〜「別れ」それは「旅立ち」〜 —これは…5歳のときの…記憶?— —あ。お父さんっ…お母さんっ…— 渉は洸を呼んだ。 「洸、おいで。」 小さい洸は素直に応じ、父の元へ行った。 「な〜に?」 渉はまぶしそうに洸を見つめ、もう寝る時間であることを告げる。 「お休みの時間だよ?」 やはり素直に応じ、洸は笑顔でうなづいた。 「うんっ。」 母、光はそんな洸をまぶしそうに見つめ、挨拶をする。 「おやすみ。洸」 母の優しいその声を聞き、洸も挨拶を返す。 「お母さん、お父さん、おやすみなさいっ。」 「おやすみ、晄?」 父は兄にも声をかける。 「なんだよ?」 「おまえも寝なさい。あと、洸を連れて行ってやりなさい。」 「ちぇっ。わかったよ。」 もう反抗期に入りかけているが、晄は了承する。 「ほら。洸〜いこうな?」 両親に対してはぶっきらぼうに接しているが、できて数年しかたっていない妹が好きらしく、優しく洸に話しかける。 「うんっ。お兄ちゃんっ、一緒に寝よう?」 その申し出に兄は少しためらい、両親のほうを見る。 そんな兄の無言の問いかけに、両親は笑顔でうなづいた。 「よ〜しっじゃあ兄ちゃんと寝るか?」 「うんっ」 —優しいのね、お兄ちゃんはいつでも— —もっと…ずっと…見ていたい— 〜だめよ?〜 —え?— 〜だめ。今の生活を見つめて、精一杯生きて?それが望みなんだから〜 —誰?— 〜内緒。さ。今の生活に戻りなさい〜 —ちょ— 「…か!…のか!…ほのか!…洸!洸っ!」 「…?」 誰かの声で私は目を覚ます。 目をうっすらと開けると私を呼んでいた声の持ち主はため息をつく。 「は〜。やっと起きたな、洸。」 目をもう一度押し開けると、そこにいたのは兄だった。 「おにーちゃん…おはよう…。」 「もう昼だ。何時間寝てるんだよ?」 「ごめ。」 私は寝すぎの背中の痛さに耐えつつ、起き上がる。 「あ。完璧に起きたら俺に声かけろよ。」 「え?今日はドコもいかないの?」 いつも友達と遊びに行くのが兄の休日の過ごし方だ。 「ったりまえだ。早くしろよ?」 「うん…。」 その時、兄の行動がいつもと少し違ったような気がしたのは、気のせいじゃなかった。 ご飯を食べ終わってから兄の部屋に入る。 「お?来たか。」 「うん。」 「おまえ高校、どこにすることにしたんだ?」 「ん〜。やっぱりちょっと遠いんだけど、桜梅(さくらばい)高校にするよ。」 桜梅高校は最初に名前で気に入って、調べてみたらかなりいい学校だった。 担任の先生いわく、確実に入れるだろうと言うことだった。 ちなみに私の進路の話をどうして兄妹でするのか、それには理由があって・・・ 「そっか…なぁ洸。」 「なに?」 「もう、大丈夫か?親のこと。」 ドキッ 実は、夢に出てきたお母さんとお父さんはすでに死んでいる。 あの夢に出てきた日はわたしの誕生日だった。あの日の夜に、父と母は誰かに殺された。 両親の死が私のせいであることが最近わかった。 必死に隠そうとした兄も私が悟ったことを知ったとき、すべてを話してくれた。 両親は私に託してあった指輪とネックレスを狙った者によって死んだ。 その指輪とネックレスと言葉によって開く洞窟の中に隠された物の中身が狙いだったらしい。 その言葉は私が知っている。 どうして兄にその言葉を教えなかったのかはわからない。 とりあえず、私だけが知っている。 そして私と兄は父の妹から仕送りをしてもらって、二人で住んでいる。 だから兄は、私のたった一人の肉親なのだ。 両親のことは私に殺された理由を話してもらった時以来、話されることはなかった。 だから、とても驚いた。でも、その後の言葉のほうが驚いた。 「どうしたの?お兄ちゃん?」 「ん…ちょっと。」 どんなに長い年月がたっても、心の傷は癒されない。 「傷が癒えることはない。だけど、もう、大丈夫、だと思うよ?」 「そっか…洸、俺は…ここを出る。」 「え?」 —今、なんて言ったの?お兄ちゃん?— 「俺はここを出て、おばさんのところで暮らす。そして、警官になる。試験が受かったから。」 「な」 —警官の試験を受けたことは知っている。その決意も聞いた。だけど…。— 「おまえはここを出て、もう少し近いところに引っ越せ。」 「…」 —わけわかんない!どうして急にそんなこと・— 「おに…いちゃん……」 兄はすごくつらそうな顔をしていた。 だから兄はなんらかの事情により、私と離れざるを得ないという事が推測できた。 きっと私には言えないことが兄にはある。 だけどそれはきっと私を傷つける言葉。 両親が死んだのは私のせいだとか、 なんであなたたちの面倒を見なければならないのかとか、 きっとそんな言葉を聴かされてきたんだと思う。 —いつまでも…甘えてるわけにはいかないね?— だからって賛成できる案じゃないけど、しょうがないと思う。 私は高校生になる。そして、生きる。 きっと父と母はそれを望んでいたはずだから。 「わかった。がんばるね。私。」 「おぅ、頑張れ。なんかわかんないとこあったら聞けよ?」 「もちろんっ。」〜「出会い」それは「運命」〜 私は無事、桜梅高校に合格した。 その合格は嬉しかったけれど、兄と別れることが寂しかった。 でも寂しがること、嫌がることは兄を喜ばせることがないことはわかっていたから、涙を浮かべながら「さよなら」を言った。 「おまえが元気で健康で明るく生きること。それが父さんと母さんの願いだから、頑張って生きろよ?」 「うん。」 兄は私を見送り、おばさんのいる隣の県へと旅立った。 私は、と言うと桜梅高校から徒歩15分くらいのところにあるマンションに引っ越した。 両隣にはタオルではなく、兄と住んでいたとき近くにあったおいしいお菓子を持っていった。 そして私は入学式の日を迎えた。 ジリジリジリジリジリジリジリ 「…うっさい。」 私はむくっと起き上がり目覚ましを止めた。 今まで耳障りだった音は消え、部屋には静寂が流れた。 「ったくなんでこんなに朝早く目覚ましかけたのよ?入学式の日でもないのに……」 —ん?— 「あっやばいっ!入学式の日だった。あ〜よかった、まだ大丈夫だっ。」 今度は跳ね起きて、様々な準備をしてから朝食を食して学校へ向かった。 15分の道のりを歩いて学校へ行くと校門には人だかりがあった。 その人だかりは体育館に続いていた。人だかりの進む方向へ私も歩いた。 体育館の入り口でクラス編成の書かれた紙を渡され、自分の名前を探すと3組だった。 —あの時も…1年…3組だったな。— 父と母が殺された2年後、私は小学校へ入学した。 そのときのクラスぃ柿箸世辰燭里世辰拭 私は気を取り直して長ったらしい話を聞く入学式を終えて、教室へ向かう。 その時に回りにいた両親を持つ同じ年代の子に嫉妬してしまった。 「え〜君たちの担任になる細田信太(ほそだ しんた)だ。 担当教科は英語で、背は…確か183cmあったと思う。というわけでよろしくな? 早速だけど、この重苦しい雰囲気が俺は嫌いだから、次の時限に自己紹介をしてもらう。名前、特技、 家族構成、誕生日を言うように。できればもう一言付け加えてくれ。じゃあまず生徒手帳を配るぞ。」 突然の先生のこの申し出に教室中のすべての人間が頭を抱えていた。 —家族編成…言いたくないなぁ…。— 「芯崎?」 「ぁ、はいっ」 私は立ち上がり生徒手帳を受け取りに行った。 「君は……芯崎、というのか…?」 「?はい。芯崎洸ですけども・・・?」 先生の目は見開いていた。 「そうか。君が…そうなのか…」 「先生?」 「あ、悪い。なんでもない。」 疑問を抱えつつも私は席に戻った。 その後いろいろなものをもらい、さらにその後いきなり席替えが行われた。 私は一番左の一番後ろで、隣は男の子だった。 その後チャイムが2回鳴り、運命の自己紹介がやってきた。 「じゃあ始めてもらうぞ?まず…一番右の一番前の…君、名前は?」 「相場です。」 「そうか。じゃあ相馬から始めてもらう。一番後ろの…」 「山崎です。」 「サンキュー。山崎まで行ったら、一番前の…」 「俺っすか?江碕です。」 「そうか、で、江碕へ行く、という感じだ。わかったな?」 という先生の説明により一番最初の相場さんから自己紹介が始まった。 「えっと、相場苺といいます。 特技は中学の頃からやっていた新体操で、家族は父、母、妹と私の4人で誕生日は6月14日です。宜しくお願いしますっ」 「よし、じゃあ次。」 私は相場苺さんに興味を持った。そして次に興味を持ったのは、江碕淳くんだった。 そして自己紹介は続いていき、ついに私の隣の男の子の番になった。 「神田惺です。特技は走ることで、家族は父、母、弟と俺の4人で誕生日は12月3日です。宜しくお願いします。」 そのとき私は誕生日が123だと思っていた。 「芯崎?」 「は、はいっ!」 少しだけぼんやりしていたので私は自分の番に気づかなかった。 「えっと芯崎洸です。家族は兄と私で、今は一人暮らしをしています。誕生日は6月15日で、特技は新体操、機械体操です。」 「…あ、よろしい、それじゃあ今日はこれで終わりだ。明日からは部活のオリエンテーションがあるからな。以上、解散。」〜「告白」それは「初めて」〜 私はその後教室を出て少し前の記憶を探り校門をでた。 その間、私はずっと考え事をしていた。 確かに芯崎という苗字は珍しいかもしれない。だけど、あそこまで驚く名前じゃない。 細田先生は芯崎という苗字の人に会ったことがある。 先生があったのはきっと私の血族の誰か。 だって、「君がそうなのか」って言ってたから。 でも、なんで先生のことがこんなに気になるんだろう? なんで先生の言葉を聴いた後、こんなに不安になるんだろう? お父さんとお母さんが殺されたのを知らないのかしら…。 ありえないな。だって新聞に大きく出たもの。 だったら…なに? 急にポンと肩をたたかれた。 考えに集中していたため、気配に気づかずに驚いた。 「きゃあ!」 「あっごめん。」 相手は謝ったが、少しの怒りを抱えつつ、後ろを振り返る。 「なにすんのよ!…って……確か、隣の席の、神田・惺くん?」 そう。隣の席の男の子、神田惺がいた。私服で。 知っている人だとわかり、少し安堵した。 「家、こっちなんだな?」 「はい。神田くんはこっちなんですか?」 「なぁ、敬語やめない?」 彼のその申し出にあわてて直す。 「あ、ごめん。で、神田くんもこっち?」 「ああ。八重の1丁目。」 私も八重の一丁目だからうれしくて詳しい住所を告げる。 「え?そうなの?じゃあ同じだね?私は八重の一丁目の35番地26番。」 「まじ?俺、35番地23番。」 私は近所に知り合いがいるとわかりほっとした。 「わっ近いねぇ。」 「そう言えばつい最近引越し車がいたけど…」 多分それは自分のことだろうと思った。 「あ、それ私。」 「そうなんだ。」 「うん。でもなんで私服?」 私は確かにとろとろと歩いていたから、抜かされるのは当たり前かもしれいが、気になっていたので聞いた。 「ちょっと用があって、一回家に帰って、着替えてきたんだ。」 「早いねぇ。」 「ああ、いつもダチと帰ってるんだけど、そのダチが両思いなのに、告白してないんだ。」 「あっそうなんだ。それって…相場さんと江碕くんだったりして?」 少しあてずっぽうだけど、あの二人は親しく話をしていたから、同じ中学だろうと想像がついていた。 「えっなんでわかった?」 「あたってたんだ〜。あの二人、初対面にしては仲良く話してたから、同じ中学だろうなぁって。」 「そうそう。俺も同じ。で、告白してないけど、雰囲気甘いんだ。」 「うんうん。わかる〜。」 確かにちょっと甘めだった。 「だろ?だから部活があるとき以外は走って先に帰るんだ。」 その行動に移りたくなるような雰囲気なんだろうなぁと思った。 「あ、そっか〜。私なんてこれから帰るんだよ。」 「へぇ。なら一緒に帰ろうぜ?」 「うん。」 話していて楽しいし、方向が同じなら一緒に帰りたいと思った。 「にしてもさ、芯咲さんは、どうして一人暮らしをしているんだ?」 自己紹介の内容を話題に出したので(というか、自分の自己紹介を覚えていて)驚き聞き返す。 「え?覚えてるの?」 「そりゃまぁ。」 「ん〜。ちょっと事情があって…」 「あ、ごめんな?」 すぐ誤ってくれてうれしいかった。 私が事実を話さない(思い出さない)限りは平気だ。彼の前で泣いたり取り乱したりすることは無いはず・・・ 「ううん。平気だよ?」 「そうか?」 「うん。大丈夫。あ、私家ここのマンションなんだ〜。」 「どおりで家が近いと思った。」 私は笑う気はなかったけど、笑ってしまった。 神田くんは少し照れていた。 だからだろうか、自然に言葉が出たのだった。 「どうせだから、あがってく?」 「ええ!?」 神田くんは尋常じゃない驚き方をしていた。 「そんなに驚かなくてもいいじゃない。」 といいつつも、私自身なんでこんなことを言うのかわからなかった。 「ん〜。俺今日ちょっとだけ用事あるから、玄関の前まで送る。」 「あ、さっき言っていたもんね。用事あるならいいよ。」 「行くよ。そこまで忙しくないから。」 「ありがとっ(^^)」 私は笑顔で神田くんを見た。 そしてポストを空ける。 「あれ?小包だ。」 「?来る予定のないものなのか?」 「ん?そうでもないけど、差出人、知らない人だよ。」 「知らない人?」 「うん。…あれ?」 私はやけに思い小包を見て二つのことを疑問に思った。 「どした?」 「うん…これ、切手貼ってない…。 それに、荷物って・・私に直接渡されるものじゃなかったっけ? これ、音がする。」 そう、音がした。カチカチと。 「ぇ?ちょい貸して。」 「?別にいいけど…。」 私は包みを渡した。 「まさか…これ…ありえない。だけど…なぁ、あけていいか?」 「ここで?べつにいいけど?」 私はべつにかまわないと思ったため、OKをだした。 神田くんは私に荷物を見せないように、紙を破った。 「げっ!なんでこんなもん・・・」 「?どしたの?」 その問いに神田くんは何も言わず駆け出した。私は分けがわからずに彼を追った。 「ちょっと!」 「悪いっ!後で説明する。」 特技が走る事と言っていただけあって、すごく速かった。 だけど、何の説明もなしに私の荷物を持って行ったことに対して、多少の怒りがあったので、彼を追った。 神田くんは回りに誰もいない河川敷まで走ってとまった。そして私は追いついた。 実は私も足の速さに多少自信がある。追いつくのにかなり苦労したけど・・・。 さらに言えば長距離は苦手。 「ちょっと、神田くん!」 「げっなんでおまえ……ちくしょっ!」 神田くんは荷物を向こうのほうへ放り投げて、私のほうへ向かってきた。 「え・きゃあっ」 私はいきなり神田くんに押し倒された。 「なっ」と私が言うのと、ドォーンとものすごい音が聞こえたのは同時だった。 私は瞬時的に目を閉じた。 「…よかった。無事?」 「無事…だと思う…なに今」 何今の?と聞こうとしたが、私は言葉を失った。 なぜなら認識できないほど近くに神田くんの顔があったから。 「あ゛!ごごごごごごめん!」 それだけいうと彼は私の上からどいた。 私のコドウはとても速かった。 「だ、大丈夫。」 私は顔を真っ赤にしながら起き上がった。 少し心臓を押さえてから聞きなおす。 「何今の?」 「ん…君の家に届けられた荷物…時限性の…爆弾だった。」 「爆弾?」 「そう…。」 「そうなんだ、」 「なんで君は驚かないんだ?爆弾だぜ?」 話してもいいと思った。だけど私は、神田くんが用事があったことを思い出した。 「え…。ん〜〜。話してもいいんだけど、用事あるんでしょ?だから、また今度。」 「べつにいいよ。用事なんて…」 「え?」 「だって、用事、ここから君の家に向かうまでにあるコンビニに買い物だから、向かう途中でよればいい。」 私はなんとなく引っかかっていた。さっきからずっと私から見えなくなっている右手が。 その理由は、なんとなく想像できる。だから私は胸が痛くなった。 —私のせいで…もう人が傷つくのは…いや— 「そう…なんだ。じゃあ……助けてくれたお礼と、その腕の手当て。うちに行こう?」 「え゛」 「気づかないと、思ってた?」 神田くんは少し目をふせたけど、またすぐ元に戻して言う。 「うん……。いつ気づいた?」 「見てたらわかるよ。誰でもね。」 私はバッグの中からタオルを取り出し、神田くんの右手を引っ張った。 「っ」 見た私は唖然とした。腕には数箇所の切り傷があり、その1つからはかなりの量の血がでていた。 私は迷わずタオルで彼の腕を巻いた。 「そんなことしたら血が…」 他にも何か言いたそうだったが、言葉はそこで止まった。 それはきっと、私を見たから。 眼がうるんでいる私を見たから。 「…芯崎さん?」 「うちに行こう。速く。」 それしか言えなかった。どうしても。 「用事、べつに対したことないから、まっすぐ行こうか。」 私はうなづくことしかできなかった。 腕を組むに近い形で私は家へと向かった。 家 私はぼやけた視界だと作業がやりづらいので、神田くんを座らせてから、着替えに行くと言ってリビングを出た。 —もう私のせいで誰かが傷つくのは、いやなのに…— 涙が流れたが、嬉しいことにすぐ止まってくれた。 心を少しだけ落ち着けてから、私は救急セットを持って、彼のいるリビングに行った。 「静か…だな。」 「ん…一人だからね。それより腕。」 「あ……はい。」 私は差し出された腕に巻かれたタオルをとる。 服が血に染まっていた。 「ごめんなさい…。」 「別に、大丈夫だって。」 私は首を振った。そして、なるべく神田くんに顔を見られないように、治療をした。 「ごめんなさい…」 私はもう一度その言葉を繰り返した。 「なんで、そんなに、自分を責めるんだ?」 —私のせいだからよ。何もかも— 「現に、私のせいだから。」 「だからって、」 「もう嫌なの。あのときみたいに、私のせいで誰かが傷つくのは…」 「あの時?」 「私の5歳の誕生日の日に、お父さんとお母さんは死んだの。私のせいで。」 「え?」 「私に預けていたものと、私の知っている言葉。それを狙った人たちに殺されたの。 だから、お父さんとお母さんが死んだのは、私のせいなの。 その日以来、私の家族はお兄ちゃんだけになった。お兄ちゃんは蛭間にいて、警察官になった。 お兄ちゃんは私に言ってくれた。私のせいじゃないって。 だけどドコからどう考えたとしても、絶対に私のせいなの。 その事実を知った日から、私のせいで誰かが傷つくのがすごくいやになった…。 いやなんじゃなくて、怖いの! 私のせいで…誰かが傷つくことが…死んじゃうことが怖いの! 私にかかわると・・やっぱり皆を不幸にしちゃう・・・」 その言葉を言っているとき、私は泣き始めた。 話終わって、私は両手で顔を覆った。 今まで事情を知らない人には誰にも話したことなかった。 それなのに、話してしまった。しかも泣いてしまった。 こんなに弱さを人に見せたのは…初めて…。 —なんで?なんで涙、とまんないの?— ふと、神田くんの立ち上がる気配がした。私は、といえば涙が止まらなくて、動けないし、立ち上がれもしなかった。 そのとき、ふと抱きしめられた。 その誰かは、間違いなく神田くん。 だって二人しかいないから。 「何するの?離して。」 声を押し出す。だけどその言葉で彼は話してくれなくて…逆に、もっと強く抱きしめられた。 「いたい・・。」 「ごめん。」 「ぇ?」 「俺、試験を受けたとき、君を見た。そんで君を好きになった。 理由なんかない。君すべてが好きになったんだ。そんな君を、俺のせいで泣かしちまった。ごめん。ごめん。ごめん。」 動揺していた。 まず、自分のことを好きだといったこと。 次に、私にあやまっていること。 自分があやまったのは、数知れない。だからあやまられるのは、ずいぶんと久しぶりだった。 「わたし…」 「まだいい。答えなんて、いつでもいいんだ。ただ、もう少しだけ……このままでいたい。」 「え…」 「いやだろうけど、我慢してくれ。」 「………………うん。」 抱きしめられたのは、両親が死んだ日、兄が抱きしめてくれた以来だった。 神田くんのぬくもりが、すごく暖かかった。 父よりも偉大で 兄よりも優しい 私はほっとして、眠くなってしまった。 「寝てもいい…」 「え?」 「眠っても、いい?」 「…いいよ。」 「ありがと…」 私は腕の中で、眠りについた。 悲しい想い出を、他人に告白したのも、初めてだった…。 抱きしめられたのも、告白されたのも、初めてだった…。 信じられなかった。 抱きしめたことで拒否される。そう思ってたし、現に拒否された。 だけどその後、愛しの人が、自分の腕の中で寝てもいいかと聞いたこと。 その事実は信じられなかった。 「眠っていもいい?」という問いに対して「いいよ。」と返事をし、彼女から「ありがと」という言葉をもらってすぐに 彼女は眠りにおちた。 しばらくそのままでいてから彼女を寝室に運び、ベッドに横たえた。 そして準備を始めた。 まず、みかんを用意した。そして呪文を唱える。 「FORGETOTON」 その後、メモを残した。 『おはよう。俺の電話番号は、12-345-667だ。そいで、このみかんを食べてくれ。そしてこのメモは、捨ててくれ。』 「…朝か…。」 私は目を開ける。そして、机の上にあったメモとみかんに気づく。起き上がるとめまいがした。ふと喉に手をあてると熱が少しあった。 「…いけないな。これは。」 神田くんにもらったみかんを食べた後、神田くんに電話した。 『もしもし?』 『あ、おはよう。どした?』 『おはよ。私、熱が出ちゃって…』 『まじ?俺、今から行くよ。』 『休むことを連絡してくれればいいな』ぐらいの気持ちで電話したのに、まさか来てくれるとは思わなくてびっくりした。 『え、でも…』 『いいから。待っていて。』 ひどく優しい声でその声を聞くと、安心することができた。 『うん。』 しばらくすると神田くんが来てくれた。 俺は電話があってすぐに家を出た。 なぜなのか、それは熱が出たと聞いて心配になった事がまずひとつ。 次がみかんを食べたかということ。食べたらなら、実行の呪文を唱えないといけない。 メモも自分で処理しようと思った。 寝室に行くと、彼女はベッドに座っていた。 「大丈夫か?」 「あ〜うん。でも今日は休むね?」 「ああ。」 「あっみかんありがと。」 「食った?」 「?うん。」 俺はその事実を聞いて、残りの呪文を唱えた。 「ssmiiem togrof uoy」 「痛っ。」 「ごめんな。昨日俺が言ったことは、忘れてもらうよ。」 「…神田くん、君は…」 彼女は頭を抑えて気絶した。 俺はそれを見て彼女をベッドに横たえ、布団をかけて、水枕をしいた。 そしてメモとみかんの皮を見つけ出し、それを持って部屋を出て学校へ向かう。 忘れて欲しくなんかない。でも、それだと明日から君は、俺をさけてしまう。 せっかく同じ高校にいるんだから、側にいたいんだ。 友達 それでもぜんぜんかまわない。 ただ、君の側にいたいんだ。〜「誘拐もどき」それは「不安の増大」〜 ポーンピンポーンピンポーン —なに?— 私は何度もしつこく鳴らされていたらしいインターホンの音で目を覚ました。 出て行かなければならないが、身体の調子がかんばしくなく、起き上がれない。 ピンポーン ・・・ チャイムがとまった。また後で来る事にしたんだろうと思ったけど、その考えは甘かった。 ガチャガチャガチャガチャ さっきよりけたたましい扉をいじる音がした。 どっちかっていうと、無理やりこじ開けるに近い音。 —だれ?— ガチャ 扉の開く音がした。 誰かが強引にこじ開けて入ってきたらしい。 私は身体の不調を感じながら、不安も感じていた。 足音がたくさん聞こえる。 「探せ!探すんだ!」 男の人の声がそう言う。 私は頭がモウロウとする中で、逃げなきゃと思ったけど、私の身体は動いてくれなかった。 ガチャ 「いました!」 誰かが私の寝室の扉を開けてそう叫ぶ。近くで大音量を出されると、かなりつらい。 そんなことを考えている間に多くの男の人が私の寝室に入ってきた。適当に数えて8人から12人くらい。 その男の人たちの中の1人が私の側によって来た。 そして私のあごをつかみ、私の顔を凝視して笑った。 「な・・・」 「見つけた。芯崎洸。一緒に来てもらいますよ。」 「え」 「つれていけ!」 一人の男の人が私の身体を軽々と抱き上げた。 「いや。離して!離し・ん!」 私は口にガムテープを止められた。そして私は身動きできないように押さえつけられ、外に出された。 そんなことされなくても今は動けないけど。 そしてあと少しで男の人たちの車というところで私は「芯崎!!」と大きな声で私の名前を呼ぶ誰かの声を。聞いた。 振り向くと、そこには神田くんと、昨日の自己紹介で江碕淳と名乗った男の子だった。 「神田・くん。」 「淳!頼む!」 「惺?お前まさかあの篠崎さんが好」 「よけいなことは言うな。特に彼女の前ではな。」 「ま、いいだろう、今はそんなこと言う余裕はないしな。」 俺達は一気にボスとボスの近くにいる男以外の奴らを倒した。 芯崎を助けようと二人の男達に歩み寄ると、男達は芯崎の腹を殴ったのだ。 「っ」 案の定、芯崎は気絶した。 そんな篠崎を道路に寝かせて男達は俺達に向かって構えた。 「おまえ!芯崎をどうするつもりだ!」 俺が叫ぶと男は当然だろう?という意味を含んだ言葉を放った。 「もちろん、芯崎洸の誘拐さ。」 「んなことさせるか!」 俺は少し怒りを抱えながら、その言葉を放った。 「淳。一人ずつ行くぞ。」 「ああ、油断するなよ?」 「お前こそな。」 そして俺らは1対1で戦った。 数分後 多少擦り傷を負いながらも、俺らは男達を倒すことに成功した。二人の男はかろうじて?起き上がった 「まだやるか?」 「・今日のところは引いてやるさ」 と捨て台詞を言って、車で逃げた。 俺と淳は肩の力を抜いた。 「芯崎!」 俺は芯崎に駆け寄った。 抱き起こすと、多少息が荒いが大丈夫そうだった。 俺は心の奥底から息をはいた。 「お前、芯崎のことが好きなんだろう?」 親友の言葉に多少ドキっとした。俺は戸惑いながらも「ああ」と答えた。 「なら何で好きと言わないんだ?」 「言った。そんで、あの薬を使った。」 あの薬と俺がいったものは、昨日芯崎にあげたみかんにかけた魔法のこと。 俺と淳は少しだけ魔法が使えるのだ。まぁ本当に少しだけ。 はっきり言えば、たった一つ。 俺らが消してしまいたいと思った記憶を消すことが出来る。 ようするに、記憶を消去するもの。 俺らは薬と呼んでいる。 なぜ俺らがこの薬を使えるのか。 それは、俺らが小さいころに会った玖柳という男の人からもらったもの。 なんで俺らにくれたのかは知らないけど。 「なんで!」 「あの告白の仕方は良くないし、彼女は明日から俺を避けてしまうからだ。」 「・・・かっこいいねぇ。」 俺をひやかした淳に怒りを覚え、反撃する。 「うるせぇな〜。お前はどうなんだよ?」 「え」 淳は目を点にした。 「苺のことだ。」 「うっせーな!」 「隣の席でよかったなぁ。」 「それはお前もいえることだろ?」 「それより、俺は芯崎を芯崎の家に連れてかなきゃなんねぇから、悪いけど今日の約束は・」 今日、惺と淳は、二人でいろいろ話し合おうと言っていたのだ。 ついでに言えば、マンガとゲームの貸し借りも行う予定だった。 「いいって。いいって。それより2人きりじゃん!」 「うっせぇって言ってんだろ!お前!」 あまりにも冷やかしが過ぎると、おれの限度が超える。 「ひゃ〜あついあつい。」 「てめぇなぁ。」 「こわっ。あ、じゃ〜な〜。うまくやれよ〜。」 「うっせぇってば!」 俺は逃げる淳に向かい怒りを込めた言葉を投げた。 「ん・・・」 —やば— さすがに今のはうるさかったなと反省しつつ、彼女を部屋まで運んだ。 そしてガムテープをはずし、ベッドに寝かせて、何事もなかったかのように布団をかけた。 「おやすみ。」 そう声をかけて俺は家に帰った。 次の日の朝 「うーん・・」 私は目を開ける。そして昨日の出来事がよみがえってきて声を上げた。 「キャーーー!・・・っ。あれ?」 私は何事もなかったかのようにベッドに寝ていた。 —私昨日、さらわれそうになって・・・そして、神田くんと、江崎くんが助けに来てくれて、私、を、助けてくれたんだ。— 私はホッとした。しかし、不安はいつもより大きかった。 また誰か傷ついたら・・・どうしよ・・・。 今度こそ本当に、、命を絶とうかな・・・。 —学校、行きたくない・・・でも、行かなきゃ— 私は朝食を食べて、ずいぶんためらってから、壊れかけている家の扉をあけた〜「友達」それは「大切」〜 「ょ、よぉ。」 その人はさも当たり前かのようにその言葉を発した。 「・・・」 私は、というと言葉を発せずにいた。なんでこんな所にいるの?という気持ちがあったので。 よくよく考えればすごく不自然なことで、おかしいことだと気づいた私は思わず声をあげた。 「え?!」 私のこの遅ればせながらの反応に、その人は苦笑しながら答える。 「遅いっつ〜の。」 「ごめん。だって・・・でもなんで?」 「ん〜。迷惑じゃなかったらさ、一緒に行こうかなって思ったんだ。」 私はまたもやびっくりした。 なんでそう思ってくれたのかは、まったくわからない。 だけど、すごくびっくりして、 そして、すごくうれしかった。 そのあと、私は彼に対して何も答えていないことに気づいた。だから、さっきの言葉に対して解答と、お礼を言わなければと思った。 「ありがとう。一緒に行かせてもらっていい?」 そういって私はにっこりと笑う。 そうしたら神田くんは、少し下を向いたあと、「じゃあ行こうか」と口にした。 私神田くんと一緒にマンションの階段をおりる途中、マンションの下が見えた。 するとそこには、相場さんと江碕くんがいた。 私は多くの疑問を抱えた。そのせいで、足を止めてしまった。 先に降りていたのは私だったから、後から来る神田くんは、私を不思議そうに見た。 「芯崎?」 私は疑問を抱えたため、キョトンとしていた。 すると、神田くんが私の疑問に対する答えをくれた。 「俺らが一緒の中学だっていったよな?」 記憶を探ると確かに初めて一緒に帰ったときにそう聞いた。 「え?うん。」 「だから、いつも一緒に行ってるんだ。」 「へぇ・・・。」 私は納得して、階段を一番下まで降りた。 神田くんが一番下まで降りたとき、江碕くんが私達に気づいて発した第一声は 「おせぇよ。」 ・・・。 私はすごく心苦しくなった。そもそも遅れたのは私のせいだと思うし。 「ごめんなさい。」 「え?!」 私が謝ると、江碕君がびっくりした。別にびっくりされるようなことはしていないけど。 疑問を顔に出したらしく、相馬さんが私にその答えをくれた。 「おはよ〜。芯崎さん。はじめましてかな?相馬苺です。」 「あ、はじめまして。芯崎洸です。」 「よろしくね。それでね、なんで淳がびっくりしたかって言うとね、」 そこまで言うと、相馬さんはクスクスと笑った。だけど私はもっと違うことが気になった。 「まこと・・・?」 私はまだ完全に名前を覚えていない。だからそれが江碕くんの名前だって知らなかった。 「あ、ごめん。淳って、この人。」 「あ、江碕、淳君か。はじめまして。」 「お、おう。」 「で、なんで驚いたかって言うとね、」 「おい、おまえら、とりあえず学校に向かいながら話さないか?」 「あ、そうね。」 相場さんは、江碕君のその提案に気づき、了承した。 そして向かいながら話を再開。 「なんか何度も中断されちゃったね。」 「そうですね☆」 私は笑顔で返答。すると相場さんは、すこし不思議そうな顔をして、私に言った。 「あのさ、私のこと、苺でいいよ?あと、タメ口でいいよ。」 私は結構人見知りするクセがある。だから、私は敬語になってしまうのだ。 だが、相手が少しでも不快に思うならば、敬語は厳禁。 「あ、うん。ごめん。あっ!私も適当に読んで。」 「うん。じゃあ洸ね。」 「うん。」 私は始めて話しかけられてから思ったけど、苺はかわいくて、やさしい。だから、友達になれるだろうと思った。 「で、なんでかって言うと、洸のせいじゃないからよ。」 「え?」 まず私は話を思い返す。 確か、江碕君がおせぇよ。って言って、それが私のせいだと思って、ごめんなさいといったら、江碕君がびっくりしたのよね? 「なんで私のせいじゃないの?」 「あはっ☆あのね、惺、わかる?」 聞き覚えがある、その名前。 私は一昨日の自己紹介を思い出す。 ・・・ 「あ!神田くんか。」 「そう。で、惺ね、あなたの部屋の前まで行くのに、10分。そこからあなたの家の扉に立ったまま15分いたの。」 「え??ちょっと待って。それじゃぁ、私のマンションの下から、私が出てくるまで・・・25分?なんで??」 「ん〜。私、理由はわかるけど、言えないんだ。ごめんね。」 「??」 「でも、あとでそのこと聞いてみて?すごく反応が面白いよ。あ!それを聞く前に、私にメール頂戴☆見たいから。」 「?うん。あ、私のアドレスは・・・」 私は疑問に思いながらも、アドレスを言う。そして、苺も教えてくれた。 新しい土地で不安だし。 誘拐もどきもされた。 だけど、神田くんのおかげで、新しい友達も出来た。 私は神田くんに心から感謝した。〜「踊り」それは「悲しい記憶」〜 話し終わった後、江碕くんと苺は二人で歩き始めた。 二人は前を歩き、そして私は後ろ。隣には神田くんがいる。 こんなふうに友達とほのぼのと歩いたのは久しぶりだ。 ずっとずっと、逃げてきた。 お兄ちゃんと一緒にずっと・・・。 他の人、巻き込むわけにはいかない。 私達の・・・ううん、私の問題だから。 光は神田くんと話をしながらその様なことを考えていた。 「どした?」 「え?」 「ん〜、なんか上の空って感じだったから。」 「あ、ごめん。考え事、してた」 「そっか。」 「うん。あっ苺たちが行っちゃう・・・。」 苺たちが行ってしまうと思い、少し後ろを歩いていた神田くんを振り返ったとき、見てしまった。 昨日の人と同じ服を着た人を・・・。 「どうした?」 神田くんは振り向いて、そして私の見た人を見つけた。 「あいつ昨日の・・・。」 「私、あんまり苺たち巻き込みたくないから・・・逃げられるものなら、逃げたい。」 「そうか?」 「うん。」 「わかった。」 すると神田くんは江崎君の隣に行って耳打ちした。 すると江碕君は少しだけ赤くなって苺の手を握る。 「??」 すると江碕君は苺の手を引っ張って走っていった。 「嫌だと思うけど。・・はい。」 私にも神田くんから手が差し出される。 「いやじゃないよ?ありがとう。」 私はお礼を言って手を握った。 「じゃあ走るから。」 「うんっ!」 洸と神田くんはハイスピードで走った。 もともと学校までの距離は短いので、学校にはすぐついた。 「芯崎、お前結構早いな。」 「そうかな。ありがとう☆」 私は礼をいい、学校の中で待っていてくれた苺たちの後に続いた。 ガラッと江碕くんが扉を開けて、私達はそれにつづいて教室に入った。 「芯崎さん!大丈夫ですか?」 「え」 急に話しかけられてドキッとなったが、とりあえず、その人の顔を凝視・・・。 残念ながら?記憶にない。 「昨日休んだから。」 「あ、大丈夫です。もうぜんぜん・・・。」 と私が言ったとき、すでに周りには数人の男の子がいた。 「あの・・席に座りたいん・・ですが・。」 「あっスイマセン!」 そして私は無事に席に座ることが出来た・ 「ったくあいつら・・・。」 「?どうしたの・」 神田くんはそういって少し怒っていた。 そういえば、と思い、私は苺にメールした。 —いまから聞くよ〜— すぐに返事が返ってきた。 —OK!— 苺が立ち上がるのを確認して、私は神田くんに尋ねた。 「ねぇ」 「あ?」 「なんで、私の部屋の前まで行くのに10分。そこから私の扉に立ったまま15分いたの?」 「え゛」 惺はその質問に対してとてもあせった。 まさか、緊張してたり、誘うのに勇気がいったり、ドキドキして押せなかったり。な〜んて言えるわけがない。 俺は返答に困った。 「ね、なんで?」 そう聞いてくる洸はとてもかわいい。 俺は本当にどうしようかと頭を抱えた。 キーンコーンカーンコーン ちょうどいい感じでベルが鳴り、俺はホッとした。 芯崎はとても不満そうだったが、おとなしく前を向いた。 「では出席を取る。」 先生は席順で名前を読んでいった。 ようするに、私は一番最後。 「芯崎」 「はい。」 「え」 「え?」 私が返事をすると先生はものすごく驚いていた。 「もう・・・いいのか?」 「え?ぁ、はい。」 私がうなづくと先生はそうか。と言った。 おかしいって思わずにはいられなかった。 「今日は一日中部活オリエンテーションだ。入るものはなるべくはやく決定すること。じゃあ解散。」 先生は一息でそう言うと、そそくさと教室を出て行った。 「ねぇ神田くん」 「え!」 俺はまたさっきの続きを突っ込まれるのかと思い、身構えた。 「先生、おかしくない?」 考えていたのとはずいぶん違いがあったが、おかしいといわれれば確かにおかしい。 「んーー」 「まるで私がココにいることが、不満みたい・・・。」 そう芯崎は言った。 俺はその言葉がなぜか心に深く残った。 「ね!洸、私昨日、新体操部に行ったんだけど、洸も行かない?」 私は苺にそういわれる。きっと自己紹介の時のことを覚えていて誘ってくれるのだろうと思った。 「うん。行く。」 「じゃあ行こう。じゃあ淳、私達は行くから。」 苺は江崎君と神田くんにそう言うと二人はそれをすでに承知しているようだった。 「お〜。俺らは陸上部に行くけど、今日は結構早く終わるらしいから、終わったら校門で待ってる。」 「わかった。じゃあ行こうか。」 「うん。またね☆」 私は笑顔で二人にそう言って苺の後をついていった。 新体操部のところに行くと、部長らしき人が苺の側に(つまり私達の側に)来て、苺に話しかける。 「いらっしゃい。苺ちゃん。」 「こんにちは先輩!この子、私の友達の芯崎洸さんです。」 「あっはじめまして!芯崎洸です。」 「はじめまして、え〜っと洸ちゃん?」 「はい。」 「早速だけど、経験ある?」 「新体操ですか?ありますけど。」 「じゃあ1曲踊ってもらえる?」 「え・・・あ。はい。」 私はどれがいいかなと覚えている曲と踊りを思い出しながら頭の中で選ぶ。 「じゃあとりあえず体育着にでも着替えてきて。」 「あ、私の貸すよ。リボンも。」 「ありがとう・・・先輩、四季の春、お願いします。」 「あ、曲?わかったわ。」 私は苺に体育着を借りて着替え始めた。 「苺!」 「あ、淳。」 苺は窓の外に淳を見つけたのでそこに行った。 「どうしたの?」 「本当に早く終わったから来た。」 「そっか。惺は?って、あ。」 苺が見渡すと下にいた。隠れているようにも見える。 「恥ずかしいんだとよ。」 「あらま、純情ねぇ。」 苺は惺をからかった。 「うっせぇ、」 本当に顔を赤くしてかわいかった。 そのとき、曲が始まった。見るとすでに洸はスタンバイしている。 洸が踊り始めると同時に惺は中をのぞいた。 ・・・ 踊れば踊るだけ惺達は圧倒された。 二人は苺の出る全国大会をよく見に行っていた(苺が淳を誘う→淳が一人じゃ恥ずかしいから惺を誘う)。 そのレベルで見れるような踊りだった。 「すげぇ・・・。全国、いけるな。彼女。」 「行ったこと、あるんじゃないか・・・?」 惺は踊りに圧倒されまくっていた。だが、それと同時に彼女がすごく辛そうに見えた。 惺達は洸が踊り終わると門のところへ急いだ。 中では部長が洸を絶賛し、今日はもう帰っていいと言っていたから。 俺達は門のところで洸たちを待っていた。 二人が来ると、自然に二人ずつになって歩いた。 「じゃあな〜。」 淳と苺は寄るところがあるらしく、二人で帰っていった。 「今日、踊り見たよ。」 いきなりそう切り出されてびっくりするが、さっきのことだと思い、返答する。 「ありがとう☆どうだった?」 「うまかった。なぁ、聞きたいことがあるんだけど・・・。」 すごく言いにくそうに惺はそう言った。 惺にはすでに親のことを言っているから、もしかしたら気づかれたかもしれない。 助けてくれたし、一緒にいってくれるし、惺には言いたかった。 「ここじゃ、嫌だよ?」 「え?」 「言いたいこと、なんとなくわかるの。だけど、ココじゃ駄目・・・。」 −泣いてしまうから− 「じゃあどこがいい?」 言ってもいない言葉を読み取ってくれたらしく、惺に聞かれる。 「忙しくないなら、家で、お願いします・・・。」 「わかった。」 家 私は先に家に入る。そして自分の部屋に入る。 そしてベッドに顔をのせる・・・。 「もうやだな・・・」 「え」 先に入った洸は洸の部屋らしきところに入ってベッドに顔をのせて、すぐにその言葉を口にした。 「もうやだなぁって・・・」 「なんで・・・?」 「だって・・・神田くん、するどいんだもん。」 鋭くなんかない。 ただ、誰よりも君を見ているだけ。 また告白しそうになったけど、やめた。 何度もあの薬を使ったら、洸の身体にかかる負担が大きいから。 「ごめん」 「あやまらないでよ・・。」 あやまってほしいわけじゃない。 「一方で嬉しい。すごく。だけど、もう一方は、すごく嫌。」 そう。私の中にはその両極があるの。 「…どうして」 「私に近づくとね、つらくなる・・・。あの人たち、追ってくるから・・・。」 だから嫌なの。 「神田くん・・・傷つけられる可能性・・・高くなっちゃうもん。」 「芯崎・・・」 そして彼女はもう一言つぶやいた。 「お願いだから、、、無理しないで・・・。 神田くんが無理すること、神田くんが誰かに何かされること・・・ 一番傷つくのは、私だと思って?お願い。」 「わかった。」 うなづくことしか、出来なかった。 「なんで私が踊るときつらそうなのかってことだよね・・」 「ああ」 やっぱり俺が言うことをわかってたんだな。 うれしいよ。 「私の大会にはいつもお父さんとお母さんの変わりに、お兄ちゃんが来てくれてたの・・・。」 君はさっき言った。無理しないでと。 だったら俺も君に無理をしないで欲しい。 誰よりも愛しい君だから。 ぐいっ 「ゎ」 何かに引っ張られて気づくと私は神田くんの腕の中にいた。 抱きしめられたことがわかると、少しだけホッとした。 「・・・・だけどね、お兄ちゃん、一度だけ来てくれなかったことがあった。」 なんでか、それはね・ 「私を守って、怪我したから、これなかったの。」 「!!」 「お兄ちゃんは、私をかばって・・だけど、お兄ちゃんは出るように言った。 私は出たくなかったけど、出るように言った。それ以来、踊るたびに思い出すの。 私のそばにいる誰かは、必ず傷つくって・・・。」 だから、あなたには私を嫌いになってもらわなきゃいけないの。 私は神田くんを突き飛ばそうとした。 だけど、出来なかった。 さっきより強く、抱きしめたから。 「いた・ぃよ」 「俺は・・・最後まで守るからな。」 え 「守るから、、大丈夫だから・・・。」 お兄ちゃんと同じ台詞を言うんだね・・・。 でも・・お兄ちゃんより安らぐのはなんでだろう・。 「ありがと・・」 私はそれだけ言った。気づくと、涙を流していた。〜「友達が嬉しい時」それは「私にとっても嬉しい時」〜 その後しばらく神田くんは私の家にいた。 そのとき、私は思いついたことがあった。 「ねぇ、明日、日曜日だよね?」 「へ?ああ。」 「だからね、明日、リボンとか買いにいきたいんだ。しばらく踊るのやめてリボンないから。」 「あ、そっか。」 「うん。それでね、苺たちを連れて、一緒に行こう?」 ある意味デートに誘っている気もするが、この際気にしない事にしよう。 「苺たち、やっぱりお互いに好きなのよね。なのに、告白できていない。」 「ああ。」 「だから、明日協力して、あの二人を二人っきりにして、告らせようよ。」 「そっか・・・いいチャンスだもんな。」 何がいいチャンスなのかは知らないが、賛成らしい。 私は計画を話す。 「まず、一緒にデパートに行く。そして、私と苺はリボンとかを売っているところに行く。」 「なんとなくわかった。俺らはシューズとか売っているほうに行けばいいんだな?」 「うんっ。それで、ある時間になったら苺たちをどこかに追いやる。」 「近くに公園があるな。じゃあ俺は用があるから、先に公園で待ってくれって言えばいいんだな?」 二人は意気投合して話しまくっていた。 その日のうちに打ち合わせは終了し、二人への連絡も済ませた。 ラッキーな事に、二人ともOKだった。 次の日 「じゃあ私達は。」 「おー。」 苺は江碕君と離れる事に多少の不満を持っていたようだが、一緒に楽しく買い物できた。 11時 「あ〜!」 「えっ?どしたの?洸。」 「私、ちょっと行かなきゃいけないところがあるんだ。 悪いんだけど、先に蔓延公園で待っていて?」 「?うん。」 苺は意味不明という顔をしながらも、テコテコと蔓延公園に向かった。 ちなみに江碕君も蔓延公園に行っている。 そして江崎君のほうには神田君から告白をさとしてあり、洸たちが行かないことを了承している。 洸に言われて苺は蔓延公園に着く。 「苺」 「え?」 振り返ると底には淳がいた。 「え?淳?どしたの?」 「ん?惺が行きたいとこあるから、ここに行っていてくれって。」 「え〜淳も?私もよ?」 「へぇ〜。」 「うん。にして暑いね・・・」 「あっちの木陰にでも行くか?」 苺が木陰を見ると、確かにベンチもあり、暑くなさそうだった。 「うん。」 二人は並んでベンチに腰を下ろした。 「ふ〜。」 「いいの買えたのか?」 「うん。洸っていい子よ?すごく・・・。でもね、相当重いものを背負っている。」 「重いもの?」 「うん。私と一緒にいても、常に回りに気を配っているもの。隠してるつもりだろうけど、わかるんだよね。」 「そっか・・・。」 「でもね、」 苺は一呼吸置いてから話を続ける。 「洸は惺のそばだと、周りに注意を振りまくけど、安心してる。」 「うん。」 「だから、洸には惺がいれば大丈夫ね。」 淳は苺は惺が好きなのかと思った。しかし違った。 「でもほっとしたわ〜。惺ってぜんぜん彼女できないんだもん。ずっと一人でさ。 結構お姉さん的存在の私としては、不安だったのよよね〜。」 なるほど。苺からみて惺は弟みたいなものなのか。 「そういえば淳も一人身だよね?好きな子とかいないの?見ててもわかんないんだよね〜淳だけは。」 「いるよ。お嫁さんにしたいくらい好きなやつ。」 「!・・・そっか。がんばってね?」 「俺一人がんばったって仕方ないだろ?」 「ま、まぁそうだけど。」 「だから、苺?」 「・・・なに・!」 苺が淳の方を向くと、目の前に淳の顔があって・・・ キス、された。 「一緒にがんばらないか?」 「え」 「苺が好きだよ。誰よりも苺が好きだ。だから、俺と、付き合って欲しい。」 苺は何も言わない。 ただ目を見開いているだけ。 そりゃびっくりするわな。“友達”にいきなりキスされりゃあ。 ついに苺は涙を流し始めた。 「ごめんな。キス。忘れてくれて、かまわないから。じゃあ」 そう言って淳は立った。 「待って」 すごく小さい声だったけど、淳には聞こえた。 「ぇ」 「私・・・私・・・」 苺は泣いていて声にならない。 「苺・・・」 淳は自分がしてしまった過ちを悔いた。 「ごめん。」 「違う」 淳があやまると苺は顔を手で押さえたまま、そう言った。 「え?」 「悲しいんじゃないよ?私・・・。」 苺はなきながら必死に声を出している。 聞き取りずらいと思い、淳はまた苺の隣に腰を下ろす。 すると 「い、苺?」 苺は淳に抱きつく。 「ありがと」 —え— 「ありがと・・・淳。ありがと。ありがと・・・」 苺は泣きながらそれだけをずっと言っている。 「苺?」 「好きよ?」 「え」 聞き間違いかと思ったが、苺はもう一度言う。 「淳が好きよ?大好き。友達としてじゃないの。ずっと・・・私・・・っ」 それからは本当に声にならなかった。 言いたいことはたくさんあったけど、言えなかった。 また言葉を押し出そうとすると、それは淳によって妨げられる。 ぎゅっと抱きしめられて、妨げられる。 「サンキュ・・・ホント・・・・ありがとう。」 そう言って抱きしめてくれた。 そして、私が泣き終わって落ち着くと、 また優しいキスをくれた。 その後で淳から聞いた。 洸と惺が考えてくれたことを。 ありがとう洸。 つらいのに、、ありがとう。 本当にありがとう。 「うまくいったみたい。」 洸は惺と一緒に喫茶店にいた。 「え?」 「苺と江崎君。うまくいったみたい。」 「そっか・・・。」 私こそありがとう。苺。 私は幸せにはなれないから、苺に幸せになって欲しかったの。 苺が幸せなら、私も幸せだから。〜「愛しい事に気づくとき」それは「苦しみを増すこと??」〜 苺たちをくっつける作戦が成功した後、私と神田君は喫茶店で食事をしていた。 喫茶店で食事してるとき、嫌な予感がした。 その予感が外れることを願っていたけど、当たってしまった。 「あ」 神田君が気づいてしまった。 ちなみに私は少し前から気づいていた。 だけど、いえなかった。 ここで、、暴れられるわけにはいかないから。 だけど、私に神田君は、だませない。 「通りでさっきから様子がおかしいと思っていたら・・・」 ほらね。 「うん。ごめん。」 「いいけど、どうする?やつらも俺らが気づいたこと、気づいたみたいだけど。」 苺が見ると、彼らは向かってきた。 「うん。」 もう無理。疲れた。 「芯崎洸。来て貰うぞ。」 「駄目だ。」 「またてめぇかよ。」 「それはこっちの台詞だ。」 神田君は戦闘態勢に入ろうとしている。 だけど何故か私にはわかった。 目の前にいる人が、いつもより数段強い人だって言う事に。 それと同時に始めて不安を覚えた。 お兄ちゃんから離れた私を、本気でさらおうとしている人たちに。 「だめ!その人、今までみたいな人じゃない!」 でも遅かった。 先に向こうが手を出したから。 「うっ!」 「神田君!」 神田君はお腹を蹴られてうずくまる。 「神田君!」 神田君に駆け寄ろうとする私を男の人は二人がかりで抑えた。 「いや!離して!神田君っ!!」 神田君は3人の男達から袋叩きに会っている。 もうやめて・・・私の・・・ 私の・・・大切な人を傷つけるのは・・・・・・やめて。 「行くぞ!」 神田君と離れるのはつらい。 だけど、彼が幸せならそれでいい。 私とこれ以上、一緒にいたら・・どうなるかわからないから。 でもやっぱり抵抗しないわけにはいかない。 「離して!いやっ!」 「黙らせろ。」 男が私の肩を右手で掴み、そして 「つっ」 お腹殴られました。 そして、私の意識は消えていく。 意識が消えかかっているとき、神田君の声が聞こえた。 小さい声だったけど、 「芯崎」って聞こえた。 それだけで、私は安心して、意識を失った。 目を覚ますと知らない部屋にいた。 「これからどうなるんだろ・・・。」 —でも、もう大切な人が、傷つけられることは無い。— 「もう、大丈夫。」 私一人だけが、つらい目にあえばいい。 だけど、、 願っちゃいけないんだけど、 願わずにはいられないよ 神田君。 逢いたいよ 逢いたい 一緒にいたい ずっと一緒にいたいよ ずっとそばにいたい そばいたいよ。ずっとずっと。 好き 好きだよ。 あなたが好き・・・ おかしいかな?こんなに早く・・・。 だめかな?こんなに早く・・・。 ねぇ? 「かんだくん・・・」 洸は惺を想って泣いた。 そしてそれを見ていた者がいた。 そのことを、私は知らなかった。 「なるほどな。おいっ神田惺をココに連れてこい!」 「ん・・・俺・・・」 起きると身体が痛かった。 「いったい何が・・・」 「大丈夫か?」 見知らぬ男が一人いた。 「お前名前は?」 誰だ?と思いつつも、この人は大丈夫だと思い、名前を告げる。 「惺。神田惺。」 「そっか・・・。洸が世話になったな。」 「え」 —洸?— ・・・そういえば、芯崎は・・・芯崎はどこだ? 「芯崎はどこです?!」 その20ちょっとすぎくらいの男の人は首を横にふる。 「さらわれたよ。」 「芯崎・・・。」 —守れなかった— 「妹が世話になったな。惺。そんなに落ち込むな。」 いもうと? 「え・・・じゃああなた・・・芯崎の・・・」 「あ、すまない。洸の兄の芯崎晄だ。」 「え・・でもなんで芯崎のお兄さんがここに?」 「お前がぶっ倒れているとき、蛭間、芯崎ってずっと言ってたんだ。」 俺の苗字珍しいし、俺らの事件も珍しいから、俺のところに連絡が来た。 「そうだったんですか・・・あ」 「どうした?」 惺は土下座した。 「スイマセン!」 「え」 「守れなくて・・すいません。」 悔しかった・・・守るって言ったのに、、守れなかったから。 「・・・惺、そんなに気にするな。あいつもちゃんとわかっているよ ただ、、あいつ、、何もしなきゃいいけど。」 「え」 何もしなきゃって・・・なんだ? 「多分そろそろ限界なんだよ。あいつ。」 「な、何がですか?」 「自分のせいで周りの人が傷つく姿を見ること。だよ。」 それを聞いた瞬間、頭をガンと打たれたような衝撃を受けた。 「でもな、惺、そう想っていても、あいつはやっぱり誰かにそばにいて欲しいんだ。」 「え」 「で、俺のカンでは、それは俺じゃないんだ。」 「え?」 「ま、あっているか、あっていないかは、洸を見つけてからだ。さ、行くぞ。」 「どこにですか?」 「細田信太って教師知ってるか?」 「俺たちの担任ですけど・・?」 「俺たちって・・・洸も?」 「え?あ、はい。」 そのとき晄の顔色が曇り、目が鋭くなった。 —何かまずいこと言ったかな?— 「そいつ、洸をさらうグループの一員なんだ。 通りで今回は見つけるのがやけに早いと思った」 まさか。と思ったが、調べは完璧らしかった。 そして俺たちは学校へ向かった。 そしてその時に、俺は芯崎の言っていた言葉の意味がわかった気がした。 —まるで私がココにいることが、不満みたい・・・。— 高校で俺たちはすぐに細田を見つける。 「先生!」 「ん?どうした?」 「話、聞かせてもらいますよ!」 すべてをはいてもらわないと、困る。 「なんだよ。神田。急に。」 「お久しぶりですね。細田さん。俺がそばにいるときは妹が大変お世話になりました。」 「晄・・・。」 「覚えていてくださって光栄です。で、てめぇ、妹どこにやった?!」 「・・・知らないな。」 「そんな分けないだろ!てめぇ!」 「知らないんだよ。神田。あ、そうだ。お前に渡さなきゃいけないプリントがあったんだ」 「だまそうとしたって無駄だ。芯崎を返せ!」 —嘘じゃないさ?お前には本当に渡さなきゃいけないものがあるんだ— 「信じないのならかまわない。」 「信じたくなんかないさ。」 そう。信じたくない。だましていたやつのことなんか・・・。 だが、ふと近くで細田が発した言葉で俺は信じさせられる。 いや、信じなければ、ならなくなった。 「芯崎を助けたくないのか?」 ・・・。 罠だとわかっている。だが俺は・・・・ 「来週の月曜日には提出しなきゃいけないプリントをなんで今頃渡すんだよ!」 悔しかったけど、どうしようもない。 「じゃあ俺行って来ます。」 そう言って俺は細田の後について、芯崎の兄さんがいる部屋から出た。 「来い。」 そのまま細田の後についていくと、男がいる。 「ほらよ。後、頼む。」 そう言うと細田は今来た道を戻っていった。 「お前が神田惺か?」 「ああ。」 「じゃあ乗りな。」 俺はその男の車に乗り込んだ。 俺たちの乗った車は蛭間に入った。 そしてしばらく進むと、古いが、大きい家があった。 「着いたぞ。出ろ。」 俺が車から出ると3人がかりに抑えられる。 「何すんだよ!」 男達は無言で俺を連れて行く。 そして、俺の手足に手錠をかける。 そして 「つっ」 俺は男達に袋だたきにされる。 私はずっと泣いていた。 彼が、 愛しくて、愛しくて、愛しくて・・・。 そのときだった。 一人の男が入ってきたのは。 「この画面を見な。」 私は見なかった。命令なんて、うけない。 だけど男は私の顔を画面に向けさせた。 最初何も写っていなかったけど、しばらくしてから神田君が写った。 「神田君?!」 先を予想したくなかったけど、予想できてしまった。 「やめて!お願い!」 「じゃあ言いな。言葉。」 「言葉って?」 「お前が両親から聞いている言葉だよ!」 出来ない・・。 「それは・・出来ない。」 そう。出来ない。 私はその言葉を守るために、今まで必死で逃げてきた。 神田君の・・・神田惺のために、、私はいえない。 そう。いえないの。 言えない。 すると男達は神田君を袋叩きにし始めた。 「っ!」 私はこらえられなくなって顔を覆った。 だが、男に手を取られ、見ざるを得なくなる。 見たくないよ・・・だけど、言えないよ。 言えない! 言えない。 言えない 言え…ない い…え…ない… 彼が殴られたりするのを見ていくたびに、決意が弱くなる… 「いや…やぁ!!」 「芯崎!」 はっとして顔を上げると、袋叩きにされながら、神田君が私の名前を読んでいる。 「神田・・・君」 「聞こえてるんだろ?!芯崎!」 —聞こえてる・・・。聞こえてるよ。— 「今まで逃げてきたんだろ?!ずっとずっと! たったひとつの言葉を、言葉を守るために! 兄貴も傷ついたんだろ!? おまえもだ! お前の両親は、もういないんだろ!? お前の家族全員が、全員が!苦しい目にあってきたんだろ!」 そう。この言葉が無ければ…私達は…。 「大切なんだろ?!そうだろ?! その言葉のために、いろんなもの!犠牲にしてきたじゃないか!!」 してきたよ?ずっと…。 「それだけ大切な言葉!俺のために使うな!!」 —え— 「俺なんて、どうだっていい! 守ってくれ!お前の守りたかったもの! いろんなものを犠牲にしてまで守ってきたもの! そんな大切なものを!俺なんかのために!!言うな!!」 —でも…言わなかったら…あなたは— 「死んだってかまわない!何が起きても!何でもかまわない!」 —どうして?どうしてあなたはそこまで…— 「俺の最期の頼みだ!絶対に言うなっ!芯崎!」 —最期って…なに?— 次の瞬間、私は本当に、顔を覆った。 神田君・・・おもいっきり蹴られて・・・吐血したから・・・ またなのね? また私のせいなのね? 私のせいで… 大切な人が 大好きな人が こんなにも…苦しそうにしている 好きじゃなければ こんなに苦しくなかった 好きだから そう 神田君 あなたが好きだから だから私は 苦しくて 苦しくて 苦しくて そして、、耐えられなくなるの… こんな想い…初めてだよ… 大切なの 大好きなの だから ごめんなさい〜「運命の言葉」それは「終わりを告げるもの」〜 「やめて!!!」 声を限りに叫んだ。 もう見ていたくない。もう無理。もう駄目。もう…見れない。 「言うから…神田君を…助けてっ!」 「いいだろう。だが、お前の言葉は信用にかける。 だから、お前とあいつを、あるところの前に連れて行く。」 「・・・。」 ごめんね。お父さん、お母さん、お兄ちゃん。 私、やっぱり神田君が・・・好きだから。 「頼みが…あるの。」 「なんだ?」 「少しでいい。二人きりで、話がしたい。治療もしたい。」 「・・・・・・・・まぁいいだろう。えっと確かこの部屋に救急箱が…」 「そこじゃなくて、右の棚の、一番下」 「え?!」 —え・・・私は、なんで知ってるの?— 案の定そこに救急箱があった。 「?まぁいいだろう。この部屋にあいつを連れてくる。そしたら一晩ここに二人でいろ。 明日、例の場所に出発する。」 そう言って男の人は出ていった。 しばらくすると・・・ ガチャ 「入れ!」 「うわっ」 「ふぇ…きゃあ!!」 急に扉が開いて、私の目の前に現れた人は神田君。 嬉しさがこみ上げる前に、神田君は押され、私はその前にいるのだから必然的に バターン 倒れるよね。 ガチャ おい、当事者。お前逃げたな。 男が出て行ったドアにきつい視線を投げる。 それにしても、、 「重い」 「ってぇ………ちくしょー!!」 「えっっっっっっ!!!!!!」 ①私を凝視 ②意味不明の顔 ③大きな声で「え?!」という。 ④そのあとコンマ1秒後、私の上からどいた。 (あ、コレ↑の説明) 「ごごごごごごごごごめん!!!!」 「だ、大丈夫。」 実をいうと私もびっくり。だって目の前に顔があるんだもん。あと5cmでキスしてたな〜。 てことじゃなくて、 「大丈夫?!」 「え?あ、あー。」 「よか…た」 私は神田君に抱きつく。 視界がぼやけてくる。 「し、芯崎?」 「生きててくれて…よかった。」 本当に、本当に、嬉しかったんだよ? だけど、あなたは 「ごめん…」と寂しそうにつぶやいたね。 「え」 「俺のせいで言葉…言わなきゃいけないんだろう?」 ドキ 「本当にもう・・・隠し事、出来ないね。…うん、その通りだよ。」 「守れなくて、ごめん!俺のせいで、ごめん!」 彼は何度も謝った。 その優しさ、真剣さ、瞳、顔、声 あなたのすべてに、私は恋に落ちたのよ… 「大丈夫。結局いつか、言わなきゃいけなかったんだもん。 これが終わったらもう、私は普通の子に戻れるの。」 あとで勉強して知ったけど、これ認知不協和理論って言うの。 自分の中で二つの相対する認識があったとき、変えやすいほうの認識を変えること。 この場合、言ってしまった事実と、後悔がある。 言ってしまった事実を変えることは不可能。 だったら後悔を、いい方面に向けさせれば、不協和は、解消されるでしょ? ま、わかりにくくて、ごめんねっ だからってわけじゃないけど、私はもう疲れた・・・。 ごめんね。みんな。 なにはともあれ私は神田君の治療をした。 そして治療が終わって、細田がいたせいで、発見が早かったことを知った。 そして 「お兄ちゃんに会ったの?」 「あー。あったよ?」 「そっか・・・。」 恥ずかしい。 なんで? だって、私の肉親っておにいちゃんだけ。 そのお兄ちゃんにあったって・・・ねぇ。両親に会ったも同然よ。 まぁ神田君にその気が無いのはわかりきってるけど、 結婚を前提としてお付き合い☆みたいな感じでしょ?きゃ〜☆ ・・・ありえない。 うん。ありえない。 まぁいいや。 「で、いつ出発だって?」 「え?あ。うん。明日。」 「明日の朝?」 「うん?」 「部屋は?」 「ココだけ?てか出れないと思う。」 「・・・。」 ?神田君ってば顔。真っ赤。 「なんでそんなに真っ赤なの?」 ごめん。素直に聞いちゃった。 「—え、いや。その・・・なぁ」 「?何よ?」 ・・・。 「・・・。なんとなくわかった。」 「ん。」 要するに、私と二人きりでこの部屋に泊まるという事実が恥ずかしいわけだ。 「そんなに恥ずかしがることでもないと思うけどなぁ。でも・・・まぁ恥ずかしいね。」 「・・・」 「・・・」 やばい。会話がない。 「ねー。」 「ん?」 「嫌だったら、嫌だって言ってね?」 絶対に言うと思うけど、ごめん。やっぱり、、、寂しいんだ。 「私の隣で、眠ってください…」 「は?!」 「・・・。」 顔真っ赤。まぁ、私も真っ赤だけど? 「……………………………………えっと……芯崎?」 「…はい。」 「おまえ、寂しいの?」 「え?!」 まさか? 本当に? ねぇ、あなたは… 「な…んで?」 「ん?ただ、思った、だけ。」 神田君は顔を真っ赤にしながらそう言った。 —大好き— 私は心の中でつぶやいてから、 うなづいた。 そして… 私と神田君は今、向かい合ってベッドの上にいる。 「すっごい真っ赤だよ?」 私はクスクスと笑いながら彼にそう言う。 「お前もな。」 「うん。」 でも、誰かと一緒に寝るなんて、久しぶり…。 「ごめんな?」 「ふぇ?・・・きゃっ!」 状態把握に少し時間がかかるほど、私はびっくりした。 だって、目の前には服・・・。 「ごめんな?」 「う、う、ううん?だ、大丈夫。」 抱きしめられています。今。 恥ずかしいよ〜。 でも、 「やすらぐなぁ。おやすみぃ☆」 安心したのかな? すぐに眠れた。 すごく不安だったの。 すごく怖くもあった。 今まで命をかけて守ってきた言葉を、 明日言う。 怖くて震えてた心。 あなたは抱きしめてくれたね? すごく、すごく、すごく、、嬉しかったよ。 NEXT DAY 「ん・・・。」 「あ、おはようっ」 私は神田君の目の前でそう言う。 「おはヨ・・・・・・・・・・・・・・・・・・って・・・芯崎?!!!」 神田君は飛び起きる。 忘れてたみたいね。 「あ、うん。ごめん。」 「いいや。俺のほうこそごめん。」 「ううん。大丈夫。さ、行こうか。」 昨日、変な夢を見た。 あの夢が本当だとしたら、、黒幕はあの人で、 そして、私が守ってきた言葉は、、無意味・・・。 守ってきたことすべてが、無意味。 犠牲にしてきたものすべてが…。 ただひとつ、 あなたと出会えたことが、意味があったよ。 私達はある岩の前に来た。 そして私は言葉を言うように言われる。 無意味かどうかは、私が言えば、すぐにわかること。 「ew tegrof neerg evol」 その言葉を言うと、あたりが光り輝いた。 そして —洸?— 「・・・お母さん!」 —洸…— 「お父さん!」 「なんだココ…」 「!神田くん?!」 —洸、時間がないから手短にするわ— —あの岩の中にはエリザベスと言われるものが入っていた— —だけどそれは上山によって、奪い取られています— 「上山おじさん」 「おい芯崎、上山おじさんって?」 —洸、その人は?— 「あ、神田君。クラスメイトの男の子だよ。」 「だれ?あの人たち。」 「私のお父さんとお母さん。」 「え」 —はじめまして。驚くのは普通だけど、あまりもたないの。続けるわね?— —俺たちを殺したのもあいつ。でもあいつは覚えていないんだ。だから洸— —あなた達を、晄のところに飛ばします。だけどうまくいかないかもしれない— —神田・・・くん— 「あ、神田惺です。はじめまして」 —惺か・・・。惺。失敗した場合、お前だけが晄のところにいく。— 「え」 —そしたら、あいつに言うんだ。犯人は上山。洸は洸の両親が殺された場所にいると— —じゃあ洸…さよならね— 「え」 —元気でな?— 「ちょ」 一瞬後、私はさっきの場所にいた。 神田くんだけがいなかった。 失敗したんだ・・・。と思った。 そして私を押して男の人たちは中へと入っていく。 私はもうすでに中にエリザベスが無いことを知っていた。 「何もねえ!どういうことだ!」 男の中の一人が私の服を掴みそう言う。 それは、あなたが一番知っているじゃない。 「あなたが盗んだ。違いますか?上山さん?」 「あー。でもなんで忘れていたんだろうな。」 「そんなの知りませんよ。」 「で、晄は来るのか?ここに」 「来ると思います。二人で。」 「そうか。」 そのような事務的な会話を交わすと、上山さんは私に向かってきた。 —嫌な予感がするのは、気のせいでしょうか?— 「きゃあ!」 気のせいではなく、私は腕をつかまれ、包丁を突きつけられました。 もう何をやるか、、わかりすぎて怖いくらい…。 「うわっ!」 「へ?」 ドスンと俺は落っこちた。 「あ、スイマセン。」 とっさにあやまる。なぜなら晄さんの上に落ちたから。 「急に何なんだ?」 「えっと〜って、、芯崎がいない…失敗か…あ。晄さん。 犯人は上山。芯崎は芯崎の両親が殺された場所にいるんで、早く助けに行きましょう! 詳しいことは車の中で説明します!」 「?ああ」 俺たちはすぐに着いた。実際俺も連れて行かれたとき、そんなに長い道ではなかった。 俺たちが家に着くと、そこには予想していたが、ありえて欲しくなかった光景が… 「芯崎!」 「洸!」 芯崎は上山に首に包丁を突きつけられていた。 「遅いよぉ〜。」 「悪いっ。てか離せ!馬鹿野郎!」 「…金だ。金。エリザベスはもう無いが、あいつらの遺産があるだろう?」 「洸を離せ!馬鹿野朗!!」 「金を用意しろ!さも無いと…」 上山は洸の首に包丁を当てる。 「つっ」 洸の首筋から少し血が出た。 ブチッ 我慢?俺の中にそんな文字は無い。 俺は最高記録だろうと思われる速さで芯崎に近づき、彼女を救出する。 「ちくしょぉ!」 その時に上山に腕を少し切られたが、そんなことはどうでもいい。 「晄さん。芯崎をお願いします」 「お、おう。」 俺はストレス発散のいい道具を目の前に 「よ、よくやるなぁ。」 「…。」 ブちぎれた俺に対して晄さんと芯崎は唖然としている。 「ちっ。コレくらいですんでよかったよな〜。」 俺は切れながらそう言っていた。 俺の活躍?により、警察は上山たちを逮捕した。 そして俺たちはあの後… 「いいからっ。大丈夫だし!」 「大丈夫じゃない!!あがる!ほら!」 俺は芯崎の家に無理やり入れられた。 芯崎だって首から血が少し出ているのに、俺の腕の手当てなんて…。 と思ったが、キレているらしい芯崎にはかなわない。 とりあえず俺は腕を治療してもらった。 「サンキュ〜。」 俺は笑顔で礼を言った。 「ね、お願い、あるんだ。」 「え」 芯崎は「ごめんね」とつぶやいて、俺に抱きついてきた。 もちろん俺は真っ赤。 「し、し、し、し、し、芯崎?」 「ごめんね。でも、怖かった。すごく、、怖かったの…でも、絶対助けに来てくれるって、、 私信じてた。」 俺はそのひとことで熱くなり、そして彼女を抱きしめる。 「神田・・・くん?」 今なら言える。 俺は君に言うよ。 俺にとっては二回目で、君にとっては一回目の言葉を。 「君が好きだ。」 「え?」 「君が好きだ。誰よりも、君を愛している。」 俺は彼女にそう言った。 愛しかった。誰よりも。 守りたいと思う。誰よりも。 「や…」 少し震えた声で言われたその声に、俺はショックを受ける。 しかし、彼女の意思は誰にも変えられないんだ。 だけど彼女は俺にびっくりすることを言ったんだ 「苗字で呼ぶの・・・嫌。」 「え?」 「名前がいい。」 し…洸は、俺にそう言った。 だから俺は呼んでみた。 今まで呼びたくても呼べなかったその名前を… 「洸…好きだ。」 「たしも…私も大好き!!」 俺はその言葉に耳を疑ったが、必死で俺に抱きついてくれる洸の行動を感じ、 本当に嬉しくなったんだ。 だから 「!!」 「あ、ごめん。俺。」 キスするつもりなんか、無かったのに・・・。 「ううん?大丈夫!大好き!惺くん!」 さりげなく俺の名を呼んでくれた。俺はすごく嬉しくなり、彼女を抱きしめる。 「君が好きだから、俺は君のそばにいたい。」 俺の言葉に洸は返してくれた。 「私も、あなたが好きだから、そばにいたいの。」 と。 そして俺たちは再度唇を重ねた。 ふぃん。