね…。…ぷっ」
じろりとお姉さんに睨まれた人魚姫は、また吹き出しそうにった口を慌てておさえました。
お姉さんはいまだ仏頂面のまま、しっしっと追い払うように手を振りながら言いました。
「行くなら一人で行って来い。足を魔法使いに貰ってくるのを忘れんじゃねえぞ」
「はい、行って来ます副長」
そうして、人魚姫は王子様に会うために、地上で歩くための足を貰いに魔法使いの所へと行くこ
とになりました。
こんこん、と丁寧に扉をノックする人魚姫。
すると、扉の向こうから声が聞こえてきました。
「人魚姫君!!待ち焦がれていたよ!」
その声は…と、人魚姫が気づいた時にはもうすでに遅く。
勢い良く扉を開けて両手を広げているのは、そう、あの人である。
新撰組参謀。
「いっ、伊藤先生…!!」
「人魚姫君、君のことを想う日々はとても心苦しかったよ…!」
魔法使いは嬉々とした笑みをたたえ人魚姫に走り寄る。
その声に鳥肌をたたせる人魚姫はすでに逃げ腰であった。
しかし、王子様に逢う為には魔法使いにお願いをせねばなりません。
「い、伊藤先生!あ、あの、お願いを聞いていただけますでしょうか!」
魔法使いの勢いに逃げ場を無くした人魚姫は涙を溜めつつも必死にそう訴える。
「人魚姫君の頼みとあらばいかにとも…。してその頼み事とは?」
「あ、足を頂けますか!!!」
一刻もはやく立ち去りたい人魚姫はそう叫ぶ。
すると、魔法使いはにっこりと笑って指を鳴らしました。
すると、びっくり。
人魚姫の綺麗な尾は、すらりとした二本の足へと変わっていったのです。
「あっ!…わあ!す、凄いですね〜!!」
人魚姫はその足を見て目を丸くします。綺麗に伸びた足。
これで、人魚姫は無事、王子様に会いに行くことが出来るのです。
人魚姫は嬉しそうに笑って言いました。
「伊藤先生、、ありがとうございます!」
「礼には及ばないよ。ただし…」
人魚姫は立ち去ろうとしたその足をぴたりと止めました。
沈黙が流れます。
『ただし』。人魚姫にはそう聞こえたように思えました。
そして。
「はやまるんじゃねえ、人魚姫〜〜〜!!!」
突然、ばたーんと大きな音を立てて駆け込んできた者達。
「ああっもう遅かったか〜!!」
「ええっ間に合わなかったの?!」
そこには、キスマークを沢山つけた原田、永倉、藤堂が息を切らせて立っていた。
人魚姫はその三人を見るなり青い顔をして言った。
「………何が間に合わなかったのですか」
「足をもらっちまったんだろう、人魚姫」
気の毒そうにする永倉。
嫌な予感が人魚姫を襲う。
「……もらいました」
藤堂もかわいそうに、と眉毛を下げて言う。
「ああ、やっぱり〜。よく聞くんだよ、魔法使いが合図してからね、一言でも喋るとね」
「……喋ると?」
原田があきらめろと首を振ってとどめをさした。
「一言につき魔法使いからのキスマークサービスだと…無念だな、人魚姫」
「では、合図をしよう♪はい、初め♪」
ええ————?!と叫ぶはずだった人魚姫の口は三人がかりでふさがれた。
そんなわけで、人魚姫は、足と引き替えに声を奪われてしまったのです。
とぼとぼと海岸を歩く人魚姫。
その姿は意気消沈、すっかり顔は青ざめてしまっていました。
そこへ、どこからか走り寄ってくる者がいた。
そう、それこそが、人魚姫の逢いたがっていた愛しの王子様であった。
「人魚姫さん!!」
走り寄ってくる王子様。
人魚姫は、元気のない顔を上げて振り向いた。
沖田先生こんにちは、と言いたいが人魚姫は喋れない。
王子様は、息をきらせて走りより、心配そうに人魚姫の顔をのぞいた。
「さっきみんなから聞きましたよ。声、とられちゃったんですって?」
それを聞いて人魚姫は涙を溜めてこくこくと頷いた。
「まったく、人魚姫さんたら、すぐ騙されるんだから…」
王子様はため息をつきつつも、頭を撫でてやった。
人魚姫は少し頬を膨らませて目で抗議する。
その可愛らしい顔を見て王子様は苦笑する。
「それに…」
なんだ、と言うような人魚姫の顔。
それを見て王子様はあきれたようにまた笑った。
「下、まさか何にも履いていないとかは無いですよね?」
人魚姫は目を丸くする。
人魚姫は、全く気づかなかったらしい。変えて貰った足には何にも着けずに此処まで来てしまったことを。
借りた隊服が大きくて、膝まではかろうじて隠れていたのだが…
人魚姫は慌ててしゃがみ込んだ。
顔を真っ赤にして、隊服の裾を足の先までぐいと引っ張って足を隠そうと試みる。
「ええ?!まさか、ほんとにそうなんですか?!」
これにはさすがの王子様も驚いたらしい、顔を赤くして慌ててそばへと寄った。
そして。
王子様は、ぴきりと音をたてて固まった。
足の先まで引っ張った替わりに隊服は少し下へと伸び。
その合間からは、貝殻をつけた可愛らしい胸が覗いてしまっていたのである。
「………神谷さん」
はい?という顔で人魚姫が見上げた時には、もう遅く。
既に王子様は人魚姫に襲いかかっていた。
「さすがに今回は神谷さんが悪いんですよ」
「—————?!」
「声を出せないってのも結構燃えますしね♪」
「〜〜〜〜〜〜?!!」
浜辺。それは、愛を語る場所。
人魚姫の恋は、叶った、ということにしておきましょう。
めでたし、めでたし。
めでたしめでたし!!(無理矢理)
はぁ…。
人魚姫、ハッピーエンドだったら好きなんですけどねぇ…