賭け祭り












「沖田先生!!勝負してください!!」



袖を肩までまくしあげて、意気込んで来たのは、中村五郎であった。



「いいですよ、いつでもどうぞ」



総司は、人の良さそうな笑顔を見せると落ちていた木の棒を拾い上げた。



「そうじゃなくって!!神谷のことです!!!」



「は?神谷さん?」















話をじっくり聞いてみると、こういう事であった。



近々、近所で祭りが開かれるのだが、もちろん沖田はセイとつるんで行くつもりでいた。



祭りといえば菓子。総司もすごく楽しみにしている行事である。



そんなことを思わずセイに嬉しそうに語られた五郎としては黙っていられない、と言うわけであった。



「俺だって神谷と二人で祭りに行きたいです!!」



そう叫んだ。



「そんなこと言ったって、神谷さんはどう言ってるんですか?」



総司はもっともな事を言って五郎の喉を鳴らさせた。



そんなもの聞くまでもない。



神谷は沖田総司と行きたいに決まっている。



が、そこは幼い五郎の意地が、嘘を吐かせてしまうのだった。



「か、神谷は…別にどっちでもいいって言っていましたけど?!」



「…!」



今度は、総司が喉を鳴らす番であった。



「じゃあ…神谷さんが決めればいいじゃないですか。私は…別に、どうでもいいですよ」



どこか拗ねたように総司は目を逸らした。



「じゃあ、俺と行くように説得してきますね!!」



五郎も鼻息を荒く吹き出す。そして、去ろうとまわれ右をした。



そして、後ろからは慌てたような声。



「…っ!!な、中村さん!ちょっと待っ…!!」



「……何ですか?」



にやりとした五郎の顔。





そんなこんなで、セイのまったく知らない舞台裏で、火蓋は切られたのであった。























「勝負って…いったい何をするんですか?」



ぼしょぼしょと狭い庭で会議が繰り広げられた。



「剣は駄目です!!他に…」



「剣以外…ですか」



ぎくりとした総司の声。



「当たり前じゃ無いですか。…神谷を体で満足…」



「カラダ?!」



「ええ、それで」「却下です!!!」



「…まだしてないんですかやっぱり」

「…からかわないでいただけませんか」



「わかりました。こうしましょう。神谷を笑わせる回数が多いほうが勝ち!!!です!!」











日が、暮れる。



祭りは、三日後。











決まりごとは三つ。笑うと言っても爆笑を一回とする、勝負は祭りの朝七つまで。







火蓋は、切られた。(んなおおげさな)















=そして二日後=



「神谷ってけっこうだまされやすいですよね。俺はもう10回ですよ」



にやにやとした五郎の勝ち気顔。



そう、勝負は言うまでもなく、五郎10回、総司0回という、ひどいものになっていた。



「…勝負はまだ終わってません!」



総司もさすがに冷や汗をかきながらもそうつっぱねるが、あと一日である。



元来総司は、剣以外、どうにも不器用な男で、それもわかっていての五郎の作戦であったのだ。



「だいたい、沖田先生あれはないですよ、『神谷さん、いないいないばあ〜〜』



「うっ?!み、みてたんですか?」



「ええ、それから、『神谷さん、今日の糞のかたちはこんなで!!(星のかたちを地面へ描く)』」



「…それは力作だったのに…神谷さんたら怒り出して」



「…当たり前です。それから『神谷さん、脱ぎます!!(んばっ!!←効果音)』とか」



「そう!!そしたら神谷さん、パーでひっぱたいて!!いったいどうしてなんでしょうかね?!」



「…とりあえず、これは俺の勝ちですね沖田先生」



「………うぐっ、ま、まだこれからです!!」



総司は、不安げにも、そう叫んで見せた。



…だいじょうぶ?総ちゃん?













そして、あっというまに。最後の夜。



風鈴が涼やかな音を鳴らし、セイの頭の上で揺れていた。



湯上がりに、縁側に腰をかけ、ため息をつく。



ちりん、ちりん、と二度ほど音が遊ぶように畳に響いた。



そこで、隣に腰かけたのは総司で。



セイは笑って総司を迎えた。



総司は、目を合わせなかった。



それに気付かず、セイは楽しそうに話す。



「明日、楽しみですね、お祭り」



総司は、少し顔を下げて、



「…そうですね」



と答えた。



それから、気まずそうに、口を開けた。



「…神谷さんは…お祭りに…誰と」



そこで、口を切った。



それに、セイは満面の笑顔で答えた。



「?何ですか?あ、お祭りといえば、二人でわたあめなんですよね。先生が言うには」



そして、少し間を置いて、ぼそりと言った。早口で、小さな声で。



「…私もそれが一番楽しみですけど」



総司は、その言葉に少し目を丸くすると、ゆっくり顔を背けた。



セイは満足げにふふふと笑う。





ちりりん、と風鈴が鳴る。





風が少しセイの濡れた髪を撫でる。



総司は、重いため息をふう〜〜と吐き出し、思い切ったように、言った。



「さて」



風鈴の糸と紙がくるくるとまわる。



「これだけは辞めておこうと思ったんですけどね」



セイは、不思議そうに、総司を見た。



風鈴も踊る。



同時に、セイは目を丸くして、いきなり笑いはじめた。



「あっははははは!!!お、おき、せ…」



そう。袖下へ総司の手がのびて、いきなりうごめきだしたのである。



「はい一回」



ぱっと手を離すと総司はもう一度くすぐりはじめる。



「や、やめて、くださいって…あ、あは、あはは」



「はい二かい」



「し、しぬ〜!!あはははは!!!」



「はい三かい」





セイの体が傾いていく。



それを追うように、総司の体も傾くが、あきらめずにセイをくすぐる。



それが、幾度も繰り返され、セイの笑い声は響いていった。







「はい、30回」



「…!、…、…!」



セイはぐったりとしてぜえぜえと肩を上下させていた。



やりすぎたかな、と総司はくすりと笑う。



ぐったりとしたセイを覆うようにして、総司の両手は畳についていて。



セイは、ふうふうと息を吐いて、涙目で総司を睨んだ。



襟元はくずれて、セイは頬がまっかで。







静かに、風鈴が、りん、と響く。





そのまま、しばらく時はすぎていく。



総司は、そのままの体制で、じっと、動かずに。



セイは呼吸を取り戻そうと、ふうふうと目を瞑って。



やわらかなため息を、総司の袖へ吹きかけた。





そして、そのまま、総司はセイに覆い被さった。



すっとした鼻をセイの肩越しに木造の縁側につけると、ため息を、深く、深く。ついた。







「………すいません神谷さん。……むらむらきちゃいました」













「……、…、…ムラ…?」



セイの苦しそうな、あどけない問い返しに、総司はくすりと、笑ってみせた。









夏。



五郎は今、勝ったとばかりに月を眺め、まんじゅうをむさぼっていた。





またあの涼しげな音が、五郎の耳に届く。





ちりん、







ちりん、









ちりりりん。




















優様お待たせいたしましたー。

むつかしかった〜!!(笑)

だって総ちゃんてば!!

剣以外何もできないのに勝負にならない〜!!

あと…30回はふつうにしにますって。はい。