宝物






君の書いた詩を俺の曲に載せて




ここはとある県の、ある音楽事務所。扱うのは歌ではなく、曲だ。
ここには若そうな男が2人。新人の女が1人。そして、スタッフが3人。
そしてひげを生やした社長がいる。
若そうな男はある詩を見つめていた。
それは少し前の傷の原因。机には、木羽健(きば つよし)と名前が張ってある。
まだ26だが、才能は前から豊かだった。

きっと君がここにいたから
私は笑顔しか知らなかった
だけど私は君とさよならする
 君の側にずっといたかった
だけどそれはできなくて
だけど伝えたいことは一つ
私は誰よりも愛を感じていた
誰より幸せなときを過ごせた
こころからあなたを愛している


健が見つめていた詩を見た新人の女、織野三保(おりの みほ)は木羽に尋ねた。
「木羽さん。この詩は?」
「これは、オレの一番大事な人がオレに当てた最後のメッセージ。」
「詩って、これだけなんですか?」
「ああ、あとは、曲を付け加えるだけ。1分強か、弱の短い曲だ。」
「その人はいま…」
「もういないよ」
「!潤二」
「片田さん。」
木羽に新たに話しかけたもう1人の若そうな男、片田潤二(かただ じゅんじ)は木羽の友人だ。もちろん26.
「木羽、どうして叉梨の作った詩を出そうと思ったんだ?」
叉梨。本名は波木叉梨(なみき さり)。健の元恋人だ。
「あいつの夢だったから。」
「おまえの作った曲に、自分の書いた詩をつける、そしてその曲を合作として世に出す、か。」
「ああ、もう…あいつの一周忌だから」
そう。叉梨は一年前に命を落とした。
「…。まだ忘れられないってか。」
「忘れられるわけねぇよ。」
「というわけ、あんまり突っ込まないほうがいいぜ。織野。」
「はい。」
『叉梨、おまえの作った詩を土台に俺は曲を作った。君へのメッセージをこの曲に載せて流すよ。夢が実現するのが遅すぎたな。悪い。』
健は少し考えて、タイトルをつけた。
You are my treasure.と。
『オレらしくないな。でも、あんまり優しくしてやれなかったから、そのお返しだ。
明日はおまえの命日・・・とも言える日だ。明日からオフもらったから、おまえとの想い出の地をゆっくり回るよ。
回り終わったら、帰ってこいってさ。今日はみんな優しいよ。』



出逢ったのは、運命だったのかもしれない




その日、健は朝早くから車に乗って出掛けた。今日から叉梨との思い出の場所を順々にたどるために。
『まずは、あそこだろう』
健は桜木公園に来た。
「変わってないな。昔に比べて時代の流れが速くなったのに…ここは変わらない。」
ここは健と叉梨が始めてあった場所。春は桜がきれいだ。しかし二人が初めてあったのは、冬だった。

二人の青年は話していた。年は23.就職したての健と潤二だ。
「おい、潤二」
「なんだよ。」
「なんで桜木公園に冬にくるんだよ。」
「いいだろ?オレは今日、一大決心を実行するために来たんだ。」
「…。雪に告白ってやつか?」
雪は大学時代の友人で、潤二がずっと好きだった女だ。
「ああ。」
「で、なんでオレがついていかなきゃいけないんだよ。」
「おまえ、最近曲作ったか?曲ひいたか?」
「いや。」
「ここは桜木公園…ぁ。関係ないか。季節は冬。いいあんばいに雪も降ってきた。ここで作れ」
「…。わぁったよ。」
「あ。オレは東で告るから、おまえは西で音楽を作れよ。」
「はいはい。」
「じゃあな。」
「帰りは声かけろよ」
「帰りも頼むな。車」
「はいはい。」
健は西に向かった。
『確か西には湖があったはずだ。そこの前で曲をつくるか』
健は湖に向かった。
「ん?」
健は湖のほうから聞こえてきた歌に耳をすませた。
「君はどこにいるの?広すぎる世界の中でどこを探せばいいの?」
長い髪を上のほうで結んだ娘が歌を歌っていた。
「傷ついた心を癒して傷ついた羽を癒してそしてまた飛んで…ぇ」
娘は急に振り向いて健のほうを向いた。
「あ。…頼みがあるんだ。」
「え…」
「オレ、木羽健。23才。君は?」
「あ。私、波木叉梨。23才。」
「タメだな。」
「えぇ。それで、何?」
「頼む、ちょっと、てつだってくれないか?」
「え?」
「オレ、今から曲作るから、その曲に合わせて今の歌。歌って欲しいんだ。」
「メロディーを変えるから、歌えってこと?」
「ああ、」
「…別にいいけど。」
「サンキュ。じゃあ、これに歌詞書いて。」
「え?でもさっきのが全部の歌詞なんだけど。」
「。別にかまわないさ。早く。」
「あ。うん」
…
「書けたよ。」
「どれどれ…。なるほどね。んと…」
…………………………………
「出来た。ちょい待って譜面書くから。」
「ねえ、伴奏なし?」
「この大きいやつ目に入んないのか?」
「?なにそれ。」
「キーボード。」
「よかった」
「変なやつ。さっき伴奏なかったじゃん。」
「いいでしょ別に。」
…
「はい。伴奏が異常に長いから、そのここから、歌い始めてくれ。」
「うん。」
「いくぞ…。」
…
「君はどこにいるの?広すぎる世界の中でどこを探せばいいの?
傷ついた心を癒して傷ついた羽を癒してそしてまた飛んで大空を」
…
「ふぅ。」
「サンキュ。これで曲が出来た。」
「何?人に歌わせておいて、何の説明もないの?」
「オレの仕事は曲作り。最近書いてなくて。そしたら歌聞こえてきたから…サンキュ作れた。なんかお礼さしてくれよ。」
「ほんとに?」
「ああ。何でも言ってくれ。」
「じゃあ、デートして。」
「…は?」
「実は、私、あなたの事知ってるの。」
「え・」
「だって、あなたって、雪の彼氏の友達でしょ?」
「雪の彼氏?」
「…ええ。」
「??」
「よぉ。」
「潤二…。雪…さん。てことはおまえ」
「?何かしたの?雪。」
「え?ええ。」
「おまえも何も言われてないのか?」
「ええ。雪に、湖で歌詞でも考えたらって。」
「…潤二!」
「しょうがないだろ。彼女の頼みだ。」
「…。」
「じゃあ俺達は、雪の車に乗って帰るから。じゃあな。」
「…おいっ」
「いっちゃった。…。ま。いいや、それでね、一回見たことあるの。デートして!」
「…。」
「お礼。してくれるんでしょう?」
「だぁぁ!めんどくせぇ。行くぞ!」
「はいっ」

初めてのデートであやうく






健は、海に行った。初めての叉梨とのデートの場所。
健は、叉梨の頼みで海に行った。

「わぁぁ。夕焼けだ。」
「…。」
「?楽しそうじゃないって言うか、怒ってる。」
「たりまえだろ!はめられて」
「私はうれしいけどなぁ。」
「…。」
「…。怒るかも。でも、楽しいからいいよね!」
「え?うわぁっ」
海水に足をつけていた叉梨は健に水をかけた。
「お〜ま〜え〜なぁ〜」
「なに?」
「なんてことしやがる!」
「悔しかったら、ここまでくれば?ぬれちゃうよ!」
叉梨はひざまで海水に入っていた。
「そこまで行かなくても、」
「きゃぁっ」
健は叉梨に海水をかけた。
「ひっどおい。」
「先にやったのはおまえだろが!」
「えいっ」
「わっ!このやろ!」
とうとう健は海水にジャバジャバと入っていった。
「ふへ…きゃあっ」
「なんで逃げるんだよ!」
「だって、ほんとに入ってくるなんて思わなかったんだもの!」
叉梨は健をかわしながら海岸のほうへ、かけていった。
「待てよ!」
「わっ」
健は叉梨の手を捕まえた。その瞬間、叉梨と健は波に足をとられた。
「うわっ」
「きゃあっ」
ドサッ
倒れたとき、健と叉梨の唇が重なりそうになったが、ぎりぎりで重ならなかった。
「ぇ」
「ぁ」
二人は急いで起き上がった。
「…。」
二人とも顔が赤かった。
「…。ごめん。」
「ん、平気。………ねぇ、健君、キスしてもいい?」
「え」
「いい?」
「だ〜め。」
「なんで〜。」
「なんでオレにキスするんだよ!」
「いいじゃない。」
「よくな…ぃ」
叉梨は健の頬にキスをした。そしてすぐ離して言った。
「…今日はありがとう!またね!」
叉梨は笑顔で走り去っていった。
健は少しだけ叉梨のかわいらしさに心を奪われていたが、すぐ元に戻っていった。
「バカヤロ〜〜」




君の涙を見た時に愛しいと思った




健は家の前にいた。もちろん自分の家の前。見慣れた家を見上げていた。


「っちっくしょぉ!」
「ど、どうしたんだよ。」
「どうしたもこうしたもないぜ。なんなんだよ。あの女」
「え?」
「オレがたまたま入った店にいて、席がないからって相席頼まれるし、家の前でばったり会って家を知られたし。」
「あの女って、叉梨さんのことか?」
「あ?ああ」
「…。ま、いいじゃんかよ。彼女いない暦23年に終止符が打てるぜ。」
「は!あの女を彼女にしろって?冗談じゃない。」
「ひっどぉ!」
「え」
「よぉ!雪。来てたのか。」
「うん、さっき」
「へぇ。こんなところで働いてるんだ。」
「…。」
「あ、また怒ってる。大丈夫!今日はお土産付きだから。」
「いらん。」
「えぇ。せっかく書いてきたのに」
「!…。」
「あ。反応した。じゃん!詩だよ。でもやっぱり短いけど」
「…。」
「いらないなら持って帰るよ。」
「帰るぞ」
「え」
「帰るぞ。叉梨」
「…初めて名前で呼んだね」
「うっさい!帰るぞ」
「うんっ」
…
「仲いいのね。あの二人。」
「そうだな」
…
てくてくてく
「どこで曲つけるの?」
「家の近くの公園。」
「ふ〜ん。」
……

健は公園に来ていた。
「そういえば、あいつと会うときは公園のほうが多かったな。ここで作った曲も今度のアルバムで出すからな。」

「ん。よし!」
「できた?」
「おう。じゃあ、また歌え」
「うん。」
……
「遠い昔にあったけど覚えているのは私だけだった
あのときに私にくれた優しさは本物だったと信じてる
いつかあなたと二人で仲良く歩ける日を私は夢見てる
そして私はあなたが羽を休める場所でありたい」
…
「よし。」
「うまくできた?」
「ああ。サンキュ」
「…うん。」
「?どうした?」
「なんでもないわ。」
「…ちょい前から気になってたんだけど、」
「えっ!」
「彼氏いないのか?」
「…いないよ〜だ。私は、健君に彼氏になって欲しいけど。」
「…は?」
「でも、今はまだちゃんとしてないから、駄目」
「?そんな冗談を言ってないで、ほかのこと考えろよ。」
「冗談?そうだね。今はまだそうだよ」
「?」
「…じゃあ私は帰るから。」
「ああ。」
……。
夜
「だぁ!も〜〜」
『あいつの顔が消えない。くそ!なんなんだよ!』
「きゃああ!」
「え」
健が窓を開けると、そこには公園のほうへ走っていく叉梨がいた。誰かに追いかけられている。
「ちっくしょ〜。も〜しょうがねぇな」
公園
「きゃあ…痛っ」
叉梨は転んだときに足を打った。走れない。
「見つけた。かわいい子。」
「ぃや…」
「やっと会えた。僕のおもちゃ。」
「ぁなたのおもちゃじゃないわ…」
「僕のおもちゃ」
「や…いや」
叉梨は後ずさりするが、そこには木。もう下がれない。
「…僕の…」
「いやぁ」
叉梨は押し倒された。
「きゃああ…んん」
口と両手をガムテープで縛られ、上の服を破かれた。
叉梨はおびえ、もう駄目だと思った。その時だった。
「叉梨!…ぁ」
健は、叉梨の状態を見た瞬間、唖然とした。
「ぶち殺す!」
バキドカバキドゴバキドコ
男は気絶した。
健は自分の着ていたトレーナーを叉梨にかけてから、口と手のガムテープをとった。
「・・・。」
叉梨は震えている。当たり前だろう。
「とりあえず、うちに来い。な、」
叉梨はうなづいたが、動けそうにない。
「…。」
「ぁ」
健は叉梨を抱きかかえ、(いわゆるお姫様だっこだ)家に連れて行った。
「ほれ。」
健はバスタオルを渡した。
「え」
「シャワー浴びてきな。きもちわりぃだろ。」
「…ん」
………
「…ありがと」
「オレのトレーナーしかなくて悪いな。」
「女の人用のがあったら…やだよ」
「散らかってて、悪いな」
「いいよ。大丈夫。だけど…。」
「…?」
「…っ」
『ドキ。』
叉梨はなき始めた。幾分落ち着いたのだから、ま、いいタイミングだろう。
…
「健くん、ね、お願い…あるの」
泣きじゃくりながら叉梨はいった。
「そのお願いとやらの内容による。」
「…抱きしめてください。」
「え」
「お願い。」
「…ったく。」
健は叉梨を抱きしめた。健の腕の中で叉梨はまだ震えていて、泣いていた。ずっと泣き続けていた。
『なんでだ?叉梨が愛しい。……ん?前にも確か同じようなことが。』

2年位前

(ここは潤二が告った公園である。)
「きゃぁ。誰か!」
少女が公園の中を助けを求めながら走っている。そして健の横を通り過ぎた。後ろから走ってくるのは男だ。
「ったく…」
健はその男が走ってくるのをよく見て、タイミングをみはからって足を出した。案の定男はその足にひっかかって転んだ。
「ちくしょ〜!お前なぁ!」
男は健をにらみつけた。
「あ?なんだよ」
健はにらみ返した。おとこは蛇ににらまれたかえるの如し固まった。
「おっおっ覚えてやがれ」
『逃げながら…。なんてカッコ悪いんだ。』
「おいっ!そこのおまえ…。」
「…え」
「もう平気みたいだぜ」
「…。」
その子は、状況を理解すると、その場に座り込み泣きじゃくっていた。
「どうしたんだ?」
「…。あの人が…私を…」
よくよく見ると、その子の上半身の衣服は乱れていた。
「大丈夫か?」
「…なんとか。」
その子は泣きじゃくっていた。そのままにしておくわけにはいかず、健は側にいた。
「あの、もし変なことなんですけど、抱きしめてくださいませんか? 」
「え」
「怖くて・・とまらなくて…震え…」
「オレでよければ。じゃあ、あそこのベンチで。」
「はい。」
……
しばらくそのままだった。
「…ありがとうございました。」
「いえ。」
「あの、私、波木叉梨といいます。」
「あ。オレ木羽健です。」
「本当に、ありがとうございました。」

「あっ」
「え」
「あああ」
「え・え・え」
「おまえ、あのときの女!」
「え」
「二年位前に、おまえをオレ…助けたことがある。」
「…思い出してくれたね。」
「…」
「遠い昔にあったけど覚えているのは私だけだった。あのときに私にくれた優しさは本物だったと信じてる。
いつかあなたと二人で仲良く歩ける日を私は夢見てる。そして私はあなたが羽を休める場所でありたい。」
「さっきの詩」
「…健君のことだよ。」
「オレの…。」
「うん。これでやっといえる。」
「は?」
叉梨は健に抱きしめられたまま、背中に手を回していった。
「やっと…いえるの。」
「何を」
「私は…健君が……………大好きだよ」
「え。別に今聞いたわけじゃないし、まえから聞いたことあるぜ。」
「違うの。」
「へ?」
「今までのは冗談半分。だって、思い出してくれないんだもの。でも」
「でも?」
叉梨は健からすこし離れて言った。
「今のは、本気だよ。愛してる。」
「…。」
「・・・世界で一番…あなたが好きです。」
「…。」
「…。いつか二人で仲良く歩ける日を…」
「!」
「私は夢見てる。」
「…。」
「そして私は」
「…」
「あなたが羽を休める場所でありたい。」
「…。」
「いつか。だよ。」
「え」
「今はいらない。このまま振られたら、壊れてしまうから。」
「…オレは」
「え」
「ん・・いや。なんでもない。……実を言うと…さっき、愛しいって思った。けど、オレはおまえを幸せにはできない。」
「健君の考える幸せは何?」
「普通の幸せ。」
「結婚とか、そういうのじゃなくて?」
「ああ。違う。」
「…付き合わないということでも…なくて?」
「それも…………………………………………違う」
「じゃあ、どういう…」
「やさしくは、できない。冷たくしか多分接することができない。恋人って感じじゃなくて、今のまま。
冷たくしか、当たれない。」
「…。もし、私があなたに抱きついたら?」
「抱きしめる」
「もし、私があなたの手を握ったら?」
「握り返す。」
「もし私があなたを愛してるといったら?」
「照れる。」
「ちょっと!」
「…。オレも言う。」
「もし、私が、あなたより生きていられなかったら?」
「え」
「どう?」
「…。なき続ける。そして忘れない。」
「ありがとう。それだけで、私は十分すぎる。付き合って欲しいの。」
「…それでもいいなら。」
「愛してる。」
「オレも……君を愛している。」
「…ぁ」
健は叉梨を抱きしめた。今は叉梨が愛しい。その感情しかなかったから。
「君を…愛している。」
「………。」
叉梨は泣いていた。ずっとずっと…。
「なっなんで泣くんだよ。」
「…ずっと待ってて、やっと…健君の彼女になれたから、うれしくて…。うれし泣きだよ…」
健はそんな叉梨が好きだと改めて思い、きつく抱きしめた。そしてそのまま眠りについた。





どんなにひどく当たっても君は笑顔だった




健はある公園にいた。ここも叉梨とあった場所だ。場所を指定したのは、健だった。

「健くん!」
「おせぇぞ、」
「ごめん!だって遠いんだもん。私の家から。」
「おせぇ。」
「ごめん…。でも、ここきれいだねぇ。私こういう雰囲気のところ大好き。」
「…。」
「怒ってる?じゃあ、話してくれないね。なら詩を書くわ。暇だし。」
「…。」
「ん〜…。
……………………………
「できた。」
「見せろ。」
「ん。」
「…。さて、作るかな。」
「合格?やった。」
「…。
…………・・・
「歌え。」
「ラジャ。」
……
「いつか二人で歩ける日を夢見ていた私にとって
 今は一生で一番大切時間がすぎるのがとても惜しい
 日が沈んでしまうかもしれないと考えると寂しくて
 いつまでも一緒にいたいどんなことがあっても側にいて
 そしてもし私がここからいなくなったらさみしく思って」
……
「ふぅ」
「悪かったな」
「…。どうしたの?熱でもある?」
「…。ぶち飛ばすぞ」
「ごめぇん」
「…。」
「わっ」
健は叉梨を抱きしめた。
「なんか…オレすげぇ嫌な奴。」
「え?」
「オレさ」
「ストップ!」
「え。まだ何も言ってないぞ」
「わかってるよ。いいよ。聞きたくない。」
「なんで!」
「いいじゃない。聞きたくないものは聞きたくないの。それに大体わかるから。いいよ。
時々こうして抱きしめてくれたりするだけでいい。だから。たまに抱きしめてくれるときは、もっと強く抱きしめて欲しい。」
「…。悪い。」
「あやまんなくてもいいよ。」
「叉梨…。」
健は叉梨にキスをしようとした。
「だめっ」
「え・」
「ごめん。だめ。どうしても。だめ。」
「叉梨」
「…。ごめん、だめなの。キスとかだめなの。」
「わかったよ、条件付きだな。俺達。」
「そうだね!」
「実はさ、ここ、叉梨がすきそうかなって。」
「ぇ。だから、誘ってくれたの?」
「……………………………………………あとはご想像にお任せします。」
「きゃ〜。ありがと〜」
「…。」
「あ。照れた。かわいぃ。」
「おまえなぁ」
「ごめんごめん。きゃはは。」
「…。」





君の異変は心に引っかかったが、君は何も言おうとしなかった




健は海に来ていた。前叉梨といったのとはまた別の海に。
「ごめん。どうしてあの時、オレは…」

ここは健たちの働く音楽事務所だ。
Trrrr
「はい。…はい、少しお待ちください。健!」
「?なんだよ。潤二。」
「か・の・じょ・」
「は?」
「彼女から電話。」
「…。いいか!事務所で!今後一切!そういう口の聞き方を!するな!」
「…。ちぇ。それより早く出ろよ。」
「わぁってるよ」
【もしもし】
【ごめん】
【いいさ、今回悪いのはあいつだ。そういえばオレの家電教えてなかったしな。で?】
【あのさ、明日と明後日と明々後日、あいてない?】
【あけようと思えばあけられるぞ。その代わり、叉梨が詩を書けば。】
【書く書く。】
【じゃあ、いっとく。】
【うん、じゃあ、今からそっち行くね。】
【…。ちょいタイム。】
【え?】
【…にある、…って喫茶店の中で。待ってろ。】
【うん。わかった。じゃああとでね。】
【ああ。じゃあ、あとで】
「潤二!」 
「はいっ」
「聞いてたよな?」
「・・。はい。」
「というわけで、明日から、数日休むから、社長に曲作りのたびに出たっていっとけよ。」
「オッケー。」
「じゃあ。」
「え。もう帰るのか」
「もちろん。じゃあな。」
「ごゆっくり。」
「ぶち殺されたいのか?おまえ」
「いいえ。」
「じゃあな。」
「ああ。」

「あ。健くん」
「悪い。」
「いいって。」
「で?」
「あのね、明日から、旅行に行こうよ。」
「…は?」
「海よ海海」
「…。」
「いきたいっ!ね、行こう!」
「ったく…わかったよ」
「わぁい。じゃあ、明日私の家まで迎えに来てよ。」
「叉梨の家なんかしらねぇよ。」
「んと…健くんの家がここでしょ?」
叉梨は紙を出して、説明しだした。
「ここをこう行って、こう行くと、こうなるでしょ?」
「ああ」
「だから、ここをこう行って、ここを曲がって、こう行って、こう曲がって、」
「ああ」
「ここを曲がって、ここをまっすぐ行くと、こういうところがあるでしょ?」
「ああ」
「そこだよ。」
「へぇ。」
「じゃあ、明日ね。」
「あんなところにあるなら、送っていく。」
「え」
「送ってってやるって言ってんだよ。」
「……熱でもある?」
「わかった。歩いて帰れ」
「乗せてって。」
「ほれ。早く乗れ。」
「は〜い。」
健は普通なら回り道をして帰らなければならなかったのだが、まっすぐ送って行った。
しかし叉梨は何も言わずに笑顔で助手席に乗っていた。
健は叉梨を下ろして時間を聞き、その時間に迎えに行くといって帰ってきた。
「…。ふぅ。」
ふと健が鏡を見ると笑顔だった。
「…。ったくオレってやつは…。」
『本当に…心から、叉梨が好きだ。』

次の日
「あ。健君!」
「よぉ。」
叉梨は健の車の助手席に滑り込んだ。
「じゃあ、行くか。」
「えぇ。…」
「どうした?」
「え?あ・なんでもないよ。平気」
「??そっか。じゃあ、具合悪くなったらちゃんと言えよ。」
「はいはい。」

健は繁原間にいた。「一番最初にとまったのは、ここだったな、あいつ…楽しそうだったな。あの時。」

繁原館
「わぁ。海がよく見える。」
「それが売りだから見えなきゃしょうがねぇだろうが!」
「…。そっか、」
「にしてもなんで海なんだ?この時期じゃ入れないぜ。冬なんだから。」
「わかってるよ。冬の海って、きれいだと思わない?」
「いつでもかわらねぇと思うが。」
「そう?そうだよね」
「??」
ガラ
「あの、お客様」
「?はい?」
「今日偶然なんですけど、近くでお祭りがあるんですよ。」
「お祭り?なんて名前のお祭りですか?」
「結城祭です。」
「結城…祭?」
「えぇ。カップルで行くと、幸せになれるって言う…。」
『叉梨ってこういうの好きそうだな。いくはめになるかも。』
「じゃあ、いいや。」
「?」
「そうですか。気が向いたらごゆっくり。
あと午後八時ごろから、ここから花火がよく見えます。ごらんになってください。」
「ありがとうございました。」
パタン
「?珍しいな。おまえ。」
「え?」
「好きそうじゃん。祭り」
「…好きだけど、結城祭は嫌なの。」
「?なんで?」
「…夜に…お話するね。花火見ながら。」
「?ああ。」
…
夕方、健は風呂に入って戻ってきた。
「はぁっはぁっ」
「?叉梨?」
「っ…あ。健…くん」
「どうかしたか?」
「なんでもない。私も入ってくるね。」
「?ああ。」
叉梨は出て行った。
『なんか…おかしい。あいつ何か隠してる?』
…。
二人は食事を食べて、夜、花火を見ていた。
「きれいねぇ。」
「そうだな。にしても、なんで祭りは…。」
「…。実を言うとね、旅行、急に決めたの。」
「え?」
「結構前からってわけじゃなくて、昨日、決めたの。」
「?なんで?」
「、気分よ。気分。」
「?」
「でね、ここで私、過ごしたことがあるの。三ヶ月。」
「三ヶ月?」
「2番目のお父さんがここにいたの。」
「?」
「私のお母さん、いっぱい結婚しててね、ここに2番目のお父さんがいたの。
お父さんは、すごくギターがうまくて、ここの町でも有名だったの。」
「それで?」
「お父さんの名前は、雪原結城(ゆきはら ゆうき)」
「結城?って、もしかして」
「お父さんは、殺されたの。だけどちゃんと、犯人は捕まったわ。でもお父さんは、もういない。
そこで、ここの町の人たちが、結城祭を作ってくれたの。だから、行きたくなかった。お父さんが作った曲が…流れて、嫌だから。」
「この曲だろう?」
健はいきなり曲を弾き始めた。
「?どうして知ってるの?」
「オレは曲を作るのが仕事だぜ。
だから、雪原結城さんのことはよく知ってる。だから、ここの結城祭の由来も知ってる。事故だって聴いたけど、違うんだ。」
「えぇ。違うわ。」
「てことは、」
「ん。今回行く三箇所はみんな私が前に行ったことのある場所だよ。」
「一番目の…ようするに、叉梨のお父さんは?」
「…。すぐ死んじゃった。そのときの医学じゃ、助からない病気で。」
「…」
「?どうしたの?考え込んで。」
「悪い・・・」
「え・きゃっ」
健は叉梨を押し倒した。
「ん…ゃ。やだっ」
健は首筋にキスをした。
「いやっ……やっ………っ」
叉梨は軽く胸を押さえ、苦しんだ。(一生懸命こらえていたみたいだけど。)
『やっぱりな。』
健は叉梨を起こして抱きしめた。
「つっ…」
「ごめんな。」
「…っ」
「やっぱり叉梨…おまえ身体、悪いんだろう。」
「っそんなこと…………ない…っ」
「…じゃあ、今の苦しみ…発作は何だよ?」
「それは・・・」
「叉梨!」
「違うもの。違うの!」
「…。叉梨…」
「お願い。信じて。違うの。」
「………………信じられるわけねぇだろ」
「お願い。」
「………………………………わかったよ。三日間、ちゃんと付き合うから。その間だけだからな。信じるのは。」
「………はい。」
「それと…悪い。」
「え?」
「おまえの…叉梨の発作、確認するために、荒々しいまねして悪い。」
「…。なに」
「え」
「なに?」
「……悪い。キスマークつけちった。首筋に。」
「…。ばかぁ!」
「おやすみ。俺もう寝る・」
「…。おやすみ…」
「叉梨!おいっ」
「ばーかばーか。」
「…。くっ…」
「怒りで震えてるわよ。」
「…我慢してやるよ。今日は。」
こうして二人は三日間をすごした。

でも、オレは、戻ってきてからもわからなかった。君の病気のこと。まさかそんなに悪いものだとは思っていなくて、また君を怒ってしまった。
だけど、君は笑顔で…オレは………あの時、本当に何もできなかった。俺が無理にでも、叉梨を返していたら…そう思った。





君は突然…




あれは、旅行から帰ってきて、4日目くらいだったと思う。

Trr
「はい。」
「健君?叉梨です。」
「どうした?」
「あのさ、今日、会えないかな。」
「急だなぁ。」
「ぁ。だから、無理ならいいの。」
「平気だよ。たぶんな。その代わり、遅くなると思うけど」
「ん・じゃあ、家で待ってる。健君の家で待ってる。」
「??ああ。」
「じゃあね」
「ああ。」
ガチャ
「ふぅ。今日も仕事を頑張らねば。」
健は事務所に行き、曲を書いた。
『そういえば…
旅行から帰ってきてから、叉梨は言っていた。
【あのね、四日後、私誕生日なんだ。】
【へぇ。】
【へぇって?】
【?なんだよ】
【?何もないの?】
【何が?】
【…。もう、いい】
てな事があったな。しょうがねぇな。』
健は、一生懸命になり、詩を書き、曲をつけた。
………
「やっべぇ。すっげぇ遅くなっちまった。」
…
健の家
「あれ?明かりついてる。誰かいるのかな。」
ガチャ
「あ。お帰りなさい。」
「………は?」
「?どうしたの?」
「な。なんでいるんだよ。」
「今朝のこと、覚えてないの?」
「あれからずっといたのか?」
「そうだけど?」
「…悪い。」
「気にしないで。それより、その袋、何?」
『めざとい奴。』
「やる。」
「え…。」
「…いらねぇなら、返せ。」
「いるっ…ありがと。」
「…。」
「あけてもいい?」
「ああ。」
…
「CD?」
「かけてみ。」
「あ。うん。」
♪♪〜♪♪♪〜♪〜〜
「いい曲ね。あれ?」
叉梨は、CDのところについている紙をようやく見つけた。
「…。」
叉梨は真剣に読み、そして…
「わっ」
叉梨は、健に抱きついた。
「ありがと。」
「おめでとう。」
「え?」
「誕生日…おめでとう。」
「…。ありがと、ありがと、ありがと。」
「飯」
「…。うん。」
二人は一緒に仲良く、仲良く、ご飯を食べた。
「私、じゃあ帰るね。」
「?ああ。でも、どうしたんだ?今日。」
「…。会いたくなっただけ。急にね。」
「じゃあ、」
「うん。さよなら。」
「ぇ・」
オレは確かにその「うん。さよなら。」という言葉に疑問を抱いた。
あとから、この言葉の何処に疑問を抱いたのか、俺には嫌というほど、わからされたのだ。
「?」
『何か変だ。』
…。
何か変な感じを受けたものの、健はいつもどおりに仕事場へ向かった。
「おぉ〜健、聞いてくれよ。」
「?やけにうれしそうだな。」
「ああ、昨日な、雪と」
「雪さんと?」
「やったんだ。」
「?」
「…。」
「…。そっか。」
「あ、ああ」
「?どうした?」
「なんでもねぇ。俺帰っていいか?」
「気をつけろよ。」
「?ああ」
『あいつだ。あいつのせいだ。あいつがいないから。だから、こんなにへんなんだ。
叉梨が…叉梨が、うっとおしいくらいに俺の隣にいたのに、いま、隣にいないから。
さよならって…なんだよ。』

オレはそのとき、すぐに叉梨に会いたかった。
だけど叉梨はオレに何の連絡もよこさない。俺にしてはかなり早くおかしいと思った。
そして、オレに手紙が届いたんだ。

「手紙?誰から…?…叉梨」
叉梨からの手紙を受け取るのは初めてだった。
中には手紙とひとつの詩が入っていた。

健くんへ

旅行中にどうしてもいえなかったことがあります。
それがなんだか、わかりますよね?
私の病気のことです。
健くんは鋭かったです。私の病気のこと、すぐにわかってしまったから。
誰にもばれませんでした。もちろん雪も知りません。
私の病気は父とよく似ています。
治る可能性はあるけれど、その可能性は極めて低いです。
ドナーがいないから。
私の病気はドナーがいなければ、死んでしまいます。
そして今の段階で、ドナーはいません。
そして旅行に行くと決めた日は、私の命の期限が、あと1週間と少ししかないと聞いた日なのです。
もう健くんに会うことはできません。今の段階でいないのです。
もう私は死ぬことを覚悟しました。
父も、母も、健くんを傷つけてはいけないといいました。
本当は手紙を書くことも、とめられました。
だけどどうしてもあなたに真実を打ち明けたかったのです。
この手紙を読んだことで、あなたを傷つけてしまうかもしれません。
こんな手紙を書いたことを心からお詫びします。
そして、黙っていなくなったこと、
なたの前から消えて、死んでしまうこと、
きちんと話せなくて、ごめんなさい。
最後の想いを詩にしました。
私のことはすべて忘れてください。
そして、誰かほかの人と、幸せなときを…。
さようなら。
             波木叉梨

きっと君がここにいたから
私は笑顔しか知らなかった
だけど私は君とさよならする
君の側にずっといたかった
だけどそれはできなくて
だけど伝えたいことは一つ
私は誰よりも愛を感じていた
誰より幸せなときを過ごせた
こころからあなたを愛している

 
オレの涙がとまることはなかった。
そしてオレの悲しみが癒えることも。
今までもそうだった。
どうしても癒えなかった。
だけどたった一つの幸福は、君を、叉梨を、忘れなかったこと。
俺が君を愛した証は、数々の曲に乗って、いろんな人に、聞かれる。
そして、オレの彼女はやっぱり君しかいないんだ。





You are my treasure.





オレはほんの少し考えて、出来上がったアルバムに、you are my treasure.と、タイトルをつけた。
叉梨との想い出をのせたこの曲たちは、聴いてくれる人は少ないかもしれない。
だが、聞いてくれる人は一人くらいいるだろう。
オレは、君とのことは忘れない。
君がいくら忘れようとしても、忘れない。その気持ちを十分すぎるほど込めた。
そしてオレはアルバムの裏面に書く言葉を次のようにつづった。

このアルバムは、私が心から愛した女性を想い
その女性と過ごした中で作った曲をすべて収録したものです。
皆さんは、照れてしまったりして、本当に愛している人が
よく見えないことも多々あるでしょう。
私もその女性に優しく接することができませんでした。
私は皆さんに私と同じことを繰り返して欲しくありません。
愛する人がいたら、素直にその人を愛し
幸せな日々をすごしてくれることを願っています。

木羽健


オレは曲のタイトルの最初の字を最初から見ていくと、さり 君を誰よりもあいしている。というようになるようにした。
アルバムは、オレの決意の表れであった。
もし、もし…もしも、叉梨が生きていたとき、自分の前に姿を現さなくても、オレは君を、愛している。という…

オレはアルバムが発売されてから、反響がどれくらいなのか、近くのCDショップに見に行った。
「あの、木羽健さんのアルバムはどこにありますか?」
「あ、あと一枚残っていますよ。あそこにあります。」
「一枚?」
「はい。」
「ありがとうございました。」
俺は疑問を抱きつつ、行ってみた。
「あ。一枚」
そしてそこにはメッセージカードが…
「木羽健さんのアルバムYou are my treasure.は売り切れ寸前のため、近日追加で入荷される予定です。
購入希望の方は、レジまでお越しください。」

「売れているのか…。うれしいような…なんともいえない気分だな。叉梨…君とオレとのアルバムは、いろんな人に、聞いてもらえてるみたいだよ。」
俺は少し離れて自分のCDをみていた。するとそこに女の人が来た。
少し離れていたので、顔はわからなかった。女性はオレのCDをしばらく眺めていた。手に取るのにためらっていたようだ。
しかし意を決したかのように、手に取った。そして、しばらく眺めて、後ろを見た。
後ろには俺の書いたメッセージが載せられている。
そして、曲目も…。
「・・・。」
女性はそのCDを持ってレジに行って買った。
オレは自分のアルバムを買ってくれた人を見るのは初めてなので、ついていくと、女性は外に出て、座るところを探していた。
そして椅子にすわり…CDを抱きしめ、泣き始めた。
『…どうしたらいいんだろう…俺。』
「つ…よし…くん」
『え』
「つ…よし…く…ん」
聞き間違いではなかった。
『叉梨?』
女性はもう一度後ろをみた。そして…また…泣いて、またオレの名を呼んだ。
「つよし……くん」
オレはもう黙ってみていることなんて、できなかった。
「叉梨?」
「え」
女性は、オレを見た・・。その瞬間オレは…
「きゃぁっ」
抱きしめていた。止められなかった想いがあった。
「叉梨……叉梨……叉梨……叉梨……叉梨…」
オレは何度も叉梨の名を呼んだ。
「ゃ。やめて…健くん。いたい」
そしてオレは、こらえきれなかった。熱い想い。
叉梨への熱い想いは涙に代わり…俺の頬をながれていった。
オレは叉梨を抱きすくめたまま、涙を流した。
「健君…」
そんな俺を感じて、叉梨はもう「やめて」とは言わなかった。
「ごめん…ごめんなさ…」
オレは顔を大きく横に振り、ずっと抱きしめた。
そして涙はかれるくらい、オレの頬を、いやというほど、つたっていった。
…
涙が止まってしばらくたってから、オレは叉梨を離した。
「どういうこと…なんだ?」
「…ここで・話すの?」
「ならどこが…。」
「…健君の…あなたの家で」
「…わかった。あの…さ。」
「なに?」
「手…つないでもいいか?」
「え」
「…。」
「いいよ。」
「サンキュ。」
オレは手を出した。すると叉梨はその手をよけて、俺の腕に腕を絡ませた。
「…。サンキュ。」
「ん、」
俺達はゆっくり歩いた。オレの家まで。
ガチャ
「変わって…ないね。」
「…変えなかった。」
「え・」
「あのときから、何も変わらない。すべて、元のまま。怖かったんだ。」
「…。」
「座ろう。」
「ん。」
二人は座った。寄り添って。
「あの時、もう生きてられなくて…そういうこと知って、怖かった。
本当なら、抱きしめていて欲しかった。
残された時間を健君と生きたかった。それを父と母に言ったら、」
「傷つけてはいけない。か。」
「ん。だから、さよならすることにしたの。」
「…。」
「だけど、一週間生きられた。そして、ちょうど一週間たった日、ドナーが現れて、手術したの。
あと1日遅かったら、死んでたって言われた。」
「…。ゎ」
オレは叉梨を抱きしめた。
「…。」
「命は取り留めた。回復もした。だけど、怖かった。
逃げ出したの、私だから。
怒っているって、もう私のことなんか忘れてる。もう私のことなんか、愛してくれてない。って思って怖かった。
だけど、勇気だして帰ってきたの。それで健君が、アルバムを出したことを知ったわ。
ここで見たら、健君にあっちゃうかもしれない。だけど、なるべく早く見たかったの。
でも買うつもりなんかなかった。だけど、裏面を見たの。そしたら、どうしても、これを側に置いておきたくなった。
私を愛してくれてたって。だけど、やっぱり怖くて…。でもうれしかった。
明日、父と母は外国に行くの。だから、さよならのままでいいや。って。思った。だけど、うれしくて、」
「…………行くのか?」
「…わかんない。」
「行くな。」
「え」
「行くな。言って欲しくない。側にいて欲しい。ずっとオレの側に…、」
「…。」
「待ってろ。」
「え」
オレはある引き出しを開けた。
それがそこにあることを俺は一度も忘れなかった。
俺はそれを持って、叉梨の元へ戻った。
「手。」
「え。あ。うん。」
叉梨は手を出した。両手でオレから小箱を受け取った。
「あけても…いいの?」
「あぁ。あけてくれ。」
「ゆびわ。高そうね。」
「当たり前だ。オレがはめてやる。」
「ん。」
叉梨は右手を出した。俺は左手を取った。
「え」
俺は薬指にはめた。
「これ」
「3年前、渡そうとしたんだ。曲と一緒に。だけど、まだ怖くて。俺、渡せなくて、いなくなっちまうんだもん。どうしていいかわかんねぇよ。」
「…。行かない。」
「え」
「行かない。絶対に行かない。ここにいる。ここにいたい。」

少し余裕が出てきた俺は叉梨をからかった。
「どこに行かないって?」
「ばか。」
「ぇ」
叉梨はオレの唇に叉梨の唇を重ねた。
俺達の、初めてのキスだった。
「ここに…いる。外国になんか、行かない。」
「…」
オレは呆然としていた。いままでオレは人とキスをしたことがない。
前はほんとうに勇気を出して口付けようとしたが、断られた。だが、なぜ?
「な・」
「もう長く生きられないってわかってたから、嫌だったの。
健君は、キスをした相手にしなれたら、異常なほど悲しいでしょ?」
「あ・ああ」
「でももう、私、生きられるから・」
「………………叉梨。おまえ、気づいたか?」
「?何に・」
「叉梨が買った俺のCD出してみ。」
「え?ん。」
叉梨は見た。
「これが、何?」
「裏・」
「え?」
「タイトルの一文字目だけとって、並べてみ。」
「えっと…さ…り…君を…誰より…も…あ…い…し…て…い…る……」
「叉梨、君を、誰よりも。あいしている。」
「つ・・よしくん…」
「You are my treasure.…叉梨」
「ぇ」
「君は、オレの、宝物だ。」
「…ありがとう、」
「叉梨、君を誰よりもあいしている。こころから。だから、結婚してくれ。」
「………………は…い。」
「君は、オレの、宝物だ。叉梨…」
「健君…」
オレはどきどきしながら、叉梨に口付けた。
長い口付けのあと、俺達は抱き合った。
永遠にそのままであるかのように、抱き合った。
叉梨、君はオレの宝物なんだ。
宝物なんだ。
もう二度と、君を、離さない。
俺は君だけを愛し続ける。

叉梨、君が生まれてきてくれたことが、俺にはすごく嬉しいんだ。
ありがとう。
これからもずっと、俺のそばにいてくれ。



ばっく