第2話 不思議な夜
次の日の夜。
今夜も月は出ていた。輝く星と共に。
残業を終え会社を出る。疲れきった脚にはヒールの高い靴はかなり辛かったが
少し歩幅を広く歩きあの歩道橋へ急いだ。今日はあの手紙の手掛かりを見つけたい。
どうしても気になるのだ。ひたすら歩き、ようやく歩道橋にたどり着き私は見上げた。
歩道橋の階段で人影を見つけた。ん?もしかしたら・・・あの人。
でも、なんて声を掛けたらいいの。そうね。これはあなたの?
ちょっと様子見ていようかな。あの人が手紙の持ち主って決まったわけじゃないし。
少し様子を見ている。どうやら人影は若い男性だった。
スラっとした182cmってところ。色白で黒髪が無造作な感じ。
ブルーのマフラーに黒のダッフルコート。どこにでもいそうな格好。
彼は歩道橋の上でうつむきながら行ったり来たりしている。
へぇー、あんな感じの人でも思い詰めちゃうのね。
どうみても普通の若い男の子じゃない。
さて、彼にこれをどう渡そうか。まずは挨拶ね。こんばんは、と。
ここまではいいとして、手紙をどう差し出せば。
まぁ、考えてもしょうがない。さっさと渡してしまえばいいのよね。
私には関係のないこと。寒いしさっさと部屋に戻りたい。お気に入りの
歩道橋での缶コーヒーと「星とのおしゃべり」を今日は諦めよう。
私は心を決めて、彼に近づいた。
「こんばんは。」
彼が私に気が付いた。
「あ、こ、こんばんは。」
彼は少しびっくりした様子で私を見た。
へぇー。綺麗な瞳の美少年だったのねー。こんな子が自殺なんてもったいない!
は!私としたことがこんなこと思ってしまった。
とにかく、これを渡さないと。・・・でも。どうやって。
「あ、この近くにお住まいですか?」と聞いてみた。
彼は「はい、ここからすぐのあのアパートです。」
なんだ、近所だったのね。初めて見る顔だわ。
「そうなんですか。私も、ここを降りてそこのアパートなんですよ。」
なんとか話を続けてうまくこれを渡すタイミング見つけないと!
「あ、私ね、ここから見る夜空が好きなんです。毎日部屋へ戻る前に
缶コーヒーを飲みながらこうして星を見てるの。あ、別に星座に詳しいとかじゃないんだけどね。」
はぁ。なんとか会話になってるかしら?
「そうなんですか。星って綺麗ですよね。」
「ええ。そうね。こうしてるとなんだか疲れも消えていくの。」
彼は夜空を見つめていた。やっぱり綺麗な目だわ。
手紙のこと、どうしよう・・・。と、そのとき
「もう少し、ここで星を眺めていてもいいですか?夜空なんて久しぶりに見上げて
綺麗だなぁって。なんだか、まだ帰りたくなくて。」
「あ、うん。」
しばらく二人で夜空を見ていた。
・・・不思議・・・
他人同士が同じ場所にいる。なのに、何故か心地いい。
少しの緊張感が新鮮な気持ちになる感じ。
でも、こんなことしてる場合じゃなかった。ほらあの手紙どうしよう。
その時、彼は、くるっと私の方へ振り向き
「今日はとてもいい気分になれました。ありがとう。
僕も・・・ここをお気に入りの場所にしてもいいですか?」
「もちろん!」
「じゃ、また明日ここで夜空を見ることにします。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
あーあ、渡せなかった。でも、明日ここで星を見るって言ってるし。
早まって死んだりしないわね。まぁ、安心といえば安心だわ。
「あー、さむ!暖かいカフェオレが飲みたーい!」さっさと部屋へ戻ろう。
今日は安心して眠れる。何で私があの人のこと心配しなきゃいけないのか。
関係ないのにね。あんな手紙だって、拾わなければ良かった。
そんな思いの中、眠りに付いた夜だった。窓の月は今夜も美しく輝いていた。
--- to be continued ---
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