たった一つのそのコトバ
1st Word
「!」
急に口に布をあてられた。助けを求めるために声を発しようとした瞬間、意識がとぎれた。
なぜこんなことになったのか、それは少し前から始まったのだった。
高校二年になって学校にもなれ、早々と始まった授業を受けて家に帰るという生活を続けて3ヶ月と少したった。
あと少しで夏休みなので、明日から午前中しか授業がない。ウキウキとした気分で家に帰る途中だった。
「常葉杪葉(ときわ うれは)」
呼ばれて振り返ると、そこには今まで一度も会ったことのない男の人がいた。
「お前の親の隠した財産の場所を教えてもらおう。」
「は?」
—お前の親の隠した財産の場所?—
確かに私の親は病死した。だが両親が病死したのは、私が2歳くらいの時だ。
両親の記憶なんて1mmもない。
そんな私が知っているはずはない。
その事情を説明したが、その男はとんでもないことを言った。
「何を馬鹿なことを。お前の両親はまだ生きているじゃないか。」
「生きてる?」
「知らないのか?お前の両親は俺の手から逃れ、海外にいったんだ。時葉(ときは)という学者を知っているだろう?」
時葉という夫妻はパリで学者をしている日本人だ。
マスコミがえらく騒いでいたので覚えている。
「え?はい。」
「あいつらがお前の親だ。」
あの偉い学者が自分の両親だと言われてもどうしようもない。
「もしそうだとしても、記憶なんて本当にないし・・・そういえば、夢を最近よく見るわ。」
「夢!?」
「どんな夢なのかわからないけど、とりあえず夢。大事な夢って気がするの。」
そう。目覚めたら内容を忘れているけど、とても大事な夢だということぐらいはわかるのだ。
「それだ!」
男はそれから熱く語りだした。
時葉夫妻は夢に記憶を埋め込む研究の第一人者だというのだ。
そして夢に埋め込まれた記憶は時葉夫妻しか思い出し方を知らないが、ふとした瞬間思い出すこともあるというのだ。
「だから、お前を誘拐する。」
「は?」
そういって男は私の腕をつかんだ。
「ちょ!いやぁ!」
「杪葉ちゃん?」
「ちっ!」
男は近所の佐々木のおばさんが来たのを見て逃げていった。
「杪葉ちゃん!大丈夫!?」
「ええ、佐々木のおばさん。ありがとう。助かった。」
「気をつけてね。最近変な人多いらしいから。」
佐々木のおばさんはすごく心配してくれた。私は心からお礼を言って、帰宅した。
『いまさら生きているって言われたって…どうしていいのかわかんない。
ずっとずっと寂しかったのに…。なんで置いていったのよ?』
その夜私は両親のことを考えて久しぶりに泣いたのだった。
というわけで、このときからこの男は私につきまとっていた。
だが、昨日はいなかったので安心していた。
のが間違いだった。十中八九私を気絶させたのはあの男。
明日からいつもみたいな平凡な日常とはお別れ・だと思った。
2st Word
俺はある理由からとても不機嫌だった。
なぜ?どうして?その思いだけが俺の中で交錯していた。
そんな俺の目の前を一人の少女が通った。
俺はその少女を一瞬だけ見たことがあった。
何をしているんだろう?と思っていると、その少女は俺には気づかず、一人で真っ暗闇の方へ向かっていた。
こんな夜に女が一人で真っ暗闇の中に入っていく。
襲ってくれと言っているようなものだ。だが、彼女はまじめそうな顔をしていることから、多分彼女の向かう方向が、家なのだろう。
危ないな、と思っていると案の定“これから襲います”というような男が彼女のあとをつけていた。
見てそのまま見ぬふりも出来るが、俺には出来なかった。
彼女が心配だったのだ。
というわけで俺は“これから襲います”といわんばかりの男の後をつけた。
男は俺が思ったとおりの行動をした。
普通の痴漢ならまだしも、彼女の口に布を当てて、気絶させたのだ。
彼女が一瞬で眠ったことを考えると、クロロホルムと考えていいだろう。
なんてたちの悪い男なんだ。そう思いながら声をかけた。
「おい!」
「え゛」
男は俺を見てかなりびっくりしていた。
「な、な、な!?」
「お前、その子を離せ!」
「な?」
「よく見させてもらったぜ。クロロホルムをかがせるなんておまえ最低だぞ?」
男は少しだけ顔を青くしていた。
「おまえ、名前は?」
「…。答えるのか?」
「当たり前だ。」
なんで答えなきゃならないんだ、そう思いつつも答えた。別に秘密にするような名前でもない。
「上條龍哉(かみじょう たつや)。」
「上條?まさかお前・・・。」
「?おまえまさか・知ってるのか?俺らのこと。」
—俺らの秘密。知ってるのか?—
「退散する。今度からは頭がこいつをさらいに来る。龍哉。お前のことは報告させてもらうよ。」
「ちょ!」
男はものすごい速さで走って逃げた。
追いかけようとして意気込んだ瞬間だった。
「・・・。あ。」
さらわれそうだった少女のことを思い出し、彼女を覗き込んだ。
—きれいな子。だな。—
—あ、しまった。こんなこと思ってる場合じゃない。—
俺はその子の頬を叩いて呼んだ。
「おい!おい!しっかりしろ!おい!・・・クロロホルムだっけな。」
俺は前小説で読んだように、アンモニアを買ってきて、彼女にかがせた。
「ん・・・。」
その少女はうっすらと目を開けた。
なぜなのかはよくわからないが、俺はホッとした。
その少女をしばらく観察すると、彼女はしばらくたってから目を完全に開けて、周りをキョロキョロし始めて、やがて俺を見つめた。
—本当に、きれいな子だな。—
「あ…あ・・・あ・・・」
—そういえば、さらわれそうになってたんだっけ。この子・・・ってことは・・・叫ぶ?—
「きっ!んんん」
俺は彼女の口を手で覆った。
案の定彼女は声を出しそうになった。
「あのな、あんた、俺は、お前を助けてやったんだぜ?」
「ん?」
「だから、助けてやったの!叫ばないって言うんなら、離してやるから。」
彼女は困惑しつつもうなづいた。
俺はホッとして、彼女の口から手を離した。
そして、俺が彼女を見つけたときの状況から、すべて話した。(もちろん、俺たちの秘密は言っていない。)
「と、言うわけ。わかったか?」
「・・・。はい。どうもありがとうございました。」
彼女は深々と頭を下げてくれた。
「それで、何かお礼をしたいんですけども・・・。」
「え?」
困惑しながら聞き返す。
「お礼って?」
「なんでもかまいません。なにかお礼をしたいです。」
「ん〜〜。」
しばらく考えて思ったことは、この少女を守りたいという思いだった。
そのことを口に出して言うことは俺の性格上出来ない。となれば、俺たちの方法で誓うしかない。
「じゃあ、左手。出して。」
「左手?」
「そう。」
彼女は素直に左手を出してくれた。
そして俺は彼女の左手を取り、ひざまつき、彼女の左手に口付けをした。
これは俺たちの、何があっても必ず守るという約束の誓いだった。
彼女の手を離し、立ち上がってから彼女を見ると、困惑していた。
「それと、また、会いたい。」
「ぇ」
俺はそれだけ告げると、家に戻った。
実は俺はあることをするために、この町に来たのだ。
そのあることが、おれはひどく気に入らなかった。だけど俺はいつになくやる気が出ていた。
だから俺は、ぐっすりと眠り、明日に備えることが出来たのだった。
(この時点ではかなり意味不明だが、さらっとながしていただきたい。)
3st Word
私の左手にキスをした変な男の子は「また会いたい」と言って去っていった。
暗かったから顔は良く見えなかったけど、結構格好いい分類に入るだろうことは予測がついた。
それにしてもあの男の子はおかしい。
私はキスされた左手を右手で握った。
—はじめて。こんなことされたの。でも、嫌じゃない。なんでだろう?—
私は多くの疑問や不安を抱きながら帰宅した。
そして明日の授業に備えるために眠ろうとした。
だが、なかなか眠れない。
まぁさらわれそうになって、すぐ眠れる人はいないだろう。
というわけでしばらくゴロゴロしていたが、いつの間にか眠ってしまった。
そして私は夢をみたのだ。
小さいころの夢。
すごく小さかったときの夢。
まだ、両親が側にいたときの夢。
その夢は私に幸せをくれた。
そしてその夢のおかげで思い出した。
父と母からもらったネックレスのことを。
ネックレスは私が1歳くらいのときにもらったものだ。
それをかけた母親は目に涙をためていた。
夢だからと言って片付けてしまえるような、非現実的な内容ではなかった。
まるで私に危険がせまったり、疑問が高まったりしたときに思い出すように暗示をかけていたように、私はすらすらと思い出した。
そしてその夢を見て感じたことは、父も母も、私を捨てたくて捨てたわけじゃないってこと。
病気だといつわって私の前から姿を消したのは、やむおえなかったんだってことが私にはわかった。
夢なのに、ただの夢なのに、私はその事実をとても喜んだ。
そして、朝を迎えた。
朝。目を覚ますと、私の目からは涙がこぼれていた。
前と同じような悲しい涙じゃなくて、私は祝福された子供だと知ったから。
だから、すごくすごく、気分が良かった。
朝の空気がいつもよりおいしく感じることが出来た。
そのおいしい空気を吸いながら、私は学校へ向かった。
学校に着くと、いつもと同じように友達と話をした。
しばらくしてから先生が入ってくる。
後ろには男の子が一人いた。
—あれ?あの人…—
先生の後ろにいた男の子は、昨日私を助けてくれた人に似ていた。
「え〜転校生がいます。はい。自己紹介して。」
「上條龍哉です。よろしくお願いします。」
—同じ声…じゃああの人が…?—
「席は〜、、常葉杪葉!」
「はい?!」
急に呼ばれびっくりする。
「彼女の隣だ。」
そういえば自分の隣には人がいなかった。
ちなみに席は一番後ろの左から2番目。
右隣には人がいて、左隣には、つい最近まで上條伸哉という男の子がいた。
—…そういえば苗字が同じだなぁ〜—
「えっと、常葉さん?」
「はいっ!」
顔を上げると上條くんがいた。
「はじめまして。よろしくお願いします。」
「あ、こちらこそよろしくお願いします。」
「じゃあ授業を始める。常葉。教科書を見せてやれ。」
「あっはい!」
私は席をくっつけた。
上条くんは真面目に授業を聞き、ノートをとっていた。
何か言いたそうだが、担任の授業でしゃべるわけにはいかないと思ったのだろう。
私も真面目に授業をうける。
先生が授業の終わりを告げたとき、先生は私を呼んだ。
「あっ!常葉!」
「はいっ!?」
今日は呼ばれてばっかりだなと苦笑しつつ答える。
「次の時間、安森先生が出張でいないからプリント取りに来てくれ。」
「は〜い。」
私は席を立った。
次の授業は生物の安森先生だが、自習。ということはまぎれて筆談が出来ると思っていた。
ちなみに私は先生の雑用をたくさん引き受けているのだ☆
私は先生の所に行ってプリントを受け取ってから教室に戻り、皆に配った。
そして席に着く。
「時間割、わかる?」
「あー。あそこに張ってあるやつだろう?」
「あ。うん。私ね小さいの持っているんだ。使う?」
「くれるの?ありがとう。」
私は彼に常用している時間割を渡した。
「安森先生って出張多いんだ〜。」
「そうなんだ。」
「うん。」
私はそこまで話すと、ルーズリーフを引っ張り出してきて、そこに走り書きをした。
<昨日はありがとう。上條くんだよね?助けてくれたの。>
それを彼に渡すと、彼はすぐに返してくれた。
<うん。あの後は大丈夫だった?>
私は返事を書きつつ、プリントをやり始めた。
じっくり話がしたい。この人とは。
<うん。平気。また、会えたね。>
<そーだな。昨日は、、急にごめん。>
<大丈夫。>
会話しつつも、プリントを黙々とやっていく。
「生物の教科書ないとわかんないよね?ごめん。私一人で見てて。」
「大丈夫。俺も見さしてもらってたし。」
「本当?よかった。」
やはりもくもくとやりながら、私はまた文字を書く。
<でも昨日は本当に助かったよ。うん。>
<助ける事が出来て、良かったよ。結構ああいうことあるの?>
<んー。ちょっと前にね、私の親が残したものの在り処を教えろって来たの。
それから毎日。一昨日はいなかったから油断してた。>
<そっか。今日も帰り、遅いんだろう?>
「え?」
声を出してしまったせいで上條くんは少し驚いていたが、
生物の問題が解けなくて言葉を発したと思ったようだった。
「ここは、ほら。ここに書いてあるよ。」
「あ゛。ありがとう。」
<ごめん。びっくりした。答えも、ありがとう。
うん。遅いよ?>
<またからまれたら大変だから、送っていくよ。>
「は?」
「ここは、ほら。二行後。」
「あ。ほんとだ。ごめんね。」
<ごめん!二回も。
(さっきのね)→でも悪いよ。>
<大丈夫。一緒に歩くのが嫌ならしょうがないけど?>
「そんなことないから大丈夫。」
私はそう言って彼にむかって「ありがとう」と言った。
彼は少し微笑んで、生物の問題をもくもくと解いていた。
4th Word
そして、私はやっぱり遅くなってしまった。
一人で校門までテクテクと歩いていた。
「本当に遅いね。なにやってるの?」
「わっ!びっくりした〜。」
なぜなら校門のところには上條くんがいたから・・・。
「何だよ。待ってるって言っただろう?あ、言ってないか。」
私は真面目にそういう彼がおもしろくて笑ってしまった。
「常葉さんー。」
「あ〜ごめんごめん。待っててくれてありがとうね、上條くん。」
「龍哉でいいよ。」
急に言われてかなりびっくりしたが、呼び方の事だと思い、うなづく。
「いいの?なら龍哉くんで。」
「あー。」
「あ!じゃあ私のことは杪葉でいいよ?」
「え」
結構感情出さない人だけど…驚いてる。面白い。
「いいの…か?」
「うん!どーぞ!」
私達は面白く話をしていた。
ずっと…昨日のことを忘れさせてくれた。
実を言うとかなり不安だった。
昨日あんなことが会ったばかりだから、、
でも、一人じゃないから、大丈夫だよね?
私は彼の隣を歩く事に安心を覚えた。
「あ、私こっちなんだ。龍哉くん向こうでしょ?」
「え・・・あ。そっか。でもいいよ。送っていく。」
心配性だなと思いつつも私はその申し出を断った。
「大丈夫よ?あと少しだし。じゃね!」
「おい!」
私は駆け出して、少したつと、歩いた。
だからかな?また…油断した。
「ぇ・・・きゃあ!」
ふと背後に人を感じて振り向くと、急に頭に衝撃を感じる。
ふらふらしながらも私はまだ立っていた。
「杪葉!!」
だれ?
「杪葉!」
倒れそうな身体を誰かに支えられた。
「龍哉・・くん」
「大丈夫か?」
私はふらふらしながらもうなづく。
「よかった。にげるぞ。」
「わっ」
私は急に宙に浮く。
私は龍哉くんに抱き上げられた事を知る。
龍哉君は、私を抱いたまま、私の家の方面に走った。
「!ぁ。」
「どうした?」
「私の家、あそこ。」
男の子にこんなことされたの初めてで…
余裕無かった。
そのせいで、あやうく通りすぎるところだった…。
「あ。そっか。大丈夫か?頭。」
「うん…平気・・・ありがとう。」
私は龍哉くんにおろしてもらった。
「ありがとう。」
「ああ、お大事にな。杪葉。」
私はやっとのこと笑顔を作ることが出来た。
安心できたのかもしれない。
「ありがと。おやすみなさい☆」
私は扉を開けて、中に入った。
最後の「おやすみなさい☆」は、殺し文句だ。
かわいい彼女がにっこりと笑うんだ。
その笑顔で倒れなかっただけましだと思って欲しい…。
とりあえず俺は家に帰り、あるところに電話する。
「危なかったです。今日も。…はい。わかってます。
…気まぐれですよ。気まぐれ。…な!…もう叶いません。
……好都合って…わかってます!命に代えても…はい…はい、では。」
俺は珍しく(自分で言うな)顔を赤くした。
5th Word
次の日杪葉は考え事をしながら、学校に向かっていた。
—にしても最近おかしすぎるな。
なんで私が持っているのがわかっているのに、
今まで手を出さなかったんだろう…。
おかしいといえば、上條くん’sもおかしいよなぁ。
上條伸哉くんが転校してすぐあとに、
上條龍哉くんが転校してきた…。
…
まさかね。
関係なんかないよね—
「おはよう!杪葉」
「わ!龍哉くん。おはよう!」
急に声をかけられてかなりびっくりした。
でも、、声をかけてくれて嬉しかった。
「おはよう。」
「昨日もありがとう。嬉しかったよ?」
「あー。あのさ、今日の昼、屋上行かないか?」
「え」
まさか朝一でそんなこと言われると思っていなかったので
かなりびっくりしたが、まぁいいやと思いなおす。
「いいよ。大丈夫。」
こうして私達は屋上に行く事になった。
時間はまたたく間に過ぎ、時は昼…
「じゃあ行こうか。」
「うん。」
私達は二人連れ立って屋上に行く。
その時にクラスの視線を感じて振り返ると…
「わっ!」
後ろを見るとクラス全員が自分達の方を見ていたのだ。
「どした?」
「ん…てか、何?」
私は皆に向かってそう言った。
皆はかなりドキッとしていたようだ。
「ん・・・」
一番仲の良いだろう女友達が私に遠慮しながら言う。
「付き合ってんなら、はやいなぁって。」
「「は?」」
私達は目を丸くするしかなかった。
急にそういう発想に行くのが凄い。
「そんなことないってば。じゃね。」
私は龍哉君をうながして、屋上へ向かう。
時々振りかえる人がいるのは気にしないでおこう。
「でもどうしたの?急に屋上なんて…。」
「ん…ちょっと、話したくて。」
「?話なんて、教室でも出来るよ?」
言えるわけ無いだろう?
君と二人きりになりたかったなんて。
「とりあえず、、」
「あ。うん。御飯、食べようか。」
胸をなでおろし、俺は愛しい彼女と二人で御飯を食べる。
そして楽しそうに話す君を見て、俺は決意したんだ。
君は必ず、俺が守るって。
「え」
急に君の顔色が悪くなった。
振り向くと、そこには男がいた。棒みたいなものを振りかざして…
「うわっ!」
俺はよけることが出来ずに殴られてしまったが、もちろんそんなことで気絶するようには
訓練されていない。
「っ!」
俺は彼女を後ろにかばうようにして立つ。
「大丈夫?龍哉くん!」
そう言って彼女は俺の背にくっつく。
顔が赤くなりそうだが、そこらへんは我慢。
「平気…だから後ろさがって。」
「でも」
「さがれ!」
少々心が痛いが、俺はきつく言った。
すると彼女は俺の背中から手を離して後ろに下がった。
「ごめん。ありがとう。」
俺は少し後ろを向きながらそう言ったが、
彼女は何も言わなかった。
「どういうつもりだ。お前。」
「後ろの女をこっちに渡しな。」
「はいそうですかと渡すか!」
「じゃあ力ずく…」
「やるなら容赦はしない。」
「と、あとは人数だな。」
男がそういうと周りを囲まれる。
だが、彼女を後ろに守りつつ、やれるだろうと思った。
「さすがに数が…多かったけど、なんとか大丈夫だな。」
「…ちっさすがは上條」
「次はてめぇだ!」
俺は秘密をばらされる前に大きな声でそう脅しを、きかせていった。
「ちっまた後でな。」
俺はとりあえず去った事に安心する。
「杪葉、大丈夫か?」
「。それはこっちの台詞よ!」
急に大きな声で叫ばれる。俺はどうしようと思った。
あたふたしているけど、あたふたすればいいと思う。
私は…無理なんかして欲しくないのに。
そう思って悲しかった。
気づくと涙は止まらなくて…
そんな私を彼は頭をぽんぽんと叩いてくれた。
その行動が、私の涙を加速させることだということも知らないで。
「ありがと。でも、お願い。無理…しないで。」
いえたのはそれだけだった。
とりあえず私が落ち着くまでしばらくそこにいて、
そのあと保健室に行って、彼の治療をした。
龍哉は普通にこけたと言って笑っていた。
また一人、私のせいで気を使わせてしまった・・・。
そして私達は、授業をうけて、帰路に着く。
そしてまた・・・
「またかよっ!」
「…」
また、私達の周りを男の人たちが取り囲んだ。
「杪葉!塀に背をつけろ!」
私は言われるまま、背をつける。
龍哉くんは私の前に立って、誰も私に近づけなかった。
時には身を削って、
私を助けてくれた。
「覚えてやがれ!」
「・・・負け犬の遠吠えにしかきこえねぇよ!」
少し笑っていたけど、
私にはわかった。
「龍哉くん!早く帰ろ!」
私はそう言って歩き出す。
「お、おいっ!」
杪葉は俺を置いてさっさと歩いてしまう。
もしかしたら気づかれたのかもしれない。
利き腕(右手)にくらった一発が響いているという事に。
今日もう一度襲われないとは限らない。
その時に、気づかれては困るのだ。
俺は彼女を無事に家に送り届けてから家に戻り、
シップをした。
今日中に治ってもらわないと、困る。
そして俺は眠りに着いた。
6th Word
今日行き帰り、襲われた。
龍哉くんは腕が痛いんだろう。
すぐに終わらせていた。
龍哉くんは日に日にぼろぼろになっていく。
もうそろそろ…もうすでに…かな?
—限界—
いつも私を守ってくれる龍哉くんは
大きくて、とても優しい人。
いつも私を守ってくれる
大好きな人。
愛しい人。
大切な人。
だから、もういいんだ。
もういいの。
もう。守らないで…。
私達はまた屋上にいた。
昨日はココにはあの人たちは来なかったから。
「ね、お願いが、あるんだけど…」
「ん?」
「もう……て」
「え?」
なんていったか聞き取れなくて、俺は再度杪葉に聞く。
「もう…やめて。」
「何を?」
「私を…もう守らないで。」
「は?」
どうして急に言い出したのか、俺はもう意味不明だった。
「もうやめてほしいの!」
そんなわけにはいかない。
「出来ないね。」
「なんでよ!」
「今はいえない。全部終わったら、きちんと言うから。」
「…。」
私はすでに御飯を食べ終えていたので、そのコトバを聞いてすぐに屋上を飛び出した。
「杪葉!」
後ろから追ってくる声は、聞こえない。
聞こえない。
聞こえない。
そして私は夜遅くなったのにもかかわらず、
龍哉くんに見つからないように、帰路についた。
—もう、さらってほしい。—
「きゃ!んん!」
私の願いを聞いたかのようなタイミングで
私は口をふさがれる。
いつかのように、意識はたもっている。
「まさか組織No2の実力をせっかくつれてきた日に、
君はひとりになるんだな。」
いつもの人より一回り大きい人が、私の前にいた。
きっとその人が、No2の実力の人だろう。」
「杪葉!」
「なっ!」
暴れない私の口から男の人は手を離していたから、
私は普通に声を発する。
どうして、いるのか、わからない。
「おー。よかった。さぁ行け!」
組織No2の人が、龍哉くんに襲い掛かる。
龍哉くんは、転校前日から戦いっぱなし。
傷だらけで、ふらふらで、それでも、
私がいるから、彼は傷つく。
後から後から涙があふれてくる。
「うわっ!」
龍哉くんは負傷していた右腕を叩かれ、大きな声を上げる。
するとNo2の人は、右腕中心に攻撃を始めた。
痛そうで、痛そうで、痛そう。
ううん。きっと
痛くて、痛くて、たまらない。
私はもう…
「…って。」
「あ?」
「さらって。」
「お望みどおりさらってあげますよ〜。」
私は身体の左右を男の人につかまれ、連れて行かれる。
もういいよ。ありがとう。
「うわ!」
龍哉くんじゃないうめき声がきこえた。
振り返るとそれはNo2の人だった。
うたれ強くはなかったようだ。
「ふざけんな!こっちはきっちり!長の命令で!
杪葉のこと!守ってんだよ!!」
命令…?
命令…だったから??
命令……だったからなのね…
私は今度こそ本当に涙が止まらない。
なんでかは、わかりたくないんだ。
そんな時だった。
「いまだ!逮捕しろ!!」
「ぇ」
いろんなところからいろんな服を着た人が出てきて、
私の周りにいた人たちを捕まえた。
「杪葉!」
「たっ…たつや…くん。」
びっくりして声を上げる。
急に龍哉くんが後ろから抱きしめてきたから、
びっくりするのは、当たり前だけど。
「ちょ」
「大丈夫…か?」
「・・・うん。」
私は悲しくて、悲しかった。
その台詞は、私のなのに・・・。
大丈夫って、私の台詞、とった。
「え」
急に後ろから重みが消える。
そして
「龍哉!!」
という声。
後ろを振り向くと、龍哉くんは気絶していた。
「龍哉くん!龍哉くん!!!」
「…多少無理をさせすぎたな。」
「え・・・あの…。」
「あ、俺が長です。はじめまして。時葉杪葉さん。」
「え…」
「私は、あなたのご両親から、守ってくれるように依頼をされたものです。
上條家は代々、人からの依頼を受け、誰かを守ります。
今日も日々、色々な人々の依頼を受けています。
もう彼らは捕まえましたから、安心してください。」
「あ…はい。」
私は、やっぱり…守られる…
「あ、あと、龍哉のこと、お願いいたします。」
「え」
数十秒後、私が唖然としている間に、上條家の人々?は、どこかへ行ってしまった。
7th Word
一週間後。
私の家に龍哉くんはいた。
「まぁ、長がいった通り、俺は上條家の者で、
杪葉の両親に依頼されて、杪葉を守っていたんだ。
最初は乗り気じゃなかったんだけどな。うん。」
そしてその事情を聞いて、やっぱりまた、涙を流す。
「なっ?」
「命令…だったから。だったんだね。」
「は?俺が命令だけで動くと思ってるわけ?」
「え」
龍哉くんは苦笑して、私の手を引っ張る。
一瞬後には、龍哉くんの、腕の中にいた。
「ば〜か。そんな命令だけで、命なんて、はるわけねぇだろ。
命令なんて、いつもは受けもしなかった。
見たんだよ!
そしたら、やる気沸いた。」
そう言う風に答えを出しやすいように諭してやるけど、
杪葉は、何も言わない。
俺は真実を告げた。
「ま〜よ〜するに、一目ぼれってことで。」
「え」
「無事でよかった。守れて、よかった。」
私は考え無しの龍哉くんに、怒りを覚えた。
「ばか!!何もあんなに命張ること無いじゃない!!
龍哉くん!死んじゃったら、どうすればいいのよ!!」
急に叫ばれて、どうしていいのかわからなくなる。
「…して」
「え?」
「離して!!」
—拒絶された…—
俺はどよ〜んという効果音とともに?
杪葉を離した。
すると・・・
「なっ?」
頬にキスされ、俺は真っ赤になる。
混乱♪混乱♪
「なっなっなっなっ??」
「守ってくれて、ありがと。…これからも、、、よろしくお願いします。
依頼、終わっちゃったけど、、そばにいてください。」
俺は彼女の告白?に真っ赤になるが、コトバを探し出す。
「・・・もちろん。」
でも、見つけられたのは、それだけだった。
欲しかったのはたった一つの言葉だったよ。
杪葉
欲しかったのは、たった一人の君だった。
龍哉
数年後、俺たちは結婚して、その結婚式の日に、
杪葉は両親と、再会を果たした。
—おまけ—
途中の電話:龍哉&長。
「危なかったです。今日も。」
「やはり狙ってきたか…しっかり守ってくれ。」
「はい。わかってます。」
「珍しいな。龍哉。お前がそんなに気合が入っているの。」
「気まぐれですよ。気まぐれ。」
「よく言うよ。ほれたくせに」
「な!」
「だってお前、本当に嫌がっていたじゃないか。それなのに、
彼女に接触した後、そこまで気合がはいっているってことは、
そう言うことだろう?」
「もう叶いません。」
「はは。それはそれで好都合だな。」
「好都合って」
「それはともかく、しっかり守ってくれ、必ず。」
「わかってます!命に代えても」
「気をつけろよ。」
「はい」
「じゃあな」
「はい、では。」