7つめのしずく
オレは灯季の家を見上げる。
ずっと前に分かれた時のマンションと、今のマンションは違っていた。
ではなぜオレはここがわかったのか。それはペンダントだ。
躬侶が灯季に渡したというペンダント。それがオレに居場所を教えてくれた。
咲良はオレがこっちに来る前に、忘れているかもしれないといわれた。
だけど、オレは忘れていてもかまわなかった。
逢いたい。その気持ちだけしかなかった。
オレは玄関の前に来る。表札は【三里】だった。結婚していてもおかしくない年だから、結婚していないことにオレはとりあえず安心する。
オレは緊張して扉のノブを回す。
「あれ?」
扉が開かなかった。そして改めて部屋の前に立ち、部屋を凝視する。
電気がついていなかった。
「しょうがない…。」
オレはやはりこっちに来る前に、咲良に一度だけ扉をすり抜けられる力をもらった。だからオレは咲良からもらった能力を使い、灯季の部屋に入り、電気をつけた。
パチ
失礼かな?と思いつつ、灯季の家を一通り見て回る。
「あ。」
オレはあるはがきを見つけた。
差出人は佳久と水津。内容は結婚しました。で、二人とも夢で見たときの寡怜と桐柚そのままだった。二人は、嬉しそうに微笑んでいた。
オレは灯季の家の奥のほうにある部屋においてあったイスに座る。
そのイスは昔もあったものだった。
ガチャ
扉が開いた音を聞いた。
灯季が帰ってきたのだろう。
不安で胸が押しつぶされそうだ。もし忘れられていたら…。だから動けなかった。
そして扉が開いたり閉まったりする音を聞いて、オレは苦笑する。当たり前だが俺は勝手に入った不法侵入者。慎重になるのも当然だ。
どうせここまで来る。だから動かなくても大丈夫。だけど俺は灯季を待たせた。灯季が忘
れていても、その辺は変わらない。だから、俺は扉を開けて灯季に会いに行かなければならない。
覚悟を決めて扉を開ける。
あたりを見回すと、寝室の扉が開いていた。きっとそこに灯季はいる。
その部屋に入るとベッドの上に女性がいた。もちろんこの家にいる女性は灯季しかいない。
オレは背後から近寄った。
「えっ!きゃああ!」
「うわぁっ!」
オレの気配に気づいた灯季は驚いて声を上げる。その声にびっくりして俺も声を上げてしまった…が、すぐに元に戻り灯季を見つめる。灯季も俺を見つめていた。
きれいだった。躬侶よりも…美しかった。
昔からかわいかったけれど、ここまできれいになっていたとは思わなかった。こんなきれいなのに彼氏がいないはずない。
俺は軽くショックを受けたが…とりあえず俺は灯季に話しかける。
忘れられてたら…出て行くだけだ。
「———灯季」
灯季の名を呼ぶ。灯季は目を見開いた。そのまま灯季は俺を凝視する。目を見開く以外の反応を示さない。
「忘れた…よな?やっぱり…。」
灯季は何か言いたげだが、言葉には出していない。
だが、反応してもらわないと、どうすることもできない。
「勝手に入ってごめん。」
「…」
灯季は何も言ってくれない。忘れたなら忘れたで『あなた誰?』とでも言ってくれればいいのだが…。
「なんでもいいから反応を示してくれ。頼むから。」
灯季はうつむく。
「名前」
灯季の声は昔のようにきれいな声だった。
やっと反応してくれたことに安堵しつつも、意味がわからず聞き返す。
「え?」
「もういちど…よんで。」
ますますわけがわからない。
とりあえずやっと示してくれた反応だ。俺はしたがい、名を呼んだ。
「———灯季」
と。
灯季はそれを聞くと、うつむいたまま、俺に向かってきた。
そして
…
「え?」
疑問交じりの声を出さないわけにはいかない。
俺に抱きついてきたから…。俺の胸に顔をうずめたまま…そのままでいる。
灯季が愛しくて、背中に手を回した。そして愛しくて、再度名を呼ぶ。
「灯季……」
「…」
灯季が何かつぶやいたのを聞いた。だけど、なんていったのかわからない。
「なんていったんだ?」
「…さきと…」
俺は目を見開く。
『今のは…俺の…名前。』
「忘れて…………ない?」
灯季は顔を上げて叫ぶ。
「忘れるわけないでしょ!!」
灯季の目からは、涙がこぼれていた。そして灯季は俺の胸に再度顔を埋めて言う。
「忘れてないよ…。忘れられないよ!」
その言葉がすごく嬉しくて…同時に灯季が愛しくて…愛しくて…愛しくて……。
俺は言いたくてしょうがない言葉を…。一度はあきらめたその言葉を…口にせずにはいられなかった。
灯季は今、きっと誰かと愛し合っているだろう。ても、俺は言いたかった。
「灯季……俺は君を…愛している。」
「ぇ?」
灯季は俺から少し離れて、涙を軽く拭いてそう言った。
「なんて…言ったの?」
「俺は君を、愛している。と、言った。」
「ほぇ?」
「アイシテル。そう言ったんだ。」
「へ?」
「愛してる。そういった。聞こえてないのか?」
俺はだんだん疑わしくなってきた。もしかして、聞こえていないのではないかと。
「え??」
俺は苦笑して再度言う。
「愛している。君を、愛している。そういった。でもわかってる。返事は『ごめん』だろ?だっておまえむちゃくちゃきれいだもんな。」
『そう。わかっている。返事が…』
「ばかぁ!!」
『そう。ばか。だということ…って…あれ?』
「ばか?」
「そうよ!ばかよ!ばか!ばか!ばか!ばか!ばかぁ!」
俺は今まで抱いていた愛しいという感情もあるが、それと同時に少しむかついた。
「なんなんだよ?7年ぶり?の再会で、おまえへの告白の返事がばか?どういうことだよ!」
「ばかだからバカって言ってんじゃない!バカ!ばかだよ!ばか!ばかすぎ!」
「なっなんだよ?ばかばか言うなよ!」
「だってばかなんだもん!」
灯季は『ばか』以外の返事を返さない。
「ごめんならごめんってはっきり言えよ!」
俺が灯季を見て叫ぶと灯季は俺をにらんで叫び返す。
「言うわけないじゃない!ばか!」
「ばかっていうな!ごめんって言うわけないって———へ?」
俺は状況理解ができなかったので、しばらく無言で考えている。
そんな俺の胸に灯季は再度顔をうずめる。
そして俺の顔は赤くなり始める。
「言うわけないよ。ごめんなんて。だって私も岬人のこと、好きだもの。誰よりも、好きだもの。私も岬人のことをアイシテルもの。ごめんなんていうわけないでしょ…」
俺は固まる。そして考えた。
『好き?誰よりも?あいしている?…………それって…俺のこと?』
「あの…俺のことを…」
「愛してる。」
「それ、俺のこと?」
「あたりまえでしょ!」
灯季は顔を上げて俺をにらむ。
「本当に?」
「本当に!」
俺の問いかけに灯季は即座に答えをくれた。
そして俺は嬉しくなって灯季を抱きしめる。
「わっ」
「俺…やばい。うれしい!すっげぇ嬉しい!」
「私も…嬉しい。岬人…逢いたかった…。逢いたかったよ。」
「俺も逢いたかった。ずっと…逢いたかった。」
「逢えたね?」
「逢えた。…灯季?」
俺は灯季を離す。
「え?」
灯季の目に手をあてる。
「なに?岬人?」
「目、閉じろよ?」
「うん?」
俺は灯季の頬を手で包み、唇を重ねた。
そして灯季を離して、唇も離した。
灯季は顔を赤く染めたが、すぐににっこりと笑い、「アイシテル。」そう言ってくれた。
そして俺たちは、何度も唇を重ねた。テレながら、笑いながら…なんどもキスをした。
8つめのしずく
俺たちはそれから紅茶を飲みながら、お互いに話をした。
「もーひどいんだよー?水津達。確かに岬人のことは忘れてたけど、私の前でいちゃいちゃしてさっ。」
「桐柚たちと一緒だな〜。遠慮しないんだもんな、昔から。」
「本当だよね?そういえば咲良が現れる前、時計の時間がなおって、妖精が大きくなってたでしょ?」
ずっと前の話をよく覚えていたな。と感心しつつ、相槌をうつ。
「あ?ああ。」
「あれ、咲良だったみたい。」
「えっ?」
「だって、咲良がいなくなってから、時計の妖精もいなくなったもの〜。それに、あのときの駄目って声。咲良だと思うわ。」
「へぇ〜。あのときはなぁ、」
灯季にマジで迫りそうになった。あの時…。今は、結構つらい。
きれいすぎる、灯季は。そう思いながら俺は灯季との話を続けた。
「急に迫って来るんだもん。すっごいどきどきしたよ〜。」
「あの時、びっくりしないときならいいのかなって思ったんだ。俺。」
ためしに本音を言ってみた。
「ええー?」
「いい?」
「駄目〜。」
「え〜。」
俺は軽くすねたふりをしたが、いいよ。といわれても、、どうしていいかわからない。
「ねぇ、岬人はなにしてたの?」
「え?俺?俺は気づいたら海のそこにいて、不思議と息ができて、咲良があと少しだけ待ってください。っていうから、また寝たんだ。」
「それで?」
「それで、事情を説明されて、気づいたらこっちにいた。」
事実だし、それ以上何もいえない。
「それだけ?」
「ああ。…ぁ、そうだ。咲良から預かってきたものが…。」
「え?」
俺は指輪を差し出した。
「なにこれ?」
「灯季を育てた者の形見だって。」
「そっか……。岬人からじゃないんだね。」
「え?」
「ううん?なんでもない。」
俺は…明日の計画をひそかに立てた。
「さて、そろそろ寝るか?」
「そうだね。」
「って、俺の部屋は?」
「ない。」
「ひっでぇな。おまえ。」
「ひどくないよ。」
灯季は立ち上がる。もちろん、このまますんなりと行かせるわけには行かない。
俺は腕をつかむ。
「なに?」
「おまえ…経験者か?」
「??……………ばっなに言ってんのよ!」
灯季は腕を降りはらほうとしていたが、俺の手にかなうはずもない。俺は灯季を後ろから抱きしめて、再度聞く。
「経験者?」
「経験なんて…ないもん。」
「ふ〜ん。じゃあ、俺と同じだな。」
「そっか…ずっと海の底だったんだもんね。じゃ、おやすみ。」
灯季は振り向く。
俺はそのかわいらしさにドキッとなり、腕の力を緩めてしまう。
「あっ。」
「まだまだ先でしょ?そういうことは。」
灯季は笑顔で言って、寝室に入った。
俺はソファーに横になり、目を閉じて思う。
灯季のそばに入れるだけで、今はいいかもしれない…。
当たり前の日常……。それが今はすごく愛しい…。
Next day
「灯季?」
「ん…なに?」
「俺ちょっと出かけてくるから。」
「え〜一緒に行こうよ〜。それにお金は?」
「咲良にもらった。」
「えー。いくら?」
「10億。」
「は?」
「向こうでの宝石を売ったら、それくらいになるだろうってさ。俺はそれを売って、買い物してくる。ほれっ」
俺は宝石のひとつを灯季に投げた。
「今晩の飯の足しにしてくれ。じゃ。」
「えー。お昼ごはんは?」
「外で食う。ぁ、灯季!」
「なに?」
俺は灯季に向かって歩いていく。
そして灯季に口づけて、離す。
「誕生日、おめでとう。」
「え?」
「今日だろ?おめでとう。」
「ぇ…あ、本当だ。」
「じゃ〜な〜、」
「…うんっ。」
灯季は笑顔で送ってくれた。
そして俺は宝石店に行く。この宝石店は買い取りもやっていると咲良から聞いた。
咲良が言うには、ここで換金してくれ。とのことだった。
人間界の事情に精通しているのは、すごいところだった。
店長にまず声をかけてくれ。という風に言われた。そして、咲良の名も出してよいと。
「店長いる?」
「え…あ。はい。店長!!」
男が出てくる。それが店長らしい。
「なんだ?」
「あの…この方が…。」
「…。こちらへどうぞ。」
俺はなぜか部屋に案内される。
「話したいことは何ですか??」
「咲良に…言われてきました。」
「咲良に?…あなたの前世のお名前は?」
「玖柳ですけど?」
俺は何気なく答える。
「玖柳様?本当に?」
「ああ?」
「確かに…瓜二つ…。もう一度会えるとは……ぁ、私は向こうの世界の宝石を使い、宝石を作り出すものです。一度、向こうで見ました。」
「あ、そう?」
「はい。では、宝石を…。」
「ああ。いくらになる?」
「………適当に見積もって……1000万。」
「いっせんまん?」
「?おかしいですか?」
「だって、こんなに小さいのに?」
「向こうの宝石は、確かに質がいいです。ものすごく。だけど、これはさらに上を行く。」
「さらに、上?」
「躬侶さまのいらっしゃった神殿の飾りのひとつです。」
「え?そんなものいいのか?」
「もう誰も住んでいません。いいと思います。で、なにをお探しですか?」
「ぁ…ああ、躬侶が俺の側にいるんだ。」
「躬侶さまもいらっしゃるんですか?」
「ああ。そんで…指輪を。」
「例の指輪ですね?」
「ま、まあ、、、そんなもの。」
俺はテレながら答える。店長は笑う。
「では、これはどうですか?」
俺は宝石を一通り眺める。そして、ついに決めた。
「これ…ですか?」
「ああ、これ、8のじになってるだろ?」
「はい。」
「俺たち…まためぐり合えたし…これからも…めぐり合えると思う。だから…これにするよ。でも、これだけじゃ寂しいよな〜。
なぁ、この8の字を、こっちのここにつけることはできる?」
「はい。」
「で、できれば今日の6時までに作って欲しいんだ。」
「なぜです?」
「今日、灯季の誕生日だから…。」
「わかりました。では再度取りに来てください。」
「サンキュ〜。」
俺は宝石店を出る。
まさか、ここまですごいとは思わなかった。
灯季にあげた宝石の次に小さくて、一辺が3cmのものが、1000万で売れるとは…。
そして俺は適当な店に入って飯を食べる。
そのあと、久しぶりに本屋に入った。すべてが懐かしい…。
俺は、灯季の誕生日プレゼントを他にも買う。選んでいるうちに、6時になった。
俺が扉をくぐると、さっきの店主がいた。
「できました。」
「サンキュ。見てみてもいいか?」
「はい。」
俺は見た。するとかなりいいできだ。
「じゃあ、さっきの宝石で支払い頼むな?」
「え?これのために、あの宝石全部ですか?」
「変か?…」
「そういわれると思いましたので、もうひとつ作りました。これは、あなた様用です。」
「まじで?サンキュ〜。お。いいなぁ。」
「はい。で、おつりです。」
「へ?」
俺は小さい袋を持たされる。
中の札束を数えると5束もあった。
「もしかして…500万?」
「はい。」
「なんで??」
俺が理由を聞くと、さらさらと言った。
「あなたは躬侶さまの婚約者であるからVIPだし、あなたが来店してくださったことを向こうに自慢できる。そして…ちょっとしたお願いがあるんですが…。」
「へ?」
「私と2shotを撮ってください!」
「え?べつにいいけど?」
俺は言われるがままにポラロイドで写真を撮る。
「ありがとうございます!ちなみにお一人の写真もいいですか?」
「え?ああ。」
俺は2回撮られる。店主の言いなりになっていた。
「ありがとうございます!これで、向こうでは1000万の価値があります!」
「え」
「基本的に向こうのほうがお金の価値が低く、1000万は、こっちの1000円といった感じです。」
「さらに、今度躬侶さまをつれていらっしゃって下さい。そしたら、1億で売れる…。というわけです。では。またのご来店をお待ちしております。」
「あ、ああ。」
俺はあっけにとられた。俺たちはいったい…。と。
とりあえず俺は最後に花束(抱えきれないくらい大きなもの。)を抱えて、灯季の家に帰った。
しずく
ガチャ
「ただいま〜。」
「お帰りなさ〜い。ごめん。いま手が離せなくて…。」
灯季は台所から声をかけてくれた。
「別にいい〜。」
俺はリビングに入り、プレゼントを置いた。そして灯季に声をかける。
「ひ〜ときっ!」
「なに〜?ぇ?」
灯季は俺が抱えている花束にびっくりする。
「おめでとう!灯季。」
「うわぁ。ありがとう!!おっきいねぇ。きれいだねぇ。」
「だろう?」
「うんっありがとう。ちょっと持ってて。夕食の準備が終わったら、飾るから…。」
「花瓶は?」
「花瓶?一番奥のソファーのある部屋にあるけど?」
「まじ?じゃあ、俺とってきて、いけてやるよ。」
「できるの〜?」
「当たり前だ。」
俺は花瓶を探してきて、風呂場で水切りしながらいけた。一個ではたりなくて、結局4個くらい使った。
「できたぞ〜?」
「うそぉ。ってすごいっ。」
灯季は喜んでくれたようだ。
「夕食もできたよ。あ。1個ここに飾ろうよっ。」
灯季は花瓶のひとつを食事の並ぶテーブルに置いた。
「わぁ…。ありがとう岬人!」
「どういたしまして。」
俺はにっこりと笑う。そして、二人でテーブルについた。
「じゃあ、灯季、誕生日おめでとうっ」
「ありがとっ。」
俺たちはグラスを傾けた。
「あ、そうだっ、まだあるんだ。プレゼント。」
「えっ?まだくれるの?悪いよ〜。」
「いいからいいから。ほれ。」
俺は包みを出す。
「へぇ…結構おっきいね。あけてもいい?」
「もちろん。」
俺が買ってきたプレゼント、それは…。
「写真たてだぁ。あとイルカの絵がいっぱい。はがきもある〜。ありがとう。岬人。」
「どういたしまして。喜んでくれた?」
「もちろんよっ。岬人がいるだけでうれしいのに、こんなにいっぱいもらって、本当にうれしいわ。」
灯季は微笑む。俺はその微笑にドキッとなった。
そして俺たちは楽しく食卓を囲んだ。
数時間後
「灯季…。」
「え?」
俺は風呂上りの灯季の体を抱きしめる。
「ちょ…。」
特にどうしたいというわけじゃなくて、ただ…抱きしめたかった。
「ごめんな。なんか…急に抱きしめたくなってさ…。」
「…。ねぇ、髪の毛乾かしてくるから、ちょっと待ってて?」
「?…別にいいけど?」
俺は灯季を離すと灯季は髪の毛を乾かしに行った。
俺はリビングでぼーっとしながら、例の指輪をいつ渡そうか?と考えていた。
そのときだった。
「さ〜きとっ」
「わっ」
灯季は俺に抱きついてきた。
「なっ?」
「ちょっと、一緒に外に出て欲しいんだけど?」
「別にいいよ?湯冷めしない?」
「平気だよ。」
俺から離れて、俺の手をとり、灯季はベランダに出た。
「見て?」
「・・・すげぇ・・・。」
灯季に言われた通り、上を見ると…星が輝いていた。たくさん星が出ていて、今にも星が落ちてきそうだった。
俺はこのチャンスを逃す気はなかった。
「灯季、目を閉じて欲しいんだ。」
「目を閉じればいいの?」
「ああ。んで、片手を広げて。」
「うん?」
灯季は俺の言ったとおり、目を閉じて手を広げてくれた。
俺は自分の手のひらに例の指輪をのせる。そして、その手を灯季に重ねる。
そして
「!」
俺は唇を重ねた。
唇を離すと同時に灯季の手のひらも開放する。
そのときに忠告も忘れない。
「落とすなよ?」
「…な〜に?」
灯季は目を開ける。そして指輪に気づく。
「これくれるの?」
「ああ、やるよ。」
「わぁい。かわいい!…ねぇ岬人、この指輪はめてよ?」
「いいよ。」
俺は灯季の左手を取り、薬指に指輪をはめる。そして灯季が何かを言う前に抱きしめる。
「結婚しよう。」
「——————はいっ。」
俺は顔が熱くなるのを感じた。
俺たちは、またたく星の祝福を受けたまま、抱き合っていた。
「ねぇ、岬人?」
「うん?」
「ずっと側にいてね?」
「ずっと側にいるさ。」
「ずっと昔から、いたもんね。」
「今もいるだろ?」
「じゃあ今度も、いるよね?」
「今度も、いるよ。」
「ずっと一緒だね。」
「ずっと一緒だ。」
・・・・前世でも君をとても愛していて・・・・
・・・・・今でも君を愛しているんだ・・・・・
・・・・・・・・・この先・・・・・・・・・・
・・・・・・何度生まれ変わっても・・・・・・
・・・・・・・俺の瞳に写るのは・・・・・・・
・・・・・・・・永久に君だけ・・・・・・・・
ばっく