メリークリスマス★












「神谷さん寒いですねー」



「大丈夫ですか?だからそんな薄着じゃって言ったじゃないですか」



「神谷さんが暖めてくれる予定だったんですー」



「ええ?こんな所で鬼ごっこなんていやですよ?」



「えぇぇ?」



「一人でやってくださいね」



「えぇぇ??」



「…何すごい顔してるんですほんとにやる気だったんですか?」



「……神谷さんの野暮」







しんしんと雪が降り積もる。



何処からかやってくるその白い雪粒は、二人の黒い髪に添えて溶けた。



それが幾度か重なると、二人の頭の上に白いかさをつくり出した。



そうして二人だけの時間が溶けていく。



その白い、降り積もり溶ける冬の季節と共に。



「樅の木も、こんなろうそくで飾っただけで綺麗なんですね」



「ええ、不思議なもんですね」



「雪が積もって寒そうですね、樅の木も」



「なんです樅の木樅の木って寒いのは私のほうですってー」



「…沖田先生も黙って我慢しているこの樅の木を見習ったらどうですか」



「神谷さん可愛くないっ」



「可愛くなくてけっこ…ふくしゅっ」



「………」



「え、沖田先生何処行くんですか?」



「………何か買って来ますから」



「何か?」



「ああもうわかんなくて良いですからじってしててくださいね」



「……?はぁ…」



そうして一人は雪の中姿を消した。



足跡はすぐに埋められていく。



次から次へとやってくるその雪におおわれて。



そうしてセイは自分の赤くなった手に息を吹きかけた。



橙色のろうそくの明かりがセイをやさしく包み込んでいた。



座り込んだ地面が冷たく冷えていて、セイを少し淋しくさせる。



そうしてもう一息、手に息を吹きかけた。



先ほどよりも少し、うつむきがちに。



雪が、足跡を消す。



愛しいあの人の足跡さえも。



そうしてセイが目を瞑った時だった。



「ほら、神谷さん」



突然降りかかったその声にセイははっとして顔をあげた。



「何ですか、そんな縮こまって。淋しかったんですか?」



くすすと笑うその人の笑顔は何処までもやさしかった。



「な、何を言って…そっそんなことよりっなんですかそれ?」



慌てて話を逸らそうとしたセイに総司はまた嬉しそうに笑った。



無言でそのうつわを差し出してくる。



おそるおそる受け取ると、そのうつわからじんわりとした暖かみがセイの手のひらに行き渡った。



中をのぞき込むと、その熱気がセイの片目を瞑らせた。



もわりとした湯気がセイの視界を曇らせる。



「お汁粉…」



「鬼ごっこは諦めてお汁粉に頼ることにしたんですよ」



そう言いながら隣に座り込む総司の片手にはもう一つ、汁粉が包まれていた。



さも当たり前そうにうつわを持つその手が、大きいなぁと思う。



その手に触れたいと思う。そんな自分の思いが恥ずかしくてセイは少し目をそらした。



気恥ずかしそうに汁粉を見つめるその子に、総司はまた笑った。



「はやく食べちゃわないと冷めちゃいますよ?」



セイはそのやさしげな声音にまた顔を赤くして、いきなり顔を空に向けるとカカカと箸を鳴らして汁粉を口にほおりこんだ。



その慌てっぷりに、総司苦笑して首を傾げたが、まあいいかというふうに自分も汁粉を飲みだした。



そうして汁粉が総司の喉に通ってからその子の声がした。



「沖田先生の野暮天ッ」



ふぐっと喉をつまらせると総司は何かという風に少女に顔を向けた。



すると少女はますます顔を赤くして汁粉を両手で掴んでいた。



総司は苦笑して少女に問う。



「何です?何が野暮なのか言ってくれなきゃわかんないですよ」



こちらには目を合わせずになお頬を赤くする少女。



「ほらほら言っちゃわないと凄いコトしちゃいますよー」



「す、凄いことって何なんですかっ」



さすがの少女も総司にぐるりと顔を向けた。



「なにって野暮天範囲外のことです」



楽しそうに汁粉をずずと飲む総司の余裕っぷりにセイは悔しくて溜まらない。



まさかそんな深刻な事態になるとは思いも寄らなくて。



「じゃあすればいーじゃ無いですかっ」



「いー」と言う時に思いっきり不満を込めてセイは言った。



「………」



「………」

















雪が降る。



明かりが揺れる。



樅の木から、どさりと雪の落ちる音がした。



もう、足跡は消えていた。









「じゃあ遠慮なく」











少し怒っているような声音にセイがびくりと体をすくめた。



が、もう遅い。



総司はいきなりセイのお汁粉を取り上げた。



そうして自分の汁粉と共にそれを地面に荒々しく置いて離した。



たんっという鋭い音がセイの耳をついた。



そうしていきなり両の腕を捕まれた。



セイは恐怖を目の色に移す。



総司の体重がその捕まれた腕から伝わってくる。



自分の体が後ろに傾いていくのがわかる。



それはセイの目を瞑らせた。



怖い。



怖いと思って目を瞑った。



沖田先生が怒っている。



今この状況よりも、その事がなおさら怖かったのだ。



雪が降る。



降って降ってやむはずも無く。



セイの背中は、地面につくことは無かった。



微妙に傾いたその体を力強い手がじっと支え続けていた。



その奇妙な沈黙におそるおそる片目を開けたと同時に、重苦しいため息が聞こえた。



両の腕を掴んだまま、総司はセイを起こした。



そうして自分の体がそのまま元の体制に戻されてから、セイは総司の顔を見つめた。



総司が、何か悲しそうな顔をしている事が不思議だった。



白い冬が、夜を包む。



樅の木の存在が、二人をじっと見守り続けていた。



沈黙を破ったのは、総司で。



「お願いですから…そういうことを私以外の前で簡単に言わないでくださいよ」



—私が笑いながら我慢しているのを知らないからそういう事が言えるんです—



総司が言いたかったはずの本当の声は喉の奥につかえて消えた。



「も、申し訳ありません…」



何がなんだかわからないセイは誤るしか無かった。



それを総司も気づいていた。



そんな無垢なその子に、少しは解って欲しいと思った。



片腕を離した。



もう片方の手の力を緩める。



総司の声音が、空に響いて消える。



「十秒目を瞑ってくれたら許してあげます」



「い、嫌ですっ」



警戒心がセイの内に濃く宿ったらしく、セイの口からはすぐに拒否の声が上げられた。



「もう、しょうが無いですね」



小さなため息と共にセイの視界が閉ざされた。



沖田先生の手のひらだ。



そう思った。



大きな大きな、あの手のひらだ。



そう思うと同時に、





セイの唇に何か柔らかいものがおさえつけられた。





視界が無い。



わからない。



違う、わかる。



いまのは……



セイがぼんやりと考えている内に、両の瞼に添えられていた手のひらと、



片腕を掴んだ手のひらが同時に去った。



ぼんやりと、ぼんやりと、目の前の人を見つめた。



雪の粒が、目の前をかすめて落ちていった。



目の前の人は、既にこちらを見ずに汁粉を吸っていた。



雪が降ってる。



降ってると思った。



目頭が熱い。



そう思いもした。



目の前がぼやける。



沖田先生の姿が見えない。



そう思った時に、総司の声が聞こえてきた。



「…え、えっ?!か、神谷さん?!あっ、あっ嘘っ」



慌てたように頭にのせられる大きな手のひら。肩にもその体温を感じる。



「〜〜〜、〜っごめんなさい神谷さん私ったら、つ、つい…な、泣かないでくださいよ〜」



「…………です」





「えっ?!な、何ですかっ?!」





「手……」



「て?!」



「おっ、おき…せんせいと手を…………っ」



「は、はいっ」



「手を…繋ぎたかったんです…」









樅の木とろうそくと雪の空。



樅のいろと橙色と白い粒。





それが、二人を包む。









それは、暖かく、やさしくおだやかに。









小さな手のひらと、大きな手のひらが、重なり合って暖め合うのを。





二人、染める、頬の色も。







静かに静かに降りそそぐ、白い冬と、共に。




























えっと、ほんとはクリスマスで凝ってたんですけど(笑)

作品だけを展示致します。

六花様、りく有り難うございましたー。