慣れ親しんできた教室の戸を開ける瞬間

この感触にでさえ、何か感慨深いものがあるなと思う

少し力を込めるとガラガラと音を立てて戸は開いた

ぐるりと教室を見渡し

そして、窓際の一番後ろの席に探していたものを見つけた

放課後





「やっぱりここやと思った」

「ここに居ったら見つかると思った」



———せやったらいきなり姿をくらますなっての



そう胸中で呟きつつ溜め息を吐き、後ろ手で戸をしめ、

彼女に近づき彼女の前の席に腰を下ろした

「終わったね」

彼女は窓の外に視線を固定したまま、独り言のように呟いた

「終わったね」

私はオウム返しにそう答えた

と言うかこの他にどう返せと言うのだろうか

「なんや、結構あっけなかったな、卒業式」

「うん。でも結構泣けた」

「うん」

彼女はそう短く答えて俯き

「終わったね」

さっきとまた同じことを言ってくる

「終わったね」

私もさっきと同じように返す



「もう、この場所はうちらの場所とちゃうねんなぁ」

彼女はぐるりと教室を見渡し、そう言った

「そやな、もううちらの場所とちゃうな」

「なんかな、さっきこの教室に入った瞬間、唐突にそう思った」

それは、私も感じていた

この場所が纏う空気、と言うか雰囲気が緩やかに、けれど確実に私達を拒絶していた

その瞬間に悟ってしまった

ここはもう私達の場所じゃないんだということを



「三年って長いようで、短かった」

「うん。せやけどやっぱり長いとも思うねん」

「せやな、長いとも思うな」

「色んなことあったな」

「あったねぇ」

「もう、あんたとも毎日会わんねんな」

「そうやなぁ、もう毎日会わんな」

「「清々すらぁ」」

「「ハモんなよ」」

「「はぁ」」

溜め息すらもハモってしまって、もう何も言う気がしなくなってしまった

「腐れ縁?」

彼女がそう問うて来た

「たぶん、腐ってる」

ので、私も思ったままに答える

「よなぁ」

「せやけど、」

「ん?」



「長持ちしそう。もう、腐ってるから」



そう言った私を彼女はポカンと口を開けて見ていた

「何よ」

「いや、あんたからそんな言葉がでると思わんかったから・・・」

そう言えばそうだ

こう言うことを口にするのは彼女の方が多い

柄にもない事を言ってしまった

けれど、これはいつも思っていて口にしなかったことだ

「まぁええわ。うちもそう思っとったから」

そう言って彼女はまた窓の外に視線を戻した



「みんな、バラバラやなぁ」

「せやな、もともとみんなバラバラのとこから来とったからな」

「このクラスで一緒になったこと事態がなんか奇跡見たいな連中ばっかやもんなぁ」

「寂しいこととちゃうんやけど、寂しいなって思うんってわがままかなぁ?」

そう言った彼女の目は本当に寂しそうだった

卒業後の進路はみんなバラバラで、もちろん私も彼女も違う道を行く

それぞれに追いかける夢があり、道があり、その先にはそれぞれの未来がある

「あんな、うち思うやけど・・・」

私はそこで一旦、言葉を切り少し考えて続きを口にした



「ここを思い出すときに『あの頃は良かった』じゃなくて

 『あの頃が私の今を作ってる!!』

 って誇れるように生きて行きたいなぁって思う。

 それが、この場所でみんなと過ごした時間を無駄にせぇへん方法やと思うんや。

 せやから、寂しがってばっかりおったあかんなぁって思うんよ」



「うん」

「まぁ、でも今くらいはいいんとちゃうか?」

「うん」

少し微笑んで彼女はそう頷いた





その時





キーンコーンカーンコーン





チャイムが鳴った

時計を見るとそれは丁度、放課後を知らせるチャイムだった



「帰ろっか」

いつもの放課後の様に彼女がそう切り出した

「そうやな」

わたしもいつもの放課後の様にそう答えた



だけど私達は知っている

この『いつもの放課後』が明日から『いつもの』でなくなってしまうことを

それでもこうやって『いつもの放課後』を『いつも通り』に帰るのが、何だか私達らしい気がした



教室を出て、戸を閉めようとして、その手を止めた

教室を見渡す

誰もいない、夕日が差す教室

隣を見ると彼女も同じように教室を見渡していた



「「いままでありがとう!お疲れ様でした!!」」



どちらともなくそう大声で言って

どちらともなく教室に礼をした



「「ぷっ」」



そして、どちらともなく吹き出した



「あはははは!!考えることは一緒っすか?」

「一緒みたいですねぇ」



「「さすが腐れ縁!!」」



そうやってまたハモって、笑いあった



「行くか」

「うん。行こう」



そう言って教室の戸を閉め、



———がちゃり。



鍵を掛けた









私達は、











今日









この場所を、









卒業した











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あとがき

文芸部の部誌の為に書いた文章でございます

締め切りの一日前に徹夜でがんばってました(もっと余裕を持とうよ・・・)

徒然なるままに文章を連ねてしまった為、本当に徒然なる文章になっております(爆)

そのお陰と言っては少々アレですが、今の私の気持ちをそのままトレースする形になり、

これはこれでよいかもしれないとか思っちゃています。

「若気の至り」っちゅうことでこの恥な文章を置いとくのもアリってなわけで・・・



高校で過ごした日々はわたくしめの誇りであります。

あの場所で出逢えた全てに

「ありがとう」

そして、

全ての行く道の上に、どうか、幸、多からんことを・・・・








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