金木犀












「あ、金木犀ですね」


セイは、そう、うれしそうに橙色に淡く光る花を眺めた。


「ほんとうですね、いいかおりです」


沖田も、そんな彼女に目を細めて答えた。


「秋は、少し淋しくなります」


セイは、そのまま目を空へうつした。


「淋しく?なぜです?」


「兄上は…秋が好きでしたから」


「そうだったんですか」


総司は、穏やかな微笑のまま答えた。


「それでですね」


セイは、淋しそうにほほえみながら総司に振り向いた。


「なんです?」


「私、それで昔兄上に喜んでもらおうと、金木犀を取ってあげたんです」


「へえ」


「そしたら、次の日…」


「次の日?」


「兄上が、その金木犀の枝を折ってしまった家の人におこられちゃったんです」


「あはは、神谷さんたら人の家のとってきちゃったんですか?」


「しようがないでしょう、小さいからわからなかったんです!」


「神谷さんたら、金木犀泥棒だったんですね♪」


「ど、泥棒って!じゃあ、今私のおだんごを取った沖田先生もだんご泥棒ですね!!(怒)」


セイは、もうあげませんとおだんごを取り上げた。


「神谷さんのいじわる〜」


「まだ続きがあるんですっ」


「なんですか〜?」


総司は指をくわえてもの欲しそうにだんごをみつめた。


「まったく、もう。ちゃかさないでくださいね、はい」


横目でじろりと見たセイがだんごをつきだすと、総司はあーんと大きく口をあけて待った。


「…なんですかソレ」


「はべはへへふだはいよ(食べさせてくださいよ)」


セイは、その言葉に少し頬を染めると、もう、とだんごを総司に食べさせた。


しあわせそうにもぐもぐと口を動かす総司は、また歩き出しながら、話の続きを促した。


「その金木犀で怒られたの、兄上は私に一言も言わなかったんです」


「へ?」


「兄上が怒られちゃったのを、私偶然見ただけなんです。」


「へえ〜そうだったんですか」


ふふ、とセイは笑うと、総司のだんごの蜜だらけの口を見て手ぬぐいを渡し、また続けた。


「兄上が家に帰ってきて、私も怒られると思ったら」


「思ったら?」


「金木犀の飾られた花瓶を見て、きれいだな、セイって。」


「……」


「私は、そのとたん泣き出して、兄上を結局困らせてしまいました。」


「…ふふ、やさしいおにいさんですね」


二人の背中もむつまじく、とんぼがすい、と空へ飛んでいった。
















そして、次の日の朝。
















セイの枕元には、金木犀の花が一枝、朝日を浴びながら横たわり。



隣の沖田総司の布団は、すでに綺麗にたたまれていた。















うん!

ほのぼのなはず!

へへ(笑)