このたび、宗谷本線徒歩の旅を実行するため、人生二度目の北海道へと降り立った。旭川から宗谷本線沿いに全駅訪問しながらの旅である。なぜ全駅訪問しながらかというと、どこのまで到達したかというのがわかりやすいからであり、目標にもしやすい。そのうえ、駅間距離というのは長くても数キロ程度の場合が多く、比較的短いスパンで目標を把握できるというメリットがある。そのうえ、北海道の駅、とりわけ宗谷本線の駅は、長閑な場所にあることが多く、いい雰囲気を味わえるというのがある。また、北海道の地名・駅名は、独特の響きと味わいがある。ゆえにわざわざ北海道の旅を選んだというわけだ。なぜ徒歩での訪問を選んだかって? いろいろあるんやよ。
本当なら旭川から稚内まで宗谷本線全線踏破を目指したかったのだが、日数の都合でどうしてもそこまで行けそうにない。やむをえず、宗谷本線の中間あたりに位置する「音威子府」という駅を最終目的地と定めた。前々からこの「オトイネップ」という甘美な響きの地名に憧れを覚えていたわたしとしては格好の目的地設定だったかもしれない。
まずは、広島空港から北海道・新千歳空港まで向かう。2時間弱のフライトだ。すっげえ早い。空の旅に慣れていないわたしにとって、離陸する直前の猛スピードというのはやはり怖い。急ぎの旅というのはわたしに向いていないんだろうなあ。でも時間の都合で仕方ない。
10年以上ぶりの飛行機を堪能した後、新千歳空港に到着。「新千歳空港駅」から快速・特急で旭川まで向かう。空港の敷地内にJRの駅があるとは。非常に便利だ。それだけ北海道の人・北海道を訪れる人にとって飛行機というのは重要なものなんだなあと実感。
2時間半程度列車に揺られただろうか。旭川に到着。広島—新千歳まで2時間弱なのに、新千歳—旭川は2時間を越えるとは。やはり、飛行機ってすっげえ便利。
さて、いよいよ旭川駅から地図を頼りに宗谷本線沿いを歩き始める。
街中をひたすら歩く。旭川は北海道第2の都市。さすがに都会だけあって、北海道らしい風景というのは微塵もない。敢えて言うならば、遠方に大雪山連峰が望めるぐらいか。
しばらく宗谷本線の高架下の商店街を歩く。この手の商店街はどこの都市もさびれているのだろう。旭川も例外ではなかった。シャッターが降りている店が多く、閑散とした雰囲気である。特に宗谷本線は「本線」と名はついているものの、列車本数は少なく、ほとんどローカル線(っていうか完全にローカル線)なので、利用者も少ないのだろう。こうして列車がどんどん人々の生活から離れてゆくというのは寂しさを感じる。近い将来、JRの在来線は都市圏を除いてほとんど絶滅といった事態にも十分なりうる(近年は新幹線が開通した区間の在来線が軒並み第3セクターに成り下がっている現実があるから)。
そんなこんなでしばらく歩いているうちに旭川四条駅に到着した。スタートから40分程度。疲れはまだほとんどない。
旭川四条駅は高架下の駅。写真の印象だと、都市圏にある高架駅を想像し、結構賑わっていそうなイメージがあるが、実際は完全なる無人駅だ。わたしが訪れた時もホームに人影はなかった。
駅としての魅力に乏しかったので、早々に立ち去ることに。駅前にラーメン屋があったので、昼飯代わりに食す。もう3時であったが、昼に何も食べていなかったので、空腹に旭川ラーメンは旨かった。日ハム対ヤクルトの交流戦がテレビで流れていたので、しばらく見て立ち去った。
まだしばらく街中を歩く。特に見所もなく、遠くに代わり映えもせずに見えている大雪山のみが救いといった感じ。やはり都市では仕方がない。もう少し田舎に着くまで待つとするか。
道路脇にたれぱんだっぽい謎の像を発見。
しばらく歩くと新旭川駅に到着。新幹線駅の候補駅にされそうな名前なのが素晴らしい。住宅街の近くにあり、無人駅ながら利用者は結構いそうな感じだ。特に石北本線と分岐する駅だけあって、交通の要衝でもあるのだろう。
それはさておき、新旭川についたあたりで、早くも足が重く感じた。まだまだ先は長いというのにこんなことで大丈夫なのだろうか? 不安である。
まだまだ歩き続ける。次の永山駅まではけっこう距離がある。まだまだ街中だ。旭川市街地からは離れたものの、永山(旭川市永山町)は、旭川に通勤する人のベッドタウン。国道沿いはさすがに賑わっている。途中、コンビニに寄り、アクエリアスを購入。疲れた身体にアクエリアスはうまい。
国道を少し入って行き、永山駅に到着。時間は5時前ぐらいだったろうか。この永山駅は宗谷本線の中では数少ない有人駅。また、旭川駅に近すぎるということもあり、唯一特急の停車しない有人駅でもある。
駅構内に入り、少し写真撮影もした。これまでは無人駅だったので、堂々と駅ホームに入れたが、ここは有人駅。当然のように「入場券」を購入し、駅ホームへと入った。160円。普段なら絶対に購入しないであろう入場券だが、旅先のマジックということもあり、高いとも思わない。旅先では不思議と金銭感覚が麻痺してしまうのである。
さて、時間は5時前ということもあり、当初の予定では、ここらを宿泊地にする予定だった。出発から10キロ程度。初日ということもあり、その程度でいいだろうと考えていた(永山駅近くにビジネスホテルがあるというのは確認していた)。だが、まだまだ体力に余裕がある。永山は結構都会だ。次の北永山駅近くにも旅館ぐらいはあるだろうと思い、先に進むことにした。
ところが、永山駅を過ぎると、景色が一変した。急に北海道らしいのどかな風景が現れ始め、家の数が格段に減った。「まずい」と思った。これはおそらく旅館を見つけるのは困難ではなかろうか、と。ただ、これから8キロ程度歩けば、比布町に到達できる。比布駅前には無料宿泊施設があるというのは事前のインターネット調査で把握していた。最悪の場合は比布まで行けばいい。そう考えると足取りも軽やかだ。
橋を渡ってすぐぐらいで、北永山駅に到着した。永山駅から2キロ程度だが、なんなんだ! このギャップは? 急にド田舎にやってきたという印象だった。田園地帯の真ん中にポツンとある寂しげな小駅。寂しすぎるぞ、北永山。誰だ? 北永山駅近くにも旅館があるだろうと言った奴は!(←俺)
この雰囲気を味わいながらゆっくりと滞在したかったが、日も暮れかかっていたし、待合室には列車待ちらしき男性が1人いたので、すぐに立ち去ることにした。
北永山駅の駅名標。次の南比布(みなみぴっぷ)が「みなみひっぷ」に、前の「永山」が「なかやま」にイタズラされていた。しょーもない。誰がやったのかは知らんが、ガキだなあと思った次第。
北永山を過ぎるとかなりの田舎道が続く。
田舎道どころか舗装すらされていない砂利道を歩く。あたりも薄暗くなってきたこともあり、このへんでは特に風景の印象はない。川のせせらぎがなかなかに爽やかだった。
辺りは徐々に薄暗くなってくる。もう7時が近かった。初日で体力が有り余っている割にペースが遅いと自覚していた。よく不動産広告に「駅から徒歩○○分」などの宣伝文句がある。「徒歩1分」とは80メートルだ。つまり、1時間あれば4.8キロ歩けるという計算になる。旭川から比布まで20キロ弱。4時間も歩けば着ける距離だと思っていた。でも、よく考えたらそんなのは無理に決まっている。4時間もぶっ通しで同じペースで歩けるはずなどない。
やがて小道から国道へと復帰する。旭川から稚内を結ぶ大幹線である国道40号線。おそらくは宗谷本線よりも利用者は多いはずだ。さすがに車がバンバン通り、歩くのも少し躊躇する。やがて高架下に南比布駅を発見。
国道の下でひっそりと佇んでいる南比布駅。さすがに寂しい駅だったが、「秘境」というほどでもない。先に訪れた北永山の方がいい雰囲気を醸し出していた。特に長居することもなく、ちょっと写真撮影した後すぐに出発。大分薄暗くなっていたから当然だ。
あと少し、もう少し。8時近くなり、すっかり薄暗い。日もとっぷり暮れた頃にようやく比布駅に到着できた。
比布駅は、かつてピップエレキバンのCMの舞台になったらしい駅で、駅にはその記念碑のようなものもあった。
さて、夜も遅いので、比布駅周辺で宿泊施設を探したが、見つからない。これだから地方の田舎町は困る。しかも、駅のすぐそばに無料宿泊施設「比布ブンブンハウス」というのがあったのだが、なぜか開いていない。ここを期待して比布まで歩いたのに……。もうこれ以上歩いたところで宿泊施設はないだろう。それなりに立派な駅舎があるので、最悪駅で寝ようかとも考えたが、一応町の中心駅である。こんなところで寝てしまうのは近隣住民からも不審に思われるだろう。やむをえない。最終手段だ。
列車を使おう!
列車を使うといっても、列車で先を急ぐのではない。あくまでも今回の旅の目的は、旭川から音威子府まで歩くことだ。途中を列車で飛ばしてしまっては目標達成にはならない。戻るのだ。旭川まで列車を使って戻り、明日の始発に乗って比布駅まで来て、そこから歩けばいいのだ。本来ならこんな手段を使うのも許しがたいのだが、これが最大限の妥協だろう。体力的に決して優れているわけではないわたしが野宿などしてしまうと、疲れが残ってしまい、音威子府まで到着できないかもしれない。せめて夜くらいゆっくり休みたい。そういう思いから仕方なく列車で旭川に戻ることにした(悲)。
比布駅から旭川行きの普通列車に乗ったのは、わたしと、スーツ姿の中年男性1人。比布に勤めている人だろうが、おそらく町役場勤務の人ではなかろうか。あくまで想像に過ぎないが、こんな企業のなさそうな田舎町(失礼)から列車で帰る人というのは公務員くらいしか思いつかないからだ。
列車で旭川まで帰り、旭川駅前のビジネスホテルに寄る。無事部屋は空いていたので、宿泊し、あっという間に眠りについた。