memory side Shingo.







2月14日、今日はあまり出歩きたくない日だった。 この日になると、かならず何人もの女がチョコレートを渡しに来る。そして同時に告白される。 その告白は必ず断ってしまう。好きな人がいるからだ。だが、それを告げたことはないし、その名前を出したこともない。 周りの女達に、なにかされたら困るからだ。 彼女が大切で、彼女のことが愛しかった。 まわりはもったいない、とか、おまえだったら必ず好きになってくれる、とか言ってくれる。 それほど、自信はないし、ものすごく、怖い。 だが、いつまでもこのままではいられない。今日、告げなければ。チョコをくれ、と言わなければ…。 言うことできなくても…とりあえず、、逢いたい。ここ数日、テスト休みでずっと会っていない。 逢いたかった。 真吾はそう思いつつも、やはり怖く、悩んでいた。 ♪♪♪♪ そんなときに携帯の音楽が鳴った。携帯を手に取り、メールが来たことを知った。 差出人をみてとても驚いた。 差出人の名前は —依南— この名前は、周りには一人しか居なかった。 田里依南 好きな人だった。 今からメールしようと思っていたのに、彼女のほうから、メールをしてくれた。 だが、思い当たることもないし、宿題なら依南は自力でやるはずだ。サッカーを教えて欲しいとか、ありえない。 『なんだろう?』 【話があります。だから、4時に桜木公園に来てもらえませんか?】 会いたいと思っていた人からのメール。天にも昇るような気分。 【行きます。必ず。】 というメールを打つ。 現在3:15、あと45分もある。 彼女を待たせちゃいけないと思い、早々に家を出ることにした。 「母さんっ!ちょっと出てくる。」 「行ってらっしゃ〜い。」 母の元気な声を聞き、真吾は家をでた。桜木公園までは、走って10分。あるいて15分。 歩いても3:30にはつける。 多分。 「あの…真吾君?」 きた…。 「何?」 「ちょっといいかな・・・。」 「急いでいるから、早くしてくれよ。」 「あ。うん。あの………………」 もしかして…また?だよな。 「真吾君のことが……・好きです。だから、受け取ってください。」 「ごめん。」 「!」 いつも即答。それがいつもの答え方だった。すこし感覚をあけてしまうと、期待をするから。 「ありがとう。はっきりいってくれて…。ばいばい。」 「ああ。」 その人は去っていった。 「あの〜〜。」 またかよ…。 「俺急いでるんだけど、なに?」 「あの………………………好きです。これ。」 「ごめん。急いでるんだ。ごめん。」 真吾は謝って、先を急いだ。 まずい…このままじゃ…。 だが、真吾にはこの人たちを無視することができなかった。 愛する人、依南は心優しい少女だ。だから、自分も優しい奴になりたい。そう思っていた。 告白をされながら、断りながら、あることを思い出していた。 〜中学二年〜 その当時から、真吾はよくもてていた。 だがすべて断っていた。好きだという感情もないし、そいつらに特に何も感じなかったから。 だが、変わった。一人の少女に会って…。 クラスの中には、俺を他の男と同じように見てくれる人が3人位いた。 その中の一人に田里依南がいた。 いつも怪我をする自分をいつも治療してくれる心優しい女の子。顔もかわいいほうだから、一度告られているのを見たことがある。彼女は丁寧に断っていた。 「ただいま〜。」 「おかえり〜。」 奥から両親の声が聞こえた。 「なにしてんの?」 「明日、発表するやつをね…。」 「ふ〜ん。頑張れよっ!」 「ええ。ありがとう。」 「さて、頑張るか。」 そして次の日 頭がガンガンする。だが、、言うわけには行かない。 「行ってくるぞ。」 「かぎ閉めてから行ってね。」 「ああ。」 バタン 「ってぇ。とりあえず、学校…。」 真吾はとりあえず、学校に着いた。が、一日もつだけの体力とかは、ない。 「保健室行こ。」 ガラ 「田里?」 「あれ?宮坂君じゃない?どうしたの?顔色悪いよ。」 「あぁ…。」 依南の顔をみて安心したのだろうか? 「っ。ごめ…」 そして意識は深い闇のそこに落ちて行った。 ん… 真吾は目を開けた。 「あ。よかったぁ。気がついた?」 「…」 目の前にいたのは田里依南。だった。 ドキッとした。風邪のせいなのか…。 「オレ…。」 「はいはい。何も考えなくていいから。熱は…」 依南は真吾の額に手を当てた。もちろんもう一方は依南の額。 さらにドキドキッとした。もしやこれは…。 「ん〜。やっぱりまだあるね。帰ったほうがいいよ。」 「帰っても親いないし…。今日の仕事のために、昨日から頑張っていたから…。帰れない。」 「ん〜。先生!」 「ん??」 「早退したって、担任の先生に伝えてください。」 「ええ。じゃあ行ってくるわね。」 「え。しないって!」 「大丈夫。ここで寝かせてくれるって。」 「え?」 「ここにいるってばれたら、どうなる?自分が一番よく分かっているでしょ?」 女達がオレを見舞ってくる→俺が静かに寝れない→他の病人にも迷惑 「…はい。」 「じゃあ私は次の時間が始まるちょっと前にでてくから、ちゃんと寝てるんだよ。」 「ああ…」 『病気のときに看病してくれたり、なにかつらいことがあったとき励ましてくれる…そんなときに、好きになって当然…だろう?』 そして放課後・学校がしまる時刻の10分前。 「ん…。」 「起きたね。熱は…ないね。よかった。じゃあはやくしたくして。あと10分でしまっちゃう。」 「え。あ。うん。先生は?」 「帰ったよ。鍵はもらってある。」 「そ…。」 暗くなってそうだなと思って外にでると案の定…まっくら。 「送っていく!」 「へ?」 「送っていく!!危ないだろ?」 「別にいいよ・。」 「送っていくって決めたから、送っていくんだ!」 「…あはははっ」 依南は突然笑い出した。 その顔がかわいいのなんのって…。 「…ごめ…。普段とぜんぜん違うから…。あははははっ」 真吾は苦笑していた。 そして 怪我をして治療をしてもらったある日のこと…。 「危ないっ!」 依南に治療してもらった後、校舎からでたときに見たもの。それは依南に向かっていくボール。 反射的に動いたのは自分の体。 助けたいと思ったのは自分の心。 真吾がとった行動… 依南を突き飛ばし、抱え込んで倒れた。 起きてすぐに彼女の無事を確認し、そして蹴ったダチに怒鳴る。 彼女はもういいといった。そして真吾という名を聞いてびっくりしていた。 そのあと彼女は、すりむいた腕を消毒してくれた。お礼もなんども言ってくれた。いまどきそんな子いない…。 真吾はそのことをずっと考えていた。 「ごめん。」 女に謝り、走る。時間を見ると、4時をすぎていた。 「げっ」 あと少しで彼女のところにたどり着く。 彼女に会いたい。 そして告白もしたい。 だが、そんな勇気があるのだろうか。 彼女から出る言葉が悪い言葉でありませんように… そう願いながら、公園に走った。 『彼女から出る言葉が悪い言葉でありませんように…』 そう願いつつ公園までの道のりを走っていた。 時間は約束の時間である4時をとっくにすぎていた。 約束の時間より、30分くらい前に着くはずだったのに、時間をすぎてしまった。 今日が2月14日だから、今までのことはある程度予想はついた… 甘く見すぎていたのか…、それとも依南なら遅れても大丈夫だという甘えがあったのだろうか。 基本的に自分が悪いことに変わりはない。 彼女はもういないかもしれない。だけど、行く。 逢えなくても、明日依南に何を言われても、自分が悪いから謝ろう。そして自分の本当の気持ちを告げよう。 そう決意して公園に入った。 少し広めの公園だが、簡単に依南らしき人を見つけた。 コドウを高めつつ、待たせてしまったのだから、照れているわけにはいかない。 意を決して名を呼んだ。 「田里!」 彼女はすぐ振り向いた。 「宮坂君…」 やっぱり依南だった。 「ごめん。……田里知っていると思うけど…今日…バレンタインだろ?だから…告られてた。」 いいにくかった。基本的には言わなくてもよかったかもしれない。 ではなぜ言ったのか。 言い訳だ。 真吾は自分に対してむかついた。 「あ、そっか…忙しいんだっけ…。ごめん。」 謝るのはこっちだ。しかもあんな謝り方なのに、彼女は謝った。 彼女の優しさに胸が痛んだ。と同時に嬉しくもあった。 「いや…ぜんぜんかまわない…」 『逢いたかったから、かまわない』といわなくてよかったと思った。それを言ったら、告白になってしまう。 ”今”はまだいえない。 「ぇ」 依南に非はない。ということを彼女に理解してもらえるように話した。 「家で暇してたし…平気だから…。」 「ぁ。うん。ところで…その子たちの告白…どうしたの?」 依南はいいにくそうに言った。真吾は気にしてくれたことに対して心から喜んだ。 「断ったよ。好きな人は…他にいるから…。」 『君だよ。』とは言えずに、とりあえず事実を話した。 「!そっか。」 「で…なに?」 ふと思い出して真吾は依南に呼び出したわけを聞いた。 急に聞くのはどうかと思ったが、メールが来たときから気になってしょうがない言葉だった。 「あの……私………………………」 ここまで、はぎれの悪い依南を見たのは初めてだった。 真吾は依南の言おうとしていることが分からず、彼女を見つめた。 「宮坂君…のことが…………………………………好きです。」 「ぇ」 一瞬理解できなかった。(一瞬どころではないかもしれないと後で思ったけれど。) そして小さな声をだして、驚いた。 あまり驚かなかったのではなく、逆にびっくりしすぎて小さな声しか出せなかったのだ。 「だから、はい。」 依南は包みを差し出した。 「返事が『ごめん』だってことは、分かってる。だけど…もらってほしいの……」 バレンタインデーにもらうものといったらチョコレートだろうと思う。 今まで一度も、もらったことがなかったので、義理であっても嬉しいのに、さっきの言葉を顧慮すると、もしかするとこれは本命というやつ…? 頭の中が混乱していて、何も言えず、何もできず、何も考えられなかった。 聞き間違えかとも思った。だが、はぎれが悪すぎる。とするとやっぱりこれは ………本命……… 『信じられない』 その言葉が一番よく当てはまる。 愛しいと思っていた人から、突然の告白とチョコのプレゼント…天に昇りそうだった。 「あの……」 依南が自分を見上げて、話しかけてきた。 思考回路が働き始め、彼女の話に応対できた。 「ぇ。なに?」 「あの…チョコをもらってほしいんですけど…。」 少し前の記憶を探る。 チョコをもらってほしいと言っていた。 本当なら一秒で『ありがとう』と言っているはずなのだが、唖然としすぎてまだもらっていない。 「ぁ。ごめん。………ありがとう。」 「うん…?」 真吾が受け取ってから、依南は不思議そうな顔を少ししていた。 そのときの真意をのちのち聞くと『ふられた人が、返事は即答で、チョコも、もらってくれない』と言っていたから状況がよく分からなかった。 「じゃあ・かえるね。今日はありがとう。」 「ぇ」 まだ思考回路の動きが鈍いので、その意味が一瞬分からなかったが意味に気づいて慌てた。 『とりあえずは、呼び止めてここにいてもらわないと』 「待ってくれ。」 「え?」 『そうだ。返事をしていない。』 「返事……」 「ぁ。別にいい。わかりきってるもの…。どうせ『ごめん』でしょ?」 君が好きだとは恥ずかしくて、まだ言えない。だがこのままだと誤解されたままだった。 どうしようかと思っていると、依南と行きたいと思っていた水族館が思い浮かんだ。 「あの……その………明日暇?」 「はぁ?」 『何を言っているんだこいつは?』という顔で見られた。気持ちをあからさまに示せばそんな目はしない…と思うのだが、”今”は無理だから、再度聞く。 「だから…明日……暇?」 「別に用はないけど…?」 安堵しつつ、誘う。 「じゃあさ、、、一緒に…………水族館っ!………いかないか?」 「すいぞくかん?!」 『なにを言っているんだこいつは』という目でまた見られた。だが、あからさまに示していない自分のせいなので、とりあえず、言葉を綴る。 いつもより明らかに悪い歯切れの悪さに自分で少し苦笑した。 「好きだろ?…海の生物。」 「そりゃまぁ…好きだけど?」 「だから………一緒に……行こうぜ。」 「にしてもさ、何の話をしていたっけ?」 急にそう言われた。 真実を言ったら気持ちを言葉で表さなければならない。とりあえず”今”は避けたい。 そのために少し脱線した話を元に戻した。 「そっ…それはいいとして………一緒に……行かないか?」 「どうして私を誘うの?回りにいっぱい女の子いるじゃない? 男の子の友達もいるし…。みんな誘えば? そういえば聞いた話だけど、男の子とは遊びに行くのに、女の子とは行かないのね…。なんで?」 「だって、好きな奴に誤解されたくないし。男は別だけど、好きだって思う子意外となんて出かけたくね…ぁ」 依南の言葉の調子がいつもと同じなので元に戻ってしまい、さらさらと恥ずかしいことを言ってしまった。 『しまった…。でも…でも、気持ちは安定したし、整理もとりあえずついた。 ……もう大丈夫…… 「今…何かいったよね?何か…大事なこと?…言ったよね?」 「…言った。」 意を決してそう言った。 「…なんて……言ったの?」 さっきの言葉をそのまま言うと告白にならないため、言葉を変えようと思った。 だから依南の了承をとる。 「…ちょっと…言葉変わるけど、いい?」 「…うん。事実が同じなら。」 そう、同じ。…好きだという事実は変わらない。 「…同じだよ。」 真吾はそういってまっすぐに依南のことを見つめた。コドウが高まるのを感じた。 「………………オレは…依南が好きだから一緒に出かけたい。と・いった。」 気づくと「田里」ではなく、「依南」といっていた。もう心臓はバクバクだ。 「……ぇ?」 依南は目を丸くしていた。 なぜそこまで驚くのか…。分からなかったが、自分も驚いて思考回路が中断したため、何もいえない…。 「依南って…私?」 「おまえ意外に誰がいる。」 そう言ってから彼女の言葉を待つ。 彼女の目は潤んでそして涙を流した。 「ど…して?」 「なんか…前から依南のこと、優しい子だなって思ってた。で、中二のとき、看病してくれて…好きになっちまったんだ。」 理由を聞かれて答えた。 先に好きだといってくれたことに対するお礼でもある。 “今”ならなんでも素直に言える。 「そんな…ことで?」 「いいじゃん。俺にとっては……天使みたい…だったんだからな。」 少しテレながら、真吾はそういった。 依南は涙を流し続けていた。 『依南が愛しい…。』 その気持ちがあって、行動に出てしまった。 愛しすぎて…抱きしめてしまった。 「ごめんな。オレ、怖くてさ…断られたら。とか…だから怖くて言えなくて…だから…言ってくれたとき、すげぇ嬉しかった……。」 「ありがと…」 真吾の腕の中で依南は涙を流し続けていた。 「ごめんね…服…ぬれちゃうね。」 「やっぱり優しいな。依南は。」 その言葉が出た。本当に優しいと思ったからそういった。 だが依南はそれよりも違うことに気をとられた。 「ぇ…依南?」 いやなのかと思い、聞く。 「いやか?」 「いやじゃ…ない。」 ほっとした。 「ならいいじゃん?ずっと呼びたかったんだ。ちゃんと彼氏彼女の間柄になってから、依南ってずっと呼びたかったんだ。」 「そ…なんだ。……びっくりしすぎて涙止まっちゃった。」 「もう平気?」 「うん。大丈夫。」 依南は涙を拭いて真吾の顔を見つめた。 真吾がドキッとしたことは書くまでもないはずだ。 「先に言わせちまって…ごめんな」 「いいよ。結局的に、よかったから、もういい。」 「そう?」 「うん。」 「じゃあ、帰るか。送って。く」 「ありがとっ」 「ん…。」 二人で並んで歩いているうちに二人の手は握り合わさった。 最初に手を握ったのは、真吾だった。 真吾はこれからずっとそばにいれることをうれしく思った。 「真吾っ」 「ん?」 「大好きだよっ」 依南は最高の笑顔を見せた。 「あれ?顔…赤くない?」 「…かわいくて…みとれてた……。」 「そっそんな恥ずかしいこと平気で言わないでよ。」 自分でもよく言えたなぁ。と思いつつも、反論を少しする。 「しょうがないだろ?聞いたのはそっちだろ?」 「そりゃ…そうだよ。はい…そうですね。」 「分かればいいんだ。」 依南は微笑んだ。 真吾はその顔に見とれていた。 そして二人はまた一緒に歩いた。 二人は…幸せに…今を過ごしています。
ばっく