「もうっ、大丈夫ですって言ったのに」
「何が大丈夫なんです!!」
「適当に酔わせて帰りますよ」
「貴方本当にわかってるんですかそんな簡単に…」
「沖田先生あんまり喋んないでくださいよばれますから」
「人の話を…」
「何をこそこそとしてる!早く来い!」
部屋には、用意された三つの枕。
それをげっそりとした表情で見る総司。
「よしよし可愛いなお前は酒をついでくれるかな」
そう言って貼り付くようにセイに寄る男に、
「はい」
と慌てて酌をするセイ。
その瓶を鷲掴んで割いる総司。
「こんな人に構ってないで私にも構って下さいね!!」
そんなぶっきらぼうな声に男は眉をしかめたが、まあいいというふうに酒を飲む。
そんな総司の背中を、セイがぐいぐいと引っ張った。
総司が眉をしかめたまま振り向くと、そこには上目遣いに見上げてくるセイがいた。
その可愛らしさといったら、総司が酌をする酒のこぼれ具合でわかってもらえるだろう。
「こぼれとる、こぼれとるぞ!」
そんな慌てた男の声を無視して総司は涙を流した。
ほんっとに、襲いたいのはこちらのほうです!!!
そんな総司の邪な思いはいいとして、セイはひそひそと話しかけてくる。
「先生、喋らないでくださいって言ったでしょう」
「いいから貴方はそこにいなさい」
ひそひそとそう諫めるがセイはもう、と不満そうに頬を膨らませて
「そういう訳にはいきません。あちらから酒を煽りますから」
と、すたすたと反対側へ回っていってしまったのであった。
そうして、事件が起きた。
ころろん、とセイが転んでしまったのである。
拍子に、裾がはだけて白い足が除いた。
あ、と総司が口を開けたが時は遅く。
セイがいたた、と起きあがろうとした。
少し腰を起こして片腕をつくその姿は、これほどのものは無いというほど艶めかしく移る。
二人の男が、ごくりと、唾を飲み込んだ。
ん?と男が顔を向けて、向けられた総司は慌てて顔を逸らした。
「す、すみません。失態を」
慌てて駆け寄るその姿に、男も慌てたように言った。
「んん?よ、良い良い、お楽しみは後でなぁ」
その意味に気づいた総司は眉をしかめたが、セイはそうですか?と呑気に笑っていた。
総司は重いため息をついてまた酒をつぐ。
その酒を飲み干すと、男は立ち上がった。
そして。
男がいきなり、セイの頬に、ちゅううと、口をつけた。
口づけを、したのである。
セイは、びきりと固まった。
「ちいと厠へ行ってくるからなあ♪待っておれ」
そう言ってすたすたと去った男の背中を見送ってからも、セイは固まったままでいた。
セイはそのまま、石のように頬に手をあてて動かなかった。
総司は足をのばして両手を後ろにつくと、そのままセイの後ろ姿を眺めた。
そして無造作に自分の化粧を落とし始めた。
綺麗な青色の袖が白く染まる。
そうしてそのまま立ち上がって押入にある浴衣を取り出す。
ばさりと青色の着物を畳に落とすとその浴衣を羽織った。
そして何処に隠していたのか、剣を一本帯にさす。
そうして、石になったままでいるセイの背後にスタスタと歩いた。
セイが、ぎくしゃくと振り向いた。
そうしてあれっ?!と目と口を思い切り大きくした。
「…え、えっ?!なっ…、いつの間に…?!」
総司のその姿に信じられないと目を丸くするセイの前に、総司は無言で膝をついた。
そうしてそのまま、セイの肩におもむろに手をかけると、そのすらりとした首すじに口づけをした。
そのまま口を離した総司の顔はにっこりとほほえんで。
「あの人を斬ったら帰りますから、その支度をしたんですよ」
そう、言い放ったのであった。
セイは、ぱくぱくと口を動かして首に手をやり、顔を赤くすることしか出来ずにいた。
そのまま総司は、先ほど男にも口づけられた頬に口をつけて、嘗めとった。
何がなんだかわからないセイは、ただ目を丸くするだけで。
そうして二人の背後で、がらりと大きな音がした。
あの男が、帰って来たのである。
男は、そのまま、入って来ずに立ちつくした。
総司が、振り向く。
男は、据わった目をしてつったている。
総司は、そのまま目を光らせて、ぼそりと言った。
「すみませんが、邪魔をしないでいただけますか」
新撰組志士、沖田総司のその睨みが、何よりも怖いのを知っているのはやはりセイで。
思わず、総司の袖をがしりと掴んだ。
何かを、阻止するように。
そして、数秒後。
男が、そのまま後ろへと傾いていった。
ばたーんと凄い音を立てて後ろへ倒れ込む。
それを見て目を丸くしたのは、二人。
そう、沖田総司は、まだ剣を手にしていなかったのだ。
男は、そうとう酔いつぶれていたらしく、自ら倒れていったのだ。
そのまま鼾が、聞こえてきた。
総司が、くるりと、セイの方へ顔を向けた。
セイはびくりと肩を震わす。
「運が良かったですね」
あの人も私達もと飄々と言う沖田総司に、セイはただ頷いた。
いまだこの状況が理解できていないらしかった。
総司は、そんな無垢な子に、くすりと笑って言った。
「じゃあこれであの人を斬って帰る必要が無くなった訳ですね」
今は春。
鶯も雲も晴れ渡る空も。
桜屋の玄関先で、その姿をただ静かに見つめ続けていた。
春、爛漫。
それは、屯所でも島原でも。
同じこと。
な、長くなっちゃいました…
うおお〜い、何が書きたかったんだ〜?
とか言うのは勘弁して下さい。(おいおい)
なんか桜の宴=春=おめでたいみたいな思考回路に作品も
影響されお馬鹿になってしまったようで。
それから、ステキないただきものをハナ様から頂いております。
どうぞ〜!!