2004/2/2

私はお姫様。
塔の上のお姫様。

翼があったらいい。
翼があったら、飛びたてる。
だけど私には翼がない。

だからここにいる。

もうどれくらいたっただろう。
生まれたときから私はココにいる。
古い洋館の一番上の屋根裏みたいなところ。
空と外が少し見えるだけで

私は外へ出た事がない。

学校も行っていない。
出生届も出されていないはず。

私を閉じ込めたのは
実の父と実の母。
毎日3度の食事だけを与えられる。

この屋根裏みたいな部屋は2階になっている。
私が2階に行かないと、御飯をもらない。
だから私は3度の食事が近くなると、2階へとあがる。
30分から1時間後また1階に戻ると、食事が用意されている。
それを食べてまた2階へあがる。
すると30分から1時間後に、容器はなくなっている。

そんな生活を繰り返して19年がたった。

話す事もしていないから、考えるだけ。
父と母にも19年前から会っていない。

物心付いたときにはすでにこんな感じで私は
自分の誕生日が2月2日だということしかわからない。

そしてつい最近19回目の2月2日がやってきた。
部屋の中に置いてあるカッターで柱に傷をつけて月を数えて
部屋の中においてあるノートとペンをつかって、日付を数えた。

どうして抜け出さなかったのか?
鍵がかかっているから抜け出せないんだ。



あるとき3度の食事がこない。
私はおなかがすいた。
2日たっても御飯はこなかった。
私は恐る恐るドアのノブを回す。


カチャリ


「・・・」
開いた。


部屋の中を歩くことはしていたけど、あまり歩くのになれていない。
私は壁に手をつきながら歩く。
私の部屋から血が続いている。
誰かが身体を引きずって歩いた証拠。

どこに行ったら何があるのかわからない。
私はとりあえず、かたっぱしからドアを開ける事にした。
血にしたがって歩くのは嫌だった。


カチャリ
何もない部屋


カチャリ
何もない部屋

カチャリ
何もない部屋

カチャリ
服が置いてある部屋。
服は、散乱している。

カチャ・・・・
嫌な感じがする部屋。
なぜなら私の部屋から続いていた血はこの部屋の中へと入って行ったから。
ドアノブにも血が付いている。
最後に回す事に決める。
そして1階に降りる。

カチャリ
ベッドだけある部屋

カチャリ
一度も使われた形跡のない子供用ベッドがひとつ
置いてある部屋

カチャリ
一枚も写真が入っていない写真たてと
一枚も写真が入っていないアルバムが置いてある部屋。

カチャリ
台所

カチャリ
お風呂場

カチャリ
蝋燭や手錠が散乱している部屋
血も見える。


そして2階でなんとなく嫌な感じのした部屋を最後に開ける。

カチャリ
人が寝ている部屋。

その部屋には男の人と女の人が
血まみれで
倒れている。


私にはわかった。
それが父と母である事に。

私にはわかった。
父が母を虐待したり、していたことに。
父が、母をひどい目にあわせていたことに。


しかし、2日前に何かがおこった。
そして私の扉の部屋の鍵をあけて、

この部屋までたどり着いて、死んだ。



一度もあったことのない父と母なのに、涙が出るのはなんでだろう。





一通り落ち着いてから途方にくれる。
一体どうしたら良いのだろう?
話す事も出来ない。
こういうとき、どうしたらいいのか、わからない。
父と母をこのままにしておきたくない。

私は
重い重い扉をあけて
外に出る事に決めた。




がチャリ


まぶしい。。。
私は、目を細める。

すると、目の前に人がいる。

同じ年くらいの、男の人。。。。

「あ。すいません。人が住んでる気配なくて、
 でも、毎日あなたを見てました。」


見てた?私を?そとから?
ずっと?

「オレ、この近くにすんでる毀誉坂(きよさか)
 風翼(つばさ)っていいます。キミの名前は?」


キヨサカツバサ?


でも、そんなコトはどうでもいい。

「っ!っ!!。」
「え?」
私はその人を引っ張った。
もちろん力なんてないし、歩いているのも、困難。
その人もぜんぜん動かないけど、私は頑張った。

するとその人は、私の意図どおり動いてくれた。

そして私が歩く事になれていないことも知って、
手も貸してくれた。

そして2階の、部屋につれていく。

「っ?!」
案の定、驚いた顔をしている。
「これは、君がやったのか?」

何を言ってるの?わからない。

「キミが、殺したのか?」

コロシタ?

わからない。


首をよこにしかふれない。
何も、わからない。



私はただ首を横にふった。

そしてその人はポケットから何かを取り出し
何かをしていた。

しばらくしてから黒い服の手袋をはめた人、
いろんな服の手袋をはめた人がたくさんきた。

その内の一人が私にむかって、また言う。
「キミが、殺したのか?」


わからない。
私は首をよこにふる。



「キミの名前は?」


わからない。
私は首をよこにふる。


そして、さっきのキヨサカツバサさんは私を一瞬見て、
その人に向き直る。

「オレが、言います。」
「キミは?」
「毀誉坂風翼。きよさかつばさです。」
「で、この子が、殺したのか?」
「違います。

「僕は19ですが、小さい時から、
 ここの一番上の窓から外を見ている女の子を
 見ています。19年ずっと。
 でも、この子は僕の通っている小学校、幼稚園にはいなかった。
 そして、この子は多分話せない。
 そして、歩くのも不慣れです。」


「ここからは僕の推測ですが、
 出生届けも多分まだ出されていない。
 そして、多分この子には名前もない。」


「っ?!ま、まさか・・・っ?!」

「はい。推測でしかありませんが、この子は、
 生まれてからずっと、屋根裏で過ごしてきたんだと思います。

 一度も、外には出ず、名前もなく。」







二人は向かい合って話をしていた。
一人が驚いて、しばらくすると、私を抱きしめた。
そして、震えていた。

何?何?!!


人がたくさん来た時点で怖かった。












10年後、私は30歳となった。
少しずつ、話すことも出来るようになって、
いろんなところに行くようになった。




そして30歳となった今年、刑事さんが、私のところにきた。

「キミは、いつからあそこにいたんだね?」
「ずっと。」
「ずっと?」
「うん。」

「君の名前は?」
「名前?ないよ?」

「キミはどうしてあそこにいたんだい?」
「おとーさんと、おかーさんが、私をあそこに入れたから。」

「食べものは、どうしていたんだね?」
「私が2階にのぼってしばらくたってから降りると
 ごはんがおいてあったの。」

「キミはどうしてあの日、外に出れたんだい?」
「2日間、御飯がこなかったの。
 おなかがすいて、扉のノブを回したら、扉があいたの。」
「扉があいた?」
「うん。扉、いつも鍵が閉まってたの。」
「そうか、どうもありがとう。」



刑事さんは帰って行った。
それと入れ替わりに、風翼さんが来た。

交代っと。

「こんにちは。」
「こんにちは。風翼さん。
 今日はどうしたの?」
「ん〜。キミってさ、聞きにくいんだけど、、
 一人?」
「違うとおもう。だって、いろんな人が私の中にいるから。
 さっきは3歳の子がいたよ??あの子は何も知らないんだ。
 名前もね。」
「じゃあキミの中にいる人の名前を、君は知ってる?」
「知ってるわ。
 ずっと年齢は一緒なの。
 3歳の絵梨
 さっきまでいたのはこの子。
 あなたが一番最初に会った時もね。
 今は学習して話せるようになって、名前も知ってるけど、
 言わせてないの。
 言っちゃいけないよって。
 あとは、
 4歳の哉
 5歳の鏡
 6歳の良
 7歳の武
 8歳の真理
 9歳の優
 10歳の沙里
 11歳の日向
 12歳の優子
 13歳のさなえ
 14歳の伊織
 15歳の隆祐
 16歳の青海
 17歳の霧
 18歳の雀
 そして、19歳の私、深楡。
 20才の夏姉さんと
 21歳の翔兄さん。これで全部。」










「オリジナルは?」


「オリジナルは10年くらい前に、壊れちゃったから
 一番奥にいるよ。
 逢わないほうが良い。
 だって、話せないし、
 見ても、しょうがないし、
 とりあえず、あなたが心臓発作起しそうだから、ダメ」



そう言って、私は笑う。
どうして、私達は話すことが出来るとおもう?
だって、ずっと皆で話してきたもの。

実はね、父と母を殺したのも、私なの。
一番奥にずっとオリジナルといるセツが殺しちゃったんだ。
もうそろそろあそこから出ないと、
本当にオリジナルが、
死んでしまうから。
オリジナルが死滅したら、
私達は、皆一緒に死ぬから。
方法は至って簡単。
御飯を置きに来た母親をカッターで切りつけて、
父親の所へ案内させて、
一緒に殺した。
最後まで、オリジナルの名前を呼ばなかった。
きっと名前もないんだとおもうけど。

セツは一番最初ぐらいに出来た人格で、
ずっとオリジナルといた。
だから、
オリジナルを愛してる。
一番力が強いから、はむかえない。
別に、いいんだ。オリジナルを愛しても

だって、、



壊れちゃったんだもん。オリジナル。