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これはもちろん、女の子が嫌いな男の子を書きたかったんです。もちろん。例外もいて・・・って感じですね。
どうして私は女なんだろう?
もし女じゃなかったら…ずっとあの人と親友として生きていける。親友としてなら、男としてならあの人とずっと、ずっと一緒にいられるし、仲良くしてもらえる。今も十分仲が良いけど、だけど、私は…
私が女で良かった。
だってもし男だったらあの人の側にずっといれるけど、それは永遠に友達で、決して叶わない思いを抱えたままずっとずっと側にいなければならないから。
そんなのつらすぎる。だけど、今も・・・。
君だけ
冬藍 唯都深(とうあい いつみ)それが私の名前。そして私は、サークルの1個上の先輩、恭賀煌茅(きょうが こうち)さんが大好き。
だけど恭賀さんは…女が嫌い。
どうして恭賀さんが女の人が嫌いなのか判らない。ただ私が知っている情報では高校時代ぐらいから急に女が嫌いになったらしい。ということ。
ただ、友達として一緒にいる分には多少大丈夫で、付き合うとかっていう感じになりかけると、拒否反応をおこすらしいということ。
ちなみにサークルは写真部。結構本格的な機材を使って、プロみたいな写真を撮る。私が始めて恭賀さんを見た時も、写真を撮っていた。
真剣にそこらへんに咲いている花を取っている人がいた。
この人は一体誰なんだろう。どうして写真を撮っているんだろう?様々な疑問が出てきたけど、私には答えを出すことは出来ないと思って諦める。
ふと立ちあがったその人は、急に私の方を向く。怒られるかな?と不安になったけれど、その人はただ私をじっと見た。
先に謝るが勝ちだ!ってそのとき瞬間的に思った私は、勢いで「ごめんなさいっ」と言って逃げた。だって「逃げるが勝ち」が正しかったから。
私は基本的に写真を撮る事が好きで、デジカメをよく持ち歩くけど、いまいちな写真しか撮れない。そんな私は始めて写真部というモノがあったら入ってみようと思っていた。
なんとラッキーな事に、ここの大学には写真部があった。
本格的な、きれいな写真が撮りたい。そういう思いがあったから、写真部に興味を持ったけれど、本格的に撮る撮り方を教えてくれなかったら入っても意味がない。だから私は、写真部に見学に行く。
「いらっしゃ〜い」
そう言って私を出迎えてくれたのは、先元春(さきもと はる)さん。
女の人も写真部にいるんだと思って嬉しくなる。
「あの私、写真を撮る事が好きなんですけど、うまく撮れないんです。写真のうまい撮り方を教えてもらえますか?」
「写真が好きな人大歓迎よ。ウチのサークルは本格的な写真を撮って、写真展を毎回開いているわ。だから、撮り方なら教えてあげられると思う。ちなみに部員は、私と部長と、あとあの人」
「よっ!」
そう言って紹介されたのは、春さんの彼氏の新条敦也(しんじょう あつや)さんだった。
軽く挨拶をして、次の質問をする。
「カメラって、どうしたらいいでしょう?」
「何を持ってるの?」
「デジカメです。200万画素ですけど大丈夫ですか?」
「デジカメね。私もそうだよ。すぐに撮った写真が確認出来るからいいわよね。200万画素なら小さいフォトサイズにすればいいから、大丈夫だと思うよ。」
「じゃ、じゃあ、入りたいなって、思うんですけど、良いですか?」
「大丈夫よ。多分。」
「多分?」
突っ込んだ私にその人は苦笑する。
「うちの部長、女の子嫌いなのよ。でも、多分大丈夫。友達ぐらいの勢いならぜんぜん平気だから。」
ガラッ
「何やってんだ?春。」
「あ。恭賀くん。丁度良いところに。この子、入部希望だよv」
「え?あ。お前。」
「ふぇ?」
私がその人の方を向くと、そこには数日前真剣に花を撮っていた男の人がいた。
「あっ、あの時はすいませんでした。」
「急に逃げられてどうしようかと思ったけどな。お前か〜。別にかまわないよ。」
女嫌いだって聞いていたけど、入部を許可してもらえた。
「よかったね。」
「はい!お願いします。」
それから私は、写真の撮り方を教えてもらったり、たわいもない話をしたりして、楽しい毎日を送っていた。
恭賀さんが写真を撮る姿は本当に真剣で、目が鋭くなって、その目を見るとすごく…すごく心にグッとくる。まるで射ぬかれるような鋭い視線で、フィルターをのぞくその姿は、本当に格好良い。
私が恋に落ちるまで、時間はあまりかからなかった。ううん。一番最初に見た時からもうすでに恋してたのかもしれない。
あの真剣な目でいつか私を見てくれたら。いつかこの人に愛してもらえたら。そんな考えは何度も浮かぶ。だけどその度に、恭賀さんは女の人が嫌いと言う事実が、私を苦しめている。
だけど、ずっとずっと恋焦がれて恭賀さんを見ていた私は、ある事に気づく。
それは、恭賀さんが春さんを見ていると言うこと。とても悲しそうな目で、恭賀さんは春さんを見ていた。その視線に春さんも、新条さんも気づくことはないけれど、私は気づいてしまった。
その悲しそうな目が何を意味しているのか私は気づく。恭賀さんは、女の人が好きになれないだけ。だって恭賀さんは、春さんが好きだと思うから。
春さんにはすでに彼氏がいる。新条さんと春さんと恭賀さんは同じ高校を出ているらしいから友達同士で、大学で一緒にサークルを作ってる。もし恭賀さんが春さんのコトを好きだと知ったら、きっと関係がギクシャクしてしまう。それは避けなければならないことだと思っているから、打ち明ける事が出来ず、あきらめることもできず、きっと今いるんだと思う。
もともと女嫌いの恭賀さんに恋する事が間違っているのだと思うけれど、一度恋をしてしまったからもう止められない。きっと春さんに恋する恭賀さんも同じだから、余計胸が痛くなる。実らない恋。抱えて生きるのは、つらかった。
つらいはずなのに、好奇心が溢れる。叶わない思いだからかまわないって思ったのかな。それとも、大学に入る前の恭賀さんを知れば、好きな気持ちを押し込める事が出来ると思ったのかな?私は、知りたくて知りたくて…とうとう春さんに聞く事にしたんだ。
「春さん、明日、買い物に付き合ってくれません?」
わざとらしい私の申し出を春さんは快く引き受けてくれた。さすが先輩が好きになった人だなって妙に納得してしまう自分が、嫌だった。
次の日…
私は春さんと買い物に出掛けた。春さんはすっごいキレイで。かわいくもあって、、隣で歩くことに引けを感じていた。そんな私に気づいたのか、春さんはカフェに入ろうと言ってくれる。私はなにがなんだかわからないまま、春さんに着いてカフェに入った。
「ここならあんまり見られないよ。」
「ですね。。」
「話し声も聞こえないから、どうして私を誘ったのか、教えてくれる?」
ばれていたという事実にちょっと驚きもしたけれど、おかげで切り出しやすくなったと、私は嬉しくなった。
「先輩達の高校時代の話が聞きたいんです。」
「ついでに恭賀くんがなんで女の子が嫌いなのか?でしょ。」
そういう先輩にあっけに取られて、私はしばらく固まっていた。春さんは“やっぱりね。”そう言って、話はじめてくれた。
「恭賀く〜ん。」
「よぉ春。敦也は?」
「わかんない。汀(なぎさ)さんは?」
「もうちょいで来るんじゃね?」
こんな感じで、私と恭賀くんは仲がよかった。み〜んな一緒に。
「あれ?先輩!汀さんって誰ですか?」
「…恭賀くんの、彼女だった人。」
「だった人?」
春さんは続けた。
「春〜。」
「あ。新条くん!」
高校の外にある人気のないベンチで春が座っていると、敦也が来た。
「どうした・・・っ?!」
急に抱きしめられたかと思ったらキスされてしまった。あっけにとられている春に付き合おうって言って、付き合い始める事になった。
「強引ですね。」
あんまり良いやり方じゃない。って密かに付け加えた。春さんも少しだけなら、それに気づいてる。
「続きね。そしてしばらくして恭賀くんにも彼女が出来たの。」
二人は毎日幸せそうにあるいてた。だけど、1ヶ月後。二人は別れたの。
どうしてだと思う?恭賀君は、だまされていたから。
「ぇ?」
恭賀君の彼女、汀さんにはちゃんと彼氏がいたの。だけど、その彼氏と恭賀くんをだませるかどうか、やっていただけだったの。
「ひどい・・・」
「うん。汀さんの彼氏が誰だかも、知ってたらしいけど、恭賀くんは、何も言わなかったよ。ただ、女の子を遠ざけ始めた。一番近くにいるのが私ぐらいだもん。次が、唯都深ちゃん。」
“2番目・・・かぁ。”
一番になりたい。でもきっと、そんな日は・・・こないね。
私はその話を聞いて、あきらめようって…てか逆にあきらめざるをえないとおもった。
だって、私が大好きな先輩を罠にはめたのは・・・私と同じ、女の子だったから。
そんな…ある日の事だった。
どうして?私の中で、その想いが交錯する。どうして?だって・・・
あ、向こうも私に気づいた。“やべっ”て顔してる。
「冬藍!」
「新条・・・先輩。」
新条先輩は密かに笑って、私の耳元に口を寄せてこういった。
キスされたくなかったらオレについて来な。
「どうしたの?敦也君。」
そう言って、さっき新条先輩と、歩いていた女の人が・・・。
そう。歩いていたの。
春先輩じゃない人と、新条先輩が・・・腰に手回してるんだよ。キスもしてたみたいだし。。だから…浮気?!
「ちょっと用が出来たんだ。また後でな。汀」
「え」
今の…名前は、まさか?!
「来い。」
ぐいっと腕を引っ張られ、上へ上へとあがる。
怖い。・・怖いっ!
屋上に入ると、ダンッと壁に叩きつけられる。
「ったくお前もいい場面を見るよな。」
「ど、いうことなんですか?」
「お前にしゃべる必要はないし、お前も話す必要はない。」
「でもっ」
「ったくよ〜。」
両腕を固定される。そして先輩はまたもや私の耳元で囁いたんだ。
静かにしてれば、犯されずにすんだのによ。
怖い・・・怖い・・・・・・・・・・・・・怖いっ!
やだっ!!
「敦也!!」
「え??」
え
男の人の声・・・安心できる声。この声の主に助けられたなら・・・いいのにと、願っていた人物。
「恭賀・・・さん。」
「冬藍?おまえなにしてんだよ!敦也!!」
「別になにも。」
「じゃあとりあえず冬藍をコッチに渡せ。」
「聞こえないな。」
「んなこと通用するわけあるか!バカ野郎!!いい加減ずっと言おうと思っていたんだ。春のことを好きじゃないなら!さっさと別れろ!」
今・・・なんていったの?春の事を好きじゃないなら・・・?じゃあ先輩は知っていた?知っていて、、ずっと春先輩を、思ってきたの・・?
見込みが、あるから・・・。
とりあえず私は少しだけ乱れた服をなおす。
と、ほぼ同時だった。
「きゃ?!」
後ろから抱きしめられるような格好。ただし、首元にはなぜかカッター。
カッター?カッター。・・・カッター?!
なななななななんでカッター?!誰か教えてプリーズ!!!
「おま!何やってんだ!」
「さっきの問いだがな。嫌だ。まだやってもいない。」
「あいつだってそれなりにおかしいと思ってるんだろ!」
「どうしたんだ?いつもに比べて怒りがでけぇみたいだけど。」
本当だ。先輩が・・かなりはげしく怒ってる。どうして?
どうして…あ。やっぱりさっきの…
「新条先輩が…恭賀先輩を…はめた張本人だから。」
つぶやくように、その言葉を口にする。
「。。それもあるけど・な。でもどうしてオレをだまして!その上、春までだますんだ!お前おかしいよ!いつかぜってぇ一人になる。一人にしかなれなくなるぞ!!」
「別にいいだろ。恋愛なんて快感を得るための道具でしかない。仮面を被ればいくらでも。オレには可能性がある。ちなみに汀もそういうタイプの人間さ。お前とはやるまえにもういいやって別れたらしいけどな。」
おかしい。コノ人・・・おかしい。そう私は確信する。どうしてコノ人は。
「あいつだってあとちょっとさ。やれればそれで、もうゴミだ。」
「…だってよ。春。」
「「え?」」
私と先輩の声がハモる。
春先輩が私達に近づいてくる。
「んだよ?」
「唯都深ちゃんを離しなさい!」
先輩はそれだけ叫ぶ。
「なんだとコラ!」
そう言うと先輩は私の首にカッターを押し付ける。
「っ」
チクリと痛みが走る。
「冬藍!」
でも私は、これくらいでへこたれる子じゃないのさ。
「先輩方・・・下がってください。」
下をむいて、そう言うと、先輩達は下がってくれた。
「私は、ずっと生きること。疑問に思ってきたタイプ。だからね。新条先輩。」
「ぇ」
「死ぬこと。血を流すことは・・・怖くない!」
それだけ言うと、カッターを握り締める。
チクリという痛みがはしる。私からカッターを奪おうとしていた先輩だったが、私の手から血が流れ出るのを見て、カッターを離す。
私は立ち上がる。
春先輩は、新条先輩に近づき、頬を叩いたらしい。いい音が聞こえたから。
そして私は…
「ちょ!冬藍!傷の手当て!」
先輩が呼びとめてくれるけど、私は先輩の近くで、つぶやいた。
「春先輩の事、好きなんですよね。告白。出来ますよ。。先輩、お幸せに。」
「ぇ?」
そして、血が流れる手をそのままに、私は屋上を去る。
「どうしたの?恭賀くん。」
「んや。なんでもない。」
「もう望み。。ないなぁ。」
好きな人。大切な人。愛しい人。今までにたっくさん傷ついた人。
さよならは…嫌だね。
「冬藍!」
「ぇ」
どうしているの?だって私は言ったよ。
なのになぜあなたはココにいる?
「俺は、確かに女嫌いだけど、そんなことは言ってられなくなった。」
「知ってますよ。だって春さん…」
一瞬時間がスローモーションだった。なんでだろうね。
てか待って!なんで私は先輩に抱きしめ・・・
「好きだ。」
「え・・・」
何?コノ人は何を言ってるの?!てか待って!コノ人は何人?地球人。日本人。うん。知ってる〜。じゃなくて!!わかんないよ〜。なに?何が起こってるの?誰か教えてぇぇぇぇ!!
「え。え。え。え???」
「とりあえず、手のひらの治療。させてもらうよ。」
手をひかれた先は保健室。先生はいなくて、だけど先輩が鍵を持っていた。
「保健員補助なんだ。やってるの、うちの親だし。」
「へーへーへーへー。」
「ギャグかそれは・」
「違います。」
てか待って。
「ぇ。先輩は、春先輩の事が好きなんですよね。」
手の治療をしてくれていた恭賀先輩は分けのわからない顔をして私を見る。
「だって先輩…」
「あいつがだまされてるのが判ったから。可愛そうだな〜って見てただけ。何度も言ったけどあいつ聞かないからさ。直に言ってるのを聞けばいいかな〜って。もともと春も結構気づいてた分類だし。」
「俺が好きなのは、俺が嫌いな女の中で唯一好きな奴なんだよ!お前。唯都深だよ!ちぅしょぅ。こんな事言わせるな!」
「うそだぁ。。」
「俺もお前見たいな奴が好きになるなんて思ってもいなかったけど、しょうがねぇだろ。好きになったんだから。。ってオイ。泣くなよ。」
「だって・・・嬉しいんだもん〜。」
「は?」
「私も、、好きだよ。」
「え」
「好きです。大好きです〜。」
そう言うと、私は先輩の胸に飛び込む。
泣き終わるまで、ずっと待っててくれた先輩。そして先輩は、再度言ってくれる。
「唯都深が。好きだよ。だから俺と、付き合ってください。」
「・・・・ありがとう、ございます。」
私は再び先輩の胸に顔を押し付けて、嬉しくて、泣いた。
女の子で良かった。だって私は先輩の例外になれたんだもん。
誰よりも・・・先輩が好きです。
余談。
ガラ
私達が抱き合っていると、扉が開いた音がする。ハッっと思って見上げると、養護教諭が立っている。
「あんな〜、煌茅。お前ココがどこだかわかってやってるんか?!こんなかわいらしいおじょーさん捕まえるためにココの鍵を渡してるわけちゃうことぐらいわかってるやろ?!」
「しょうがないんや!だって唯都深怪我ぁしてるんやから!」
「もしかして、先輩って・・・関西人」
「あー。嫌か?でもうまいやろ?東京弁。親父が東京弁なんや。」
「ぜ〜んぜん!私、関西弁って大好きなんです!わ〜い。もっと話して下さいよ!」
「好きや。」
「えろう赤くなってかわえぇなぁ。」
「からかわないでくださいってば!!」
鍵かして正解や。こんな可愛い子が家に入るんやから。
そう煌茅の母親が思っていた事を、その場にいた人は誰一人として、知らなかった・・・。
fin