北海道・石北本線徒歩の旅 1日目(5/20)
ー上川〜白滝ー

 朝6時起床。旅を開始する。旅館のオバチャンに、網走方面に歩いていくことを伝えたら、「寒いよ〜」と言われ、手袋をもらった。非常にありがたい。手袋がいるほど寒いとは思わなかったので持って来なかったのだが、この手袋の存在が非常に助かった。あと、バナナ2本もいただいた。気持ちは非常に嬉しいが、正直邪魔になる。皮の処分にも困るし。

さて、まずは早朝の上川駅を訪れる。昨夜も訪れているが、やはり旅のスタート地点を再度訪れてから旅をスタートさせなくてはなるまい。


早朝の上川駅。駅員もいたので中には入らず。


 上川駅前。北海道の他の駅前同様さびれている。

歩き始め、すぐに周囲から人家がなくなる。「寒いよ」とオバチャンが言っていたとおり、非常に寒く、長袖シャツを着ていたとはいえ、上着がないとかなり寒い。国道39号線から273号線を経由してひたすら東へと向かう。









 しばらく歩き、天幕集落のあたりにまでやってきた。以前はこのあたりに駅があったのだが、現在は廃止され、駅舎は跡形もない。石北本線には現在上川駅の隣は上白滝駅になっているのだが、距離にして34キロも離れることとなった。隣接する駅間距離がこれだけ長いのも珍しい。以前はこの区間に、天幕、中越、奥白滝の3駅が存在したらしいのだが、いずれも2001年6月30日をもって廃駅になっている。つまり、この区間がそれだけ人口希薄地帯だということだ。

 ちなみに、この天幕集落の周りには、まだそこそこの集落があり、それほど山奥という感じではない。



川沿いを歩き、中越集落までやってきた。まだ国道沿いということもあり、交通量はそこそこある。


今は信号場の役割を果たしているかつての中越駅。



コースを外れ、国道333号線へと入る。ここに入ると、極端に車の数が減った。白滝方面に行くには、自動車専用道路の国道450線の方が早いため、ほとんどの車はそちらを利用するのだろう。当然、333号線を利用する車はほとんどいない。利用価値がないからだ。くねくねとした峠道であるため、交通の便が悪いのだ。伊達と酔狂で利用するぐらいである。もちろん、歩行者などもいるはずもない。わたしも伊達と酔狂でこの旅をしているのだから。



周囲が雪道になってくる。標高が高くなってきているのだろう。風がかなり冷たい。雨だろうか雪だろうかがちらつくほどだ。傘をさすほどでもないのは不幸中の幸いだった。だが、それを抜きにしても、寒さ、雪、そして携帯圏外。絶望感が溢れる。



 くねくねした曲がり道を歩きながら北見峠まで到達。ここから遠軽町に入る。

 相変わらず周囲に人気はない。車は稀に通るものの、人の住んでいる場所は全く見かけない。上川を出発してずいぶん経つが、実に喉が渇く。思えば、バナナをもらったせいで、上川駅前で飲み物や食べ物を調達しなかった。そのため、飲み物なしで何時間も歩き続けることとなった。大失敗だった。上川と上白滝の間は人口希薄地帯だと前述したばかりだ。

 口の中がカラカラだ。周囲に何もないので、お店はおろか自動販売機のたぐいすらない。沢の水を飲もうかとも考えたが、それはさすがにやめた。





空は晴れてきた。周囲に人家はないだけあって、景色はさすがにいい。でも喉がとにかく渇く。これまで、これほど喉の渇きを感じたということは記憶にない。「渇望する」という表現があるが、物事を本当に望むっていうのはこういう気持ちなんだろうな。なんというか、渇いているときに水を望むような気持ちっていうかね。



そして3時前くらいだろうか。ようやく道の駅しらたきに到着した。周囲に何もなく、まさに自動車の休憩のためだけに設けられた施設である。この存在がわたしにとって非常にありがたかった。おそらくこの道の駅に徒歩でやってくる人はまずいないだろう。リュックを背負って首からスポーツタオルをぶらさげているわたしを他の人たちはどのような目で見ていたのだろうか。

まずは自販機でアクエリアスを購入し、喉の渇きを潤す。その後、お店で天ぷらうどんを食す。少し遅い朝食であるが、朝6時過ぎにバナナを食べて以降何も口にしていなかったので、実にうまい。だが、喉が渇いているときに食べ物を一気に詰め込んではいけないね。喉や舌がびっくりしてバカになっているのかどうか知らないが、もんのすごく喉や舌が痛くなった。
しばらく道の駅で休憩する。

この店で流れていた曲は、小田和正にユーミン。普段あまり聴く曲ではないが、旅先で聴くと名曲だなあ、って改めて思う。旅しているって感じだ。別に旅をテーマにした曲ではないが、今どきの曲を流していないあたりに好感を持てる。『やさしさに包まれたなら』『中央フリーウェイ』とか聴いていると実に清清しい気分にさせてくれる。よし、ユーミンのベストを買おう。



しばしの休憩が終わり、歩き始める。かなり足にしんどさを感じているが、まだこの頃は余裕があった。
だだっ広い平原があちらこちらにある。こういう何もない平原が存在しているということは、かつてこの辺りが栄えていた証拠であるとも言える。



 開拓記念碑である。今では周囲に人家はいっさいない奥白滝であるが、全盛期には1000人以上は住んでいたようである。このような奥地であっても人が住み、祭りが催されていたこともあったらしい。古き良き時代を感じる。



かつての奥白滝駅で、現在は奥白滝信号場となっている。やはりかつては周辺が栄えていたのだ、きっと。でなければこれだけの立派な建物を造るはずもない。



だが、現在の奥白滝信号場の前はこんな感じだ。まったく何もない。本当に人が住んでいたのか疑問に思えるくらいだ。



 でも、間違いなく人は住んでいたのだ。奥白滝小学校の跡地がある。今は完全な更地になっており、何も存在しないが、この奥白滝にはかつては間違いなく歴史があったのだ。兵どもが夢の跡ではないが、かつて栄えた集落がここまで廃れていくというのは、実際に住んでいた人からすれば辛いことなのだろうか。



 しかし、行けども行けども何もない奥白滝。



 奥白滝からしばらく歩き、ようやく上白滝の集落が見えてきた。ここは奥白滝と違ってそこそこの集落になっている。だが、もちろん、田舎という感じは否めず、集落の周りはぐるり自然に囲まれている。
 




上白滝駅に到着。ようやく休憩が出来る。立派な駅舎だ。他の駅と同様、この周囲もかつてはもっと栄えていたに違いない。もちろん、豪雪地帯であるこの辺りにあって、雪の重みに耐えられるだけの建物にしなければならないという事情もあるだろうが。



駅の発車時刻表であるが、見て驚くなかれ。なんと1日2本しかない。周囲と同様、閑散とした時刻表に涙が出てくる。もうこの駅に駅としての役割は求められていないのだろうか。
何というか、田舎といってもこの上白滝などは、田舎を超越している。でも、こんな所にも住んでいる人間のたくましさも感じる。子供が遊んでいる姿も見てほほえましく思う。駅前には店も自販機もちゃんとあり、まだこの集落は大丈夫だなと思わせる。駅には1日2本しか列車は止まらないけど、希望がまだ見える。




事前にインターネットで調べていた本日の宿泊先「白滝グランドホテル」にようやく到着。白滝のような田舎町には、やや不釣合いな感もあるが、周辺が自然に囲まれた露天風呂は素晴らしかった。この旅で唯一温泉に入った日でもあった。
この日は約37キロの歩行。明日は今日の半分くらいだが、ここで油断してはいけない。気合いを入れるとするか。



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