春の誘い
登場人物
海山 美琴(みやま みこと)
海山 新治(みやま しんじ)
西條 真人(さいじょう なおと)
西條 直仁(さいじょう なおひと)
新藤 克哉(しんどう かつや)
山星 晋太郎(やまぼし しんたろう)
好感を持ちましょう〜春の誘い〜
美琴は目を覚ます。いつもは目覚まし時計によってだが、今日は違った。
自室の部屋をノックする音によってだった。
部屋をノックするのはこの家には一人しかいない。
眠い目をこすりながら、応対する。
「どうしたの?お兄ちゃん?」
そう言うと、答えが返ってくる。
「ちょっといいか?」
「いいよ?」
美琴は起き上がる。すると、新治がドアを開けて顔を出す。
「あのさ〜、、おまえ、春休みにどこかに行く予定は?」
「?べつに無いけど?」
「じゃあさ、ペンション行かないか?」
「ペンション?」
驚いて聞き返す。兄からこういう誘いがあったのは、初めてのことだった。
美琴は早くに両親をなくし兄と二人で生活している。父と母の二人の実家から、お金をもらい、生活している。
新治は23歳で、仕事をし始めて1年たった。美琴は18歳で、高校を卒業したばかりだった。
「俺たちの親父の知り合いに、西條さんって人がいるんだけど、その西條さんが経営しているペンションに、誘ってくれたんだ。」
「へぇ…。」
「そのペンションには、西條さんと、あと客が二人いるらしい。俺たちより3日前に、いるらしいから、俺たちより3日先に帰るらしい。」
「あっそ〜。」
「で、いかないか?」
「別にいいよ?」
「そっか。じゃあ、明日出発だから、」
「え゛」
「じゃ〜な〜。」
「ちょっ」
兄を呼び止めたかったが、そうもいかず、明日から行くらしい旅行に向けて準備をし始めた。
「じゃあ、いくぞ〜・」
「うんっ」
美琴は兄とともに、出発した。
数時間かけて、目的地のペンションに到着した。
到着したのは、もう夕方だった。
「へぇ…。結構きれいなペンションだね。」
「ああ。きれいだな。…そうそう、西條さんが息子に手伝いに来させたらしいぜ?」
「あっそー。」
「確か、美琴とタメだったと思う。」
「ふ〜ん。」
「そう言えば、おまえも面白い奴だよな。」
「なにがよ?」
「だってさ、おまえloveレターとかたくさんもらってたじゃねぇか、なのに、彼氏いないんだろ?」
「うるさいな〜。お兄ちゃんこそいないくせに!」
「うっせぇな。」
「やーいやーい。」
「もしもし?」
兄弟げんかをしている最中、誰かに話しかけられた。美琴たちは、声のしたほうをむいた。
「「え」」
「あ、もしかして、新治くんと、美琴さんかい?」
「あ、はぁ…。あっもしかして、西條さんですか?」
新治がそう聞くと、美琴たちに話しかけた中年の人は、うなづいた。
「ああ、はじめまして。」
「お久しぶりです。俺は結構覚えてますよ〜。」
「そうかぁ。」
「あ、美琴、この人が、西條直仁さん。」
「ぁ・はじめましてっ、海山美琴です。」
「はじめまして。きれいなお嬢さん。さぁ、中へどうぞ。」
美琴と新治は中へ入った。
「新治くんの部屋は、ここ、美琴さんの部屋は、こっち。」
「あ、ありがとうございます。」
「あと、これはここの見取り図と人名です。よく見といてください。」
「あ。はい。」
「私は大体管理人室にいますから。まぁ寝るときは寝室に移動しますけど…。」
出入り口
西條直仁 西條真人 山星晋太郎 空室 リ ビ ン グ
海山美琴 海山新治 新藤克哉 空室 お 風 呂 場 管理人室
美琴たちは夕食をリビングで取っている最中、直仁は、新治と美琴以外の客および息子を紹介してくれた。
「この人が、山星晋太郎さんです。」
「よろしく。」
晋太郎の年齢は22だった。
「「宜しくお願いします」」
「この人が、新藤克哉さん。」
「よろしく。」
克哉の年齢は21だった。
「「よろしくおねがいします」」
「で、こいつが私の息子の真人です。」
「はじめまして。宜しくお願いします。」
「美琴さんと同い年です。」
「あ、どうも、はじめまして。」
美琴はぎこちなく挨拶を交わした。
晋太郎と克哉にいいイメージはわかなかったけれど、直人に関しては別だった。
夕食の後、新治は風呂に入りに行った。
直仁は管理人室にいて、晋太郎は自室にいるらしい、直人は外に出たらしかった。
というわけで今リビングには、美琴と克哉がいた。美琴が椅子に座っていたら、その真向かいのイスに克哉が座ってきたのだった。
「美琴さん?」
「はぃ?」
「今彼氏いるの?」
「い、いませんけど?」
「へぇ…いないんだ。俺、今フリーなんだけど?」
「…。」
いやだ、いやすぎる、こんな人…。なんでなんだろう?体が拒否してる…。
「付き合わない?俺のがちょっと上だけど…。」
克哉は立ち上がり、美琴の隣に座る。
「わ、私部屋に戻ります。」
立ち上がりかけた美琴の腕を克哉はつかんだ。
「痛っ。」
「いいじゃん?もうちょっとさー。」
「っ、はなしてください。」
「いやだといったら?」
「はなしてくださいってば!」
美琴は腕を振るが、克哉は離さないどころか、もう片方の腕を握ってきた。
「いいじゃん…もう少し…さ。」
目が気持ち悪かった。一刻も早くこの場を離れたかった。
「い…いやっ!離して」
「何してるんすか?新藤克哉さん?」
「なっ」
克哉は声のしたほうを見た。そこには…
「直人さん!」
「駄目ですよ。克哉さん。嫌がる子を無理やり引き止めては…。」
「ちっ」
克哉は美琴の腕を離して、自室へ引き上げていった。
「大丈夫ですか?」
「はい…。ありがとうございました。本当に助かりました。」
「いいえ、あ、あなたのお兄さんですよ?」
「え。あ、お兄ちゃん!」
「?どうかしたのか?美琴。」
「う…ううん。なんでもない。私、お風呂はいってくるね?」
「あ?ああ。」
こうして美琴はお風呂に入った。そしてドライヤーで髪を乾かす。
「あ、美琴、直仁さんに、お風呂開いたって伝えとけよ?」
「あ、うん。」
美琴は管理人室の扉をノックした。
「はい?」
管理人室には、直仁と直人がいた。
「直仁さん、お風呂、開きました。」
「そうですか、ありがとうございます。あ、新治さんに、今の時刻は星がきれいですよ。と伝えていただけますか?」
「はい。わかりました。」
美琴は直人に軽く会釈をして、扉を閉めた。そして、リビングにいた兄に声をかける。
「お兄ちゃん?直仁さんが、今の時刻、星がきれいですよ。って。」
「そっかぁ。俺、見に言ってくるよ。美琴はどうする?」
「私は…いいや。」
さっきのいやな出来事がまだ多少尾を引いていたから、美琴は断った。すると兄は一人で外に出た。
美琴はため息交じりで、部屋に向かった。
すると、部屋の前に誰かがいる…。
「やぁ!」
「…。何か御用ですか」
部屋の前にいたのは、晋太郎だった。
「ん〜。君って、彼氏いないんだろ?」
「だからなんですか。」
「俺と付き合わない?」
「付き合いません!」
目が気持ち悪かった。この人も…。
美琴は部屋に入ろうとした。
「待てよ?」
「っ」
晋太郎に腕をつかまれた。
「い、いやっ離して!」
美琴は思いっきり手を振り払い、部屋に入って急いで扉を閉める。鍵が無いので自分でドアのノブを押さえた。
ドンドン!
「あけてくれよ?なぁ。」
「いやっ」
「いいじゃん?ちょっとくらいさぁ。」
「いやっ」
「なら…しょうがないね。」
すると晋太郎はドアのノブを力いっぱい回した。
美琴の力では太刀打ちできない。
あけられる!
そんなときだった。
「何してるんすか?」
『この声…真人さん…。』
「いや…その…。」
「あなたの部屋は、あっちですよ?」
「あ…そうだな…。」
ドアノブに加わっていた力が無くなった。
美琴はほっとして、へなへなと座り込んでしまった。
トントン
「美琴さん?大丈夫ですか?」
「ぁ、はい。大丈夫です。ありがとうございます。」
「いいえ、心配だったものですから。もう大丈夫だと思います。じゃあ。」
そういうと、直人は自室へと帰っていった。
美琴は少なからず直人に好感を抱いた。
そして、美琴はこの先何もありませんように。と願いながら、眠りについた。
恋をしましょう〜春の誘い〜
2日目
美琴は食事を終えて、リビングでくつろいでいた。
するとまぁなんというか、最悪なパターン…。
直仁さんは、食料の買出し。新治と直人は意気投合したらしく、仲良く話をして外に出て行ってしまった。
そして晋太郎は自室…。
美琴は克哉とリビングに取り残された。
このままだとやばい。自室に引き上げよう。と思ったが、ちょっと遅かったらしい。
克哉に腕をつかまれた。
「なぁ美琴さん?」
「っイヤッ!離して!」
美琴はありったけの力を込めて手を振り払う。すると、油断していたらしく、手を離した。
その隙に美琴は外に出た。
「ふぅ…。」
美琴が後ろを振り返ると、誰もいなかった。ほっとして、湖のほうへ向かって歩き出した。
しばらく歩くと湖が見えてきた。
『きれい…。』
湖に向かってもう一歩踏み出した。時だった。
「きゃ・んん!」
後ろから誰かに口を押さえられ、拘束された。
「んんん!」
そのまま押し倒された。押し倒した人物は、克哉だった。
「んん!」
克哉は美琴の着ていたブラウスのボタンをはずし、服を開く。
「んんんん!」
そして、克哉は下着に手を伸ばした。
『このままだと犯される…誰か……助けて!』
と思ったときだった。
美琴の口をふさいでいた手が離れた。と同時に声がした。
「うわっ」
恐る恐る目を開くと、美琴をかばうかのように、誰かがいた。
「何してるんだ!てめぇ!」
その声には聞き覚えがあった。だが、こんな言葉を使う人ではなかった…。多少なりとも…気が動転しているのだろう。
美琴は起き上がり、ブラウスで胸を隠した。
ボタンを元に戻すだけの気力は無かった。
「ちっ」
克哉は走り去る。
「待て!ぇ?」
美琴は、追おうとしたその人物の服をつかんだ。一人にして欲しくなかったから。
「…大丈夫ですか?」
その人は、美琴の顔を覗き込んだ。
「ん…。」
美琴は振るえがおさまらない…。
「あ…りがと…ぅ…ござ…ぃ……ます。直人…さん。」
そう、美琴を助けてくれたのは、直人だった。
「いいえ。美琴さんが無事でよかったです。」
そう言うと直人は自分の着ていた上着を脱いで美琴の肩にかけてくれた。
「隣…座ってもらえませんか?」
美琴は声を押し出した。
「あ、はい。」
直人は隣に座ってくれた。
そして、美琴は、直人に抱きついた。
「ぇ」
「ひっく……ひっく……」
美琴は泣き始めた。
最初はびっくりしていた直人だったが、美琴の肩に手を回してくれた。
美琴は安心して泣き続けた。
しばらくして、涙がやっと収まりかけたときだった。
「直人?何してんだ?おまえ。」
「え・新治さん!」
「お…兄ちゃん?」
「な…な…な…美琴?なんでおまえ泣いて……っおまえ…その服……。なーおーとー?」
「え゛?」
「おまえなぁ〜。」
「お兄ちゃん!違うってば。」
「え゛?」
「直人さんは、助けてくれたの…。」
「え…そうなのか?」
「うん…。直人さん、あと、説明お願いしてもいいですか?」
「あ、はい。あのですね、新治さん?実は…」
直人は美琴の代わりにすべてを話してくれた。
「打ち殺す!」
「わっやめてよ…お兄ちゃん。」
「ん〜、明日にはやつらは帰るからなぁ・・・。んーー。よしっ直人、おまえさ、美琴、守ってくれないか?」
「「え」」
「おまえ側にいれば、多分美琴は平気だろうと思うから、頼まれてくれないか?」
「……俺はかまいませんけど…美琴さんが嫌じゃなければ…。」
「…べつに、いやじゃないよ?」
「そうですか?じゃあ、俺が美琴さんを守ります!」
「そっか、じゃあそうしてくれ。俺は直仁さんと約束があるから、おまえら湖でも見てな、」
「ちょ、お兄ちゃん!」
新治はいちもくさんに、ペンションのほうへ行ってしまった。
「ん〜。じゃあ、湖、行きましょうか?」
「あ…はい。でも……まだちょっと…気力が…。」
「ん……。いやだったら、いやだって、言ってくださいね?」
「へ?ひゃあっ」
直人は美琴を抱き上げた。
「嫌ですか?」
「べつに…大丈夫です。」
「そうですか、じゃあ、首につかまっててくださいね?」
「あ。はい。」
美琴は直人の首に腕を回した。
そして二人は湖においてあるボートに乗った。
「これ、うちのですから。」
「あ、そうなんですか…あの〜、18歳ですよね?」
美琴はずっと気になっていた。
「へ?まぁ、そうですけど?」
「敬語、やめません?」
「やめますか?」
「やめましょう?」
「じゃあ、」
「うん。」
同い年なのに、ずっと敬語は変な感じがした…。
美琴と直人は長い間話をした。
お互いのこと、高校の思い出。大学への希望や不安。
普段生活している家を聞くと、それは美琴の最寄駅の、二つ先だった。
「じゃあ、帰ってからも話できるね?」
美琴は何気なく言ったのだった。この人が好きだとか、そう言う感情は一切なしで。
「へ…ぁ…そう…だな。」
直人は笑顔で答えてくれた。
「じゃあ、そろそろ戻ろうか」
「あ、うん。」
今度は自分で立ち上がって、美琴はボートを降りた。
そのときに少しよろめいてしまった。
「へ…きゃあ!」
美琴は、運良く岸のほうに倒れた。
「ったぁ…」
「…ははっ美琴さんは、結構おっちょこちょいなんだな。」
笑顔でいう直人に美琴は少し胸が高鳴った。
「もー。直人くん、ひどいよ?」
「あーごめんごめん。はい。」
直人はなんだかんだ言っても、手を差し伸べてくれた。
その手を握るとき、美琴は意識したのだった。
初めて人を好きになったことを…。
「ありがとう(^−^)」
「いいえ。じゃあ、いくか。」
「うんっ」
美琴たちはペンションに着いた。そこにはもちろん克哉、晋太郎がいた。
克哉は多少ばつの悪そうな顔をしていた。
晋太郎は、美琴が戻ってきて(やっとくどける)と思ったのだろうが、美琴をかばうように隣にいる直人を見て、舌打ちしていた。
食事のときも、直人と新治の間にいた美琴は、無事に食事を終えた。
「直人さん?」
「はい?」
直人は晋太郎に話しかけられた。今美琴はお風呂に入っている。
「直仁さんが呼んでましたよ?」
「親父が?あ、そうですか…。じゃあ、ちょっと待っててくださいって言っておいてください。」
「?はい」
直人は新治を呼びに言った。
「新治さん!」
「んあ?」
「俺、親父に呼ばれたんで、美琴さんのこと、お願いします。」
「ああ、」
新治は部屋から出てきて、お風呂場の前に立った。
そして直人は父親のところへ向かった。
「親父〜?」
「ん?」
「なんだよ?自分から呼んでおいて…」
「は?何をいっているんだ?俺はおまえなんか呼んでないけど?」
「なに言って…」
直人は晋太郎も美琴にちょっかいを出した、という事実を思い出した。
「やべっ」
新治には、晋太郎の危険性を話していない。
その頃…
「あれ?お兄ちゃん?直人くんは?」
「あ?直人なら、直仁さんに呼ばれたらしくて、どっか行ったけど?」
「あ、そう?」
美琴はなんと言うこともなく、うなづいた。そして、兄と別れ、部屋に入ろうとした瞬間…
「きゃあっ」
美琴は自室にひっぱりこまれた。美琴の部屋に誰かがいたのだった。
暗くて誰なのかはわからない。だが、口を押さえられて、兄を呼ぶことができない…。
美琴はまた克哉だと推測した。
『また今朝の再現?それはいやっ!誰か!…直人くん!!!』
と思ったときだった。
「ノックもなしに失礼するぜっ!」
という声と同時にドアが開いた。
「てめぇなあ…」
「直人…さん…」
美琴の口を押さえていた人物はそう言う。直人が着てくれたというのは、声でわかっていた。だが、美琴の口を押さえていた人物は、克哉ではなく、晋太郎だった。
とりあえず美琴は起き上がり、直人に駆け寄って抱きついた。
晋太郎は部屋から逃げるように立ち去った。
直人はそれを追おうとしたが、美琴が自分にすがっているのに、見捨てておくわけにはいかず、美琴の背に手を回した。
「美琴さん、大丈夫か?」
「ええ…大丈夫。直人くん…」
美琴はガクガクと震えていたが、直人の腕の中で、徐々に落ち着いてきた。
「きっと、もう大丈夫。明日の朝一でやつらは帰るから…。」
「本当?」
「ああ、大丈夫。」
「よかた…」
美琴は、ほっとして、気を失ってしまった。
気を失う直前、直人の声が聞こえた。
お付き合いをいたしましょう〜春の誘い〜
3日目
「ん…」
窓から差し込む朝日によって、美琴は目を覚ました。
「あ、美琴さん、おはよう。」
「え?」
美琴は状況を把握しようとした。
自分はベッドに寝ている。
そして…直人は床に座っていた。
なぜ?同じ部屋にいるの?
「なんで…ここに直人くんが?」
「あ?ああ、昨日あのまま、気を失ったんだよ。君。」
「あ………うん。それは覚えてる。」
「そんで、君を抱き上げて、ベッドの上に寝かせたんだ。」
「そうなんだ。それで?」
「部屋を出ようとしたら、手をつかまれた。」
「へぇ…って…えええ!」
美琴が手を見ると、確かに直人の手を握っていた。
「ごっごめんなさい!」
美琴は手を離した。
「俺は…べつにかまわなかったんだけど…」
「え?」
「ん?いいや。なんでもない。そいで、手を離してくれなかったから、部屋から出れなかった。そう言うこと。」
「そ、そうなんだ。」
「よっぽど精神的ショックが大きかったらしいね。もうお昼だよ。」
「えっ…」
美琴は赤面した。
「でもそのほうが良かったのかもしれない。奴らはもうここにはいないから、安心していいよ。」
「本当に?」
「ああ、」
「そっか…よかった。あ…お昼ご飯食べに行きたいな…。」
「俺も行くよ。」
「あ、うん。じゃあ外で待っててよ。着替えてからいく。」
「わかった。」
美琴は急いで着替えた。そして扉を開ける。
ゴン
「へ?」
少しにぶい音がした。
「ってぇ。」
新治は頭を抑えていた。
「…おにいちゃん?」
「よ、よぉ、美琴。おはよう。」
「おはよ…どしたの?…もしかして…当たった?」
「んん…まぁな。」
「ごめんっ」
「いいよ。大丈夫。ところで美琴…俺、明日先に帰るから。」
「ええ?」
「さっき急に会社から電話があって、戻らなきゃならないんだ。」
「ええ〜。じゃあ私も一緒に帰るよ〜。」
「ん〜。でもな、せっかく来たんだから、一日でも長くいろよ。」
「んーーー。」
「な?決定。というわけで、直人〜。」
「は〜い?」
直人はリビングから私の部屋の前まで来た。
「?どうしたんすか?」
「俺、明日かえるから、明後日、こいつを送ってやってくれないか?」
「なに言ってるの?お兄ちゃん、一人で帰れるわよ。旅費、くれるんでしょ?」
「そりゃやるけど、おまえは昔っから一人でいさせると、変な虫がつくからな。」
「…」
「変な虫?」
直人は怪訝な顔をした。
「ん〜。実はね、昨日と…おとといの…初めてじゃ…ないんだ。あそこまで、襲われたのは…確かに初めてだったんだけど…ねっ。」
「…。」
「というわけだ。頼むな〜。あ、飯、食いにいこうぜ!」
新治はそれだけ言うと、リビングに行った。
美琴は苦笑していて、直人は口が開いたままだった。
そして次の日、新治は帰っていった。
最後の夜
美琴の部屋の前で、美琴と直人は話をしていた。
「ここにいるのも最後なんだなぁ…。」
「まぁ、たいした日数じゃなかったけどなぁ。」
「そうだけどさっ。」
(ずっと一緒にいられなくなっちゃうから、寂しいね。)という言葉を美琴は飲み込んだ。
「まぁな〜。」
「怖かったけど、楽しかった。たくさんお話できたし…。」
「まぁな〜。」
美琴と直人は二人で笑った。
昨日新治と一緒にいった湖の話だとか、直仁さんの料理のおいしさetc、いろいろと話をした。
美琴は楽しかった。
そして、直人と別れるのが、寂しくもあった…その気持ちを押し殺していたせいなのかもしれない。自分でも信じられない行動をとってしまった。
「…」
「…」
美琴はうつむいた。
そして、今自分が何をしたのか…思い出す…。
少し背伸びをして…直人の唇に……
キスをした。
『なっナンテことをしたの、私はっ?』
「じゃ、じゃあ、お休みなさいっ!」
美琴は急いで扉を閉める。
「ちょ・ちょっと待てよ。」
ガチャ
直人の言葉とともに、扉が開く。
そして、直人は後ろでに扉を閉めた。
「ご、ごめんなさい。」
「な、なんで誤るんだよ!そんな…そんな中途半端な気持ちでしたのかよ!」
「違う!」
美琴は叫ぶ。
「だって・直人くんは、彼女いるかもしれないじゃないっ。そういう話はしたことないから、聞かなかったけど…。
彼女がいるかもしれない。好きな人が向こうにいるかもしれない。何にも知らない私が…直人君の気持ちを無視して、、あんなことしちゃって…自分が…すごくいや」
「…。」
「きゃあっ」
美琴は直人に抱き上げられて、ベッドの上に寝かされた。
「な、直人さん?」
「好きだ…」
そういうと、直人は美琴にキスをした。
しばらくしてから直人は唇を離して、美琴を見た。
美琴はにっこりと笑って
「私も好きよ。」
そう言って、直人にキスをした。
出発の朝
「じゃあ、直仁さん、お世話になりました。」
「いいえ、じゃあ直人、しっかり送ってけよ?」
「わかってるって…。」
「じゃあ、美琴さん、気をつけてな?」
「はいっ」
「あ〜、直人。これ。」
「?何これ。」
直人に手渡されたのは、手紙だった。
「途中で読みなさい。」
「?わかった。」
二人は仲良く寄り添って、駅へ向かった。
駅にたどり着き、家にかえるための電車に乗り込み、二人で並んで座席に座った。
そして、直人は手紙を開く。
「なっ?」
「??どしたの、直人くん?」
「はめられた…まぁいいか。」
「?」
美琴は意味不明という顔をしていた。
その手紙には、こうかかれていたそうですよ?
『いつまでも彼女のできない直人と
よってくる変な虫はいっぱいいる
のに断り続け、自分から好きにな
ったことがない二人を、ペンショ
ンに連れてきて、恋仲にすること。
実は今回の目的は、それだったん
だ。俺と、新治くんの、計画通り
事がはこんだようだから、はめ
られてくれて、よかったよ。
直仁 』