「魔法少女ナナシちゃん!」
連載第191回〜195回

連載第191回(2003年4月22日)
 
その卑屈な態度にへらへらとした笑い声が起こる。
 仕方なく立ち上がる義男。
 その姿は自らが惨めさを感じるには充分なものだった。
 しかし、決して逆らうことは無い。
「ズボン脱げ」
 
松は言い放った。


連載第192回(2003年4月23日)
「・・・え?」

 流石に色んな責め苦を経験してきた義男でもこれには戸惑った。
「脱げよ。早く」
 相変わらずやる気無さそうに手元のこよりをいじっている松。
 義男は逃げ出したかった。
 どうして自分がこんな目に遭わなくてはならないのか。
 だが、それは出来なかった。
 逃げるどころか、逃げようとする素振りを見せただけでさんざんにリンチされてしまう。現に今がそうではないか。
 義男は自らを殺した。
 まともに人格のある人間ならば耐え難い屈辱だった。だが、義男にはそれを跳ね返す体制に無かった。


連載第193回(2003年4月24日)
「あと5秒!5!4!3!2!」
 大きな声でカウントを取り始める松。
「1」
 が聞こえる直前に近くの地面に大きな石がめり込んだ。
 びくっ!とする義男。
 その石の大きさといい、そのスピードといい、まともに当たったら大怪我するのは間違い無いものがあった。


連載第194回(2003年4月25日)
 耐え難い屈辱に耐えながら義男はズボンを下ろした。下腹部が露出する。
 周囲から冷やかしの声が掛かる。
「小便しな」
 信じがたい要求だった。そんなものやろうと思って出来るものでは無いでは無いか。
「早くしな」
 もう死にたかった。
 だが、ここでこいつの要求を拒み続ければ、物理的に殺されてしまうかも知れない。
 痛いのは嫌だった。
 全く苦痛無く死ぬことが出来たなら、義男は躊躇わずそちらを選んだだろう。
 だが、苦痛と屈辱を天秤に掛ければ多くの人間は恐らく苦痛を回避してしまうだろう。義男もまた同じだった。
 全ての人間は何よりも大事なこととしてプライドを選択は出来ない。
 誰も義男を攻めることは出来ないと思う。
 音を立てて泥だらけの側溝の中に義男の小水が溜まっていった。


連載第195回(2003年4月26日)
 松をはじめとするいじめっ子たちはまた義男の上を往復していた。
 自らの小水で濡れたどぶの中にうつ伏せに寝転ばされ、その上をまた往復されているのである。
 太陽はまだ高かった。
 現実感が消えては復活し、復活しては消える。
 きっと自分は前世で強盗殺人でもしたのだろう、と義男は思っていた。
 そうでなければこんな理不尽な仕打ちを受けなくてはならない理由が説明出来ない。