つなぐもの









—11月30日—

1人の少女が公園のブランコに座り、何かを考え事をしています。
その少女の名前は結里(ゆり)さん。その整った顔立ちに反することなく、きちんと彼氏がいるようです。
ですが、その少女はため息ばかりついていました。
「縣治(けんじ)のばか…。」
縣治くんとは結里さんの彼氏の名前です。
二人は数年前に出会い、数年前に恋仲になりました。
となると、ため息の原因は、最近の恋のマンネリ化でしょうか?
「はぁ…」
またため息をつきました。
このため息の原因はいったい何なのか、昨日のデートを見てみましょう。


—11月29日—

「縣治。」
「おー。」
「行くか?」
「うん。」
おやおや、機械的に言葉が発せられています。歩いているとき、腕を組んだりはしていますが、幸せそうにはあまり見えないですね。
「にしても悪いな。明日がよかったんだろ?」
「え?」
「デート。」
デートという言葉がすらっと出てきますね。まぁ数年立てばこうなるでしょう。
「ん…。まぁね。でもしょうがないよ」
結里さんの顔が曇りました。
それから二人は映画に行ったり、ご飯を食べたりして、デートを終了しました。
途中で縣治くんは、ちらちらと他の女の子に目が行ったりしていますが、結里さんは何も言いません。マンネリ化…どうやら可能性が高くなってきました。
そして帰り間際。
「じゃ。」
「うん。」
縣治くんはためらうことなく結里さんに軽くキスをして帰っていきました。
どうやら別れるときにはキスをする。というマンネリ現象があるようです。
結里さんはキスされたのに、何も思わないんでしょうか?縣治くんを見送ることもせずに、くるっと反対方向を向いて歩いていってしまいました。


—11月30日—

やっぱりマンネリ化ですかねぇ?にしても結里さんの落ち込みようは普通ではありません。
今日は何かあるのでしょうか?
おっ。結里さんが手帳を開きました。
今日の日付は…。11月30日ですね?
あれま?何か書いてあります。
5周年記念日
すごいですね。5年も恋仲やってるんですか、マンネリ化もちょっと納得です。
ってそんなことではありません。
せっかくの5周年の日に縣治くんはいったいなにをやっているんでしょう?
おや?結里さんが他のページをめくりました。
ん〜。見たところこっちは縣治くんの予定表らしいですね。
お互いに交換しているんでしょう。そうじゃないとデートができないですもんねぇ。
11月30日、今日の欄には何が書いてあるんでしょう?
バイト
バイトっすか!こんな大事な日を覚えていないならまだしも、バイトで合えないといったんですか…。そりゃあため息も出ますね。
「はぁ…マンネリ化…つらいなぁ」
うんうん。その気持ち、よく分かりますよぉ?
ん?結里さんは立ち上がって気落ちしたまま何処かへ行くようです。この道順だと、家に帰るんですね。
あ〜さみしそうです。見ているこっちがつらくなってきて…見ていられません。

キキーー—ィ

「きゃああ!」
なっなっなっなんですか!今の悲鳴…って結里さん、車にはねられてしまいましたっ!どうしましょうっ!
あっ。近所の人が出てきて驚いています。もちろん結里さんをはねてしまった男の人もおろおろしています。
あ。やっぱり近所の人は強いですね。電話をかけに行きました。
結里さんを跳ねてしまった人はきっと信号無視か居眠りです。
まったく!


—11月30日—

ここは病院です。
結里さんは手術室に運び込まれました。
車にはねられたから当然です。
頭から多少血が出ていましたから心配です。
あっ縣治くんが来ました。
マンネリ化しつつも、彼氏ですからね。結里さんを心配するのは当たり前です。
うろうろしています。本気で心配しているようですので、とりあえず一安心ですね。
5時間後、手術中のランプが消えました。
「先生!結里は?結里はどうなんですか!」
縣治くんは結里さんの両親とともに医者に問いただしています。家族公認の仲のようです。
「成功しました。もう大丈夫です。」
あ〜よかったです。皆さんもほっとして病室についていきます。
結里さんは眠ったままですね。
きっとすぐにおきるでしょう。


—12月10日—

あれ?10日たったのに起きません。あ。縣治くんも問いただしていますね。先生もわけがわからないようです。
でも命に別状はないらしいのでほっとします。
縣治くんは面会時間中結里さんと一緒にいますね。心配そうに見つめています。
「縣治くん?」
「美恵子さん。」
美恵子さんは、結里さんのお姉さんです。
「事故の日にあの子が持っていた手帳。あなたが持っていて。あなたの予定も入っているんでしょ?」
「はい…。ありがとうございます」
美恵子さんが出て行ったあと、縣治くんは何気なくページをめくっていました。
「ぁ…………結里…」
ん〜?あ。11月30日のページです。五周年記念を思い出したのでしょう。
「結里…ごめん。」
縣治くんは手帳を抱きしめて涙をこぼしました。
自分のしたことに気づいたようですね。
それだけでもたいした進歩です。
あとは結里さんが目覚めるのを祈るだけですね。


—12月15日—

いまだに結里さんは目覚めません。
今日もベッドの横には縣治くんがいます。
「あら?縣治くん。いつもありがとう。父も母も、うれしがっていたわ。」
あ、美恵子さんが入ってきました。
「いえ…自分のした過ちのつぐない…みたいなものです。」
「え?」
「あの日、俺たちの5周年記念の日だったんです。でも、俺は忘れてた…だからバイトをいれました。
バイトの予定を言う前に、あいつから11月30日会える?って言われたときも気づかなくて、バイトだから無理って。
だから、11月29日にデートしました。」
完璧な事実です。過ち…背負ってここにいるんですね…。
「そう…。」
「俺たち、かなりマンネリ化してきていて…俺がデート中に他の子見ても、何も言わないし…俺…かなり不安です。」
「ん〜。そう言う問題は誰でもぶちあたるものなんじゃない?」
「え?」
あ、美恵子さんが縣治くんを励まそうとしています。
そうですよね?縣治くんが元気じゃないと、目を覚ましたときに結里さんが、がっかりしちゃいますもんね。
「私とこのコってぜんぜん似てないでしょ?」
「え?ぁ…はい。」
「この子はカワイイわ。きれいでもある。でも私は違うわ。」
そんなことないです。美恵子さんはきれいです。
「そんなこと…」
「そんなことがなくても、私たちの顔はぜんぜん違うでしょ?」
「はい。」
「だけど私とこの子はつながっているわ。美恵子という人物と、結里という人物をつなぐものがあるの…それは、血。」
「血?」
「そうよ。だって私たちは同じお父さんとお母さんを持つんだもの。」
「そっか。」
「ええ。人と人をつなぐものは必ずあるわ。たとえすれ違うだけの人でも、すれ違ったことが、二人をつなぐの。」
「…」
「だから、いくらマンネリ化しても、あなた達はつながっているの。それが何なのか、それはあなた達しか知らない。
だけど、つながっているの。マンネリ化しそうになったら、思い出してみて。」
「はい…。ありがとうございます。」
じーんとくるお話です…。さて、二人をつなぐものは、何なんでしょう?
縣治くんは何かを考えています。
…
かなり時間がたってから、結里さんの手を握り、また…涙を流しています。
きっとつなぐもの、思い出したんですね。
とりあえず、5年前に飛んでみましょう!

—5年前—
—12月25日—

クリスマスですねぇ、恋仲になってからの初めてクリスマスの日ですね?
「結里〜!」
「あっ縣治くんっ」
二人は会って早々抱き合っちゃいましたよ。
この当時は縣治くんと呼んでいたんですねぇ?にしても愛し合っているって感じのする二人です。
二人はしばらくそこら辺を回って、カップルがいっぱいいるツリーの前のベンチに座りました。あっちこっちでラブラブですっ
「あ、はい。これ。」
結里さんは縣治くんに包みを渡しましたよ。これきっとクリスマスプレゼントでしょう。
「まじで?サンキュ〜」
すっごいうれしそうに笑っています。今では考えられません。
結里さんも顔を赤らめています。
「うわっ。まじ?すっげぇ。」
結里さんがあげたもの…それは手作りのクッキーと縣治くんが欲しがっていたテレカでした。
縣治くんはテレカを使い、よく電話をかけるのです。理由は家の電話だとお金がかかるからだそうです。
「サンキュ。あ、これ。やる。」
「え?わ…ありがと。」
おぉ!縣治くんも用意していたんですね。中身はネックレスですか〜。
喜んでおります!

しばらくしてから二人はてくてくと家路に着きました。
「じゃあ…」
「うん。今日はありがとう。楽しかった。また二人で遊ぼうね!」
「あ、ああ。」
結里さんはその返事を聞いて、にっこりと笑っています。
おや?縣治くんが結里さんのところに歩み寄っています。
「縣治くん?」
「結里…」
…
おぉっ縣治くんが結里さんにキスをしました。結里さんはも〜かわいいですっ。真っ赤になってます。…あれま、縣治くんも真っ赤です。
あ、もしかしてFirst kissというやつですね。そっかぁ、二人をつなぐものは、First kissだったんですね。なるほど〜。
きっと縣治君はこれを思い出したんでしょう。


—12月24日—

今日も結里さんのところに縣治くんが朝からいました。
縣治くんは何かを持っています。
ラッピングとリボンから考えると、X’masプレゼントですね。
でも…どうして二つもあるんでしょう?
あ。でも今日は二つの箱だけではなくて、花束も持っています。
やっぱりX’masですからねぇ。結里さんも早く起きないとX’mas終わっちゃいます。
ぁ。縣治くんが花束をいけ終わりました。
花は花瓶に入れられて、元気いっぱいに咲いています。そして結里さんの頭のすぐ横にある戸棚の上に置かれました。
そのできばえに満足した様子です。縣治くんは椅子に座りました。
「Merry X’mas」
縣治くんはそう口にすると、さっきの花束の近くにさっきの二個のものを置いて、結里さんの手を握り、目を閉じて祈っています。
なんて祈っているんでしょう?聞いてみるのがいいですね。
—はやく…結里が目覚めますように…—
こうなってしまう前とはぜんぜん違いますね。縣治くんは。
でも、きっと目覚めた結里さんはうれしいでしょうね。
—早く目を開けてください—
「…ん」
「結里?」
縣治くんは結里さんの顔を覗き込みました。
「…け…んじ…?」
あっ結里さんが目覚めました〜。よかったですっ。
「結里…」
縣治くんの顔は幸せいっぱいです。
「私…」
「ごめんな…結里。」
「え?」
結里さんはわけがわからないような顔をしています。
「これ…」
縣治くんはさっきの二つの箱のうち、1つを結里さんに渡しました。
「なにこれ…」
「あけてみて…」
「?」
結里さんはとりあえず受け取って、箱を開けました。
「これ…?」
中身はネックレスですね?
「ほら…」
縣治くんは自分のつけたネックレスを出して見せました。
なんて書いてあるんでしょう?
ん?なんか、ペアのネックレスっぽいです。これひとつじゃ、完成しなさそうです…。
縣治くんは、ネックレスをはずしました。そして結里さんに渡しました。
結里さんはそれを受け取ってつい先ほどもらったネックレスとあわせました。
「文字になってる…えっと…eternel line?…あと…5つの傷?」
ん〜確かにeternel line という文字と、5つの傷です。傷は後から彫ったみたいですね…
「eternel line は、永遠の絆。あと…5つの傷は…5年目。」
「5年?…目…縣治…。」
「ごめんな。結里。俺…ほんとにごめん。」
「縣治…」
結里さんの目からは涙がぽろぽろと零れ落ちました。
「あと、これ…」
「え?」
縣治くんはもうひとつのほうを渡しました。
「この…ネックレス…って」
結里さんは、もらったネックレスを愛しそうに見つめています。
あれ?これ、見たことあります…確か、5年前のFirst kissをしたとき、縣治くんが結里さんにあげたものです。
「クリスマスプレゼント。」
「え?今日ってクリスマスなの?」
「そうだよ?」
「そうなんだぁ…」
「あのな、美恵子さんに…こういうふうな話を聞いたんだ。」
すると縣治くんは美恵子さんに聞いたお話を話しました。
「んで、俺らをつなぐもの…ファーストキスじゃないかと思ったんだ。」
「…」
「あの頃の気持ちに戻さなきゃって…思った。」
「…」
「だから、あの時と同じ気持ちで、同じものを選んで買ったんだ。」
「…」
結里さんは起き上がって、縣治くんに抱きつきました。
「ありがと…大好きよ。」
「俺も…」
縣治くんは結里さんの背中に手を回しました。


これからのことは、説明だけにさせてもらいますね?

二人はこの後、デートのたびに手をつないだり、付き合い当初のようにラブラブでした。
そして、別れるときのキスはやめました。
キスは特別な日だとか、相手に対してアイシテル。と感じたときにすることにしたんです。
マンネリ化になっていた、そんな日々を二人は乗り越えたってことですよね?

やっぱり愛です。

あなたと誰かをつなぐもの…それは人それぞれです
人との出会いを大切にしましょ?
生きていれば、たっくさんの人とつながります
たった一人しかいない自分と、たった一人しかいない誰か…
生きましょう?
つながった誰かと…
一緒にね♪