吹雪












雪が、うなり声をあげて襲ってきていた。


まわりの木々は震えあがり、もう雪は何もかもを白くしてしまっていた。






「こっちです、神谷さん!」


沖田は叫んだ。


二人は、山の中に逃げ込んだ倒幕志士を追う途中、この吹雪で道を見失っていたのだ。


どこかで暖をとらねば凍えてしまいますから。そう言って、セイを置いて行ってしまった沖田が戻って来たのは数分後だった。


「沖田先生!ああ、良かった、無茶はしないでくださ…」


そう涙目で叫ぶセイの声を聞いているのかいないのか、沖田はその小さな手をぐいと引いてぐんぐんと雪道を降りていった。


吹雪は、顔に当たって痛かったが、セイは必死で沖田の足取りについていく。


そこは小さな山小屋だった。


すでにその扉に積もった雪は除かれていた。


二人はその山小屋へ駆け込むと、風の勢いでなかなか閉まらない扉をなんとか閉じて、へたりと座り込んだ。


その後の、沖田の行動は素早く、見事であった。


すぐに毛布を見つけてくると少女にあてがい、薪には火を焚いた。


ぱちぱちと、暖かみのある火花の音が、山小屋に響き始める。


二人は、毛布の中で肩を震わせながら、炎の暖かさへと寄り添った。






セイは、ゆっくりと目を閉じると、はあ…と、凍えた手のひらに息を吹きかけた。


そうして、落ち着いてきた少女は、やっと口を開いた。


「…沖田先生。」


「…なんですか?」


礼を言われると思ったのだろう、にわかに期待した笑顔で沖田は答えた。


「さっきは慌ててて気づかなかったんですけれど」


「…はい。なんです?」


沖田は、うれしそうに答える。


「沖田先生」


「はい」


沖田は、照れくさそうに耳を少し掻いた。


がしかし。


「このありきたりな展開はいったいなんなんですか」


セイはいままでにない低い声でそう言った。


総司は、びくりと肩を動かした。そして…視線は、決して、セイに合わせない。


「で、なんでこんな山小屋こんな都合良く、しかもこんなところにあるんでしょうか」


総司の額には、一筋の汗が流れた。そしてなお、視線は合わせない。


「で、その手はいったい何なんですか


そう。セイちゃんの細い肩を、総司の左手がいままさにつかもうと空を舞っていたのである。


総司は(ひや)汗いっぱいの顔でその手をさっとひっこめると、言いました。


ごくりと、唾を飲み込んで。


「か、か、神谷さんの」


の?


「こここ、凍えた体をうを、あた温めてさしあげようと」


セイはそこまで聞くとにっこりと微笑んで言いました。


「大丈夫です。こんな吹雪、へっちゃらです。帰りましょう、沖田先生」


びゅおおおおおお。


外の吹雪の音が鳴り響く。その音は、にっこりと笑ったセイの怖さを助長して見せた。


沖田は口を一文字にしてその笑顔を見届ける。


セイは、すっくと立ち上がると、素早い足取りでスタスタと戸の方へ向かった。


「ああっ!まってください!!」


その背中を慌てて呼び止めたのはもちろん沖田。


片手をセイの背中へ伸ばして空に舞い、涙ながらに。


そして、口走ってしまったのだ。


「吹雪の中で遭難は裸で暖め合うのだと相場は決まって居るんです〜!」


ぶ——っ!!


セイはなぬ?!という顔をしてぐるっと振り返った。


「いまの笑い声、何ですか?」


涙目で、総司はきょとんとして答える。


「へ?」


「複数の、笑い声ですよ。」


不審そうに、セイは眉をしかめながら、先程沖田が毛布を持って現れた奥の部屋へと忍び寄った。


沖田も、その後ろからおそるおそるついていく。


セイは果敢にも、がたん、と音を立ててそこの扉を開く。


そこには、原田の口を押さえる永倉と、土方、それに明里までもが腹をかかえて震えていた。


「ほらばれちまったじゃねえか、馬鹿佐之助!」


「そうどす、でも、あ、あれは…うくく、あ〜くるし」


「まあ総司にしちゃあよくやったほうなんじゃねえか」


そう言ってまだ笑って震えている4人。


「ど〜ゆうことなのかご説明願えませんかね〜」


セイは血管を切らしそうな顔をしてその野次馬につめよる。


そしてばたん、と大きな音を立てて総司が入る隙もなく、扉は閉められた。


「かみやさあ〜ん」


山小屋には、いまにも泣きそうな総司の声が響いた。






それが、こういうことらしい。


つい先日セイに契りを拒まれた総司(笑)は、明里に相談しに行ったのである。


良い方法も浮かばない明里に、割入って来たのは遊里に遊びに来ていた土方だった。


そういう場(シュチュエーション)を作ればいいと。


作戦を練って三人で茶を飲んでいるところ、偶然にも永倉と原田が通りすがり、妙なメンツに興味本位で聞き耳を立て、よしそれなら早いと、知り合いのあさ(ここのHP管理人)という者へと話を持ちかけたのだ。(おいおい)






シナリオはこう。


一、 吹雪で遭難した二人は山小屋へとたどり着く。


二、 そこで素早い処置と行動で男らしさをアピールする。


三、 そしてそっと肩を抱き、「寒いだろう」と言い密着する。


四、 「こんなに凍えては体に悪い」と諭しお互い裸になる。


五、 注意、ここで神谷は警戒するであろうから何もしないと約束する。


六、 そして裸で二人で暖め合う。


七、 うやむやのうち二人は抱き合い、契りを交わす。


八、 めでたしめでたし。






セイは、そのシナリオを聞くと頬を赤くして、気まずそうに言った。


「…ぜんぜんだめじゃないですか」


「そうそう、設定の半分も満たしちゃねえんだぜ?!し、しかもあの叫び台詞…うっくくく」


原田と永倉はいまだそう言って笑う。


「でも、これを聞いてはった沖田センセ、必死やったんよ」


明里は、沖田をフォローして、やさしく言った。


「おら、さっさと総司んとこ行け」


にやにやと笑いながらも、土方はしっしっとセイを追い払うように手を振る。






セイは、両足を組み、しょんぼりとうなだれている総司の後ろ姿に、そろりと近づいて、囁いた。


「今度、添い寝してあげますから」






それが添い寝ですんだのかどうかは、定かではない。(笑)


























情けない総ちゃんばんざあはぁあーーい!

はい。

申し訳有りません…(おいおい)