ある日のことでした。 私の前に、あなたが現れたのは…。 その日私は買い物に出かけていました。夏だったので、世界の暑さにうんざりしながら、道を歩いていたんです。 私は体があまり強いほうではないので、こんな日に外に出ることは滅多にしませんでした。 だけどなぜかその日は出たいと思ったんです。 私は家ではクーラーではなく、扇風機を使っていました。 クーラーもありましたが、省エネのためですかね?とりあえず扇風機を使っていました。 だからあまり涼しくありません。 だけど、外に出ると家の中よりもやっぱり暑くて、 だけどデパートに入るとすごく涼しくて… その時は体内の温度計がとても活発に上下しました。 そのせいでしょうか?頭がくらくらしてきました。 何度考えてもやっぱり体調が悪くなったという結果にたどりつき、私は体調が悪いという事実に私は気づいてしまいました。 家まではかなりの距離です。 電車を乗り継いできましたから。 だから私は仕方がなく、またデパートの中に入りました。 得にすることもなく、ぶらぶらと歩こうと思いましたが、 あまり気分が優れないのでそれが長く続くはずがありません。 私は喫茶店に入ることにしました。店員さんは私を見て、聞きました。 「お一人ですか?」 「はい。」 素直にうなづきました。ここで嘘を言ってもしょうがないですし、聞くからにはそれなりの事情があるのでしょう。 私は一人でドコでも行くタイプですから、そういう質問をされたらいつも「はい。」といいます。 「お客様もお一人ですか?」 驚きました。私の後ろの人にもそう聞いたんです。 その後ろの人は、どこかで見たことのあるような男の人でした。 その男の人はびっくりしながらも、「はい。」と返事をしました。 男の人の声はとても澄んだ声をしていました。だけどりりしくて、少しドキリとしました。 そうすると店員さんはとても申し訳なさそうな顔をして聞くのです。 「すみませんが、合い席でお願いできませんか?」 私は目をぱちくりとして後ろを振り返りました。 断じて男の人を見るわけではなくて、その後ろの人です。 私の後ろの男の人のさらに後ろには、かなりの人数がいました。 確かに、合い席を頼みたくなります。 私は特に否定する意志もなかったので、男の人を見て言いました。 「私は別にかまいませんが、あなたはどうですか?」 男の人は少し目を丸くしましたが、すぐににっこりと笑って言いました。 「私もかまいません。」 すると店員さんは私達を窓際の席に案内してくれました。 その席は右側に窓があるので、私も男の人も景色を見ることができます。 合い席を頼むからには、眺めのよいところにしてくれて当然といえば当然です。 私も男の人も向かい合って席に座りました。 席に座って右の景色を見ると、私の気分は少しよくなってくれたようです。 ちなみにここの喫茶店はデパートの8階にあるので、かなりいい眺めです。 実は私は何度もここに来ています。だけど、窓際の席は数回目です。 窓際の席から遠いところからでも外を眺めます。 高いところはなぜだか好きになれます。 私達を案内した店員さんは私達に水を持ってきてくれました。 私はメニューを眺めていました。そのときに男の人が私に話しかけてきたんです。 「別々に頼んだほうがいいですか?」 「え?」 驚きました。それと同時に真意がわかりませんでした。 となれば、聞き返す。それが私のモットーみたいなものです。 「どういうことですか?」 「よければおごります。という意味ですよ。」 「おごる?あなたが私にですか?」 「もちろんです。」 私は目をぱちくりしました。初めてあった私に対しておごります。というこの男の人はいったい…。 私はどうしていいかわからずに、目を見開いてとまっていました。 すると男の人は苦笑して言うのです。 「とりあえず、一緒に頼みましょう。あなたが、割り勘にしてくれ。といえば、私は半額を払います。 あなたが僕のおごりになるのなら、僕が全額払いましょう。それでどうですか?」 「あ…はい。」 私は男の人の考えに半ば唖然としながらも答えました。 「では、何にしましょうね?」 男の人はにっこりと私に笑いかけると、メニューに目を通しました。 私は紅茶を頼み、男の人はコーヒーを頼みました。 私と男の人の頼んだものはすぐに来ました。合い席を頼んだのだから、当然といえば当然です。 私は紅茶を一口飲んだ後、男の人の真意が知りたくて、聞きました。 その時も、この人に始めてあった気がしないと思っていました。 「はじめてあった私に対してどうして“おごる”という言葉を発することができるのですか?」 「おかしいですか?」 そう言うことを聞かれて私は少し口ごもりましたが、本当のことを言ってみました。 「はっきり申し上げると、信じられませんという言葉が一番よく当てはまります。」 「確かに…そりゃそうですね。でもきっと後でわかりますよ。」 男の人はまた苦笑して、コーヒーを一口飲みました。 私はきっとわけのわからない顔で見つめていたんでしょう。 しばらくして私はふと外を眺めました。 せっかく久しぶりの窓際の席です。景色を堪能しないともったいないですから。 「景色を見るのがお好きですね。」 私はびっくりしましたが、男の人の目を見て話しました。 男の人の目は澄んでいて、きれいでした。 「はい。好きです。特に体の調子がかんばしくないときは、さらにきれいに見えます。」 「今は大丈夫ですか?」 「ぁ。」 「どうしました?」 自分の失言に気づいたのです。始めて会った人に対して同情させるような内容を口にしてしまいました。 どうして私は人の同情を得るはずの言葉ばかり言うのでしょう。 「すみません。同情をかうような言葉を…始めてお会いした方に言ってしまうとは…本当にすみません。どうしても言ってしまうんです。」 「いいんじゃないですか?」 「え?」 友達から非難されたことのあることに対してこの人は…。 「私は別に平気ですよ?心配はさせていただきますけれど。」 「心配してくださってありがとうございます。初対面なのに。」 私は心から感謝して軽く頭を下げました。するとこの人は少し戸惑って、また言葉を発しました。 「ちょっと心苦しくなったんで、言ってもよいでしょうか?」 「なにをですか?」 「僕があなたにおごるといったわけ。みたいなものです。」 それは私が気になっていたことでした。気になっていたことを教えてくれるのですから、肯定の意を示さないといけません。 「はい。どうぞ。」 「実は…初対面ではありません。」 「はい?」 つい語尾が上がってしまいました。すると男の人は申し訳なさそうに言いました。 「ここの喫茶店で何度かあなたを見ました。そしてさっき、デパートの入り口でも見ました。 気分が悪そうだったので心配でついてきてしまいました。その…すみません。」 「まぁ…。」 私は驚きました。そして、男の人の顔を見てから記憶をたどります。 … 確かにいました。はい。確かにいました。 私は店内も興味深々で何度来ても見回します。 今日は、初対面だと思っていた男の人の前でしたから、ひかえました。 そのときに私と目が会うと、にっこりと微笑む人が確かにいました。 その人の顔を思い出して再度目の前の男の人を見ます。 確かに同じ人です。間違いないですね。 「思い出しました。いつもにっこりと微笑んでいたあの人ですね?」 「はい。僕の住まいはここから電車で20分のところにあります。 実をいうと……その電車内でも、あなたをよく見かけました。」 「え…。」 私は記憶をたどります。 … 朝の電車内はとても込み合います。そのときに、よく男の人を見ました。 体調がかんばしくなく、つらかったときに一度席を譲っていただいたことがあるので思い出すのは簡単です。 その人とは会うたびに会釈を交わしましたけれど、最近はその人が電車の時間を変えたらしく、ぜんぜん会いませんでした。 「思い出しました。ちゃんと顔を覚えていたつもりだったのですが、喫茶店であっても気づかなくて申し訳ありません。 朝と喫茶店であうときと、顔がちがいませんか?」 「確かに…違うかもしれません。」 「それにしても、本当にあの時は助かりました。ありがとうございます。何かお礼がしたいのですが…。」 私は心からそう思いました。 「じゃぁ、あの………すばらしく…申し訳ないお願いが…………………あるんですけれども…」 「なんでしょうか?」 歯切れが悪すぎる目の前の人に、私は疑問の顔を向けながらそう聞きました。 「あなたの………お名前…教えてくれませんか?」 「はい?」 またもや語尾が上がってしまいました。まさかそのようなことではないと思ったのです。 「あ。嫌なら嫌で、ぜんぜんかまわないんです。」 その人はあわててそう言いました。 「もうぜんぜん断ってくれてかまいません。あの…その……はい。」 私は少し微笑みました。あわてる男の人が面白かったのです。 「別にいいですよ。その代わり、あなたの名前も教えてくださいね?」 「もちろんです。」 そう言うと男の人は手帳を出してその手帳の紙を一枚出して(6穴の取り出し可能な手帳でした)、それに名前を書き始めました。 「どうぞ。」 「ありがとうございます。」 私はその紙を手に取りました。 そこには名前以外の住所も電話番号も、メールアドレスも、書いてありました。 名前の上にはきちんと平仮名が付いていました。 確かに漢字を見ただけではわかりません。 「狙坂 叶矢(たんざか やすし)さんですね?」 「はい。」 「あの、申し訳ありません。紙と、書くものを貸して下さいませんか?」 「あ。はい。」 叶矢さんは、私に手帳の紙を一枚くれました。 「ありがとうございます。」 私は紙を受け取ると、さっきいただいた紙を見ながら書いていきました。 「どうもありがとうございました。」 「いいえ。あの…名前読めない人、多くありませんか?」 「多いと思いますよ。でも、それは叶矢さんも一緒でしょう?」 「そうですね…って名前…。」 私は平然と相手の名前をいいました。 名前を教えあったら名前で呼ぶことが私のモットーみたいなものです。 「嫌でしたか?」 私がそう聞くと、叶矢さんは、いいえ。と答えてくれました。 「じゃあ、僕も名前で呼んでいいんですか?」 「もちろんです。」 「じゃあ、莢(さや)さん。やっぱりここは僕におごらせてください。」 「え…でも……。」 あ、ちなみに私は、御庄 莢(みしょう さや)と申します。 私は遠慮しないわけには行きませんでした。なにしろ叶矢さんは昔私を助けていただいた恩人です。 「でも、以前助けていただいたお礼もありますし…。」 「おごらせて下さい。お願いします。そして…あの……あともうひとつ………お願いがあるんですけれども。」 「え?なんですか?」 私は聞き返しました。そのため、おごるとか、おごられるなどの話をしていましたが、その話がそれてしまいました。 「また…………一緒にお茶しませんか?」 「え?」 私はもう一度叶矢さんの言った内容を心の中で繰り返しました。 『また、一緒に、お茶、しませんか?』 「あの…私の中で…ですね、」 「?はい。」 素直に言うべきなのでしょうか?そう思って悩みましたが、もやもやしたのは嫌なので、言うことにしました。 「一緒にお茶。というのは、好きな人に対して言うものなんですけれども…。」 「嫌ですか?僕に好かれるのは…。」 「はい?」 私はまたまた語尾を上げてしまいました。 「嫌ですか…。それじゃあ無理ですね…。」 「そういうわけでは…ないんですけれども……」 叶矢さんに対して、悪いイメージはみじんもありません。 ですが私は叶矢さんに対して恋愛という感情を持っていません。 どういう風な目で見ているのか、わかりません。 「まだ…わからないのです……。」 「確かに、そうですよね。では、お茶は駄目ですか…。」 「あ、いえ…。お茶は……いいですよ?」 「本当ですか?」 「はい。叶矢さんに興味が出てきました。叶矢さんのことを、もっと知ってみたいと思います。」 それは、私の気持ちを十分に伝えられた言葉でした。 「ありがとうございます。それじゃあ、またあってくれるんですね?」 「ぁ、はい。」 私はうなづきました。すると叶矢さんはにっこりと笑いました。 その後私は結局おごっていただきました。そしてデパートの中を一通り一緒に見た後に、同じ電車に乗って、家路につきました。 「では、私はここで。」 私のほうが早く降ります。席を譲られたということは、私より前に乗っていた。ということですから、当たり前ですけど…。 「はい。あの…今日メールしてもいいですか?」 「あ、はい。どうぞ。」 メールアドレスを交換したのだから、メールをするのは当然のこと。 私はそう思っていたので不思議でした。 私は家に帰る前に、実家によりました。お父様とお母様にそのことをお話しました。もちろん叶矢さんのお名前も言いました。 「その人は、莢の身分というか、生まれを知っているのか?」 「いいえ。知らないと思います。」 「でもこの方はきっと狙坂財閥のご子息ですよ?長男の名前とは違いますから、次男以下だと思われますけれど。」 「莢は御庄財閥のご令嬢。だからな、こいつならいいだろう。話し方はどうだったんだ?」 そう、私は御庄財閥の一人娘です。けれども、日常の平凡な生活…よりも質素な生活がしたいと願いました。 そうしたら、お母様とお父様は了承してくれました。ゆえに私の部屋には扇風機があったりするのです。 「丁寧語を使い慣れていました。けれど、狙坂財閥のご子息様がお一人で電車にご乗車になるのですか?」 「莢、自分はどうなんだ?一般の人と同じようなマンションに住んで、扇風機を買って、クーラーではなく、そっちをつけているんだろう? ましてや、社会に働きに出ているではないか。」 「確かに…。」 うなづくより仕方ありませんでした。 私は仕事をしています。イラストを描いたり、、本に関連した仕事です。 「とりあえず今日は帰ります。では。」 私は家を出ました。 私が家に帰ると、パソコンにメールが来ていました。 メールは、 『どうしても話さなければならないことがあります。喫茶店では言い出せませんでした。もしご都合がよろしければ、電話してもよろしいでしょうか?』 という内容でした。 都合はよかったので、私はメールを返しました。 『かまいませんよ。』 私はそれを送信しました。 すると2.3分後に電話がかかってきました。 —もしもし?狙坂叶矢と申しますが…— —叶矢さん、こんばんは。莢です。− —ぁ、夜分遅くに申し訳ありません。— —いいえ。で、なんですか?— 私は聞きたかったのでせかしてみました。 —……実は……僕は狙坂財閥の御曹司です…— やはりという思いはありました。お母様の思ったとおりだったので。 —なぜ狙坂財閥のご子息であるあなたが、電車に乗ったり、仕事したりしているのですか ?— 私は、抱いていた質問をして見ました。 —普通の生活が送りたかったからです。黙っていて申し訳ありませんでした。— —いいえ。私も御庄財閥の令嬢ですから。— —え— やはり驚いたようです。でも次に叶矢さんが発したのは予想もしないことでした。 —では…あなたが御庄財閥の一人娘ですか?— —はい。そうですが?— —信じられない…。実は…僕は君を一度見ているんです。記憶にはあまりありませんが— —いつですか?— —財閥のパーティーのときです。御庄財閥の一人娘を見まして、美しい方だと思いました。あなただったとは…— —がっかりさせてしまいましたね?すみません。— —いいえ。がっかりだなんて…むしろ感激です。— —え…なぜですか?— —私はあなたのことが好きです。けれども、身分が違えばお付き合いはできません。 けれどあなたは、御庄財閥のご令嬢だから、お付き合いはできます。 安心してあなたにアタックできるのですから。感激です。— その話を聞いているうちに、私は無性に叶矢さんにあいたくなりました。 —あの…明日、私の降りた駅で待ち合わせをしませんか?— —え— —ご都合が悪ければ、しかたありませんけれど…— —都合が悪いなんてとんでもありません。会えるんですね?光栄です。— —じゃあ、10時に— —はい。— 私は受話器を置きました。 なんとなく、顔がほころんでくる気がします。 もしかして、これが恋なのでしょうか? 私はとりあえず、お風呂に入って、乾かして、眠りに着きました。 次の日が、妙に楽しみでした。 私はその日、駅のホームでじっと座って待っていました。 私がホームのベンチに座ったのは9時半でした。 人を待たせることはしない。それが私のモットーです。 ですが、叶矢さんにもその傾向があったようです。 まだ9時45分くらいに叶矢さんはやってきました。 「昨日ぶりですね。」 「はい。続けてあなたに会えるとは思ってもいませんでした。」 「私もそう思っていました。」 「それで、どうしましょうか?」 「昨日の喫茶店はどうですか?」 「いいですね。では行きましょうか。」 「はい。」 私たちは必要事項を決めて、電車に乗り込みました。 いつもと同じ電車内のはずなのに、乗っているだけでとても楽しかったです。 乗っているだけで面白いというのは、電車に乗った当時と同じでした。 私たちは同じデパートの同じ喫茶店に入りました。 するとなんと偶然により、昨日と同じ席に座ることになりました。 私たちはやはり昨日と同じものを注文して、今日はじっくりと待ちました。 その間に私たちはいろいろなことを話すことができました。まぁそれは注文したものが来た後もそうでしたが。 十二時をすぎると私たちは同じ喫茶店で食事をとりました。 そして時刻が一時になったときでした。 「叶矢様?」 「え?ぁ。保則(やすのり)さん。どうしたんですか?」 「あの…ぇと…ですね。」 「どなたですか?」 「あ、すみません。僕の家庭教師みたいな方です。」 「あ、はじめまして。御庄莢と申します。」 「はじめまして。木城(きじょう)保則と申します。」 「で、どうしたんですか?」 「康光(やすみつ)様が帰ってこられまして、その…。」 「康光が何かしたんですか。」 「あの…その……はい。」 「なにを?」 「…。」 「康光さんって…確か、狙坂財閥のご長男でいらっしゃる方ですよね?」 「あ、はい。そうですが…失礼ですが叶矢様、この方は?」 「ん?御庄財閥の一人娘さんだ。俺が一目ぼれをしてね、お茶に付き合ってもらってる。」 「ぁ…。では叶矢様は御庄財閥に婿養子で入られるんですか。」 「そんなことはまだわかりませんよ。ちゃんと聞いていてください。付き合ってもらっているんです。」 「あ、そうですか。」 私は半ば唖然としてしまいました。私がこの人に一目ぼれされたとは思ってもいませんでしたから。 「で、どうしたんですか?」 「急に帰ってらして、あなた様に会いたいと申しております。」 「僕に?」 「はい。」 私は少し寂しかったけれど、私は特に用と言えるほどの用事ではありませんでしたので、私よりも優先していただくことにしました。 「私のことはお構いなく、どうぞ行って下さい。」 「え?」 私のその言葉に叶矢さんは敏感に反応なさいました。 私はその反応にどうしてよいのかわからず、とりあえず下を向いてしまいました。 「莢さん、僕といてもつまらないですか?」 私はその言葉にはっと顔を上げました。 誤解されたら大変です。 「違います。 誘ったのは、私じゃないですか。 それに・・・私のは、用事と呼べないじゃないですか・・。 あなたのお兄様はあなたを呼んでいらっしゃいます。 私の用事より、立派な用事じゃないですか・・・。」 そして私はもう一度うつむきました。 こんなことを言ったら、叶矢さんは必ず行ってしまいます。 とまぁこんな感じでうつむいている私に叶矢さんは言いました。 「あなたが言う、あなたの用事とは何ですか?」 私は少しだけ考えていいました。 「あなたと一緒にいたい・・・ということです。」 私の言ったその言葉は、はたから見て、プロポーズみたいな言葉だということに後で気づきましたが、すでに時遅しでした。 なぜだかはわかりません。だけど叶矢さんはにっこりと笑ってくださいました。 「わかりました。一緒にいましょう。」 「でも・・・。」 「もうすこし本格的な話がしたいのですが、外に出ませんか?」 「え?・はい。」 私はまったく意味がわかりませんでしたが、とりあえずデパートの外に出ました。 外に出ると、黒い車が一台待っていました。 さっきの人がいたので、きっとこれは叶矢さんの家の車でしょう。 「さ、どうぞ。」 「ありがとうございます。」 私は叶矢さんにエスコートしていただいて、車に乗り込みました。 そして、叶矢さんは運転手さんに私の両親がいるところを行き先に指定しました。 「叶矢さん?」 「あの・・・僕は、莢さんが好きです。」 「・・・。」 私は唖然となりました。 ですが、すぐ心が温かくなりました。 そして知ったのです。私の心の奥にある気持ちが、恋だと言うことに。 「うれしいです。」 「ありがとうございます。というわけで、あの、、挨拶に行ってもよろしいですか?」 「はい?」 挨拶にいく。ということは、婿養子として入る。ということで??私の両親に、言いに行く。と言うことです。 「え?でも、叶矢さんのご家庭では、大丈夫なんですか?」 「はい。その点は心配要りません。」 というわけで、私は叶矢さんと共に両親の所へ行きました。 私の両親はすぐに許可をくれました。 なぜかって? 叶矢さんが私の両親が出てきて挨拶を交わしてすぐ、お嬢さんと結婚させてくださいと、土下座をしたからです。 私はすごくびっくりしていましたし、私の両親もすごくびっくりしていました。 まぁ、そういう叶矢さんの努力もあり、私の両親はすぐに許可をくれました。 そして次に叶矢さんのご両親及び兄弟の方々に会いに行きました。 叶矢さんは何事もなかったかのように、「僕は御庄家に婿養子に行きますのでよろしくお願いします。」とおっしゃいました。 そして私達はまた車の中に戻ってきたのです。 ちなみにお兄様の用事は、叶矢さんに愚痴を聞かせようとしていたらしいのです。 叶矢さんはもうやめてほしいと思っていたけれど、兄弟だし、言わなくてもと思っていたらしいのです。 車の中で私は笑いました。 なぜかって? 叶矢さんの行動が早すぎて、思わず笑ってしまったんです。 叶矢さんはそのように笑っている私を抱き寄せ、愛しています。とつぶやいてくださいました。 私はもちろん叶矢さんの腕の中で、笑いながら、私もです。といいました。 そして私に言ってくれました。 一緒になりましょう。 一緒に生きてくださいと。 私はそれにも順序が違いますよね?と笑いながら、 はい。と答えたのです。