深町正が中学時代から書き溜めた詩と小説を載せてます

1.序章

 人口爆発、オゾン層の破壊、温暖化、エネルギー問題・・・・。
 それらに絡む利害による、宗教、国、地域、民族間で、紛争は絶え間なくおきていた。
 地球はもはや瀕死の状態であった。
国連の主導の下、その機能を発揮した初の壮大な計画は、そんな差し迫った事情からだった。宇宙移民計画がそれで
ある。つまり、新天地の開拓や資源の供給を宇宙に求めたのだ。
国連の主導とはいえ、とくに資源の開発と供給、宇宙移民の人的資質に対する考え方が、宗教、国、地域、民族間の
利害や相違を生み、過当な開発競争になると予想された。
 資源の開発と供給からいえば、資源、特に地球の鉱物資源・エネルギー資源は、1800年代の産業革命以降、無尽
蔵にあるかのように一部の愚かな人類が湯水の如使用し、豊かさ追求してきた。その結果、鉱物資源・エネルギー資
源は枯渇し、確保することが急務になっていた。
宇宙移民の人的資質からいえば、宇宙空間の広がりと未知の部分が多いことから大多数の人々は恐れや不安を覚え
ており、宇宙に人類の未来を見出せる者は多くいたが、自らの希望を重ねて生活圏を宇宙に求める者は少数であっ
た。
過去の歴史が物語る様に、初期の移民は劣悪な環境と過酷な労働を強要されるのが常である。宇宙という広大な空
間も例外ではありえなかった。
政治・経済は地球上にあり、そこから離れることなど一部の良識ある者以外想像できなかった。それは母なる地球上
から離れることへの、生物としての本能的な恐怖感からかもしれない。
政財界や各界の著明人などの上流階層と呼ばれる人々は、夜毎、満天に瞬く星々を仰いで、そこに眠る膨大な資源に
思いをはせ、欲望の迷宮に心を迷いこませた。
最初に宇宙空間に移住したのは、技術者・科学者・軍人と少数の宗教家であった。
彼らは国連の宇宙移民計画推進チームのメンバーである。各国から派遣された者もいれば個人参加もいた。彼らの
目的は宇宙移民計画実行のための基礎研究とデータ収集にあった。地球の衛星軌道上・月面・ラグランジュ均衡点・
火星の地表・金星の地表・木星の衛星タイタンの地表、彼らはそのそれぞれにベースと呼ばれる拠点を作り、人類の
存亡をかけ、並々ならぬ決意で移住し、宇宙移民計画実行のための基礎研究とデータ収集に励んだ。
しかし、協同開拓のために収集された基礎研究とデータは、経済的・物質的閉塞感が蔓延していた人類社会に、希望
と欲望をあたえるのには充分たった。
国際協定や条約は破られ、もはや国連は主導を発揮できず失速状態であった。宗教、国、地域、民族は各々の利益
を優先させ、経済的にまだ少し余裕のあるところは、こぞって宇宙開拓に着手した。ことに国レベルでは、『国益』という
大義名分の下、国家予算を投入し、推し進めた。国益と言えば聞こえはいいが、政財界の亡者たちの私利私欲の道
具として国家が存在すると言う、極めて顕著な例であろう。
皮肉なもので、国連が提唱した宇宙移民計画は、一部の人々の私利私欲の結果、ゆがんではいるが加速度的に実現
されていった。
地球の衛星軌道上・月面・ラグランジュ均衡点・火星の地表・金星地表・木星の衛星タイタンの地表に、各国競ってベー
スを設けた。
各国のベースは宇宙移民計画実行のための基礎研究とデータ収集という目的が前提にあるが、他国ベースへのけん
制の役割もあり、軍備も保有していた。
 軍事的緊張の中、ことに資源があり、直接的に国益に結びつく月面・火星の地表・金星地表・木星の衛星タイタンの
地表での開拓競争が激化し、愚かしいが、ついに各国が占有権・領有権を主張し、何の根拠も無く理性も無く無秩序に
国境線を引き始めた。
 それにより、各国のベース間の軍事的緊張は極限にまで高まっていた。
 一方、地球内の国家間でも、国家予算に余裕がある国は次々とビックプロジェクトを立て着々と宇宙開拓に着手して
いくが、大多数の国は貧困にあえいでいて宇宙開拓に手をつけれないと言う格差が大きくなっており、国際紛争の火種
になりつつあった。『我々は莫大な国家予算を投じて宇宙開拓プロジェクトをすすめており、それで得た情報・データ・そ
の他により取得した領域の権利は当然我々か有する』という国家予算に余裕があり宇宙開拓に着手している国々の主
張に対し『宇宙空間は誰のものでもなく人類か等しく権利を共有しており、国家・企業、団体または個人に所有権は無
い』という所有権は無い』という、貧困にあえいでいる大多数の国々は主張した。国益という国の根幹に係わる部分で
あるから、双方、主張譲れず、議論は平行線をたどった。
歩み寄りの無い駆け引きが続き、世界が一触即発の緊迫した状態におかれた。
無論、軍事関連の企業が画策し官僚や政治家たちか裏で動いていたことは言うまでもない。
 しかし紛争は回避できた。
表面上は、国連の調停が功を奏し良識ある政治家の理性的な決断により回避できたように見えたが、実のところ、資
源の枯渇で経済的に冷え込んできて、各国政権への国民の支持か急速に低下してきたことと、『今戦うより紛争を回避
して宇宙開拓を進めたほうがより利益が大きい』という財界の金の亡者たちと、『今戦うより紛争を回避して宇宙開拓を
進めたほうが財界からのみかえりも大きいし、しいては支持率も上がり政権は確保される』という権力欲の亡者たちの
打算の結果であった。国連は、全ての国の地球上での領土の面積率を基準に、月面・火星の地表・金星地表・木星の
衛星タイタンの地表を各国に分配した。非常に馬鹿げた安易な発想ではあが、各国の妥協できるのがこんなところで
あった。地球上の国家の単位を宇宙まで持ち出すことの愚かしさはわかっていたが、誰もがそのときは口をつぐんだ。
紛争回避と人類の未来のために・・・・・。
 そのかいあって、宇宙開拓は研究段階から実践段階に進んだ。
宇宙開拓には人員確保が大きな課題である。しかし、まだまだ過酷な労働であり危険を伴っていたので、人々は宇宙
開拓には賛成したものの参加する者は少なく、各国、即労働力不足に陥った。考えたあげく各国の思考は同一方向を
向いていた。各国共、月面・火星の地表・金星地表・木星の衛星タイタンの地表に最低限の生命維持プラントを設けた
後、初めに建設した長期滞在・居住・永住施設は刑務所であった。無論、国力によってその規模が異なるのは、言うま
でもない。独自開拓できない国も少なくは無かった。
こうして、人類にとって宇宙開拓は、流刑地として始まった。
開拓によって豊富な資源を獲得した国々は、17世紀末の産業革命のように、技術革新とそれに伴う好景気に沸き立
っていた。独自で開拓できない国も、資金や技術面で豊かな国からの供与を受けることで開拓を進め、それなりにうる
おった。
地球上の人々が好景気下に浮かれている頃、地球の外では深刻な人手不足に落ちいっていた。受刑者の数にも限界
があり、地球上の人々の要求を満たすため、彼らは過酷な労働を強いられていた。死者も多く出ており、受刑者たちの
不満はつのるばかりである。月面・火星の地表・金星地表・木星の衛星タイタンの各国の刑務所で暴動はおきるだが、
彼らの生命維持に無くてはならない酸素・水・食料の5割は地球に頼らざるを得ない状態にさせられており、散発的なも
のでしがなかった。自らの生命を守るには、過酷な労働を耐えしのぐよりなかった。
それでも人手不足は確実に進み、地球の各国の需要に月面・火星の地表・金星地表・木星の衛星タイタンの各国の刑
務所の供給が追いつかない。計財の伸びも悪くなり、立て直す必要に迫られた。
本格的な宇宙移民は、初期の理由とは全く異なったそういうあさましい理由からであった。
ちょうどその頃、宇宙開拓が流刑地として始まったこともあって『選ばれし有能な者のみが地球に住む権利があり、有
能な者の指導の下に他の者は宇宙に移住すべで、それが種の保存の唯一残された道である』という愚かしい思想が、
人々の間に万延しつつあった。これは、後に人類社会を蹂躙する『地球中心主義』の基本思想になった。
この思想は、政治家たちによって具体化された。
貧困層の苛酷な環境や労働に耐えうる人々が対象となって、半場強制的に行われた第一次宇宙移民かそれである。
国際的協調と協力という形ではあったが、軍事、経済、政治面で優位な一部の国の意向が色濃く反映された移民事業
であった。
 ある国ではほとんどの国民が移民のリストに載り、事実上国の体を成さなくなっていた。
その意図は明白である。地球上からの支配だ。第一次宇宙移民はでおよそ100万人におよんだ。以降、移民施策は続
けられ、総人口に対する宇宙移民の率は確実に増していった。宇宙における住環境も飛躍的に改善され、地球と月の
引力バランスのいいラグランジュ均衡点付近では、スペースコロニー群が造られていった。
月、スペースコロニー、火星、金星、木星とその範囲を広げるのに100年かからなかった。
 自分は選ばれし有能な者と信じてやまない人々は、地球に固執した。宇宙移民者たちの望郷の念もあいまって、地
球に住むことがステータスであり、富と権力の象徴となっていた。そういった人々は、疑いも無く人類社会の中心いや宇
宙の中心は地球だと確信していた。
 宇宙で産出された鉱物資源やエネルギー資源の、約7割が地球上で消費されていた。
物質的に豊かになった地球上を、宇宙移民者たちは見下ろし、疎ましさに眉をひそめた。
その宇宙移民者たちの思いを無視したまま、地球上の人々は天を仰ぎ見て、それ以上の富と権力の支配を夢見てい
た。
実際、政治経済の中心は、まだの大気圏内にあった。
 すでに全人口の6割が宇宙にあって世代を重ねているというのに・・・。




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