「スタジアム 虹の事件簿」 青井夏海 
★★★☆
---東京創元社・01年---
五作からなる短編集。簡単に言うと北村薫野球版といったところでしょうか。新しく野球チームの
オーナーに就任した女性・多佳子は野球に疎いが物事を見抜く目があり、次々と事件を解決。
「東海レインボーズ」を愛する人々の周りで起こる事件、お札をバラまく男、突然犯行を自供する青年、
事件と平行して試合も進みオーナーは野球と絡めて推理します。
試合の様子が結構描かれているので野球のルールを知らないと退屈かもしれません。
野球とミステリが好きなら買い、でしょう。

「オイディプスの刃」 赤江瀑 ★★★★
---角川文庫・79年、角川小説賞---
夏の午後、大迫駿介は刀研ぎ師・泰邦に弟が刀を振り下ろしたのを目撃する。しかし
弟は自分より先に泰邦の側にいた人間がいると言う。泰邦の死に続き母が自害、そして・・・。
この事件を期に三兄弟を含む家族はバラバラに生きることになる。

血のつながり・刀・香料・過去に縛られてる感じ。でも人物それぞれに自分の思いがあると
いうのが書き分けられてて読みやすかった。三兄弟の危うい関係がなかなか読ませる。
謎解きより人間ドラマが魅力かな。妖艶で怪しい雰囲気で、刀や香料もその雰囲気を引き立てます。
外国の劇でありそうだな、とか思う。好き嫌いがあるのかな、こういうのは?
(注意)解説が内容を喋ってますので先に読まないように。

「鬼会」 赤江瀑 ★★★★
---講談社・82年---
6編の短編集。日本の言い伝えなどに翻弄され影響される人間を
扱ったものが多かった。妖しさってものをうまく表現してる作品だと思いました。
裏表紙の「土俗的題材を独特の美学で幻想世界に昇華させた」という説明も
なるほどそんな感じがすると思う。ゾクッとする上手さがあるね。

「三毛猫ホームズの推理」 赤川次郎 ★★★
---光文社・78年---
女子大生が殺された。死んだ女子大生が売春をしていたと知った大学側は刑事に頼み糸を引く
人物の解明を依頼。刑事が張り込んだその夜食堂の椅子と机がすべて消えるという奇怪な出来事が…。
若い刑事になつく三毛猫のホームズ、頭が良いのか刑事を導いていく。

軽快な小説だろうと、想像していました。確かに文章はそうですが、意外にも人が死にまくり。
色々な出来事、人物の動きをうまく見せ興味をひかせる、密室も出るし。すごく読みやすい一冊です。
でも「真相はなぜそうなのか」という本格のような論理性・説得力に欠ける気がしないでもなかったです。
ちなみにホームズは人間の言葉はしゃべらず合いの手を入れるだけ。

「死者の学園祭」 赤川次郎 ★★★
---角川文庫---
真知子が転校した学園、待っていたのは血生臭い事件だった。次々と同級生が殺されたのだ。
被害者たちの共通点は生前イタズラ心からあるビデオを見たこと。彼女たちが見たものとは?

現実感がない。いかにも「お話の世界」すぎで軽いノリなのであまり響く作品ではない。
…が、割り切って気楽に読めばそこそこ面白かったりする。真相が学園祭の劇で明らかになるシーンは
「六サヨ」みたいでした。警察はそんなに無能か?とかそんな話あり得ないとか言ったらオシマイな話。
読書でも始めるか、って中学生あたりにオススメか?ミステリだと思ってたら評価は下がる。
読書慣れした人はお気楽な暇つぶしくらいで読むといいかも…でも3点以上はやれん
深田恭子が表紙、映画化したらしいですね

「マリオネットの罠」 赤川次郎 ★★★
---文藝春秋・81年---
上田修一はとある別荘でフランス語の家庭教師のアルバイトを受けた。近所では殺人が起こり
刑事と名乗る男がかぎまわる。その別荘には大きな隠し事があるのだが・・・。
修一が秘密に触れたことが都内の連続殺人へと発展する。

前も言ったが現実感に乏しい。おいおい警察にばれるだろ、という突っ込みもありだが
割り切れば楽しい小説。この作家は中々スリルのある書き方で上手さを感じますね。
驚きもあるし、ラストは何か切なくって印象的、ラストはもうちょい点数上げたいね。
ネタバレしてしまいそうなのでこの辺で・・・。

「しあわせのわけまえ」 浅川純 ★☆
---双葉社・91年---

六編からなる短編集。主人公は日本のサラリーマンやその妻たち。夫以外の男ができたり
会社との駆け引きがあったりと、日本の会社員のリアルなサスペンス。カイシャイン・ミステリー?

リアルなのは結構ですが、サラリーマン家庭を普通に見せられてるようで別に何も感じなかった。
小説っぽくないというか、嫌な意味で生々しいというか。ダンナ以外と寝たりしても「深い」というより
「安っぽい」としか思えなくって。文章も構成も別に下手ってわけじゃないのに、とにかく
全体的に「好みじゃない」作品です。

「地下鉄に乗って」 浅田次郎 ★★★★+
---徳間書店・94年、吉川英治文学新人賞---
地下鉄の駅の階段を上がると昔の風景。そこは自殺した兄がいた時代。
その時を初めに幾度となく過去へ行くことになる。徐々に時は遡っていく、戦時中・戦後と
今は会っていない父の人生を垣間見る。さらに会社の同僚も同時に過去を巡ることになり・・・。

タイトルは『メトロに乗って』と読む。
雰囲気・文章とも独特の静けさ、とでも言うのかな。長く生きた人は懐かしいと感じるでしょう。
これが「浅田ワールド」でしょうね。 時代を必死で生きた父の過去を知ることで自分達をも見ていく主人公達、
過去の旅の結末は切なすぎでした。胸打たれました。設定も展開も真新しさは感じないが
さらりと読める文章力がすごい。簡単に言うと「懐かしさ漂う大人の物語」って所。ミステリじゃないかな・・・。
ちなみに東京の地下鉄の名称が出てきてさっぱりわからないが、別に影響はなかった。

「鉄道員」 浅田次郎 ★★★★☆
---集英社・97年、直木賞----
廃線が決まっている路線の駅長を勤める佐藤乙松、彼は「鉄道員(ぽっぽや)」として仕事に従事した。
娘が死んだ日であっても彼はホームで旗を振り転轍機を回し日誌には「異常なし」と書いてきた。
そんな乙松が定年を目の前にした時、駅に小さな女の子が現れた。八編による短編集。

珍しく原作より先に映画を見ていたので、どうしても乙松には高倉健を想像してしまうなぁ。
そしてそれがピタリの役なのだ。ホームで旗を振る高倉健、一面の雪景色、定年を前にした
同僚との語らい…小説だがどれも絵になりすぎる。自然とホロリと来させる上手さがあるなぁ。
そしてもう一つ「うらぼんえ」。お盆の行事で夫の実家に来たちえ子は、身寄りがないことと
子供を作らないことで夫の親類から冷たく当たられる。そこで彼女を助けるべくおじいちゃんが
姿を現すという話…これが泣ける〜ラストは目が霞む〜。一本気で優しくてスーパーヒーローで
最高のおじいちゃんなのだ。その他にも優しさに溢れた話が多い短編集ですね。泣かせやがる。
ちょっとクサいかなぁという話もあるけど味のある作風のせいかそんな考えは強引にねじ伏せられた。

「天国までの百マイル」 浅田次郎 ★★★☆
---朝日新聞社・98年---
バブルで全てを失い、今も給料全額を別れた家族に送金する冴えない男・安男。そんな折
母の心臓病がひどくなったと言う。先は暗い、安男は治せそうな外科医が百マイル先にいると
聞いた。安男は奇跡を信じ母を乗せて車を走らせる。

単純明快ないかにも「お話」の世界だ。が、ちっとも嫌な感じがしないのだから不思議だ。
浅田次郎の上手さゆえか。母が死にそうなのに一歩引いて見るような兄姉たちにはムッとするが
人情味溢れる人物がそこら中に出て温かい気持ちになれてしまう。気丈で温かい「おかあちゃん」との
親子愛や男女の恋模様を単純にそして綺麗に見せます。浪花節〜な話でした。
『貧乏だから見えることもある。だけど幸福は金で買える』苦労した母の台詞がいいね。
こういう話、現実に多いといいんだけどね

「ミミズクとオリーブ」 芦原すなお ★★★★+
---文藝春秋・96年---
八王子の郊外に住む作家の僕は、妻とのん気な生活をしていた。
ある時、たまたま耳に入った事件を妻はいとも簡単に解決してしまった。
料理上手で割烹着のよく似合う僕の妻は推理力もケタ外れ?

いやぁ〜愉快愉快。しかし感想を書くのは難しいですな。この作品は事件を聞いただけで解決しちゃう
奥さんの安楽椅子探偵ものと言えるのですが、そんなことはどうでもよくなって霞んで見える程の
魅力があるのです。それは主人公夫婦と友人のとぼけてて笑える会話や文章である。ユーモラスで
ほのぼのとしてて、この会話や文章だけでおかしくてお腹いっぱいだ。作者の文才でしょうかね。
昔っぽい生活をしているところも雰囲気ぴったり。推理小説以前にこの夫婦に魅了されてしまった。

「探偵はバーにいる」 東直己 ★★☆
---早川書房・92年---

ススキノで探偵もどきをやる探偵の『俺』のもとに人探しの依頼がやって来た。
同棲中の彼女がいなくなったという小さな依頼が大きな事件へと・・・。

ちょっとだらけた感じの主人公が人脈を活かしススキノを走り回る、いかにも探偵の話です。
ハードボイルドですが変わっていて笑える。クセになる新感覚ハードボイルドという宣伝である。
…が私はあまり好きになれませんでした。文章が独特でしてね…。主人公のどうでもいい想像を
書かれるのも変な感じがするし、バーの名前がいくつも出てわかりにくいし、カクテルの名前もさっぱり
知らない。伏線は上手いが文章の雑な印象は否めなかった。この面白さは好き嫌いはありそうです。
地元の人は受けるんだろうなぁ、北海道弁(?)も多く使ってあるし。
ハードボイルド好きの人も試してみては?案外ハマるかも。

「猫の事件」 阿刀田高 ★★★
---講談社文庫・87年---
猫の事件と言ってもほんのちょっとだけ。数ページで終わるいわゆる
ショートショートが36編収録されている。不思議な話や不気味な話など様々。
数ページながらとんちの聞いた話など『うまいなぁ〜』と唸ってしまいました。
落語でも聞いてる感じです。面白かったのが多かった。

「殺戮にいたる病」 我孫子武丸 ★★★★☆
---講談社・92年、このミス16位---
突如現れた連続殺人犯、その名は蒲生稔。それを追う元・刑事、そして息子が犯人では
ないかと疑いはじめる母親。稔の視点も交えて描かれる殺人事件、その衝撃の結末は…。

なかなか強烈でしたね。犯人もわかっている話ですが、結末がどうなるのか気になって
グイグイ読めました。ただ××を切り取って持って帰ったり、○○を切り取って使ったり
グロテスクな描写があるのでそこが苦手な人もいるかもね。でも結末は意外性バッチリです。
三日間煮込んだ特製シチューをちゃぶ台ごとひっくり返されたような読後の気分でした。

「ディプロトドンティア・マクロプス」 我孫子武丸 
---講談社・97年---

探偵に依頼が二つ。父を探してほしいというものと、マチルダさん(カンガルー)を探してほしい
というもの。この二つが物語り後半に絡んでくる、といったお話。本格ではないけどハードボイルド
でもないと私は思う。これを読んだ8割の人が「なんだこれ?」と拍子抜けしたのでは?
ミステリ読みたい人にはオススメしないよん。

「十角館の殺人」 綾辻行人 ★★★★★
---講談社・87年、文春8位---
アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」の流れを受けた作品。
あらすじは閉ざされた島で人が一人一人…というパターン。事件の起こる島と、本土からの
二つの視点で事件が動いていきます。この作品の魅力の大半はその絶妙なトリックにあります。
読書を始めてミステリーに興味を持ち出した高校の頃に読んだんですね、コレ。
こういうの初めてだったので驚きました。完成度高いなと思って。
ミステリーを始めようって人に薦めてみたい。今読んだらどう思うだろう?

「水車館の殺人」 綾辻行人 ★★
---講談社・88年---

山奥の怪しげな館の中で怪しげな人々と過去の事件。なんじゃそらという設定の中次々と事件が。
現実と過去が交互になっています。十角館の後だったので少し期待しすぎていたかもしれません。
ここまで犯人もトリックもバレバレだったのは初めて。…怪しすぎでしょ。
新本格の雰囲気は味わえるし、犯人当たるし気持ちいい?ちょっと辛めの採点か?

「時計館の殺人」 綾辻行人 ★★★★☆
---講談社・91年、日本推理作家協会賞、このミス11位、文春4位---
これもだいぶ前に読んだ(というか綾辻の感想はほとんどそうだ)ので感想少しだけ。
真相を知ったときは思わず唸ってしまいました。こんなこと考えた綾辻さんに拍手だ!
結構厚めですけどスイスイ読んだ。あらすじは…言うまでもないか、館に閉じ込められて人が死んでいく。

「黒猫館の殺人」 綾辻行人 ★★★
---講談社・92年---
自分が誰なのか調べてほしい、と頼まれた鹿谷。手がかりの手記の中には黒猫館での出来事が
綴られていた。トリックは「はぁ〜(感嘆の)」と思いましたが「十角」や「時計」ほど驚きませんでした。
どうでもいいけどこのトリック、後に読むこととなる島田荘司のある作品と同じだぞ…。

「暗闇の囁き」 綾辻行人 ★★★☆
---祥伝社・89年---
卒論を書くため別荘地へ訪れた拓也。そこで二人の美しい小さな兄弟に出会った。
「あっちゃん」と遊んでいたという兄弟、しかし兄弟の家にはそんな人物はいないようだ。
一体あっちゃんとは?厳格な父、口を聞けない母、家族は何かを隠しているようなのだが…。

以前に読んだものの記憶にないので再読しました。読み始めると意外と覚えてましたが…。
しかし文章は読みやすかったです。別荘地、娯楽番組も見せない父、美しい兄弟、
どことなく世俗を感じさせない幻想的な雰囲気もグーです。結末は再読なので
わかってたわけで、コメントしようがない。でも結構面白かった。

「殺人鬼」 綾辻行人 
---双葉社・90年---

気持ち悪っ!何だ、この描写は!うぅ〜〜グロテスク…。想像して読むものじゃないなぁ。
一応読みきったけど…トリックどころじゃない、みんな逃げろと言いたくなりました。生々しすぎ。
足をぶった切られ、腸を口に押し込まれ、目玉を……ヒ〜〜〜!!!…もう読まん。

「りら荘事件」 鮎川哲也 ★★
---講談社文庫---

山荘「りら荘」に美術科と音楽科の大学生達が集まった。りら荘の近くで地元の人間が転落死した崖下の
事故現場に一人の持ち物である万年筆とトランプが一枚落ちていた。警察の捜査も始まる中で第二第三の
殺人が行われる。動機、トランプ、アリバイ、謎だらけの中一人ずつ数が減っていく。

ズバリ面白味がなかった。破綻してるわけじゃないし、犯人当ての連続殺人なんてミステリ好きにゃ
たまらんわさ。しかし緊迫感とか現実味が無さすぎないかな。大体が孤島や閉ざされた空間でもなくて
警察が出張っているのにその後で殺されまくるってどーなんだ。二人目の時点で警察の責任問題だぞ。
なのにその後も呑気に捜査に着手、アホか。即退去させたらどうだ。やはりこういう話には閉塞感や
誰かわからないサスペンスフルな怖さが必須じゃないかと思いました。犯人が明らかになった時のプロットは
工夫があるし、恐らく時代的にはこういった小説を発表するのは目新しくて挑戦的であったかもしれんが
いま読んでもピンとくるものはない。読んでて麻耶雄嵩「翼ある闇」に似てるなぁと感じたので、あれが好きな
ミステリファンにはオススメしてもいいんじゃないかと思う。私にゃ不向きだったようですな。
「月光ゲーム」 有栖川有栖 ★★★
---東京創元社・89年、このミス17位---

推理研メンバーはキャンプで山へ行き、他のグループと行動することとなる。山が噴火し大変なことに…。
さらに殺人まで起こる。犯人は?ダイイングメッセージの意味は?怒号する大自然を前に生きて帰れるか?

読んでて人が多くて苦労しました。皆大学生ってのがつらい…。一言で表すと、
本格の論理的謎解きとスリル感ある冒険と淡い恋愛が上手い具合に交ざった作品。普通やな。

「孤島パズル」 有栖川有栖 ★★★☆
---東京創元社・89年、このミス16位---

推理研シリーズ2作目。宝探し兼バカンスに島へ行ったメンバーは事件に遭遇。
要するに新本格。小さなことからコツコツとする正統派の謎解きなので、まとまっていたし
楽しめました。このシリーズは変な名前に関して文句を言ってはダメ。

「双頭の悪魔」 有栖川有栖 ★★★★★
---東京創元社・92年、このミス6位、文春4位---

閉鎖的な村へ行ったまま戻らないマリア。マリアの父に頼まれた推理研メンバーは
村への潜入を計る。しかし、江神部長とマリアを残し交通不能に。
2つの村に分かれたメンバーはそれぞれで事件に巻き込まれる。

だいぶ前に読んだのでちょっとだけ。700ページ近くありますが本格好きには問題ありません。
見事に構築された論理だったように思います。複雑に絡み合った糸がほどける瞬間は
感動ですね。複雑ですけどきっちり書かれているのでついていけました。本格としての最高峰!

「女王国の城」 有栖川有栖 ★★★★
---東京創元社・07年、このミス3位、文春1位---

いなくなった部長・江神を追い、知的生命体との邂逅を待つ宗教団体のもとを訪れた推理研一行だったが、
団体はなぜか江神と会わせてくれず時間を稼ぐ。ようやく会えたと思いきや今度は殺人事件に遭遇。
すると今度は警察を呼ぼうとせず推理研一行を閉じ込めようとするのだ。

なんと十五年ぶりのシリーズ。本格好きには堂々と挑戦してくる作品は堪えられない楽しさですね。
メインである教団内部の事件や、外の町で過去に起こった事件や、その他気になる点が見事に
収束する解答編はさすが。物語の長さも手伝ってさっさとお手上げしてましたけど、納得させられる
解答でした。教団の奇妙な建物や信仰もおもしろい。どう考えても外と繋がってる怪しげな洞窟が
教団内部にあるんだけども、そこは教団にとっての「聖堂」(代表が宇宙人と会った場所)であって
入れないし使えない、という何とも扱いづらい設定が読者を惑わせつつ楽しませてくれる。
謎解きもさることながら、推理研の賑やかな雰囲気がいいですね。それに教団を脱出する活劇あり
町での追っ手からの逃亡劇ありで楽しい読物でありました。のらくらと楽しんで進む物語を作りつつ
推理の材料をばらまいている。ベテランの余裕ですね。「本格」という点では前作の衝撃度が
上かな。ファンには薦めるけどアリスシリーズ最初がこれというのはキツいかな。妙に長いしね。
「湖底のまつり」 泡坂妻夫 ★★★☆
---幻影城ノベルス・78年---

傷心旅行中に紀子は晃二という男に出会い結ばれる。しかし翌朝、晃二の姿はなく
足跡を追っていくも忽然と消えていた。村の人に聞くと晃二はすでに死んでいると
いうのだが…。では昨日の男はいったい誰でどこへ消えたのか?

「騙し絵の世界」と書かれているように、誰が何をやっているのかわからなくなります。
そして終盤にやっと明らかになっていきます。プロットの上手さもさることながら
ダム計画でなくなりそうな村を舞台にした独特の雰囲気がうまいです。
ちょっとなあ、と思うこともないではないが面白かったと言えます。

「夢の密室」 泡坂妻夫 ★☆
---光文社・93年---

6作品による短編集。どの作品にもトリックがあってそれを解いていく、というもの。
無難といえば無難ですが…これといって「ドカ〜ン!」という驚きがなかったので
ちょっと評価しづらいです。表題作はちょっと変わっている作品か?

「しあわせの書」 泡坂妻夫 ★★★★
---新潮社・87年、文春6位---

宗教団体の信者が死亡、しかし信者は生きているのでは、という噂が広まっていた。ひょんなことから
宗教団体に興味を持ったヨギ・ガンジー一行は首を突っ込み、宗教団体の継承問題に巻き込まれていく。
約200ページの中にしっかりまとめられていました。読み終わってからこの本がしあわせの書の体裁を
持っていることに気づいた。泡坂さん…凝り性やなぁ〜〜。

未読の人はダメ→
警備員に見つかったという部分について、わずか二行で「僕は腹話術(!)を使い
警備員に見咎められたふりをして」って説明しているけど、そんなの納得できないぞ〜!


「泡坂妻夫の怖い話」 泡坂妻夫 ★★★★
---新潮社・95年---

全31編も詰まったショートショート集です。怖い話と言ってもホラーではありませんでした。
ゾッとする話、トリックが効いている話、SFっぽい話など沢山あり、お得感いっぱいでした。
「泡坂妻夫のうまい話」と改題したいくらいどれもピリリとうまい話でした。短い話だからこそ
泡坂妻夫の実力が見えた気がする。裏表紙にも書いてありますが一気に読まず一日に
一・二話ずつくらい味わっていくのが良いでしょう。個人的に好みの一冊。

「重力ピエロ」 伊坂幸太郎 ★★★★
---新潮社・03年、このミス3位、文春4位、本屋大賞5位---

近頃頻発する放火事件、その現場近くには必ず英語の落書きがあった。
その事件を調べ始めた癌にかかった父、レイプ事件でできた弟と私の兄弟。
弟に関する回想シーンと現実の放火事件が語られる。

放火事件のルールというミステリーっぽいことも楽しめるが、父の違う弟と私と父親の親子の物語って
印象のほうが強い。レイプによって自分が生まれている弟が倫理や遺伝子、親子というものを
どう見るかって話とも言える。遺伝子なんて簡単に飛び越えちゃう父親がとても良いキャラですね。
…それから文章が変わっていましたね。ガンジーだとか画家だとかいろいろ名前を挙げて
理屈っぽく話したり、家族のエピソードを交えたり、いろんな題材が出てくる会話が印象的。
これを端からケッと思う人もいる気がする。逆に心地良い魅力と感じる人も多いだろう。
私はもう一つ物足りない。心にまで残らないというか…。読みやすさが淡白さに繋がったのかも。

「月の扉」 石持浅海 ★★★★
---カッパノベルス・03年、このミス8位---

3人の犯人に飛行機がハイジャックされた。彼らの要求は石嶺を空港へ連れてくること。
石嶺は心に傷を持つ子供相手にキャンプを行っていたが、ちょっとしたことから不当逮捕されて
いる人物だった。そんな中、飛行機内ではトイレに入った人間が次にドアを開けた時には
死体になっているという事件が起こり、ハイジャック犯達も困惑していた。

機内の事件は誰がどうやって?ハイジャック犯達が石嶺を連れてくる目的は何なのか?
ハイジャックによる警察との駆け引き、機内で起こった事件の二つが主流で展開する。
すごく現実的なハイジャックという舞台だが、恩田陸を思わせる不思議テイストが
効いてくる後半となっている。その影響で動機も少し変わっているが、真相に至るまでは
論理的な謎解きとなっている。物語は短時間で閉じた空間なので緊迫感があった。

「恋愛寫眞 もうひとつの物語」 市川拓司 ★★★★
---小学館・03年---

大学生だった僕はある時静流という不思議な女と仲良くなった。一方僕は大学の
友人グループの一人に恋していた。そして静流は僕に好意を持っているようだった。
不器用な僕達の切なくて美しいラブストーリー。

映画の原作とは違うようである。どう違うかは見てないからわからないが。
主人公の周りを含めた不器用でぎくしゃくしながらも温かい関係が良かった。
…とは言え、前半は恋愛ドラマっぽくて、苦手な私はのめり込めずでした。
しかし後半はなかなかでラストまで読むととても切なくて胸が痛くなってしまった。
すれ違ってすれ違って手が届かなくなる…寂しいような読後であった。

「プラスティック」 井上夢人 ★★★☆
---双葉社・94年、このミス11位、文春9位---

新婚の洵子の周りでおかしなことが起きる。本を借りようと図書館へ行くと
「昨日借りたでしょ」と言われ夫の会社へ電話をすると「誰ですか?奥さんじゃないですね」
と言われた。あげくに自分殺害の記事を見つけてパニックに陥る。

ワープロに入力しているいくつかの視点で語られます。一体どういうこと?ってことが
続々と出てきて興味をひかれます。どういうこと?の部分は人により程度は違えど
予想できたりするでしょう。それでも最後まで読ませるサスペンスでした。
ラストが印象的で好きでした。最後には一体何と・・・・。うまく終わらせやがるな。

「樹の上の草魚」 薄井ゆうじ ★★☆
---講談社・93年---

中学の頃の事故での入院がきっかけで自分が両性具有であると知った。
男として育ってきたが、女性の方が強くなってきているらしい。自分は男なのか
女なのか。友人を巻き込んで心は揺れ動く。吉川英治文学新人賞。

全面的にオチンチンの話である、が別に内容はエロ小説ではない。心の葛藤が見所なんでしょう、
男から女に…自分が自分じゃなくなるような…という心を描き、電話交換機やジオラマなども
印象的に用いている。…が、私はイマイチだった。主人公に感情移入しようが客観視しようが
ピンと来ないのだから仕方がない。若干SFっぽい雰囲気と柔らかな文章が非常に
読みやすかったのだけど、読み終わった後に何も感慨がなかったのだ。裏表紙にあるように
「読者の内面に触れ本当の自分を気づかせるような温かい感動」があるかはその人次第かな…。

「葉桜の季節に君を想うということ」 歌野昌午 ★★★
---文藝春秋・03年、このミス1位、文春2位---

<何でもやってやろう屋>の成瀬、ヤクザへ進入調査したこともある元・探偵という
経歴のおかげで依頼を受ける。それは『おじいさんが轢き逃げされた。関わっていた
悪徳商法の人間の仕業ではないかを内偵してほしい』というものだった。

個人的にこのトリックに関しては…微妙ですな。途中で気づいちゃったし、気づかなくてもどうだろう。
希望を言えばもっと真相の核の部分で仕掛けが欲しい。頭に描いていた物語がぶち壊しになるくらい。
ひっくり返るようなトリックは見事だが、そこまで激しくもなかったので。「だから何?」って思う人がいても
責められないなぁ。それに物語がトリックのオマケな感じがしたかも。面白かったけどのめりこむ
ほどではなかったし。話はちょっとハードボイルドで、悪徳商法の罠にどんどん深くはまっていく
お年寄りが描かれる現実っぽくてイヤ〜な題材でしたね。まあ読む時はとくに何も考えずに
飄々とした成瀬の語り口を楽しめばいいと思います。…でもこれがこのミス一位かぁ、う〜ん。
(注意)本の後ろの方に『補遺』というのがあるが見てはならない。ネタバレに関わっている。

ここからネタバレ。既読の方だけどうぞ↓
露骨なほどアレに関する記述がないので、仕掛けがあることを知っている人なら
気づいた人も多いのではなかろうか。こういう話って知らぬがホトケですねぇ〜。


「百舌の叫ぶ夜」 逢坂剛 ★★★★☆
---集英社・86年、文春2位---

めちゃめちゃ硬派なドラマ。出てくる奴らは警察関係に裏の世界の奴らとシブイし
カッコイーし恐ろしいし。ストーリーは複雑ですが、文章の見せ方にトリックあり
謎解きありハラハラドキドキ。ハードボイルドが苦手な人もOKだと思いますよ。私がいい例。
実はよく覚えてないんだけど面白かったのは確かだ。

「聖の青春」 大崎善生 ★★★★☆
---講談社・00年、新潮学芸賞、将棋ペンクラブ賞---

将棋界で若くから<怪童>と恐れられた男、村山聖。彼は幼少から重い病気を抱え
まさに命懸けで将棋を指し続けた。師匠・家族・友人達に支えられた彼は名人への
夢半ば、29歳で力尽きた。村山聖の一生を綴ったノンフィクション。

風呂も入らず爪も切らず、個性的で強かった<怪童>村山聖。一握りしか生き残れない将棋の世界で
若手の先頭を走った村山の情熱や不器用な純粋さが描かれていた。周りの人々の愛情や
村山の死と闘う姿は泣けてきました。必死で生きるってことを見せられた気がします。死と向かい
あわないとわからない心境だろうが、その姿には胸を打たれるものがある。若干知ってたが改めて
しっかり「村山聖」を知ることができて良かった。生きてたらすごい棋士になってただろうな。
…ところでこの本、将棋のことを知っているほうがより読みやすくて良いだろうと思う。
でも知らなくてもわかるしいろんな人にオススメしたいな。

「将棋の子」 大崎善生 ★★★★
---講談社・01年、講談社ノンフィクション賞---

プロ棋士になるための苛酷な場・奨励会。全国で天才と呼ばれた少年達はそこで
自分がただの人間であることを知る。勝ち進みプロの座を得た一握りの影で
夢破れた大多数がいる。将棋しか知らない人間の途方もない挫折の先にあるものは…。

成田英二を中心に元奨励会員たち何人かのエピソードを交えていくノンフィクション。
様々な挫折の先にある生活を見る温かな眼差しがとても良いです。胸打たれました。
勝者よりも敗者に学ぶことはたくさんあると感じました。どんな困難があった時にも
なくならない「勇気の駒」が自分にはあるのだろうかと思った読後であった。

「パイロットフィッシュ」 大崎善生 ★★★★☆
---角川書店・01年、吉川英治文学新人賞---

僕の元に十九年ぶりに昔の恋人・由希子から電話がかかってきた。一度会わないかと言うのだ。
それを機に思い出される過去。様々な人と出会い、様々な別れがあった。記憶とともに生きる
人間にとって「出会いと別れ」とは何なのだろう。僕は自分の記憶を見つめた。

『人は巡りあった人と二度と別れることはできない(中略)なぜなら記憶とともに現在を生きている
からである』という出だしだ。描かれるのは主人公の現在と過去の記憶、大学時代のバイトの人や
エロ本編集時代のこと…出会いと別れを静かに映し出すのだ。十何年前に別れた人が現在の自分に
影響を与えていたりと振り返ってみれば小さな出会いと別れが人生を左右していて、それが絶対無二の
現在の自分なのだ。だから小さな一つの出会いや別れも愛しく感じられるのだろう。魚や湖などの
例えも効果的で、記憶と向き合う主人公の心境が暖かく感じられた。読み終わってから冒頭の文を
もう一度見るとその意味が透明な水のように染み入ってきた。それから言わねばならないのは
文章の素晴らしさだ。「透明で静謐」…言ってしまえば簡単だが弱さをポンと口に出す主人公や
観念的なセリフもまるで嫌味にならない文章は読まないと伝わらない。この文章があってこそ
胸に染み入る本書なのだ。欠点があるとすれば一本筋の通ったストーリー性の薄さかな?
過去現在が交じっているせいか感覚はいいんだけど内容を忘れてしまって私も今回再読だ。

「アジアンタムブルー」 大崎善生 ★★★★★
---角川書店・02年---

大事な人を亡くした僕はジグソーパズルがバラバラになったように憂鬱になった。
そのピースを一つ一つ拾うように過去を…大事な人を想い立ち向かっていく。

この小説も作者特有の静かな文章だった。文章を読んでるだけで心地よくなる。
この話は大事な人を亡くして憂鬱にデパートの屋上で過ごす男の物語で大半は回想となる。
「誰かの死」という単純で、それだけ難しいものだと思うがうまく書いてると思う。
抗えないものへの口惜しさや悲しみが胸に溢れてしまった。大事な人を亡くす部分は泣けます。
それに作者は綺麗な言葉をさらりと使うのがうまい。クサいとは感じず心を打つくらいだった。

「九月の四分の一」 大崎善生 ★★★★+
---新潮社・03年---

四編からなる短編集。作者特有の透明で静かな文章は健在であり今回もその美しさは心地よかった。
私は前半の二編が好きだった。「報われざるエリシオのために」では、大学に入るも単位を取り社会に
突き進む生き方よりもチェスを研究するという無意味なことをし続け、無意味なことにも意味を探している
主人公が自分と重なったし、作中で登場する無意味なことをし続けたというエリシオの逸話も印象深い。
「ケンジントンに捧げる花束」は将棋雑誌編集をやめた主人公が一通の手紙をもとにイギリスへ向かう話だ。
日本を捨てイギリスで生きた老人が、晩年に将棋雑誌を楽しみにしている姿が温かい。配達日に待ちきれず
ポストの前でしゃがむ老人の姿は妻の温かな追憶として流れ込み顔が綻んでしまう。そういえばこの短編の
主人公も漠然とだが生き方に意味を探っているように思えた。考えすぎる男が私には感覚でピッタリかも。

それから本書では小道具や風景が効果的に使われている。エリシオの彫像や冥王星や湖、ツェッペリン
などの音楽ネタも多かった(詳しくないのでサッパリだったが)。そしてたびたび出るヨーロッパの街並が
文章と相まって美しい舞台装置へと変貌していた。全体的にボンヤリと記憶を想うような感覚のする
小説だ。派手な話はないが静かに胸に染み入り心地いい。ただ後半の二編は恋愛小説の側面が
色濃いためか好みではなかった。比喩もクサくて不発だったように思えたのだが…。

「新宿鮫」 大沢在昌 ★★★☆
---カッパノベルス・90年---

危険な情報を持つ疑いから警察組織内で浮いている鮫島は、たった一人で次々と犯罪者達を
検挙するため「新宿鮫」として一目置かれていた。巷では警官殺しが起こり新宿署は騒然となるが
鮫島は別働で拳銃密造犯の木津を追っていた。徐々に近づく鮫島に危険が待っていた。

内からも外からも疎まれて単独で動く刑事、ヤクザにも顔が効き黙々と捜査していく。
ハードボイルド(以下HB)の王道って感じです。鮫の捜査と警官殺し、それに警察マニアの
動きが挿入されるので、常に動きがあるので読みやすかった。設定と脇役が良かったですかね。
事故で息子を亡くして以来笑わなくなって周りからは「マンジュウ(死人)」と揶揄されている
課長の桃井がちらっと男気見せたりだとか見せ所もHBっぽい。警察マニアは気になって
読んでたんですが別に必要なかった気がする。HBは皆似たりよったりに思えるので
名作の誉れ高い本書も目新しい感じはなかったですが取っつきやすく穴が少ないかな。
警察物と言えるが横山秀夫のものと違って刑事ドラマに近い雰囲気でした。
「毒猿-新宿鮫Ⅱ-」 大沢在昌 ★★★★
---カッパノベルス・91年---

台湾人の賭場を張っていた鮫島は、郭という刑事に出会い通称・毒猿という殺し屋が日本にいる
可能性が高いと知る。キャバレーで働いていた奈美という女と行動をともにする毒猿は、標的を匿う
石和組との戦争になり死体を生み出していく。。鮫島と郭はキャバレーの事件から毒猿に迫る。

新宿を舞台にした腕利きハードボイルドというとゲーム界の探偵・神宮寺三郎を思い出す。
飲み屋で働く中華系や麻薬取引にシブい主人公と新宿の雰囲気がまた似合うゲームなのである。
ヤクザと渡り合ったり中国人の殺し屋が出てきたりする「InnocentBlack」という回があるけれども
それに出る中国人殺し屋と本書のがかなり似てる。爆弾仕掛けたり格闘術で相手を殺したり…
たった一人で襲撃を成功させる手のつけようがない殺し屋なのである。本書は前作よりも
ド派手な活劇となっており人が死ぬけれど、毒猿と逃げる奈美や郭の存在、過去の話など
最低限の湿っぽさもあっていいバランスの読み物だと思う。とにかく追う毒猿と抗う石和組という
構造で引っ張られるし前作よりも面白かった。ラストの新宿御苑を舞台とした大死闘は凄まじい。
息を詰めて読んじゃった。いくらなんでも強すぎだし死にすぎだけどね。無難な感じの前作よりも
登場人物が必死だったしうらぶれた匂いがあって神宮寺三郎っぽくて個人的に好みでした。
「焦茶色のパステル」 岡嶋二人 ★★★☆
---講談社・82年、江戸川乱歩賞、文春1位---

第28回江戸川乱歩賞受賞。牧場で牧場長と競馬評論家が、そして馬2頭が射殺された。
評論家の妻が事件を調べていくうち、事件の裏にある秘密に肉薄していく。
評論家は何を調べていたのか?はたして真相は?

予想に反して競馬の話自体はほとんど出てきませんでした。馬の血統について、がメインでした。
「血統」といっても簡単なことなので誰でもわかるレベルです。なあるほどって感じです。
でもこれといった印象もなくて普通な感じしか残っていない。

「チョコレートゲーム」 岡嶋二人 ★★★☆
---講談社・85年、日本推理作家協会賞、文春6位---

日本推理作家協会賞受賞。息子の中学校の同級生が殺された。息子の気持ちがわからない父は
息子の不審な行動が事件と関係があるのでは、という疑念のもと、事件と息子について知ろうとする。
しかし事件はまだ動いていた…。学校で起こっていたチョコレートゲームとは一体何なのか?

父の苦悩が描かれ、学校という閉じた空間へ闘いを挑む姿が印象的でした。
なかなか重い空気で何となく気が滅入りました。

「そして扉が閉ざされた」 岡嶋二人 ★★★★☆
---講談社・87年、このミス6位---

雄一が目覚めるとそこは地下シェルターの中だった。その部屋には三ヶ月前に別荘で過ごした男女
四人がいた…どうやら四人とも閉じ込められたらしい。閉じ込めたのは三ヶ月前の日に事故で命を
落とした友人の母親のようだ。なぜ閉じ込められたのか?そして三ヶ月前の真相とは何だったのか?

普通あらすじというものは導入部や前半を書くものだが、この小説はこれで全てである。
閉じ込められたシェルター内部で脱出を試みながら推理をする四人…回想を交えているが
ほとんどこれしかないのである。無駄なものを排除し一つの事件の論理ゲームで勝負した
作品なわけだ。そしてこの単純明快さが面白かった。四人しかいないのに犯人を悟らせないのも
すごいですね。ある程度は予想できたんだけど…あんな捻りがあるとは。知った時には「あっ!」と
なってしまいました。それからシェルター内部にわずかの食料と水しかないという状況が物語に
切迫感をもたらして引き締まりましたね。キャラが濃いのも笑えた。回想に出てくる殺された娘は
最悪すぎだし、シェルター内の登場人物であるインテリ風なやつも妙に面白い。大きな話を書いてる
わけではないが状況と推理だけでここまで面白くできるのかと思いました。本格好きにオススメ。

「解決まではあと6人ー5W1H殺人事件ー」 岡嶋二人 ★★☆
---双葉社・85年---

謎の女・平林貴子は探偵所を回りおかしな依頼をする。探偵たちはそれぞれでその依頼を
クリアしていく。そして探偵を通して彼女のいきつく先は?

短編のような話が5つありまして(つまり探偵への依頼と探偵による調査で1つ)
…それが少しずつ絡んでまして…6つ目で解決するわけで…で、結局事件は1つなわけで…。
この手法に歓喜するか、1つ終わるごとに気持ちが途切れるかはその人次第というわけですね。
残念ながら私は途切れた。講談社文庫にもあります。

「99%の誘拐」 岡嶋二人 ★★★★★
---徳間書店・88年、吉川英治文学新人賞、文春8位---

冒頭から20年前に起きた誘拐事件に関する生駒洋一郎の手記から始まります。そして現在、
リカード社長の孫が誘拐され、10億のダイヤを要求された。そしてダイヤの運搬役に指名されたのが
20年前に誘拐された洋一郎の息子、慎吾だった。完全犯罪を狙う犯人の計画は成功するか?

この作品は犯人当てではありません。この緻密で壮大な話を素直に楽しめられれば
良いと思います。スリル感ありの計算された作品、傑作〜です!

「クリスマス・イヴ」 岡嶋二人 ★★★☆
---中央公論社・89年---

別荘へパーティに向かう敦子と喬二。夜の別荘には明かりがなく、入ってみると友人の
惨殺体があった。電話線を切られ連絡がつかない。その時誰かがいるような音がした・・・。
雪に閉ざされ、いくつかの別荘しかない山奥で敦子と喬二は逃げ切れるのか。

岡嶋二人といってもミステリーではない。クリスマスイヴといってもロマンチックでも何でもない。
サスペンスホラーである。ただ単純に殺人鬼が殺そうと追ってくる話。頭がいい上に力もあって
とことん追ってくる殺人鬼だった。単純なので手軽に読める一冊だと思う。単純であるがゆえ
やたら怖いけど。イヴの真夜中にひっそり読むのもいいかも。幸せにはなれないけど…。

「邪魔」 奥田英朗 ★★★
---講談社・01年、大藪春彦賞、このミス2位、文春6位---

主人公はいわゆる普通の人々。不良高校生、刑事、主婦。平凡な(?)生活を営む3人は
わずかな変化に生活を動かされ、平凡な生活は緩やかな坂道を転がるように動いていく。

どんなものやらと思い読んだんですが…犯罪小説ってのは私あまり好きではないのかもしれません。
東野圭吾「白夜行」にしてもそうですが世間の評価は非常に高いのですが、どうもダラダラとした
印象が…。つまらないわけではないんですが読後感がちょっとね…胸がモヤモヤしました。結局
日常のそばに非日常は落ちている、ということなんでしょうかね。読書を知る人の一冊なんでしょうか。

「夏と花火と私の死体」 乙一 ★★★
---集英社・96年---

「夏と花火と私の死体」→9歳の私は友達に樹の上から押され殺されてしまった。
友達とその兄は死体が見つかってはまずいと隠すことにした。いなくなれば近頃起こる誘拐事件の
せいになると思ったのだ。次々訪れる危ない場面、兄妹と死体は一体どうなるのか
…話は単純だが結構ドキドキさせられる。けどちょい物足りないかも。普通に面白いか。

「優子」→鳥越家で住み込みで働く清音、しかし一つ変だと思っていることがある。
主人の妻を見たことがないのだ。食事は部屋の前におくだけ、主人が看病をしているという。
妻の存在に疑惑を持つ清音は窓から部屋を覗いてしまう。そこには布団に横たわる人形が…。
…こっちの方が好き。雰囲気が好きだし、しっかりまとめる上手さがある。
最後の一、二行がらしくてたまらない。
「死にぞこないの青」 乙一 ★★★☆
---幻冬舎文庫・01年---

引っ込み思案の小学生マサオはちょっとしたことから嫌な奴だと誤解を受ける。クラスメイトから
白い目を向けられる中、担任羽田がことあるごとにマサオを中傷するようになり、いじめへと
発展していった。孤独なマサオは顔が真っ青な「死にぞこない」の男の子を見るようになる。

いじめなので明るい話ではありませんが、「悪役」も作ってあり誰でも簡単に物語に
入っていけるでしょう。マサオのどうしようもない絶望がわかりやすいし、もどかしさも伝わる。
小さい子の一人称で文字は大きめで200ページ程度ってことで読みやすいです。
すぐ読める本を探している人にオススメですね。

「暗いところで待ち合わせ」 乙一 ★★★★★
---幻冬舎文庫・02年---

職場の人間関係に悩むアキヒロは今殺人犯として追われていた。アキヒロが逃げたのは
視力を無くし植物のように静かに暮らすミチルの部屋だった。アキヒロはミチルに気付かれないように
居間の隅にうずくまる。ミチルも侵入者に感づくのだが…。果たして事件は?二人の生活は?

切ない〜!アキヒロもミチルも寂しすぎる。特に目が見えなくて引っ込んでしまうミチルが寂しい。
一日中ストーブの前で背中丸めてずっと横になってるだけの姿は寂しすぎて胸が痛くなる。
友人達はミチルを応援するんだけど、頑張れない心境がよくわかる。孤独で不器用な心情が
作者らしくてすごくうまいと思う。前半は息を詰めるような二人の生活が見ものだが、話が進むにつれ
臆病とも言える二人が少しずつ支えあっていく暖かさが満ちてくる。ゆっくりと心に変化が訪れる様子は
読んでて嬉しくなって応援したくなるね。寂しいけど、辛いけど頑張ろうってそんな気分にさせられた。
設定だけ聞くと悪趣味な感じで、明らかにホラーっぽい表紙なんだけども本書は優しい内容だ。
読後感も良いし、短めなので読みやすい。オススメ〜!

「GOTH」 乙一 ★★
---角川書店・02年、このミス2位、文春7位---

六篇の短編集。人の死に場所を見ることが好きな「僕」、残酷な事件に興味のある森野。
二人は周囲で起きる事件に関わっていく、目的は捕まえることではない。観察すること。

構成はミステリーで残酷なホラーの味つけがしてあります。ゾッとする無気味さがある。しかし登場人物が
誰一人好きになれない。気づいたら異常だったという人間ばかり書いている。自分の価値観を押し付けて
他人を巻き込み犯罪を起こす人間は読むだけで嫌な気分になるな。襲って手を切り取っちゃったり
人を生きたまま埋めちゃったり家族を殺しといて遺族を観察したり…。主人公二人も何だかねぇ。
自分は異質な存在だと思ってる現実にいそうなタイプだ。この小説こういう勘違いちゃんを助長しないか
心配だ。読者としてはともかく人間として腹が立つ。「埋めてみたくて、埋めてみました…」このセリフが
作品のイメージを表している気がする。こんなのばっかりでした。そこそこ楽しめたけど読後の気分は
かなり悪い。作者の哀切感を評価する人間には不向きな作品といって差し支えないと思う。

「東亰異聞」 小野不由美 ★★★
---新潮社・94年、このミス14位---

時は明治、江戸から東亰(とうけい)へと呼称を変えたこの都市。夜になると異様なものどもが現れる。
人魂売り、炎に包まれ人を突き落とす火炎魔人、赤姫の格好で鉤爪を振りかざす闇御前。
これらの被害は数多く、記者が調べるとやがて鷹司家のお家騒動が関係していそうな気配。
果たして「夜のものども」は人間の仕業か、それとも魍魎どもの仕業かな、べんべん。

人間の仕業だよと思ったり、妖怪ではと震えたりどっちなんだって感じが良い。
それにこの雰囲気は浸かる人はどっぷりかも。確かにうまい。謎はあるし最後に吃驚は用意されているし
中々の作品ですかな。玉に瑕なのは読みにくいこと。時間が掛かった。時代小説という程ではないにしろ
見た目よりきつい。片仮名がほぼ零というのは気に入ったのだが…辛い。
読むなら時間掛かっても良い位の覚悟が必要だと思う。…感想も片仮名無しにしました。

「魔性の子」 小野不由美 ★★★★
---新潮文庫・91年---

教育実習のため母校に戻った広瀬。クラスには高里という孤立している不思議な生徒がいた。
小さい頃に一年間神隠しにあっていたという高里、彼に関わると崇りがあるという噂があった。
実際に崇りのようなことは起こりエスカレートしていく。

一人の生徒の周りで色々と起こり、台風の目状態。関わりを避ける者、かばう者
崇りを信じないもの、事が大きくなり様々な思いが交錯して…結構読み応えあった。
底辺にホラーが流れてちょっとファンタジーって印象かな。ファンタジー色の強いラスト部分は
「十二国記」の話と絡んでいるんだそうだ。「十二国記」未読だけど、これ一冊で充分面白かった。
「十二国記」の方も気になってしまうような終わり方だったが…作戦か?

「倒錯の死角-201号室の女-」 折原一 ★★★☆
---東京創元社・88年---

アルコール中毒から退院した大沢、向かいのアパートに引っ越してきた女を
覗き始める。女は見られていることを知ってか知らずか無防備である。
絶っていたアルコールを手にしはじめ、事件は動き始める。

見る側、見られる側から描き最後まで緊迫感が続いてます。のめり込んじゃいますよ。
二転三転の真相はなかなか複雑です。でもこの人にしたらわかりやすい方だと思う。
リアリティはあまりないけど真相までのドキドキはかなりのものだ。読んでると自分が
変態になっちゃいそう。 でも「小説を読み終えた」って感じより「わかんなかった数学の
問題の解答を知った」っていう読後が個人的に好きになれないんだけど…。
最初に折原作品を読むなら手ごろな一冊だと思うんですが…どうかな?

「黒衣の女(死の変奏曲から改題)」 折原一 ★☆
---徳間書店・91年---

愛人と会社の金を横領した男、婦女暴行常習の男、愛人問題を抱える男
三つの殺人事件の容疑者は目撃証言のある黒服の女。これは一体誰なのか。

黒服の女が誰か?というところで引っぱるし記憶喪失の女が出てきて
私は誰なのか?真相はどうなのか?というのも読みどころ。先は気になる。
しかし、真相は一応の辻褄はあってるがここまで不自然なほど複雑にするのはどうかな。
内容も都合のいいことばかりだった。わかりにくく書いて「真相はこうだ!」とタネ明かしされても・・・。
それに登場人物が薄っぺらで気持ちが全然伝わらない。小説としての魅力が少ない気がする。
あっ、でもこういうの好きな人はびっくりな結末に胸躍らせると思いますぜ(フォロー)
「六番目の小夜子」 恩田陸 ★★★★
---新潮社・92年---

高校で三年ごとに受けつがれるゲーム「サヨコ」。今年は六番目にあたるサヨコがどこかに
いるはずだった。そんな折に「津村沙世子」という謎めいた転校生が現れた。
普通の高校生活の根底に潜む何かの意志に動かされるように季節は流れていく。

舞台は高校ということで空気が若かったですね。表面に出ないモヤモヤ、といった難しいものが
うまく書かれ途中から引き込まれっぱなしでした。「ファンタジーノベル大賞」の候補作にあがった
ということでSFものなのか現実的なのか悩みながら読みました(最後のほうまでどちらか
わからないので)。手にとって確かめてみてはいかが?恩田陸の作風を知る上でもちょうどいい作品。

「球形の季節」 恩田陸 ★★★★
---新潮社・94年---

東北のある町では奇妙な噂やおまじないが流行っていた。一部の生徒は
噂の根源を調査し始めるがつかみきれない…そんな中、噂は再び現れる。

雰囲気が「六サヨ」に似てる妹分的存在。「六サヨ」よりファンタジー色の強いのですがうまく世界を
作り、想像力をかきたてられました。小さな町という限定的な場所を描きつつ、壮大かつ繊細な
心理を描いています。読後、怖さか切なさか空しさか奇妙な感覚がまとわりつきました。「向こう側」に
何があるのか、自分ならばどうなのだろうと余韻の残る一冊でした。ファンタジックなので読むなら
若い時(人)の方がいいかも。ちなみに読むときは『考えずに感じること』でしょうね(ブルースリーかよ)
気になっていくつかのサイト見たらそれほど評判良くなかった。がっくし。

「不安な童話」 恩田陸 ★★★
---祥伝社・94年---

万由子は高槻倫子という画家の遺作展ではさみに刺し殺される映像を見て倒れてしまう。
後日万由子は倫子の息子に母の生まれ変わりではないかと言われてしまう。

生まれ変わりについて考えたり、探し物を当てる(記憶をちらっと垣間見る?)能力が
あったりSF?と思いましたがしっかりミステリでした。途中いろいろ事件も起こって、最後には
不思議なことも含めて全てすっきりと解明されます。まとまったミステリー+不思議な
味つけって感じか。真相はいろんなことが明らかになるのが唐突な気が・・・。
ある程度予想できちゃったし。でも無難に面白いと思う。

「光の帝国」 恩田陸 ★★★★☆
---集英社・97年---

十編からなる短編集。常野という不思議な能力を持つ一族を描いています。

とても幻想的な物語でした。過去の常野の話や能力を隠し日常を生きる話などたくさん。
どれも読後感がよくさらりと綺麗な短編集でした。ファンタジックな柔らかさと常野の人達の
暖かい視点が心地よかった。もっと常野物語の続きが読みたい、と思えました。
ファンタジックなものに抵抗さえなければ嫌いだという人はいない気がする。
一つ一つが短めで優しい物語なのでお子様にも薦められる一冊です。

「三月は深き紅の淵を」 恩田陸 ★★★☆
---講談社・97年、このミス9位---

趣味が読書のサラリーマン巧一。会社の会長宅へ招待を受けた。会長は広い屋敷の中のどこかにある
「三月は深き紅の淵を」という本を探してほしいと依頼。いろいろ決まり事のある本らしいのだが…。

…という「待っている人々」を始めとした中編四部作。「三月は〜」という本が作中何度も出てきたり、作者が
これから書こうとしているところだったり、誰が何を読み、書いているのか混乱に陥れられます。
ストーリーに引き込まれるどころか作者の手で外にほっぽり出された気分。
一冊の本をめぐるミステリアスな小説、本好きなら試すべき?
とにかく説明も評価も難しいんです。外枠を脆弱にしているところが特徴かな。

「木曜組曲」 恩田陸 ★★
---徳間書店・99年---

大物小説家・重松時子が死んでから毎年集まる縁の深い、書く事をなりわいとしている女達。
話は時子の死の真相へと移り、新たな告白も出る。時子は自殺?他殺?

基本は過去の事件について五人が議論し続ける、というもの。舞台がずっと館の中ってことで
ちょっとダラダラしたかも。それに女性五人、最初は誰が誰かわかりにくかった。全員したたかで
隠し事がある女の集まり…雰囲気だけで疲れました。少ない材料で最後まで二転三転させる技量は
さすがですが…物語に入ってなかっただけにイマイチ驚かなかったなぁ。人によりけりだな。
ちなみにうちの姉は「めちゃめちゃ面白かった」んだそうです。映画化もしたらしい。

「象と耳鳴り」 恩田陸 ★★★★
---祥伝社・99年、このミス6位---

短編12編からなっている。一応分類としては安楽椅子ものと言えるでしょう。
ちょっとしたことから真相を言い当てたり推理してみたり・・・。その論理の鮮やかさは
目を見張ります。必ずしも真相かどうかわからない短編もあるのですが、その推理の
不気味さを感じてしまう。真相にも驚きだが、それに付属する人間の心のすごさや
不気味さを感じさせる部分が上手い。恩田陸の感性の良さを感じた一冊。
一つ一つは短くてサラッと読めるが、全体的には同じ不思議な雰囲気があります。
登場する関根一家もなかなか魅力的でした。

「月の裏側」 恩田陸 ★★☆
---幻冬舎・00年、このミス11位---

地方都市・箭納倉(やなくら)で起こる連続失踪事件。不思議なことに被害者は記憶を失くし
戻ってきているのである。この事件に興味を持つ者達は、箭納倉を流れる水に関係のある
「何か」に気づく。失踪し戻った人達はいったい・・・?

SFな感じでちょいホラー。全体的に漠然とした気味悪さが漂っていました。
箭納倉を舞台にしたスケールの大きな話です。あんまり好みじゃなかった。
前半のゆっくりした感じがイライラ。