メイキング

 この記事は、東条さかなさんの許可を頂いています。
 残念ながらこのほど「真城の城」におけるイラストの仕事を勇退なさる東条さんですが、打ち合わせ等でやりとりしたラフ案の数々は、真城だけのハードディスクに眠らせておくには余りにも惜しい“作品”ばかりです。
 よってここに公開いたします。
 東条さんファンはもとより「おかしなふたり」ファンは必見です!

 これはメールマガジンに詳しいのですが、私こと真城は、アクセスアップの方策の1つとして、イラストの添付を考えていました。
 既にかなりの好評を貰っていた「おかしなふたり」ですが、ここにイラストが加われば鬼に金棒と言えるでしょう。
 不幸な事に人見知りするタイプの性格の私は、イラストの描けるオンラインの友人もいませんし、いてもこちらの要求をぐいぐい押し通すのも気が引けます。
 そこで考えられたのが「有料でイラストを請け負っている人はいないだろうか?」というものでした。
 広いネットの世界には、1人や2人いるだろう、とタカをくくっていました。
 それに・・・「お金を払う」というのは実にいい按配なのです。
 仕事を受ける側も「お金を貰っているんだから」と少々理不尽な要求も我慢しなくてはならないし、注文する側も「お金を払っているのだから」と妙な罪悪感に囚われる事もありません。
 ネットサーフィンから東条さんのサイトに行き当たり、そこに飾られている数々のイラストの余りの素晴らしさにすぐさまメールを出し、イラストレーターとしてお仕事を依頼、すぐに快諾を頂きます。
 記録を見てみますと平成14年の9月18日には、なんとかこの「おかしなふたり」にイラストを付けられないか?という記述があります。
 連載分で言うと、ちょうど19回、歩(あゆみ)がメイドにされきった辺りです。
 この辺の作劇の変遷を書いていると下手すると本編よりも長くなってしまいますのではしょりますが、ともあれ交渉開始です。

 最初から伝えてあったのは、「単なる1枚のイラストの依頼では無く、作品全体のコンセプトデザインである」ということです
 そのあたりの事情もよく飲み込んでくれました。2次創作でキャラを女装させたり性転換させたりといった経験も豊富!と強調して下さり、こちらの気持ちも随分楽になりました。
 何しろこちらの注文は「性転換」とか「女装」のオンパレードです。普通の依頼に比べてそこもまたネックだった訳ですが、これも解決と見ていいでしょう。
 という訳で、まずは「キャラクターデザイン」をお願いしました。
 出来上がってきたのがこれです。
 

 うーん、素晴らしすぎます・・・。
 何しろ自分のレベルで絵をみてしまうので、こんなプロの仕事を見せ付けられると思わずひれ伏してしまいそうになります(^^。
 しかし今見ると、現在のイメージよりも若干大人っぽい気がしますね。


 これは男の子に変身した状態の聡(さとり)の最初の案。
 今では“天然ボケ”系のイメージになっている聡(さとり)なんですが、連載開始当初は結構狡猾で残忍(?)ぽいイメージがありました。
 セーラー服編で無理矢理修正したんですが、その時のイメージが残っていたものと思われます。
 そして・・・遂にこのバージョンが到着します。


 も、
萌え死にそうなんですが何か?
 そうです。我らがアイドル(?)歩(あゆみ)君の変身後のイメージです!
 これはもう決定的でしたね。
 早速最初のイラストを依頼することになります。
 ・・・そう、わがHPの新時代の幕開けを飾る最初のイラストの依頼です。

 これはメイキングになるので、その内メルマガに連載し始めますけども、最初の台所のシーンでいきなりお兄ちゃんを変身させちゃうのがいいだろうな、とは思っていました。
 読んでいる方は気が付いている通り、「おかしなふたり」では変身術者の聡(さとり)の能力が余りにも万能でありながら、「変身」後の姿を非常に“出し惜しみ”しています。“とっておき”のものはまだまだ出さなくていいかな、という思いがありました。
 そこでこのシーンではお兄ちゃんはメイドさんにされてしまうことになります。

 色々迷ったのですが、敢えてここはかなり細かく注文を付けてまずラフ案を送ってもらえる様にお願いしました。「第一案」がこれです。


 か、可愛い・・・(*^^*。
 この路線はこの路線でありな気がします。
 ですが、真城は自分の頭の中にあるイメージに徹底的に近づけさせる為に妥協の無い要求をぶつけ続けます。
 身長のバランスは元より、カメラ位置をもっと寄せろだとか背景の小道具の映りこみがどうだとか。
 それに・・・これは今も昔も「TS絵」が持つ宿命なのですが「それが元・男である」と一体どうやって分からせるのか?という問題があります。極論すれば単なる美少女の絵なのですから。
 そうなると「変身前」を作画するか、「連続絵」にするかしかなくなります。
 その辺りを解決するアイデアが「第二案」と共に送られてきました。


 かなり完成イメージに近いですね。ポイントは右下の「吹き出し」です。
 表情をどうしても“びっくり”にさせたいためにこうなりました。
 どうも絵描きさんというのは、こうした「戸惑っている表情」というのが基本的には苦手らしく、私がそうした要求を出しつづけますと「そんなことばかり言わないでくれ」と返されることがままあります。私の依頼が済んだら「ストレス解消」と称して楽しげな表情のイラストを早速描いたりするほど。
 ですが、東条さんは本当に真城の理不尽な要求をよくこなしてくれていたと思います。
 これらを盛り込んだ形で「第三案」が出来上がってきます。


 これは完成原画に色がついていないだけと言っていいでしょう。
 「第一案」と比べるとその差は凄まじいです。
 そして・・・私などは思わずうっとりと見とれてしまうほどの美しさです・・・。
 線のみなので、その美しさはある部分では完成原画を超えている所もあるのではないでしょうか。なんだか夢見たいな気分です。
 ちなみに、後ろの人物の顔が切れていたり、背景の流し台などが映りこんでいるのを当時掲示板で褒めて貰いましたが、すべて真城の指示です。極論すればこの画面で真城のコントロールを離れた要素は一つもありません。
 演出家と絵師の関係はかくありたいものです。
 そして・・・完成したのがこれになります。


 うーん、何度見てもいいですねえ・・・。
 手の位置から吹き出しの中の変身前の歩(あゆみ)のパジャマの柄まで指示したのですが、ここで“嬉しい誤算”が!
 それは吹き出しの中の背景の模様でした。
 この柄によって、画面全体のPOPさが向上し、より素晴らしい効果を生み出すことになりました。
 ぽっこり膨らんだ胸、エプロンに寄る皺、そしてスカートの裾からわずかに出ている下着・・・。もおたまりません。
 発表直後の反応はご存知の通り。(作品感想に収録)
 ROMの人まで無理矢理に引っ張り込むという快挙を成し遂げました(^^。

 さて、順調にイラストを付けて行きたいのですが、問題ははやり場面の選定です。
 私としては画面の一部に描画されているとは言え、やはり歩(あゆみ)の変身前の姿を一度はイラスト化しておきたい、との思いがありました。
 そして、今度は「TSイラストならではの要素を盛り込みたい」とも。
 そうなれば「胸だけ女になっちゃったあの場面はどうだろう?」と思いついた訳です。
 そして、細々と書き込んだメモを元に東条さんに第一案をお願いすることになります。
 第一案がこちら。


 今回は舞台が「教室」という台所に比べるとかなりの開放空間なので、カメラの置き方によってはかなり沢山のものが画面内に映りこむことになり、絵師さんに大変な負担を掛けることになりかねません。
 とは言う物の、ある程度それらを映りこませなくては「教室」然とした雰囲気が出ないのも確か。
 ここではカメラを斜めにして・・・といった指示を細かく出します。
 しかしこの「腕」の演技はお見事です。
 「TSイラスト」ではこのポーズは大事で「TSポーズ基本形その1」とか名付けたいほどです。ここだけの話、TSイラストに慣れていらっしゃらないイラストレーターさんはこの辺の機微が分かって貰えず、望んだ物と違う物が出来上がってしまうことがよくあります。
 ともあれ「第二案」です。


 この時点で完成版とほぼ変わりませんね。
 実は私も「カメラ位置斜め」構図は考えていて、その図版では歩(あゆみ)の顔の向きは反対だったのですが、この試案を見てすぐにこっちに鞍替え(^^。
 やっぱ絵描きさんは違うなあ、と思わされずにいられませんでした。
 ちなみに「胸をもっと気持ち大きく」と指示してしまいました(爆)。
 そして・・・これが完成するとこうなります。


 よく見ると細かいところが若干違っているのが分かりますね。
 それにしても・・・す、素晴らしい・・・。
 「胸の先のぽっちり」は敢えて出さないように申し合わせました。実にバランスよく仕上がっていると思います。ちょっぴり歩(あゆみ)が華奢な印象ですけど、全く問題無しですね。


 この次は評判も高い「セーラー服兄妹」なのですが・・・このイラストは本当に難産でした。
 頭の中の「イラスト化した場面」は本当に幾らでも湧いてきます。
 ですが、最初の「セーラー服姿の歩」イラストに完全にイカレていた私は、なんとかセーラー服の場面は作れないか?と思案していました。
 実は、現在(2002.12.07.)ではまだまだ描けそうも無い先にはこの兄妹が学園生活でお互いに擬似入れ替わりになる描写を想定しています。
 そこで「そっくりなふたり」シチュエーションのイラストが是非欲しい、と思っておりました。うーん、なんだかイラストに引っ張られて小説書いてるみたい・・・。

 実は歩(あゆみ)の変身後の姿のスタンダードは「長い髪」バージョンなのですが、聡(さとり)はご存知の通りのショートカット。性格からしても聡(さとり)にロングヘアは似合いません。
 ということはここでは歩(あゆみ)もショートカットでなくてはなりません。
 ちょうど「ドッペルゲンガー」の様にそっくりなふたりで見つめ合う、どこか「禁断」の魅力も持ち合わせたイラストを依頼しました。
 ラフ第一案がこちら。


 こうしてみると完成版とかなり印象が違います。
 図々しくも真城が付けた注文は「歩(あゆみ)の体形が少年のものなので、“女装”しているみたいに見える」「ポーズを2人とも同一にして“ドッペルゲンガー”風味を追加して欲しい」ということでした。
 「胸が女に!」イラストでは「メイド歩くん」に比べて反響が少なかったこともあって、壁紙等を暖色系にし、画面のPOPさを向上させることに努めました。
 第二案がこちらです。


 とにかく馬鹿の1つ憶えみたいに「戸惑った表情で」としか言わない真城の注文に本当によくお応えいただいたと思います。
 体形的に言いますと、第一案に比べてずっと歩(あゆみ)は女の子に近付いていると思いますが、もう一声私のイメージには違うんですよね。
 このイラストは最初は画面サイズを「縦:横=1:2」と想定していましたので、もっとカメラ寄って欲しかったんですね。
 ちなみに完成版に比べて足元の高さが統一されておらず、画面の安定性が不足しています。そこは「ラフ案」ですので、「本番で修正される」ことも見越さなくてはならないのでしょうが、依頼する側は素人なのでそこまで読みきれていなかったみたいです。この愚か者が・・・と過去の自分を叱りたくなります。


 吹き出しも入りまして殆ど完成版と同じになりました。
 それにしても東条さんの線画は本当に美しいですねぇ・・・。
 ところが真城はこの後も妥協せず、歩(あゆみ)の体形について「もっとお尻を大きく」とか延々注文を付け続けます。
 最終的には東条さんの方から「もうこれ以上出来ません。勘弁してください」という言葉すら引き出してしまいました。この真城の馬鹿!氏ね!と言いたくなります(TT。
 この後微調整した「第四案」を経て遂に完成します。


 ううーん、なんて素晴らしい・・・。
 部屋の柔らかな暖色とセーラー服の黒が絶妙なコントラストをなして素晴らしい効果を生み出しています。
 スカートから出た生脚の肌・・・。表情といい、頬の染まり方といい文句の付けようがありません。

 残念ながら東条さんとの競作はこれにて一応の幕となってしまいます。