紗枝(さえ)は高校3年の受験生。 だけど大学は推薦でとっくに決まった。 同じクラスで、紗枝が大好きな雄哉と同じ大学。 だから、うれしかった。 大学は同じだし、勉強もテスト以外はしなくてもいい。 いつものように笑顔で彼を見ていられる。と思った。 愛しい人は今隣にいて、楽しそうに笑いながら一緒に話をしている。 紗枝は楽しいから笑っていた。 そんな時、その人が思うこのクラスで一番かわいい子は誰だろう?って思ったから聞いた。 自分にとって辛い結果になることも知らないで。 「ねぇ、雄哉?」 紗枝が呼びかけると雄哉は振り向く。 雄哉の格好よさに胸が高鳴る。 「んぁ?」 雄哉の少し低めの声も好きだ。 「あのさ〜、このクラスで一番かわいいのって誰だと思う?」 「え。なんだよ急に?」 急に何を言い出すんだ?というような目で見つめられる。 紗枝は少し緊張しながら受け流す。 「ん〜ふと思っただけ〜。」 気になっただけ…だったのに。 「ん〜そうだなぁ〜。きれいな人、だろ?………やっぱり美里さんかな〜。」 雄哉が言った女性は山中美里。クラスで一番美人だと評判の子だ。 紗枝は胸に大きな刃がぐっさりと刺さった気分だった。 「?どした?」 「なんでもない…。」 なんでもなく…ない。傷ついた。 自分なわけないのに、少し期待した。 期待するだけ辛い思いを味わうのを知っていたのに。 「?」 「雄哉〜!」 さっきまで雄哉と一緒にいた聡史という友達が雄哉を呼んだ。 聡史が他のクラスの子に呼ばれて、席をはずしたため、紗枝の隣にいたのだった。 「お〜。今行く。じゃな。紗枝。」 「…うん。」 すぐに聡史のほうへ言って楽しく話を始めた。 聡史と雄哉が話していると正志という男の子も加わり一層楽しそうに話をはじめた。 紗枝は、というと、さっきのことを思い出し、ため息をもらしていた。 「はぁ…」 「ど〜した?」 ふと顔を上げると小学校の高学年から仲の良い男の子が一人。 「慎哉…。」 「ん〜ど〜した〜?」 「慎哉はいいよねぇ。枝理がいて。」 「俺は勇気出して告白したから。」 慎哉には他学校に枝理という彼女がいる。もちろん枝理も小学校高学年からの友達だ。 「そんなこと聞くなんて、なんかあったのか?」 「そ〜よ。あったわよ。」 「なにが?」 紗枝は慎哉に事情を説明。絶対に自業自得って言われると思ってたら案の定。 「そりゃ自業自得だろ?」 「ぶ〜。」 いくらわかっていたとしても多少なりともショックはある。 「あははっ。しゃ〜ね〜な〜。ジュースでもおごってやるよ。」 「ホント?」 「ああ。」 「ありがと〜。」 紗枝は慎哉に抱きついた。 慎哉は笑いながら紗枝の頭をぽんぽんと叩いた。 「公認の仲だよなぁ〜あの二人。」 雄哉は正志の言葉にぴくっと反応する。 「?どうしたよ?雄哉。」 「べつに、なんでも…」 そんな雄哉に聡史はカチンと来た。 もう何年も雄哉といる。大抵行動が何を表しているのかわかる。 だからこそ、イライラするのだ。 「ちょっと来い。」 親友の言葉にわけがわからず、雄哉は聞き返した。 「は?」 「ちょっと来い。話がある。」 「?」 「というわけだから正志、俺らちょっと大事な話があるからいってくるわ。」 「ああ。じゃあ俺は隣のクラスにでもいるよ。」 「彼女が隣のクラスにいるもんな〜。」 「おまえも隣のクラスにいるくせに。」 聡史は正志と言葉を交わし、廊下に出て屋上に向かう。 雄哉は分けのわからないなりに、ダチだから、ついてきてくれた。 —屋上— 屋上に着くと、聡史は回りに誰もいないのを確認した。 確認し終えると雄哉の方を向いた。 聡史は真剣なまなざしを雄哉にそそぐ。 「なんだよ?聡史。」 「はっきり言わせてもらうぞ。雄哉」 「な、なんだよ。」 ここまで真剣な聡史はめったに見ないので、ちょっと動揺した。 「いい加減、告白しろ!」 「…は?」 本を貸せとか漫画を貸せとか、そう言う話ばかりだったので、出てくる言葉が予想外のものだったので拍子抜けする。 告白と言ったって、誰にも何も言うことはない。 「確かに慎哉と仲はいいけど当たり前だろ?あいつらは同じ中学から来てるんだから。」 「ぉぃ。」 熱弁し始めるとこいつは耳を貸さない。 「最初からあきらめていたらしょうがないだろ?あたって砕けろ!砕けたっていいじゃないか!」 「ぉ_ぃ。」 そう。耳を貸さないのだ。 「大事なのはおまえが篠崎を好きな」 「わあああああ!」 予想外の言葉に大きな声を上げて言葉をかき消した。 「なっなんだよ?」 「なっなっなっなんでだ?なんでおまえが知ってるんだ?」 「ばればれなんだよ。」 「…」 篠崎とは紗枝のこと。篠崎紗枝。彼女の本名だ。 高校1,2,3と同じクラスで大学も同じということが決まっている。 恋心にきづいたのは2年の文化祭。 だが、3年になって、同じクラスになった真崎慎哉という男と異常に仲良く話す。 そいつに嫉妬しているのは俺の正直な気持ちだった。 「で、さっきの続きなのは、大事なのはおまえが篠崎を好きな気持ちだろ?大学だって同じだからいいや、なんて思ってたら、誰かにとられるぞ?彼女結構かわいいじゃん。」 「そりゃ…そうだけどさ〜、」 雄哉もそりゃそう思うが、そう簡単に告白できるような勇気のある男ではない。 「あ〜も〜じれったい!早く告れ!」 「無理無理無理無理無理!」 まだ勇気なんてこれっぽっちしかない。 告白なんて、まだできない。 「否定をするなっ!ばか!」 「俺はばかだからな〜・」 「なるほど。じゃあ俺がおまえの言ってやる!」 「それは駄目だ!」 それをやられたら困るのは、誰かに片思いする男女皆の気持ちだ。 「…。とりあえず、いいたかったのは、それだけだ。がんばれよ〜?」 「わぁってるよ。」 少々いらついてるようだったが、最後には励ましてくれた親友の気遣いに感謝した。 ここまで自分を理解し、励ましてくれるとは思ってもいなかったから。 なるべく高校在学中に気持ちを伝えよう。そう思った。 三送会の日の今日、絶望的な言葉を聞いたからすぐに慎哉のところに行った。 「慎哉〜。」 「ん?どうしたんだ?」 「聞いてよ〜〜。」 沙耶は数時間前の出来事を話はじめた。 今日は三送会だからほとんどの人が学校にきていた。 友達と一緒に紗枝は話をしていたが、急にのどがかわいて水を飲みに行った。 水のみ場の正面には女子トイレがあり、ついでに髪の乱れをチェックしようと思ったからトイレに入った。 そこには数日前、雄哉本人がクラス1きれいだと言っていた少女、美里が他の友達といたのだった。 少しドキッとしたけれど、普段どおりに鏡を見て髪をチェック。さほど乱れていなかった。 ほっと一安心。そしてドアノブに手をかけた。 「ねー、告白したらどう思うかなぁ?」 「真中くんにでしょ?」 「!」 「うん。OKしてくれたら、いいんだけどねぇ。」 紗枝は無言で立ち去り、廊下の壁に背中をつけた。 「はぁ…」 —告白する?真中くん?真中くんって…雄哉…— 「どうしたんだ?」 「ふぇ?」 ふと見上げると、雄哉がいた。 「ゆ…うや?」 「なんだよ?俺がここにいちゃいけないのか?」 「べつ…に。」 思考能力がついていかず、まともに答えることができない。 「おいおい、大丈夫か?おーい。」 やっと思考能力が追いつき、反応ができるようになった。 そして一刻も早く立ち去りたかったから、その場を後にすることにした。 「もう大丈夫。心配してくれてありがとう。それじゃ、ばいばいっ」 「へ・おいっ」 雄哉の制止を無視して(ふだんなら考えられないことだけど)、教室に入り、慎哉を探した。 「と、いうわけ。」 「ん〜。でもさ、おまえが聞いたのはきれいな人だろ?好きな人じゃない。」 「でも〜。」 それでも、美里は綺麗だから安心なんてできない。 「第一雄哉が好きな人なんていうわけないだろ?あいつと一緒にいる聡史ならともかく、他の奴にはやつの本心は読めないよ。」 「そーかな〜?」 「そうだよ。聡史〜。」 慎哉は聡史に試しに聞いてみるのがいいだろうと思い、聡史を呼んだ。 「んぁ?」 「ちょっといいか〜?」 「?ああ。」 聡史の側に雄哉もいた。 そのことに対して落ち込んでいる紗枝は気づかない。 雄哉は慎哉のことをじーっとみていた。そして慎哉はなんとなくだけども、雄哉の本心がわかった気がした。 「なんだよ?おまえが俺を呼ぶなんて珍しいな。って篠崎さん、どしたの?」 机につぶれていて明らかに落ち込んでいる紗枝を見て聡史は声をかけた。 「べつに。」 すねているらしく紗枝は適当な返事を返した。 「ちょっとすねてるだけだから、気にすんな。てかさ、聡史、おまえに聞きたいことがあるんだ。」 「え・なんだよ?」 「なんか質問されたときに…あ〜たとえば、きれいな子とか可愛い子は?って誰かに聞かれた時、雄哉は好きな子の名前を出すか?」 「はぁ?」 「あ、ちなみにこの話、雄哉には内緒な?」 「?」 聡史はわからない顔をしていた。 慎哉は答えをせかした。 「で、どうなんだよ?」 少し考える。 聡史たちの回りで紗枝の事を凝視したりはしないし、彼女を見てあかくなることもない。 (ばれないように気を使っていると思うが、聡史から見たら逆にそれが彼女を好きなのだと自白しているように見えるが) というわけで結論は『出さない』だ。 「出さないな。」 「ほら見ろ。紗枝…って紗枝?」 紗枝のつぶれている方向を見たが紗枝はいなかった。 「何よ?」 声のしたほうを見ると、紗枝は床に座っていた。 壁に背をつけるのが好きらしかった。 「あいつはかわいいとかきれいだとかって質問には好きな子の名前を出すわけないってさ。聡史が言ってた。」 「聡史くんがぁ?」 紗枝は落ち込んだままで、なんとな〜く聞き返すが、よくよく意味を取ると、口止めをしなければならない内容だった。 「…って聡史くん!言わないでよ?」 こんなことを話されたら大変だ。悪く行けば、気持ちがばれてしまう。 「??…ああ。」 聡史はわからないなりに了承してくれた。ほっとして紗枝はベランダに一人で出た。 昨日、慎哉は枝理と久しぶりに会えてデートしたvと言うノロケ話を聞いた。だからこそ余計寂しかった。 今の現状は、勇気がない自分のせい。それはわかっている。 わかっているからこそ、つらいのだ。 「ふぅ…」 —寂しいな〜。私も”愛しの人”とLOVE LOVEしたい〜。— と思っていたときだった。 「何考え事してるんだ?」 「ふぇ?なんだ雄哉か…って雄哉ぁ?」 雄哉のほうが背が高いから、立って話す時は、見下ろされる。 急に現れた”愛しの人”に驚きつつも、なんとか平常心を保ち、外の景色を凝視した。 「なんだよ?俺といてもつまんないか?」 「そんなことないよっ。」 「そっかぁ?じゃ〜何か話そうぜ?」 「…うんっ」 この日の最初は、美里も雄哉が好きだってわかってしまった最悪だったけど、結果的に久しぶりに雄哉と長く話ができた。そんなうれしい日になった。 後編 その日は雨だった。 まるで私の心にふっているかのような…そんな雨だった。 卒業式まであと4日というある日、紗枝は買い物に出ていた。 途中から雨がふるという予報だったけど、 『クラスの先生に今までのお礼としてクラス全員で寄せ書きしよう』 という計画ををクラスで行動力のある子がたてて、紗枝は色紙を買ってきてくれ。と頼まれたから、どうしても色紙が欲しかった。 みんなそれぞれ多少分担がある。クラッカーを買う人とか、いろいろと。 クラッカーなどは前日で間に合うが、色紙となると話は別だ。みんなが書くから、今日中に買っておかないといけないのだ。 天気予報は“昼から雨”だったので、昼までに買い物を終えようと思った。 しかし、色紙だけを買う予定が、欲しい本とか文具とかいろいろ見つかってしまい、昼までに買い物を終わらせることができなかった。 2時ごろ。外を見てびっくり。 「うっわーーーー。」 雨は台風がやってきた時のようにザーザー降っていた。 「傘を持っていても、もう意味ないかも〜。」 独り言をつぶやき、帰路に着いた。 案の定、傘をさしていても、強烈な横風とバケツをひっくりかえしたような大雨で、少なからずぬれていた。 最悪、と思いながら歩いていると、心から否定したかったものが、目の前に現れた。 「え」 見た。何かを見た。それがなんなのか、紗枝は知っている。 知っているという声と、知りたくないという声がぶつかる。 だけど出した結論は“知っている”だった。 見たもの。見たくなかったもの。 それは、知っている人物×2. 雄哉と美里。二人が雨の中で抱き合う姿だった。 —嘘— 傘を持っていたけど、絶望感が心を満たして持っていられなくなり、傘を落とした。 視界がにじむ。 聡史が好きな子の名前を出すわけないと言っていたけれど、この状況は、明らかに両思いだ。 瞳から涙が流れる。 雨も涙と同様に頬を伝って行った。 —もうこれ以上、見ていられないよ…— 傘を拾ったけど、もうすでに紗枝の体はびしょびしょだった。 けれど走る気も起こらず、歩いて帰った。 かえってすぐに母に声をかけられた。(びしょぬれだから、当たり前だと思うが。) 「どうしたの?紗枝?」 「なんでもないよ?だけど、疲れちゃったから、寝るね?」 「ちょっと紗枝?お風呂はいってからにしなさい?」 「あ、そっか。わかった。」 紗枝は着替えをタンスから出してお風呂に入る。 涙と雨でびしょびしょの顔を洗って、雨でぬれた体を暖かいお湯で流し、石鹸をつけて洗う。髪もきれいに洗う。 お風呂から出て体をふいて、髪を軽く乾かして、自分の部屋に入って、ベッドにもぐりこむ。 「あれ・」 涙が頬をつたっていった。 体は少しあったまったけれど、つめたくなった心は暖まらなかった。 「どぉして…止まんないのぉ?」 涙を流し、声を押し殺して泣いた。 やがて泣きつかれて、紗枝は眠った。 「…朝…?ったい。」 頭がガンガンした。 昨日のことを思い出し、涙がつたう。 「少しだけの時間じゃ、この想いは…ながれないね?」 「あけるわよ〜。」 母の声がして、母が部屋に入ってきた。 あわてて涙をぬぐう。 「ど〜したの?もう学校行く時間でしょ?」 「頭が痛い。」 「ええ?」 母親におでこを触られる。 「熱いわね…体温計持ってくるから、熱、測りなさい?」 その後、熱を測ると38度6分 「はい。風邪ね?今日は休みなさい。」 「あっ。おかーさん?」 「なぁに?」 「色紙、持って行かなきゃいけないの。慎哉に、頼んでもらえる?」 「いいわよ?でも、風邪は卒業式までには、なおしなさいよ〜?」 「わかってる。」 苦笑して私は眠りについた。 夢にも昨日の場面が出てきて、夢の中でも泣いた。起きてからも泣いた。 さみしかったし・つらかった。 —さよなら・私の愛しい人— そしてまた眠った。 「はい。36度。熱も下がってよかったわ〜。」 結局的に紗枝の熱が下がったのは、卒業式当日だった。 「じゃあ行ってきます。」 「ええ、いってらっしゃ〜い。お母さんも後で行くからね?」 「うんっ。」 —少しだけ、回復したかな?− 学校に着くと、すでにいた友達が「大丈夫?」と声をかけてくれた。 それに笑顔で応対。 一緒に写真もとったし、その後、卒業式も終えた。 帰りのHRで色紙を渡した。先生が泣くのを見たかったけど、見れなかった。 そんな中、屋上に行くことを思い立ったため、帰り支度をして、屋上へ向かおうとした。そのとき慎哉に呼び止められる。 「どこいくんだ?紗枝。」 「ん?屋上だけど?」 「なぁ」 「ん?何?」 「おまえ、雄哉に告白しないのか?」 雨の日の出来事を思い出す。泣きそうになりながら、答えを返す。 「…うん。もう…いいの。じゃねっ」 「おいっ」 慎哉の言葉を振り切って、屋上へ向かった。 —おかしい。おかしすぎる。ぜったいに様子が変だ。雄哉と目を合わそうともしなかったし…— 慎哉は親友のためを思い、雄哉に聞くことにした。少し見回すと、まだ帰っていない雄哉を見つけた。 「おい、雄哉、ちょっといいか?」 「ん・ああ。」 誰もいない廊下に雄哉を引っ張り出すと、単刀直入に聞いた。 「なぁ、4日前?の大雨の日、なにがあったんだ?」 「え?」 少し驚いた顔をして、少し眼が伏せられる。 —ビンゴっ— 「何か、あったんだろう?」 「ん…まぁな。…でもなんでだ?」 「どうしても知りたいんだ。頼むっ教えてくれ。」 どうしてそんなに聞きたいのか。その理由が知りたかったが、雄哉自身、誰かに聞いて欲しかったので、話してもいいかと思った。 「…。告白されたんだ。美里さんに。」 「え」 「町でばったり会って、雨降ってる中で抱きついてきた。なんだよ?っていったら、告白された。」 「で、オッケーしたのか?」 「ん?いいや。してない。してないから、泣き止むまで、動けなかった。」 慎哉は心底ほっとした。 「あっ、そうだ。そのとき、紗枝を見なかったか?」 「えっ?」 雄哉は急に聞かれて戸惑ったが、そのときの記憶を探る。 「そう言えば…似たようなやつが…いたような、いなかったような…いたような…」 「だからか…」 「は?」 もはや慎哉の言っていることは意味不明だ。 「何言ってるんだよ?おまえ。」 紗枝のあそこまで落ち込む理由が誤解であることが慎哉にはわかった。 となれば、取る方法はひとつだ。 「なぁ、あいつに会いに行って、そのときのこと、話してやってくんないか?」 「あいつって?」 「紗枝だよ。紗枝。」 「あいつにはおまえがいるのに、何で俺が…」 自分の気持ちをばらす言葉を言ってしまったことに気づき、慌てて口を閉じた。 「は?」 慎哉は聞き返すが、雄哉は口をつぐんだ。 そして、雄哉の本心を察知して、苦笑した。 「なんだよ?」 「おまえな〜。ん〜、まぁいいや。」 「?」 雄哉は目を点にしている。とりあえず、雄哉の持っていた誤解を解く。 「あのな、俺と紗枝は付き合ってないぜ?ただ仲がいいだけ。」 「付き合ってない?」 「ああ。俺は他学校に愛しい彼女がいるから。」 「彼女がいる?!」 案の定驚きを見せた。きっとこの驚きは本心。 「ああ。俺はいるぜ?」 「あいつは?」 「フリーv。あいつ誤解してるからさ、おまえと美里さんのこと。」 にっこりと笑う慎哉を見て、自分の気持ちが悟られたことを知った雄哉は顔を少しだけ赤く染めた。 だけど、二人が彼氏彼女の間柄ではないことを知ってほっとした。 それと同時にきっと慎哉は大学後も聡史と同じくらいなんでも話せる仲になるだろうことを思った。(実は、慎哉も枝理も雄哉たちと同じ大学なのだ。) 「というわけ、じゃ、早く行ってくれ。あいつは屋上にいるから。」 「あ、ああ。サンキュっ」 「早く行けよ?」 「わかってる。」 雄哉は教室に戻り荷物をまとめて屋上へ駆け上った。 「はぁ…」 —いったい何回ため息をついたんだろう?— 「愛がほしいな〜。」 屋上には紗枝しかいないから、返事が帰ってこないのは当たり前。 「はぁ…雄哉と美里はきっと…お互いに愛し合ってるんだろうなぁ。」 「んなことはないっ!」 「なくないよ〜。二人が恋人じゃないなんてことがあるわけ…?」 われに返って後ろを振り向く。 「ゆ…うや?」 「よっ。」 雄哉は息切れをしていた。 —私に逢うために急いでくれた?— —そんなことは、ありえない。— 雨の日のことを思い出し、見ていると泣きそうになったので視線を下にずらして聞き返す。 「どうしたの?」 「弁解。しに来た。」 「?なんの?」 いまだに視線を下に向けたまま、聞き返す。 「雨の日・俺、告白された。」 その言葉を聴いたとき、ズキッっと心が痛んだ。 —知ってる。— 「知ってるよ。」 「そんで、ふった。」 「…ぇ」 顔を上げて聞き返した。 「ふったんだ。あの時。俺は、美里さんを、ふったんだ。」 「なんで?」 信じられなくて、信じられなくて…それを聞くことしかできなかった。 「好きな人は、他にいるから。」 まだ、雄哉には彼女がいない。そういうこと? …。 「………誰?」 気になってしまった。だから聞いてしまった。 つらい傷はもう増やしたくない。だから聞かないのがいいんだと思う。 だけどなぜか聞いてしまった…。 「桜っ。」 「え?」 どうすれば好きな人から桜が出てくるのかわからなくて動揺する。 「桜、咲くまで待て。」 「??」 聞き返そうと口を開くと、雄哉はそれをさえぎるかのように、言葉を発した。 「いいから、待て。桜が咲く頃、花見しようぜ?」 「花見ぃ?」 「そう。じゃなっ」 「ちょっ。」 わけがわからないと思っている紗枝を残して、雄哉は屋上から走って出ていった。 「わけわかんない……でも、よかったぁv」 紗枝は空に向かって伸びをした。(なんとなく。) その後、二人は前のように親しくメールをして、前のような関係に戻っていた。 「あっメール。って雄哉からだ。」 『明日花見するぞ。12:30に、碧の森にこいよ?』 『他に誰がいるの?』と、返信。 … 『慎哉と、正志と、聡史。』 『わかった。』と返信。 花見を楽しみに、紗枝は眠った。眠る直前、明日はエイプリルフールだから、だましてあげよう。と思った。 このとき、卒業式の日に雄哉が言ったことは、忘れていた。 次の日、花見の準備を整え、12:30に碧の森へ着くように家を出た。 12:30に約束の場所に着くと、そこには久しぶりに会う“愛しい人”がいた。 「雄哉〜。」 雄哉のほうへ向かいながら、雄哉の名を呼ぶ。 「お〜。」 手を伸ばせば雄哉に触れられる、という距離まで着くと、昨日考えたエイプリルフール作戦を実施した。 「久しぶりっ。聞いて聞いて。彼氏ができたの!」 「なっ。誰だよ!」 「…知りたい?」 「当たり前だろ?」 なんで当たり前なんだろう?という疑問を抱えたまま微笑み、真実を告げる。 「エイプリルフール」 「……は?」 「?今日は4月1日だから、嘘をついてみたくてね〜。」 「お〜ま〜え〜なぁ〜〜。」 「いいじゃん〜。」 「…。言っとくけど、嘘じゃないからな?」 急にわけのわからないことを言い出したので聞き返す。 「??何が」 「今から言うこと。」 「今から言うこと?」 きょとんとした顔で紗枝は雄哉を見つめた。 雄哉は一度視線をそらし、紗枝を見つめて、言ったのだ 「俺は……君が…好きだ。」 と。 「…」 —俺は君が好きだ。— —俺は君が好きだ?— —俺は君が好きだ?!— 「えっ?」 「反応遅すぎ。」 苦笑しながら雄哉は言う。 「だって…だって…」 「気づいてなかったのか?」 「ぜんぜん…。」 雄哉は再度苦笑する。少し顔を赤くして。 「よ〜く思い出せ?俺は卒業式の日、弁解って言ったろ?」 「…うん。言ってた。」 そう、記憶をたどると確かにそう言っている。 「なんでおまえに弁解しなきゃなんないんだ?」 「…ええと……あれ?」 「おまえが好きだから、誤解されたままだといやだから、弁解って言ったんだよ。」 「私?」 「だからさっきから言ってるだろ?」 「………」 頭の中が信じられない!とう言葉で埋まっていた。 でも、もしかしたら雄哉が言っていたことに気づいたから、好きな人は誰?と聞くことができたのかもしれない。 でもやっぱり信じられなくて、口を開けたままぽかんとしていた。 雄哉の顔はもう誰が見ても真っ赤。 「だ〜!もうっこっちは緊張しまくりだっての!文句言うなよ?」 「ふぇ?」 急に手を引かれ、気づいたら雄哉の腕の中にいた。 「ちょっと!雄哉?」 もう思考回路、ショート寸前だった。 だって大好きな人の腕の中にいるんだよ? 「もーこうしてないと振るえおさまんねぇ。いやだと思うけど、おまえが何も言わないのがいけないんだからな?」 「……」 —嫌なんか…じゃない— —だって私も雄哉が…— —好きだから— 言いたい言葉はいろいろあるけど、緊張してて、信じられなくて、あんまり出せなかった。 「キライならキライって言ってくれていいんだぜ?そしたら、ちゃんとあきらめるし、普段どおり友達するし…」 —キライじゃないよ— —だって私は、雄哉の事— 「好きだよ?」 「…え?」 —私は、裕也のことが— 「ダイスキっ」 「エイプリルフール?」 「違うよ。よく考えてよ?なんで私が誤解して落ち込むの?好きだからだよ。」 「あ゛。」 —雄哉もようやく気づいてくれた。私の本心— 「俺は紗枝が好きだ。だから付き合ってください。」 紗枝を離して、真剣なまなざしを紗枝にそそぎながらで彼はそう言ってくれた。 「はいっ」 私はとびきりの笑顔で返事を返す。 「じゃあ、みんなのところいくか?」 「うんっ」 そして2人で並んで歩き出した。 ふと気になったのが手のつなぎ方。 付き合ったのはこれが初めてだから、いろいろわからないことがある。 「ねぇ、手ってさ、お祈りするときみたいに、こう組んだほうがいいのかな?」 「んなもん、何回かつないで決めるもんだろ?少しずつ、わかってけばいいんだよ。」 「そっかぁ。」 「そうそう。」 そして彼は紗枝にまた笑顔をくれた。 一歩ずつ歩いてけばいいんだね? ぶつかったりすることもあると思うけど、一歩ずつ歩こうね? 一緒にだよ? 桜が舞うこの日に、始まりの4月に、私たちは恋人同士になりました♪