梅雨の合い間の晴れ日、道路にはいまだ水たまりが残っている。水たまりには向かいの和
室の障子紙が白々と移っていた。
「お点前頂戴いたします」
ある若者5人が、お茶のお稽古に熱心に励んでいた。釜のお湯がちょうどいい具合に沸い
て、シュンシュンシュンと小気味よい音を奏でている。若者たちは茶道に自分たちの人生の指 標を示してもらおうと依存していた。
「はあ、はあ、はあ・・・」
5人が茶にいそしんでいる和室に、およそ似つかわしくない人物が入ってきた。全身黒のスー
ツで身を包んだ男は、私たちに見向きもせずに水屋へと進んでどっかりと座り込んだ。よく見る と、腕を怪我しているらしく袖から血を滴らせていた。
「どうする?見るからに怪しいよ」
「どうするって・・・とりあえず話し掛けてみるしかないよ。おまえ、行ってみろよ」
「うーん、何か撃たれそうじゃないか」
「なんだか面倒なことになったな」
「ジャンケンか、やっぱり」
ジャンケンポン!アイコでしょ!
結果、一番がたいの良い、強そうな茶人に決まった。
「おまえ、一番強そうだしさ、適役だよ」
「仕方がない、行くよ」
魁偉な茶人は、恐る恐るなぞの男に近づいた。
「かくまってくれないか?」
茶人が何か言い出す前に、男は苦しそうにそう切り出してきた。そんなことを言われても、こ
こは単なる和室であり、何もできそうにない。
すると、ややこしいことに、また別の黒尽くめの男が現れた。
「おい、ここに男が来なかったか?」
今度は一人ではなく、女を一人連れて来ていた。いや、連れて来ているというのは適切では
ないかもしれない。女は、男に跪いてフェラチオをしていた。その様子からすると、女は常にそ れをしているらしかった。
若い茶人5人は、再びのこの状況に混乱し、為すすべもなく呆然としていた。しかし、それが
この二人目の謎の男には気に入らなかったようだった。
「おい、聞いてんのか?何まぬけなツラしてんだよ!」
男は声を荒げて叫んだ。
「言ってる事がよくわからないのですが、そんな人はいないと思います」
茶人の一人は極めて従順に答えたつもりだった。
バンッ!!
発言した茶人は腕を撃ち抜かれた。その瞬間、男は発砲と同時に射精した。女の口にドクド
クと白濁液が流し込まれる。女は精液を飲み込み、嫌な顔一つせずに男のものを舌で綺麗に していた。
「わからないじゃねえよ。おまえみたいに腕に傷を負ってるやつだ。いいな、そういうやつが来
たら俺に知らせに来い」
男はそれだけ言って、自分のいるところの紙切れを茶室に投げ捨てた。そして、女を引きず
るようにして去っていった。
「お、おい!大丈夫か!?」
撃たれた茶人は畳に突っ伏し、腕をおさえてのたうち回っていた。
「医者だ、病院だ、救急車だ!」
慌てふためいた茶人達は、電話をして救急車を頼んだ。
「くそッ!何だったんだ、あいつは。いきなり撃ちやがった」
「俺は我慢できないぞ。ぶったぎってやるか!」
茶人たちは撃たれた仲間の意識がはっきりしていることを確認すると、怒りが噴き出してき
た。
「おいおい、見るからにやばそうなやつだったよ。手を出さないほうがいいと思う」
撃たれた茶人はみんなを抑えるように言い聞かせた。
「しかし、おまえは・・・」
救急車が到着した。負傷した茶人はタンかに乗せられて運ばれていった。残った茶人4人
は、怒りと恐怖に震えながら今日は解散することにした。最初に入ってきた正体不明の男は、 いつのまにかいなくなっていた。
その夜、一番若い茶人が茶室に戻ってきた。
「あんなやつ、野放しにしておけるか。絶対に痛い目にあわしてやる」
その茶人は、興奮を抑えきれない様子で和室に入った。次に茶人は、おもむろに畳に手をか
け、一気にはがした。その空間には日本刀が収納されていた。茶人はその一本に手にかけ、 すっと引き出した。刀を直角に立て、茶人は見入った。
「よし、トロイア。行くか」
その刀には、『トロイア』と書いてあった。
次の日、茶人たちは日課のお稽古をするため、和室に来た。しかし、今日は3人しか集まら
ない。1人は病院にいるとしても、あの一番若い茶人はどうしたのだろうか。
「・・・!!」
茶人の1人は発見した。行方不明の茶人は、『トロイア』と一緒に畳の真中に転がっていた。
頭からは血を大量に流し、畳に血を吸わせていた。
「おい!どうしたんだ?!」
駆け寄った茶人たちはそいつが死んでいるのを悟った。
「・・・・・・」
茶人たちは無言で畳をはがし始めた。畳の下には4本の日本刀が眠っている。3人はそれぞ
れ自分の刀を取り出し、引き抜いてみた。
がたいの良い茶人の刀は『ビザンティウム』
眼鏡の痩せた茶人のは『イリアド』
小柄な茶人のは『クセルクセス』だった。
「おおぉぉぉぉぉぉ!!」
和室の障子が破れてしまうほどの怒号で、3人の茶人たちは飛び出した。やつのいる場所は
わかっている。近くのマンションに滞在しているはずだった。エレベーターに乗るのももどかし く、怒り狂った茶人たちは21階の部屋まで階段を駆け上った。
「どこだっ!てめえ!!」
茶人たちはドアを乱暴に開け放ち、部屋の中を探し回った。男は寝室にいた。貪欲な性欲は
常に満たされないらしく、セックスの最中だった。男は表情一つ変えないで侵入者のほうを向い た。
「何だ、おまえらは」
女がひぃひぃ言っているにもかかわらず、男は腰を動かすのを止めないまま、側の机におい
てある拳銃に手をかけた。
「おい!動くなっ」
茶人は叫んだが、男は構わず手をのばし、すぐさま発砲した。
バタンッと、がたいの良い茶人は倒れこんだ。男は射精していた。
「ふう。また出しちまったぜ。次はどいつが俺に射精させてくれるんだ?」
男はニヤニヤしながら、今度は女に咥えさせた。
「うおおぉぉぉぉぉ!!」
残った二人はそれぞれ愛刀を持って男に突っ込んだ。
ドンッ!
今度は眼鏡の茶人が直撃し、その衝撃で吹っ飛んだ。
ドンッ!
最後に小柄な茶人が腕を撃たれた。しかし、そのまま特攻し、ついには男を切りつけた。
「うっ・・・」
男はその瞬間、再び射精し、倒れた。
「ひ・・・お願い、殺さないで。何でも言うこと聞くから」
女は男は死ぬと、恐怖にゆがみ、命乞いをしてきた。
「・・・・・・」
生き残った茶人は興奮して何も言えず、仁王立ちをしていた。女はそれを勘違いしてか、茶
人のベルトを外し、フェラチオをし始めた。悲しいかな、それ以外に助けを求める方法を知らな かった。
茶人は仲間の死骸を見渡した。死臭が飽和している。これからどうしたらいいのかわからなく
なった。すると、再び侵入者が現れた。
「おおおお!!死ねえっ!!」
見ると、最初に和室に来た男だった。思えば、こいつのせいでこんなことになったのだ。茶人
は我に返った途端、射精した。
「おい、おまえ!なにやってんだよ!!」
どうやら、女を助けに来たようだった。ここであったのも何かの縁かもしれないと思った。
「すまないが、ちょっと介錯してくれないか?」
「何?何のことだ?」
「俺は今から腹を切るから、そのとき、首を落として欲しいんだ。ほら、じだいげきとかでよくあ
るだろ」
「ふざけるな。なぜ俺がそんなことをしなきゃならないんだ。行くぞ」
女は、俺をちらっと見ると、男に連れられて行ってしまった。
「仕方がない。自分でやるか」
確か、左のわき腹に突き刺し、右へ掻っ捌いて、そこで刃を左斜めにむきを変え、そのまま
左上に斬れば絶命するはずである。
ブシュッ!
血が床に飛び散った。想像以上に痛い。
そして、一通りのことを終えたあと、茶人は無事に命を捨てられた。
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