秋の実り












「…………」



「………」



沈黙が続く。



秋も深まり葉も落ちるこの季節。



俳句も進む、その良き日に。



「…なんで相談なんぞ受けなきゃなんねぇんだ」



途方にくれてあごに手をやるその人。



土方歳三である。



「…副長が言ってみろって言ったんじゃないですかぁ」



セイは申し分けなさそうに正座をしている。



「うるせぇ!!おめえが己の部屋の前で吐いてやがるからいけねぇんだろうが!!」



「そんなこと言われても……」







土方歳三。



鬼副長だとか、呼ばれて云年がたつが、この人物の腹の中は意外に世話焼きで。



日ごろ頑張っている隊士が自分の部屋の前でつらそうに泣きながら吐いているところを見かけては、



黙っていられない。…そんなところである。





しかも、最近神谷清三郎がおなごだと知って、なんだかやさしくもなったようだった。



土方はため息をつくと、筆を持ちながら、あえて興味なさそうなふりをしつつ、話を聞く。



「…で、なんだ、総司を避けてるってのはどういう了見だ」



「……こんな状態知ったら沖田先生、『貴方は留守番してなさい』って言うに決まってるじゃないですか」



セイは口をとがらせる。



「…………」



土方は何も言えないというように、口を結んだ。





「…医者に行ったのか」



「………」



今度はセイが黙る番であった。



土方はあきれたように顔をセイに向ける。



「医者へ行け」



「そんな暇ないのは副長が一番ご存知じゃないですか〜〜!!」



土方は眉を寄せると、やっと顔を逸らした。









「……まったくしようがねえな」













次の日。





土方はセイを連れて町を歩いていた。





「……何で副長………」



「うるせえな。ごちゃごちゃ言わずについてこい」



二人の歩幅はあまりにもちがすぎて距離が縮まらない。



そう二人が言い争いながら歩いているときであった。



「神谷さん!!!」



聞き覚えのあるその声は、もちろん、沖田総司。







ずいぶん先に足を進めた土方も無表情で総司を見る。



「沖田先生」



気まずそうに、セイがそう言葉を発した。



そのセイの反応に、総司がつめよる。





「神谷さん!貴方ね、私に相談も無しに…」



「す、すみません!!」



セイはばれたのだと思って慌てて謝ろうと顔を下げた。







が。



総司の言葉は予想外だった。



「あの祇園のおみせへこっそり行くつもりなんですか?!?!」



「はいッ?!」



「だってこの道のりはそうでしょう?!あそこは神谷さんと私の秘密の場所だって約束したのに…」



「あ、あの先生……?」



「しかも……昨夜…神谷さんと土方さんがイイ声出して…その……や、ヤッテたって…!!」



「お、おき…?」



「それなら…そうと…ちゃんと言ってくださらないと…」



「あのーーーーーーーーー!!!!!」









セイは大きな声で叫んだ。



顔はまっかである。



「沖田先生のばか!!!」



「はいッ?!」



総司は眉をつりあげた。



その時であった。





「………総司」





「げッ?!?!」



総司は肩を飛び上がらせた。



「ずいぶんおもしれえことを隠してたもんだな?」



土方はにやにやと笑いながらそこに立っていた。





「…え…ってなんでここに土方さんが…やっぱり神谷さ……!!」



「何言ってるんですか!!!」



セイは必死に総司に話し掛ける。

完璧誤解されているようだ。



なんとかしなきゃ、とセイが口を開けた時、セイの肩にごつごつとした手の感触

「まあ…そういうことだ。諦めたらどうだ、総司」





「はいッ?!?!」



こんどはセイがびっくりする番だった。



「…神谷さん…何故なんです?」



「あのーぅ…ってか副長も!!」



セイはあたふたとするばかり。



「ま、昨日のコトは総司には悪いが話せねぇんだ、な、神谷」



「う………ッ?!」



そのとおりである。

が、なんか違う。



セイの顔の焦りは見てとれる。





総司はもう、飛び掛かりそうな勢いだった。



「い、いくら土方さんがソウイウコトが上手いからって、神谷さんは渡せません!!」



「ちょ、沖田先生ッ?!」



「だから最近、神谷さん、シテモその後すぐどっか行っちゃってたんですか?!」



「そ、それは吐き気…」

「あんなに頑張って尽くしてたのに!!!!」





もうこうなったら子供のような涙を隠さない沖田総司。



「神谷さんのあのおもちみたいな肌おいしそうな唇ムラムラきて当然ですけれど…!まさか土方さんだなんて」



「おおおき沖田先生あの…ひ、ヒトの目が」



「神谷さんの馬鹿————————————ッッ」





「あああ沖田先生〜〜〜〜」









沖田総司、去る。





民衆の視線を痛いほど二人に残して。













さんざん総司に煩悩を大声で語られたセイは、周りの目を恥じてかさを深くかぶる。



そして、一番痛いのは、そう。



土方歳三、その人の視線で。





「…で…いつごろからそういう仲なんだ?」



「…………ッ」



かんぺきからかわれている。



そんなことわかりきっていたが、あまりにも悔しい。



「副長〜〜〜〜」



「おまえらがこんなおもしれえこと隠してたからわりいんだろうよ」



にやにやと土方は笑って先を歩く。



「で、吐き気はいつからだ?」



「って話を逸らさないでくださいよ!!三月前くらいからですけど!!!」



そこで土方はぴたりと歩をとめた。



「?」



そしてセイも歩をゆるめるが、土方の表情が見えない。



「…先行ってろ」





そういうと、ふいと土方は横道に逸れてしまった。



「え、えッあ…はいーー……」



セイはとりあえず、返事だけをした。



























その頃。



総司はすん、と鼻をすすって草むらに座っていた。



「………おめえはいつまでガキなんだ」



うしろから、そんな声。



「ほっといてくださいッ」



総司はいまだむくれている。



「あのチビのどこがいいんだ?」



隣に座る土方の下に、草がかわいた音をたてる。







「土方さんだって………!!!」



そこで、にやにやと黙ってほくそえんでいる歳三の顔をばっと見る。







「………………」



総司はそのままぴたりと動きを止めた。



眉を寄せる。







そうして。





「もーーーーーーーーー!!!からかうなんてひどいじゃないですかーーーーーーーーーーーーーー!!!!」





やっと、そうわめいた。





「きづかねぇおめえが悪いんだ」



そう言っておかしそうに笑うその人。







総司は、土方の通訳と言われるくらいだ。



さすがに気付いたのだろう。



その土方が自分の頭を冷やさせるために、一度退散させたことを。







「原田の噂だろう、昨日のことは。あいつの噂は尾鰭背鰭つくからな」



「………そういえば…そうかも」









「ま、はやく行ってこい」



「は?」



「神谷が医者に行ってるぞ」



「えっ?!」



「吐き気がひどいんでな、連れていく途中だったんだが」



そう言って土方はゆっくり立って膝をぱん、と叩く。





「そ、それを最初に言ってくださいよ!!!!!」





土方が顔を上げたときには、もう総司の姿は無かった。



やれやれと、赤い空を見つめ、ふっと笑った。





「…………世話のやける」



























「神谷さーーーーーーーーーーーーん!!!!」





ばたーーーんと大きな音を存分に発揮して駆け入るのは、沖田総司。



「えっ?!沖田先生?!」



「体は?!大丈夫なんですかっ?!」



心底心配そうに駆け寄る。



額には汗が光っていた。













その様子から、副長が誤解をといてくれたのだろうと察すると、セイは笑った。



「いえ、まだ結果待ちで……」









総司が息を整えながらハヒハヒと言う。



「どうしたんですかぁ?なにか悪ものでも食べたんじゃぁ…」



「沖田先生じゃ無いんですから」









そんなことを話していると、奥から松本良順が出て来た。











ごくりと、総司のつばののみこむ音が聞こえる。



「あ、あのまさか悪い病気じゃぁ………」









「おめぇら」





松本良順は、いつもの悪い口でそう切り出す。







「いつのまにそんな仲になってやがんだ?」









「「は?」」



二人の声は同時で。

















「おめでただ」



























その声だけが、医療室のなかに、ひびいた。







































セイの泣き顔と、その小さな手を繋いで屯所へ帰る総司は、慌てていた。





その手には、果物とか、野菜とか、あわてて買ったのだろう栄養食材がかかえられていて。







セイの肩には、総司のはおりがあたたかそうにかぶせられていた。





















屯所には、





「おめでたい」



と赤い筆で書かれた大きな垂れ幕。









それから、二人のための新居を土方が探しに出かけたと、近藤がやさしく総司の肩をたたいた。



























秋も深まる、めでたい日。
























ホヤサクラ様、りくでしたー。

ていうか!!

すすすすみません

求婚できず!!

駄目人間あさでした。