コンコン

ん……もう朝か………。

コンコン

ドアの叩く音が聞こえてる。

「はい」

「失礼致します」

受付の人がいつものように部屋に入ってきた。

しかし、入ってきた途端硬直して

「し、失礼致しました!!」

いつものあの人からは想像も出来ないような動揺を見せて、部屋を出ていった。

「な……何だ…?」

「ん……もう朝なの…?」

ティアも寝ぼけ眼のまま目を覚ました。

「おはよう、ヒュート」

「おはよう」

この時、あの人が何で慌てて部屋を出ていったのか分かったような気がした。

ティアは目を覚ますと自分の部屋に戻って、パジャマからいつものローブに着替えてきた。

俺は軽装鎧にズボンと言う動きやすい格好にした。普段は、この格好ではなく、ティアと同じローブなのだが、これから行く所を考えるとローブよりこっちの方が動きやすいと思ったから。

俺達はまたあの来客用の食堂に通された。また朝から豪勢な料理が並んでいた。

そこには、マルクス支部長の姿もあった。

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

支部長の隣には、さっきの受付の人が、俺達を見るなり顔を紅くして俯いていた。

「今日から頼んでいた連中の退治に向かってもらう。君」

「はい」

すると、側にいた受付の人は、俺達が入ってきたのと反対側のドアを開けた。そこには昨日、あの連中が来たことを俺達に報せに来た魔道士がいた。

「この者が場所を知っている。そこまではこの者の案内で行ってくれ。退治の方法は君たちに任せる」

「最悪な手段でも…………ですか?」

ここでこの確認をしておくのは重要なのである。ここで生かして連れてこいなどと言われたら非常に厄介なことになる。それに、聞かないで全員始末して帰ってきたと言って、文句を言われるのは更に厄介である。

「ああ…………」

ふーん……そうとう追いつめられてんだな。

「ところで、どうして生け贄を要求されていることを教えてくれなかったんですか?」

これはティアが聞いた。

支部長は溜め息を一つ吐いて

「わけのわからない連中に生け贄を出せと脅されているなんて言えるわけ無いだろう」

「それはそうですけど………」

「最悪、出さなかったら…連中、この街を火の海に変えていたかもしれませんよ。昨日来た連中も、見た目は変でしたが、それなりの実力はありましたから」

「う………うむ…」

支部長は口篭もってから

「た…確かに、お前達に全てを話さなかったのは悪かったと思っている。

だが、噂が街に広がってもらっても困るのだ」

気持ちは分かる。

そんな噂が広まった日には、街中が大混乱して、連盟の信用が落ちることは間違い無いだろう。

「と、とにかく、昨日のあの連中で街の人間はみんな不安がっている。少なからず、生け贄の噂も周り始めているからな。出来るだけ、早いうちに決着をつけてほしいのだ」

「まあ、一応行ってきますけど」

「宜しく頼む」

マルクス支部長は言うだけ言うと部屋を出ていってしまった。受付の人もそれに着いていって、部屋に残ったのは俺達と案内役の魔道士と給仕係だけだった。

「ディストです。どうぞ、よろしく」

ディストは俺達二人と握手した。

「ヒュート、よろしく」

「ティアです。よろしく」

「お二人のことはよく聞いております。お二人に与えられている称号が凄いですからね」

皮肉ではなく、純粋に彼は俺達が凄いと思っているらしい。

「支部長のこと、お気を悪くなさらないで下さい」

「今更、気にしてないよ」

「普段は来客にもちゃんとした言葉遣いで対応なさるのですが、生け贄の騒ぎとかもあって、気がまいっているのです」

「まあ、それはわからないでもないわね」

まあ、ディストの言葉がすべて本当かどうかは分からないが、気がまいっていると言うのは本当のことだろう。

でも、あの言葉遣いは前々からのもののような気がするけどな……。

どーーーん!!!!!!!!!!!!!!

俺達の会話は、突然の爆音で遮られた。
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