春画本












HTML ドキュメント ぱん、と洗濯物の伸びる音が青空に響く。



セイは、洗濯に精を出していた。



冷たい水が手を冷やす。



それが気持ち良くもあり、セイは顔をほころばせる。







鼻歌をくちずさんでいた、その時だった。



「神谷〜〜!!」



そう大声で叫ばれて、顔を上げる。



「なんです?原田先生そんなに慌てて」





「いやちょっと急いでてよぅ、これ総司に渡しといてくんねえか?」



「いいですけど…何です?」





セイは原田からその一冊の冊子を受け取った。



表紙が無い。





「いやほら、まああれだ、神谷もたまには見てみろって!!」



「は?」



「おっといけねぇ、急いでんだ、またな!!」



「あ、はいおきをつけて〜」



セイは、かなり大股で去っていく原田にひらひらと手を振ると、ふうとため息をついた。











(いったい何だろう?沖田先生が読書なんてめずらしい…)



セイは、なんの疑問も無しにその冊子をぺらとめくった。









直後、ばん!!!と大きな音を立てて冊子が閉じ、セイの前髪は飛ぶようにあおられた。



そう。





春画本であったのである。





セイはそのままさっと座り込んだ。



セイはその冊子を両手に抱えて、うずくまる。



何故か、人に見付かってはならないというような焦りがセイの顔を赤く染めて。

















その後。



屯所の廊下で、その冊子を辞書と医学書の間に挟み、大事そうに抱えながら早足で歩いているセイの姿があった。



(ていうか、そもそも何でこれを沖田先生に?)



(沖田先生、こういうの読むのかな………)



(まさかそんな……考えたことないし)











(それよりもそれよりも、無理!!!!渡せないよ〜〜〜〜!!!!)



セイは半泣きで、ぐるぐると自問自答していた。



























「おやすみなさい」



いつも、そう笑顔で隣の布団へ潜る、その人。





「……おやすみなさい……」



セイはいつもより小さくそう答えた。







静寂が、部屋を包む。





もうすでに、稽古に疲れ果てた隊士達はいびきをかいて寝入っていた。







セイの目はぱっちりと開いていて、ただ総司の背中を見つめていた。



そうして、先ほどよりも、小さく声を出した。











「……沖田先生…………」











「…………はい?」







あまりにもあっさりと帰ってきた答えにとまどったのは、セイで。





「何ですか?」



総司は、もう体を反転してこちらを向いていて、言葉を待つように肘をついて手に顔を乗せていた。







「あ、あの…えっと」



セイは焦りをかくせず、どもる。





そうして出てきた言葉は、焦りすぎて、直球になった。







「沖田先生ってしゅ、春画本とか見るんですか?」





「はいっ?!」



総司はすっとんきょうな声をあげる。



「お、沖田先生声大きい!!」





セイはわっとびっくりして少しはねた。





「だ、だって神谷さんいきなり…何なんです、一体」



総司はもぞもぞと動くと、諦めたように息をはいて、仰向けに転がる。





そうして、顔だけセイに向けて、困ったように寝直した。







「い、いえ別にちょっと…気になっただけですっ」



セイはしどろもどろと答える。









「……………」



「……………」





二人はじいと睨み合って、言葉を待った。







観念したのは、総司のほうで、





「…私が女の人に興味が無いのは神谷さんが一番良く知っているでしょう?」







そう言って、少し困ったように動いた。











そうして、そこに、ぼうぜんとしているセイの顔があった。





「…神谷さん?」



総司が不信がってそう呼ぶと、セイははっとしたように目を開いた。







そして、



「そ、そうですよね!!」



と言いながら、布団を肩までかぶる。



一体、どんな答えを期待していたんだか。



総司は苦笑する。









セイは一つ息を吐くと、目を閉じた。











それから一度だけ目をちら、と総司に向けると、今度は心底安心したように、もう一度つむった。





月が、上がる。



隊士のいびきの一つが、んご、と大きな音を立てた。



それと直後に、



「おやすみなさい、沖田先生」







セイはそう言うと、はにかむように笑って、おとなしくなった。



「…おやすみなさい」





総司もそれに答えると、セイの寝顔をじっと見つめる。



そのセイの顔からは、



『そうだよね、沖田先生に限って、そんなこと』



というように安心した声が言わずともわかるぐらいにじみ出ていた。





















しばらく、月が傾いていった。



セイの寝息が規則正しく聞こえてくる。







総司はむくりと起き上がった。



そうして、セイの布団の下に手をつっこんだ。









「……やっぱり」



総司はそこから取り出した春画本をぱらぱらとめくると、ぱたんと閉じた。





そして心底疲れたように、ため息をつく。





「原田さんたらよりによって神谷さんに渡さなくても」











そして、本を元の場所に押し込む。





「私だってオトコなんですけどねぇ」







そう言って、可愛いその子の寝顔を見入った。



















そうして、ぼすん、と顔をセイの腹の上につっぷした。









「………今日は眠れないかも」











そう言って、ため息をつく。











そういうことが必要になったのは、貴方のせいなんですけれど。









それは、声に出さずに、ため息に替え、総司は眉を、ひそめた。




































はい〜。

春画本ネタは初読み物でやりましたね。

またですね。

えへ(オイ)

望様有り難うございました〜!!