「斎藤さん今日もお仕事ですか?」

「…何だ、沖田さんあんたか」

「ふふ、また新しい人達の『お世話』ですか?」

「…まあ、そんなところだ」



総司の何やら意味を含んだ『お世話』にぴくりと眉を動かすと、斎藤は黒い風呂敷きを頭から首にかけてするりと消えていった。



この頃斎藤は忙しい。

そんな背中に「気をつけてくださいね〜」と呑気に声をかけて、総司は部屋へ戻っていった。

風呂上がりの頭からはしとしとと廊下に点を書き、月の光をかろうじて受け浴びていた。

肩に無造作にかかる手ぬぐいの端を掴み首を撫でる。



そうして、あの子のいる部屋へと裸足で踏み入った。



今、沖田総司と斎藤一、神谷清三郎が同室になっており、正直言って、総司としては可愛いあの子と共に過ごせてこれ幸いであった。

そんな総司は、毎日その子に土産を片手に帰ってくる。

一緒に食べようと思った、芋羊羹が手に二つ添えられていた。



しかし、障子の向こうには総司が会いたい人物はいなかった。



「あれ?神谷さん?」



いつもは自分の布団の傍らで帰りを待っていてくれる、その子の影すら見えない。

厠にでも行ってしまったのだろうか。

何にせよ、そこにいるはずの存在がいなかったということが、総司を無性にさみしくさせた。



「神谷さーん?」



拍子抜けしたような声が情けなく部屋に響く。

くすん、と寂しそうに畳に腰を落ち着けると、芋羊羹をはむりと口に含む。





濡れた髪が、いやに冷えていた。





そんな総司の肩裏から、いきなり音がした。

重い、障子が叩くような音。



総司はぎょっと肩をいからせた。





「………」



ゆっくり、目を光らせる。

口には羊羹を、手は鞘に。



しかし、何も無い様子である。

その音は、押し入れから。

その瞬間、あ!と総司は、そうだ、というように顔を輝かせた。

ぱちんと、鞘を離す音がする。



「なんだ、神谷さんたらそこにいたんですね!!」



納得〜と言うように総司はがらりと躊躇なく押し入れを開け放つ。

…おなごの事情も総司には無いに等しいらしい。



そうして、わざわざ押し入れに取り付けた鍵をかけないセイもセイであるが。



しかし。

まあ、期待は叶うか叶わないか半々の問題である。







「…あれ」







またがっくりとしたような声が部屋に虚しくも落ちた。





セイは、ぐっすりと寝入っていた。



無邪気に指を口元に置き、すうすうと寝息をたてている。

総司は、ふう、とため息をついて両腕を押し入れの縁に置いた。





可愛いなァ、と素直に思う。



への字を形づくっていたその口からは、自然と笑みがこぼれていた。

これが昼間になると凄い顔をするんだもの。

くすりと浮く含み笑いが総司を気分よくさせる。



片足のつまさきをとん、と畳の縁におして、首をかしげる。



まぁ、いっか、というように総司は目を少し伏せた。







その時だった。













「アあァん!!!」







ぎょっとした。



女の声である。

何故女の人が!?という総司の思惑はその女の声にかき消されていく。









「おい!ばか、声出すなって言ったろう」





総司の口はあんぐりと開けられたままでいた。

土方の声であった。



「だァってぇ、歳三さんたら…あはん」





セイの寝ている向こうの壁づたいから聞こえてくるということは…隣である。







「あん、やぁん」







総司は固まったままごくりと唾を飲み込んだ。

総司にはあまり縁の無い世界が隣で繰り広げられているらしいことは明らかであった。







「はん…ふうん」





そんな声に、総司が石になったままでいるが、女の声はやまずに流れてくる。





「…歳三さんッ」

「…沖田先生」







………総司のはりついたような目は、目下の少女にくぎづけられた。



そのまま、総司は耳まで染めていった。

偶然にも、女の声とセイの寝言が重なってしまったのだ。

その事実はわかっていた。

理解はしていた。



が。



お年頃の総ちゃんに、邪な考えをもたらすには、十分の出来事であった。





女の激しい喘ぎ声が、総司の耳から耳へと飛んでいく。





ただ、総司の耳にとどまるは、ただ一つ。





『…沖田先生ッ(一部加工有り)』









そのまま、総司はよろよろとおぼつかない足を後ろへと下げた。

一歩一歩、逃げるように下がっていく。



まずい。



まずい。



そんな思いが総司の頭を支配していた。











「あァああんッ」

もう、女の声はかすれていた。







総司は、そのまま羊羹をふんで尻餅をついた。

顔は赤く目は丸い。



自分の、その邪な思いさえも総司にとっては驚異の出来事であったのだ。







尻餅をついたまま、総司は女の絶頂する声を聞いた。



知ってはいたが。

生々しい。







「…ふんん…」





セイの寝言が、また総司の耳に艶っぽく響いた。









その後、総司がセイの寝言の誘惑に勝てたかどうか?







それは、わからない。







ご苦労。総ちゃん。






















うあー!!

すみませんーー!!

「総司がセイちゃんの寝顔を見るのを日課に」

というほのぼのvなりくが

こんなことに!!

どこがほのぼの!!

mitu様、こんなんですいません!