おかしなふたり 連載301〜310 |
第301回(2003年07月13日) 目をぱちくりさせる歩(あゆみ)。 耳たぶを引っ張るイヤリングの感覚と共に、重くのしかかる付けまつ毛の感覚が新鮮だ。 ・・・ちょっと見てみようかな・・・。 目の前の姿見に欲目を使うチャイナ美女。 下には両親も真希お姉ちゃんもいるし、まさか聡(さとり)もこんな格好で長い事放置しておくはずは無い。 つまり今回の変身はすぐに解かれちゃうってことだ。 今までメイドさんにされた時にはこれまたすぐに戻されたし、毎日着せられている女子の制服では聡(さとり)がそばに付きっきり。 ウェディングドレスを着せられた時は電車から逃げてくるので精一杯で“楽しむ”どころでは無かった。 “楽しむ”? ・・・そうだよ!折角なんだからちょっとは・・・っていかーん!染まってきてるじゃないか! ふんふんと軽く頭を振って自らの考えを否定する歩(あゆみ)。 でも・・・、何も動いていないのに感じる脚の涼しさ。 単にスカートだからってんじゃなくて、それが大胆に開いたスリットのせいであるのは明白だった。 目の前には真紅のマニキュアに彩られた手に握られた羽根の扇子がある。 真紅で、あちこちに渦巻き模様と金色の刺繍が散りばめられているチャイナドレスにこの扇子は合うだろうなあ・・・と組み合わせにまで考えが行っている歩(あゆみ)。 ・・・ちょっとだけな。ちょっとだけ。 聡(さとり)だって女の子だし、トイレなら少し時間が掛かるだろう。 こっちから「女にしてチャイナドレス姿にしてくれ」なんて口が裂けても言えない以上、・・・今目で楽しむしかない。 紅い唇の下でごくりと唾を飲んだ歩(あゆみ)は、高い高いハイヒールで一歩踏み出した。 |
第302回(2003年07月14日) 部屋の中央に敷いてあるカーペットのお陰で、ウェディングドレスを着た時にも履かされていたものより数段高い、割り箸みたいなハイヒールが物凄く歩きにくい。 感覚としては「竹馬」に乗っているみたいなものだった。乗った事無いけど。 上手くバランスを取りながら一歩一歩歩く。 それほど重くない体重が掛かるたびに“ぐきっ!”とあらぬ方向に折れ曲がりそうになる足首を何とか持ちこたえさせながら姿身の正面にやってきた! 部屋の主が気まぐれな性格なので日ごとに鏡の表面はあっちむいたりこっちむいたりしているのだが、今日はベッドに向かう様な位置にあった。 最後の数歩は目をつぶっていた。 ・・・いやその・・・別に楽しみにしてたとかじゃ無いからな! って誰に向かって言い訳をしているのか。 頬紅の匂いなのか、自らの顔からお化粧の甘い香りがする。 もうすっかりそこにいる翔の存在は頭の中から消え去っていた。 ふう、と大きく息を吐き出して思い切って目を開けた! |
第303回(2003年07月15日) 「・・・!」 ビックリした。 随分・・・大人びて見えるんだな・・・と思った。 はっきりしたことは分からないけど、この兄妹が持つ「お互いを性転換する」という能力は、相手の年齢まで操作することは出来ない・・・はずである。実際には試したことはあんまり無いんだけど。 ということは今の歩(あゆみ)は、十七歳位の女の子のはずである。 しかし・・・。 あくまで私見だけども、歩(あゆみ)の目の前で妖艶なチャイナドレスに身を包み、大胆なスリットから妖しくふとももを露出してみせるハイヒールの美女は、その濃い目の化粧とも相まって、二十代以上には見えた。 なんだかドキドキする・・・。 それはきっと大胆なスタイルの女性を目の前にした時の感慨と変わらない・・・と思う。 重いまつ毛で目をぱちくりさせ、思わず手にもった大きな扇子で口の部分を隠してみたり・・・。 き、綺麗だ・・・。 ごとっ! 廊下で何か音がした! そ、そんなぁ!聡(さとり)ならともかく、両親や真希お姉ちゃんにこんな姿を見られたらどう申し開きすればいいんだ! 「あっ!」 歩(あゆみ)はバランスを崩した! |
第304回(2003年07月16日) その瞬間、そのまま後ろに下がろうとしたのだが、極度に安定の悪いハイヒールのかかと部分がおかしな方向に歪んだ。 「わああっ!」 チャイナドレス姿の歩(あゆみ)はバランスを崩して思いっきり聡(さとり)のベッドにシリモチをついてしまった! 左手は後ろ方向に伸ばして身体を支えようとしたけど、右手は羽根製のもろそうな扇子を持っていたのでつく事が出来なかった。 ぽん!と音を立てる大きなお尻。 「あっ!」 必死に脚を揃える! 何しろちょっと動いただけでちらちらと脚全体が覗いてしまう深い深いスリット入りのスカートなのである。 こんな大胆なアクションをしたら・・・下着まで丸見えじゃないか!しかもひもパン! み、見えちゃう!! この一瞬の間に色んな事が頭の中を交錯する。 ああ、ここに翔さえいなければそれこそパンツ放り出して転がってもいいんだけど・・・とか何とか。 なんか年頃の女子高生が親戚の男の子に対してどぎまぎしてるみたいじゃないか!・・・って間違ってない気もしない事も無い事も無いけど、普通の女子高生は部屋でチャイナドレスで鏡に向かってたりはしない気が・・・。 いわゆる「女座り」みたいにスカートの中でぎゅっ!と両足を押し付ける歩(あゆみ)。 その状態でお尻が跳ねたチャイナ美女のスカートがふわりとずれてその脚線美が殆ど露出した! 「・・・ぁん!」 その瞬間、翔に異変が! |
第305回(2003年07月17日) ふと気が付くと翔が立ち上がっていた。 「あ・・・」 慌ててその真紅のマニキュアが乗った白魚の様な指でスカートを直して脚を隠す歩(あゆみ)。 その仕草がまた色っぽい。 「しょ、翔・・・ちゃん?」 可憐な声で不安げに上目使いで目の前の男を見上げるチャイナ美女。 自ら墓穴を掘りまくっていることに気付いていない歩(あゆみ)。 「お、にいちゃん・・・?」 一歩、また一歩と近付いてくる。 |
第306回(2003年07月18日) 「お、おい・・・」 と、思わず“男言葉”で言ってしまうチャイナ美女となってしまっている歩(あゆみ)。 何と言うか「鬼気迫る」表情で迫られると、たかが五歳児でも思わず気後れしてしまう。 しかも今のこの格好である。 こうして座っている状態ではその脚線美が半分以上普通に見えている。ちょっと動けばもう下着が見えそうである。 なんというか、とても心理的に“無防備”な気がしてしまうのだ。 「お・・・にいちゃん・・・」 「お兄ちゃん」と呼んでくれているってことは、こんな姿になってしまっていても「歩」であることは認識しているらしい。それはそれで問題な気がする。マジックか何かで別人に入れ替わっていると思い込んでくれている方がある意味健全だ。 「おにいちゃーん!」 なんと、翔(しょう)は思い切り歩(あゆみ)に飛び掛ってきた! 「うわわわわっ!」 どん!とチャイナドレスの細い身体部分に包まれたふくよかなバストに翔(しょう)の頭がぶつかる。 そのまま歩(あゆみ)はベッドの上に押し倒されてしまった! |
第307回(2003年07月19日) 「お、おにいちゃーん!!!」 「う、うわりゃりゃわらららっ!」 何を言ってるのか分からない声が出た。 押し倒された瞬間にまた“ぶわり!”とスカートがめくれた。 ・・・気がした。 何だか本当に下半身パンツ一丁の気分だ。 これまでさんざん履かされて、スカートめくりまでされたこともあるけど(どんな妹だ)、それでも一応ふとももまではスカートが隠してくれていた。 でもこのチャイナドレスは、ふともも越えて身体の脇近くまでスリットが入っている。何しろそこで「見せる」ことまで最初から計算に入れて「ひもパン」にまでしているのだ。 もうこれは「スリット入りのスカート」というよりも、身体の前後に長い布を垂らしている、と言った方が近いかも知れない。 そんな頼りない格好でこんな派手なアクションをやればもういちいち丸見えだろう。何しろ自分で女の身体にされた上にチャイナドレス姿でもんどりうっているので、客観的にこのあられもない姿を見ることが出来ないのだが、もしも観られたとすれば・・・。 体温の高い五歳児の身体が、乳房のついた自らの細い身体の上に乗っかっている。 「しょ、翔・・・ちゃん・・・?」 女にされた時のか細い声がまた違って聞こえる。 「おにいちゃ〜ん!!」 翔が顔面を胸の谷間に押し付けて“ぐりぐりぐりっ!”と左右に思いっきり振った! 「わひゃらわられらえああああ〜っ!」 |
第308回(2003年07月20日) 「おまたせー!」 ドアの開いた音は聞こえなかった。 そこには、しっかりお団子頭に髪が結ばれていたはずのチャイナ歩(あゆみ)が髪が少しほどけさせ、ぜえはあ息を乱していた。 そして床には放心状態の翔(しょう)がへたりこんでいる。 「・・・どしたの?」 「・・・」 歩(あゆみ)は黙っていた。 手に握っていた扇子はベッドの下に落ちていたが、拾う気にもならない。 それでもいちおうスカートの乱れを直して、なるべく脚が見えない様にするのはせめてもの男心というか女心というか・・・。 と、ぽふ!とチャイナ歩(あゆみ)の隣に座る聡(さとり)。 「ねえ・・・どうしたのったら!」 指先で、スリットから露出した脚の一番上というか身体の脇をつるっ!と撫でる。 「・・・ぁん!」 びくうっ!と背筋に電流が走った。 「あはははははは!ごーめんごーめん。すぐに戻してあげるから」 そして・・・翔(しょう)はチャイナドレスの楚々とした美女が、見慣れた憎たらしい“お兄ちゃん”へと変貌していく悪夢のパノラマを目撃させられることになる。 |
第309回(2003年07月21日) 「え?注文出来ないの?」 ちょっぴりだけめかしこんだ聡(さとり)が子供っぽいことを言う。 「ああ。コースにしたからな」 これは父である。 あの変身劇の直後に歩(あゆみ)、聡(さとり)、翔(しょう)の三人は階下に呼ばれた。 久しぶりにやってきた従姉妹とその子供の歓迎ということで豪華な食事がセッティングされたのである。ここはその高級レストランである。 城嶋親子と西村親子。合計6人。そして男女比は綺麗に3対3。全く同じである。 周囲の調度品もなんだか豪華である。 普段、外食をあまりせず、せいぜいファミレスかカレースタンドにしか家族では出かけない城嶋家ではちょっと張り込んだものだ。 しかし・・・。 歩(あゆみ)は冷や汗というか脂汗というか、何ともいえない液体が全身を流れ落ちていた。 勿論7月の陽気ということもあるが、それが主な原因では無い。 ちら・・・とだけそっちを見る。 ・・・うう・・・やっぱりだ。 翔(しょう)が全く視線を逸らさずにこちらを見つめていた。 あの直後から人が変わったかの様に大人しくなってしまった翔(しょう)に、うちの両親は関心しきり、聡(さとし)と同じタイプの能天気な性格である真希お姉ちゃんも無邪気に喜んでいた。 だが・・・。 明らかに翔(しょう)の歩(あゆみ)を見る視線は全く別物になっていた。 何と言うか、頬を赤らめ、目をキラキラさせながら上目使いでこちらを見ているんだけど・・・。 その目は明らかに“憧れの眼差し”だった・・・。 聡(さとり)の『教育的指導』は激しく失敗している気がする歩(あゆみ)だった。 |
第310回(2003年07月22日) 「いらっしゃいませ〜」 済んだ声が団欒に飛び込んできた。 その声の主の方向を見た瞬間、二人の「男の子」の心臓はドクン!と躍り上がった! 「あ、どーもー」 聡(さとり)が愛想よく笑顔で手を振ってたりする。高校生にもなって・・・。 しかし、歩(あゆみ)と翔(しょう)はそれどころでは無かった。 そこにはかいがいしく取り皿を並べていたのは・・・綺麗なチャイナドレスに身を包んだウェイトレスのお姉さんだったのだ! 翔(しょう)はもう条件反射を仕込まれてしまったみたいに真っ赤になってどぎまぎしっ放しだった。 てゆーか別種類のトラウマも抱え込んでしまった気が・・・。 そう、城嶋一家はゲストを迎えて中華を食べにきていたのだ! 歩(あゆみ)は歩(あゆみ)でまたドキドキしていた。 こ、これが本物の・・・。 じっと見つめては失礼なのでどうしても上目使いでちらちら見てしまう・・・。よ、余計に失礼かも? 決してオタク相手の特殊なコスプレ喫茶でも何でも無いのに、これほど“コスプレ性”の高いウェイトレスの制服はこれがナンバーワンだろう。 ス、スリットはさっきの自分ほどじゃないな・・・って何を気にしているのか! でも少し動くだけでちらちら見える脚線美はまさに悩殺ものだった。 さ、さっきまでこの服を着せられて・・・。 自分が着せられていたのは肌に当たる面がつるつるしてたけど、この人が着てるのもそうなのかな・・・とか、あっちのほうを歩いているチャイナさんは青い上にスカートも短くて、着るにはちょっとイマイチだな・・・とか明らかに普通の男の子とは違う感想が頭の中を渦巻いていたのだった。 という訳で、中華フルコースは抜群に美味しかった・・・はずなんだけど歩(あゆみ)と翔(しょう)には殆ど味なんか分からなかったのだった・・・。 |