7つめの雫
私は家に帰ってきた。そして異変に気づく。家の中に明かりがついているのだ。
不法侵入か?と思いつつ、ドアノブを軽く回そうとする。だが、鍵は閉まっている。おかしすぎだ。
私は用心しながら鍵を使い、扉を開ける。
ガチャ
恐る恐る中をのぞくが、そこには誰もいない。入ってすぐのところで何かされる。ということはないようだ。
でも見つけないと、安心して生活ができない。私は気合を入れて一つ一つ扉を開けては閉めていった。
そして寝室までたどり着く。この部屋で止まることがとても危ないことだとはわかっていた。
だけどはいってベッドの上に座る。神経を集中するときは、寝室のベッドの上に座るのが一番だからだ。そして私は祈った。
『岬人、私に力をちょうだい。いま、すっごい怖い。だけど、岬人に会うまで…絶対に、頑張るから。』
私は目を開けて振り返る。するとそこには誰かがいた。
あまりにも突然のことで、声を上げてしまった。
「えっ!きゃああ!」
「うわぁっ!」
相手も驚いたことにびっくりする。だが、警戒心を解かないまま、相手の顔を見ようとした。少し薄暗くてよく見えない。
だが、なんとなくだけど、わかる。
どこかで見たような……いや…見た。見たことある。この顔。だけど…信じられない。
この人は本当に…あの人なのだろうか。
「———灯季」
その人は私の名前を呼ぶ。私は目を見開いて、岬人を凝視する。
私はその声に、聞き覚えがある。忘れることのなかった…声。
『まさか…本当に?』
「忘れた…よな?やっぱり…。」
『忘れてなんていない。』そういおうとしたが、なぜか言えなかった。驚きすぎて、感動しすぎて…突然すぎて…。
「勝手に入ってごめん。」
「…」
『そんなこと…』でもいえない。今度は理由がわかった。
私の視界がぼやけてきたから。
「なんでもいいから反応を示してくれ。頼むから。」
私はうつむく。もう涙をこらえることができなかった。
そして、私はもう一度名前を呼んで欲しいと思った。そしたら…。
言いたいこと、全部いえる。
涙を流してしまうけど…私の名前を呼んでくれたら…。いえるから…。
「名前」
少ししか言葉に出せなくて、単語になってしまった。
これだけじゃ、わからない。はずだ。
「え?」
案の定、聞き返してきた。だから、続ける。涙で声が震えてくる。だけど、それを一生懸命こらえて、少しずつ…声に出す。
「もういちど…よんで。」
少しの間のあと、彼は私の名をよんでくれた。
「———灯季」
と。
私はそれを聞くと、うつむいたまま、岬人のほうに向かう。
そして
私は岬人に抱きついた。7年ぶりに岬人の胸に顔をうずめた。岬人のぬくもりを感じて…私の目からは次から次へと涙があふれる。もう止めること、我慢することは、できなかった。
「え?」
岬人はびっくりしていたが、そんな言葉は、今の私の耳に入らない。
「灯季……」
私は岬人の優しい声を聞き、岬人の名を呼んだ。呼びたかった。
「さきと」
だけど、声にならない…。ささやくぐらいにしか、いえなかった。
「なんていったんだ?」
私は再度、声を押し出して名前を呼ぶ。愛しい人の名前を呼んだ。
「…さきと…」
「忘れて…………ない?」
その言葉を聞いて、カチンと来た。確かに、あえてうれしいという感情は、たくさんある。だけど、カチンときたのだから仕方ない。
私は顔を上げて叫んだ。
「忘れるわけないでしょ!!」
涙顔を見られて恥ずかしく、そんなことをいってしまった自分にも恥ずかしく、私は再度岬人の胸に顔を埋めて言った。
「忘れてないよ…。忘れられないよ!」
そう。忘れるはずがない。いや、本当に忘れられない。
岬人がいなくなってみんなの記憶から消えた後、私は多くの人から告白された。
やさしくて、かっこいい人からも告白された。
だけど、私の心は拒絶した。岬人以外の人の彼女になることを。
岬人に告白して、ふられたら、それは仕方のないから、拒絶はしないだろう。だけど、告白をしてふられるまでは、岬人以外の男の人を好きになることを心が拒絶していた。
そんな人が目の前にいる。
それだけで、もうじゅうぶんだった…。
「灯季……俺は君を…愛している。」
あまりにも突然の意味不明の言葉に私はつい言葉を発した。
「ぇ?」
私は俺から少し離れて、涙を軽く拭いて聞き返す。彼が発した言葉を。
「なんて…言ったの?」
「俺は君を、愛している。と、言った。」
「ほぇ?」
信じられない。
「アイシテル。そう言ったんだ。」
「へ?」
わけがわからない。
「愛してる。そういった。聞こえてないのか?」
「え??」
ほんとに?
「愛している。君を、愛している。そういった。でもわかってる。返事は『ごめん』だろ?だっておまえむちゃくちゃきれいだもんな。」
私は岬人が好きだから、ずっと覚えてた。
私は岬人が好きだから、誰の告白も受けなかった。
私は岬人が好きだから、ずっと待ってた。
岬人が私のことを好きでいてくれたことはすごくうれしい。
だけど7年も待たせて、急に帰ってきて、自分だけ言っちゃうなんてずるい。
そう思い、口から出た言葉は、
「ばかぁ!!」
だった。
「ばか?」
もうこうなれば、ヤケだ。私は感情を爆発させた。
「そうよ!ばかよ!ばか!ばか!ばか!ばか!ばかぁ!」
「なんなんだよ?7年ぶり?の再会で、おまえへの告白の返事がばか?どういうことだよ!」
「ばかだからバカって言ってんじゃない!バカ!ばかだよ!ばか!ばかすぎ!」
『そう、ばか。人の気持ちなんてぜんぜん考えないで…どんな思いで待っていたと思ってるの?』
「なっなんだよ?ばかばか言うなよ!」
「だってばかなんだもん!」
『押しつぶされそうな不安の中でも、あなただけを待ってたのに。』
「ごめんならごめんってはっきり言えよ!」
叫ばれたら、にらんで叫び返すものだと私は思うから、叫び返す。
「言うわけないじゃない!ばか!」
「ばかっていうな!ごめんって言うわけないって———へ?」
返事を含んだ言いまわしだった事に気づき、私は岬人の胸に再度顔をうずめる。
あんな言葉が返事なのは、いやだから。私は言葉をつづる。
「言うわけないよ。ごめんなんて。だって私も岬人のこと、好きだもの。誰よりも、好きだもの。私も岬人のことをアイシテルもの。ごめんなんていうわけないでしょ…」
「あの…俺のことを…」
「愛してる。」
私はもう迷わなかった。
岬人のことを愛している。この気持ちは変わらない。ずっと前から持っていた、私の大切な想いだから…。
「それ、俺のこと?」
「あたりまえでしょ!」
なにを考えているんだ。と思いつつ、私は顔を上げて岬人をにらむ。
「本当に?」
「本当に!」
嘘でそんなこと言うわけない。言ったとしても、からかうぐらいだけど、今、からかう余裕なんてない。
「わっ」
私は急に岬人に抱きしめられる。
「俺…やばい。うれしい!すっげぇ嬉しい!」
『その気持ちは、私もおんなじだよ?』
「私も…嬉しい。岬人…逢いたかった…。逢いたかったよ。」
「俺も逢いたかった。ずっと…逢いたかった。」
『ずっと逢えるって…信じてた。』
「逢えたね?」
「逢えた。…灯季?」
名を呼んだ岬人は私を離した。
「え?」
私が聞き返すと岬人の手が私の両目を覆った。
「なに?岬人?」
「目、閉じろよ?」
「うん?」
よくわからないが、いうとおりにする。
そんな私の顔を、岬人が手で包む。そして唇を重ねられる。
少しして岬人は私をはなした。
私は顔が赤くなっていることを自覚しつつ、すぐににっこりと笑い、「アイシテル。」そう言った。
そして私たちは、何度も唇を重ねた。テレながら、笑いながら…なんどもキスをした。
8つめの雫
私たちはそれから紅茶を飲みながら、お互いに話をした。
私はこっちのことを話す上でかかせない水津と佳久の話をした。
「もーひどいんだよー?水津達。確かに岬人のことは忘れてたけど、私の前でいちゃいちゃしてさっ。」
水津たちに悪気がないことはわかっているが、水津はよく私に男を紹介してきた。
私はそのたびに断り続け、6年くらいまえにもう紹介しなくていいときつく言っておいた。
いくら紹介されても「ごめん」の返事しか私は返すことができない。
「桐柚たちと一緒だな〜。遠慮しないんだもんな、昔から。」
そういえばそうだと思った。
岬人がいなくなってから、岬人のことしか考えなくて、夢の話はあまり思い出さなかった。
死に方も、あまりよくなかったし…。
「本当だよね?そういえば咲良が現れる前、時計の時間がなおって、妖精が大きくなってたでしょ?」
岬人がいなくなってから気づいた時計の変化の話をした。
この話は帰ってきたら必ず早めに言おうと思っていたことだった。
「あ?ああ。」
「あれ、咲良だったみたい。」
「えっ?」
やっぱり驚いた。
驚き方が面白くて私は笑顔のまま、言った。
「だって、咲良がいなくなってから、時計の妖精もいなくなったもの〜。それに、あのときの駄目って声。咲良だと思うわ。」
「へぇ〜。あのときはなぁ、」
あの時…岬人は急に真剣なまなざしで私を見て、今までにない言い方で私の名を呼んだ。あのときほど心臓が出そうになったことはない。
「急に迫って来るんだもん。すっごいどきどきしたよ〜。」
なるべく平静を装って言う。
「あの時、びっくりしないときならいいのかなって思ったんだ。俺。」
私はそんなことを思っていたとはまったく知らなくて、かなり驚いた。
「ええー?」
「いい?」
もちろん、いい。と答えられるわけがない。
「駄目〜。」
「え〜。」
岬人はすねていた。多分ふりだと思う。
「ねぇ、岬人はなにしてたの?」
私ばかりが話をしても、しょうがないから岬人にふった。
「え?俺?俺は気づいたら海のそこにいて、不思議と息ができて、咲良があと少しだけ待ってください。っていうから、また寝たんだ。」
「それで?」
「それで、事情を説明されて、気づいたらこっちにいた。」
「それだけ?」
すごく短くそっけなく話された。
『わかりやすいけど、、まぁ、わかりやすいから・・いいか。』
「ああ。…ぁ、そうだ。咲良から預かってきたものが…。」
「え?」
岬人は私に指輪を二個差し出した。
もしかして、婚約指輪をくれるのかな?と思い、期待する。
だけど、そうでなかったら寂しすぎるから、聞いてみる。
「なにこれ?」
「灯季を育てた者の形見だって。」
「そっか……。岬人からじゃないんだね。」
言ってから『しまった』と思った。
「え?」
聞き返されて困ったけれど、わたしはごまかすことにした。
「ううん?なんでもない。」
「さて、そろそろ寝るか?」
「そうだね。」
話が変化してくれたことで、わたしはほっとすることができた。
「って、俺の部屋は?」
「ない。」
きっぱりという。当たり前だから。岬人が今日帰ってくるなんて知らなかった。知ってたら布団を引っ張り出して、干して、きれいに敷いた部屋があったけれど。
「ひっでぇな。おまえ。」
「ひどくないよ。」
わたしはしょうがないからここで寝てもらえばいいか。と思って立ち上がり、部屋に戻ろうとした。
が、岬人に腕をつかまれた。
「なに?」
首だけ振り向くと、岬人は真顔で聞いてきた。
「おまえ…経験者か?」
「??……………ばっなに言ってんのよ!」
一瞬わけがわからなかったが、すぐに理解する。そんなことは聞かないで欲しかったし、このままいたら、すごく気まずい。
わたしは岬人の手をはらおうとしたが、岬人は昔から強かったし…まぁ、女である私がかなうはずはない。
そのまま岬人は私を後ろから抱きしめて、再度聞く。
「経験者?」
身動きがとれないし、このままだとしょうがない。観念して本当のことをつぶやく。
「経験なんて…ないもん。」
「ふ〜ん。じゃあ、俺と同じだな。」
少しほっとしたけれど、当たり前だったことに気づく。
「そっか…ずっと海の底だったんだもんね。」
私は顔だけ振り向き笑顔で言う。
「じゃ、おやすみ。」
岬人は少し顔を赤らめ、私に回されていた手の力が緩む。
もちろん、そのときを逃す私ではない。
「あっ。」
私は岬人から離れて笑顔で言う。
「まだまだ先でしょ?そういうことは。」
言うだけ言って私は寝室に入った。
扉を閉めたあと、自分の心臓に手をあてる。
すごくドキドキしていた。
私は岬人が好きだから、あえてすごくうれしかった。これからもずっと岬人といたい。
岬人にずっと見ていてほしい。岬人とずっと…。
岬人はまだ帰ってきたばかりだし、まだその思いを伝えることはできない。
向こうから言って欲しい言葉でもある。
私は…一緒に過ごせる日常が戻ってきた。その事実が目の前にある。
幸せいっぱいのまま眠りにつこうとした。
「ぁ」
ふと思い出し、躬侶からもらったペンダントを見る。
「岬人だ…。」
今まで片方に私の写真が入っただけだったが、岬人が戻ってきたから、もう片方に岬人の写真が入った。
きっと岬人の両親も、水津たちも、今は岬人のことを知っている。
『昔に戻ったんだ…』
私はその幸せをかみしめながら、眠りについた。
Next day
朝起きて私はご飯を作る。いつも一人分だったけど、今日からは二人分…。
その事実が私を笑顔にした。
朝食を食べ終わり、岬人と1日一緒に入れると思ったのもつかの間だった。
「灯季?」
「ん…なに?」
「俺ちょっと出かけてくるから。」
「え〜一緒に行こうよ〜。それにお金は?」
「咲良にもらった。」
「えー。いくら?」
「10億。」
「は?」
桁の違うその言葉にわが耳を疑う。
「向こうでの宝石を売ったら、それくらいになるだろうってさ。俺はそれを売って、買い物してくる。ほれっ」
宝石のひとつを投げられた。
「今晩の飯の足しにしてくれ。じゃ。」
「えー。お昼ごはんは?」
「外で食う。」
『ずっと一緒に入れると思った瞬間これかよっ!』と思ったときだった。
「ぁ、灯季!」
「なに?」
岬人は、私向かってきて私に口づけて、離す。
なにが起こったのかまだよく分からない私に少し顔を赤く染めた岬人は言う。
「誕生日、おめでとう。」
「え?」
「今日だろ?おめでとう。」
日付をよくよく考えるとそのとおりだった。
誕生日なんて一番無意味なイベントだったし。
「ぇ…あ、本当だ。」
「じゃ〜な〜、」
「…うんっ。」
ちょっと寂しかったけれど、さっきのキスと言葉が嬉しかったから笑顔で送った。
私は岬人を送り出してから、今日やらなければならないことをいろいろと考えながらやっていた。
岬人がいなくなったあと、つらかった。
みんな覚えていない。常に友達はいたけど、やはり何かが違った。誕生日の日は岬人がいないから家で泣いていた。
だけど岬人は昨日、かえって来てくれた。
多分お互いにずっと前から、小さいころからずっと…お互いのことが好きだった。
その思いを口にすることなく、何年もの月日が経った。今まで側にいた人が、遠いところにいってしまった。だけど帰ってきてくれて、それだけでもうれしかったのに…
私のことを好きだと言ってくれた。私もあの人への思いを口にした。ずっといえなかった思いを口にしたから…なのだろうか。
きっとずっと側にいてくれる。そう思った。
前世から一緒だったんだから……。
私はとりあえず昼食を作り、一人で食べた。
だけど、いつもみたいに寂しい食事じゃなくて…今晩の夕食のメニューを楽しく考えながら…。
岬人が一緒にいる7年ぶりの誕生日だから、腕によりをかけてご飯を作ることはすでに決意済みだった。
料理のことを考えながら私は岬人が寝るための部屋を掃除する。そして、布団を取り込む。
いつの間にか咲良の時計は4時をさしていた。
「いけないっ。」
私は急いで買い物に出かける。なじみの店で買い物をする。
「いつもより笑顔だね。」なじみの顔にそう言われて私はさらに笑った。
そして、私の中の岬人の大きさを再確認した。岬人がいるから、本当の笑顔ができる…。
買った材料を見て今晩は豪勢だね?といわれたときは素直に『大好きな人が帰ってきたんです。』そう言えた。
私が大好きなお店でペアのお箸や、食器、コップを買った。
一人だと本当に適当なお皿しか買う気がないけど、やはり、愛しい人がいると、違うものだった。
家に帰るとすでに5:30で、岬人がまだ帰ってきていないことにほっとした。
まず、新しい食器を洗い、食料品を冷蔵庫の中に入れる。
私は岬人の帰りを待ちながら、料理を作り始めた。
しずく
ガチャ
「ただいま〜。」
岬人が帰ってきた。だが手が話せなくて迎えに出ることができなくて、しょうがなく声だけ返した。
「お帰りなさ〜い。ごめん。いま手が離せなくて…。」
「別にいい〜。」
岬人はそれだけ言うと、私のいるほうに来てくれたらしく、足音がすぐそこでとまった。
「ひ〜ときっ!」
「なに〜?ぇ?」
私が岬人のほうを見ると、岬人は花束を抱えていた。
びっくりして呆然としていると、岬人はまた言葉をくれた。
「おめでとう!灯季。」
誕生日祝いのためにわざわざこんなものまで買ってきてくれるとは…。
7年前の岬人は照れくさかったらしく、プレゼントをくれるときもぶっきらぼうだったけれど、やはり気持ちを伝え合うと、こうまで変われるものなんだ。そう改めて思う。
「うわぁ。ありがとう!!おっきいねぇ。きれいだねぇ。」
「だろう?」
「うんっありがとう。ちょっと持ってて。夕食の準備が終わったら、飾るから…。」
「花瓶は?」
「花瓶?一番奥のソファーのある部屋にあるけど?」
ふと問われた言葉に素直に返答すると、岬人はびっくりするような言葉を発した。
「まじ?じゃあ、俺とってきて、いけてやるよ。」
「できるの〜?」
「当たり前だ。」
そう言って岬人は花瓶を探しに行って、見つけたらしく、次は風呂場に向かった。
きれいにいけられるとは思っていなかった私は岬人の完成作品を見て半ば唖然とした。
「できたぞ〜?」
「うそぉ。ってすごいっ。」
そう、すばらしくうまかった。きれいな花々が4つほどの花瓶に飾られていた。
「夕食もできたよ。あ。1個ここに飾ろうよっ。」
そう提案し、ひとつを食事の並ぶテーブルに置いた。
私はすごくきれいな花々がうれしくて、再度岬人に感謝を述べる。
「わぁ…。ありがとう岬人!」
「どういたしまして。」
岬人はにっこりと笑った。私はその笑顔にドキッとしながらも、笑顔を作った。
「じゃあ、灯季、誕生日おめでとうっ」
「ありがとっ。」
私たちはグラスを傾けた。
「あ、そうだっ、まだあるんだ。プレゼント。」
「えっ?まだくれるの?悪いよ〜。」
今朝のキスとさっきの花束、そして言葉だけで、すごくうれしかったのに…まだくれるらしい。私は本当にうれしかった。
「いいからいいから。ほれ。」
岬人が私に差し出した包みは結構大きかった。
「へぇ…結構おっきいね。あけてもいい?」
「もちろん。」
許可をもらい、あける。
「写真たてだぁ。あとイルカの絵がいっぱい。はがきもある〜。ありがとう。岬人。」
「どういたしまして。喜んでくれた?」
岬人に聞かれるが、嬉しいのは当たり前だから、言葉を返した。
「もちろんよっ。岬人がいるだけでうれしいのに、こんなにいっぱいもらって、本当にうれしいわ。」
私は微笑む。そう、岬人が帰ってきてくれたこと…それがもうすでにプレゼントなのだ。
そして私たちは楽しく食卓を囲んだ。
数時間後
私はお風呂から出てきた。まだ髪の毛は乾かしていない。
「灯季…。」
「え?」
岬人に呼ばれて振り返ると、抱きしめられた。何かされるのではと身じろぎする。
「ちょ…。」
「ごめんな。なんか…急に抱きしめたくなってさ…。」
愛しく思っていてくれること。そして何もされないことを悟った私は、岬人にあれを見てもらいたいと思った。そのためには離してもらわないといけない。
「…。ねぇ、髪の毛乾かしてくるから、ちょっと待ってて?」
「?…別にいいけど?」
私は離してもらって、髪を乾かしに行った。
髪を完璧に乾かし終わると、私はリビングで待つ岬人の元へ向かった。岬人はぼーっとしていたので、岬人に抱きつくことにした。
「さ〜きとっ」
「わっ」
岬人は驚いたようにこっちを向く。私は例のものを見てもらうために、岬人に話しかける。
「なっ?」
「ちょっと、一緒に外に出て欲しいんだけど?」
「別にいいよ?湯冷めしない?」
岬人は心配してくれたが、その心配はない…はずだ。
「平気だよ。」
私は岬人から離れて、手をとって、ベランダに出た。
「見て?」
私は空を指差して、私自身も上を向く。
「・・・すげぇ・・・。」
私が見せたかったもの、それはたくさんの星々だった。岬人がいなくなってしまったあの日から、私を励まし続けたもの…。
向こうの世界はきっと星々のどれかで、あの星々のどれかに、岬人はいる。私はそう思い、毎日星を眺めた。
たくさんの星はいつもよりも輝いていて、今にも落ちてきそうだった。
きれいな星の美しさに見ほれていると、岬人に声をかけられた。
「灯季、目を閉じて欲しいんだ。」
「目を閉じればいいの?」
「ああ。んで、片手を広げて。」
「うん?」
私はわけがわからないまま、目を閉じて片手を広げた。
私の手に岬人は手を重ねた。
そして
「!」
私の唇に、岬人は唇を重ねた。
甘いキスだった…。
しばらくして岬人は唇を離すと同時に私の手の上に載せていた手も離した。手の上には何かがあった。
「落とすなよ?」
「…な〜に?」
私は目を開ける。手の上にあったものは、指輪だった。
「これくれるの?」
「ああ、やるよ。」
「わぁい。かわいい!…ねぇ岬人、この指輪はめてよ?」
岬人からもらった指輪だから、岬人にはめて欲しかったからそう願った。
「いいよ。」
岬人は快く了承してくれた。
岬人は私の左手を取り、薬指に指輪をはめた。
私は岬人のその行動に驚き何かを言おうとしたが、その言葉をさえぎるように、抱きしめられた。
「結婚しよう。」
こんなに早くその言葉をくれるとは思わなかった。だけど、嬉しかった。
「——————はいっ。」
私は顔を赤く染めながら肯定の意を示して、岬人の背中に手を回した。
私たちは、またたく星の祝福を受けたまま、抱き合っていた。
「ねぇ、岬人?」
「うん?」
「ずっと側にいてね?」
「ずっと側にいるさ。」
「ずっと昔から、いたもんね。」
「今もいるだろ?」
「じゃあ今度も、いるよね?」
「今度も、いるよ。」
「ずっと一緒だね。」
「ずっと一緒だ。」
・・・前世でもあなたをとても愛していて・・・
・・・・今でもその気持ちは変わらない・・・・
・・・・・・・・・この先・・・・・…
・・・・・何度生まれ変わったとしても・・・・・
・・・・・・・私が愛するのは…・・・・・
・・・・・・・永久にあなただけ・・・・・・・
ばっく