鎖を切って…

ずっと付き合ってきて、
でも心の中にしこりがあった。

どうしても・・・
どうしても・・・

言えなくて
癒えなくて

だって
それは
とても

深いものだったから。


「胡桃(くるみ)」

そう呼んでくれるのは、私の愛しい人。

「何?」

「胡桃が好きだよ。」


「・・・それで?」


本当に、愛している。
心から、愛している。
誰よりも、あなたを愛している。

だけど私にはその言葉をいうことは出来ない。
どうしても・・・

「どうして胡桃は俺の気持ちに対して、いつも返事をくれないんだ?」

「別にいいじゃない。」
「よくない。」
私の言葉にかぶさるように、空(くう)さんの言葉がかぶさる。

君の言うことは、すべてわかっていると、とれるように。

「胡桃が俺のことを好きじゃないならどうしてふってくれないんだ?
 ふってくれないと、俺は胡桃の返事が良いものなのかもしれないと期待する。
 ずっとあきらめられずに、俺はいる。
 第一、嫌いなら、どうして俺の部屋にのこのことあがって来るんだ?」

空さんは私の2つ年上の人。
とりあえず、一人暮らしをしている。
その人の家に、私はいる。

家に居るのは、私と空さんだけ。

「どうしてあがっちゃいけないんですか?」

「俺が抑えられない。」
「きゃぁっ」

忠告が遅すぎる。
押し倒すと同時に言うな。ばか。

「遅すぎます。」
「胡桃…」

やばい。本気だ。

「いやっ!」

私は空さんを押してどかした。

そんなにしたいなら・・・・

「私としたいのなら、私の話をすべて聞いてからにしてください。
 聞く前と聞いた後で胡桃という人物が、あなたの中で同じならば、
私はあなたに答えを言います。」
「…OK.」

私は話し始める。

「中学3年の3学期、私は


 レイプされました。」

「!」

「日々順調に生きていたのに、そのとき、レイプされて
 私は失いました。いろいろなものを。
 純粋を失ってしまったことが一番つらかったことです。」

「その時にすでに決まっていた高校に行くのをやめて、
  県を4個以上はさんだところに引っ越しました。
 そこで受験して、受かりました。」

「それからですよ。私が・・・氷のようになったのは。」

笑わないんじゃないの。
笑えないの。
感情を出したくないんじゃないの。
出せないの。
人と話したくないんじゃないの。
話せないの。

寂しいの。
つらいの。
死にたくなった。

でも死ねなかった。
死なないように、監視されて、
私が死なないことが、、生きてることが、
父さんと母さんとおにいちゃんの望みだった。
それをくんで、

私は自殺したいという心を押し込めた。

「胡桃」
「だから!」

だからね。空さん。


「あなたが探してた子は、私です。」

「え」
「あなたは探していた。数年前、レイプされて行方を消した子を。
 なんの目的か、私にはわかりませんけどね。」

「・・・」
「ですから、

 あなたが探していたのは

 あなたが目をつけた、

私で、あっています。」


もしかしたら、私をおおっぴらに公表して、稼ぎたいのかもしれない。
雑誌の記者ってそういう人でしょ?

でも、
離れられなかったのは、
私が
あなたに
おぼれてしまったから。


「胡桃は無用心だな。もしかしたら俺が
 レイプした奴かもしれないだろ?」


「私は私をレイプした人を知ってます。」
「え」
「当時、私の親友が、好きだった人です。
 だから、あなたは違います。
 すこし、似ているけれども。違う人です。」


「で?」
「え」
「今の話を聞いて、俺が君を君として
 胡桃は胡桃だって見たら、君は俺に答えをくれるんだろ?」
「そりゃ言いましたけど」
「じゃあくれ。返事。」
「え・・・」
「変わるわけないだろ?
 ただ、あやまりたいと思った。」




「え」
「君をレイプした最低な奴は、俺の弟だ。」

「弟は最低な奴だから、ちゃんと殴っといた。
 だけど、一人の子の人生を確実に狂わした事は、
 永遠の事実だ。
 だから、その子を探して、一生、俺が償おうと思った。
 そして、君に目をつけた。
 あっているっていう自信なんてなかった。」

「話しかけて、話しかけて、、そんで」
「?」

「笑って・・・くれたろ?秋桜が満開のところに連れて行ったら。」
「・・・ん。」

そのときの事を思いだす。
何度も断って
何度も断って
でも諦めてくれなくて。
だから一度だけだと思ってついて言った。
そしたら秋桜が満開…。
嬉しくて笑顔を出すことの出来たあの日…。

幸せを、見つけた気がした

「その顔見たら・・・この子、幸せにしたいって思った。
 君が本当に俺の探してた子なら、こんなこと言っちゃいけないけど、
 一石二鳥…だよ。」



この人は

なんて・・・




「ください」
「え?」

言葉を必死につづる

「もういちど、こくはくして、、ください。」

「胡桃…。君が好きだよ。愛している。
 俺は…君を幸せにしたい。」

「ください」
「え?」

「わたしに、“あい”を・・・愛を・・・・ください・・・っ」

「いやっていうほどに。君に上げるよ。」

私は抱きつく。
愛しい、
愛しい・・・
あなたに。



「好きですっ。大好きです!・・・あなたを・・・・愛してます。」
「おれも、愛しているよ。くるみ。」

そして、空さんは、私に

優しくて、甘いキスを・・・くれました。






鎖を切って。
過去から抜け出せないのは鎖のせい。
だから切って。
あなたなら切れるから…。
私が前に進むために、
この鎖を・・・切って。