memory side Ena.







田里依南は一人公園にたたずんでいた。 現在時刻は3時30分。あと30分たてば、あの人がやってくる。 そうしたら私は…2年まえから好きだったあの人に… 好きだと告げる。 2年前に、好きになる前から、あの人はとても、もてていた。そして皆ふられていた。 好きだといわなければ、ずっと側にいられる。だけど、好きだといいたい。 好きだといいたいから、もっとずっと側にいたいから、彼に好きだと告げるのだ。 一度決めたら、決意をそう簡単に変えないのが依南。だから、もう告白するのをやめない。 ふられることを前提に告白するのだから、ふられたって怖くない。大丈夫。 そんなことを考えていた。だからといって、余裕があるわけではない。 いつも以上に緊張し、コドウはどんどん大きくなっていく。 家にいたら、緊張感が余計に高まってきそうな気がしたから真吾に指定した時刻より30分も前に、ここについていた。 そしてだんだんと薄暗くなっていく空の下で、真吾を好きになったときのことを、思い出していた…。 〜中学二年〜 真吾はとても、もてていた。成績は中の上。運動は得意なのか不得意なのかは知らないが、とても好きらしい。 休み時間になると、他の男の子達と一緒に外にでて遊んでいた。明るいし、面白いし、かっこいいし。最高の男。かもしれない。 だが、依南は実はそんな真吾が好きではなかった。1番もてる人。依南はこのような人が嫌いだった。 依南は保健委員だった。 めったにこない他の人たちとは違い、休み時間になると毎日保健室に来ていた。 保健委員の仕事は好きだったからだ。 タッタッタッタッ そして、当時の依南には好ましくない出来事が、遠くから聞こえてくるこの足音。 ガラッ 「ちわ〜っす」 振り向くと案の定。真吾だった。 真吾はやたらと保健室に来る。毎回毎回すり傷を伴って… そして必然的にその擦り傷を一番最初に見るのは、保健室の先生である神野(かんの)先生。 そしてその傷がたいしたことないと、呼ぶ。 誰を? 依南を。 いつもそう。今日も神野先生は真吾の足を見ているが、きっとそのうち、呼ぶ。 「田里さん」 ほらみろ。そして先生はいつも言う。洗って消毒してあげて。と 「洗って消毒してあげて。」 やっぱり。といいつつも、患者は患者。断る理由もないし断ると先生の負担が増えてしまう。ゆえに私はいつも言う 「わかりました」 と。 依南は水で濡らしてあるコットンを膝の擦り傷につけて、土、泥をふき取った。今日のは、ひどいほうだ。 「ってぇ!」 「男でしょ。痛いんなら、もうちょっとセーブして遊べば?」 「無理!楽しいんだぜっ」 真吾は笑顔でそういった。 当時の依南が思うひとつだけのよいことは、飾らないこと。 だった。依南は軽いため息をつきながら、消毒薬を擦り傷につけた。 「ッ痛!」 「がまんがまん。」 依南は平然と言った。 「はい。終わり。」 「サンキュ〜。じゃっ!」 「また遊ぶんだ。」 「もちろんっ!今サッカーやってんだ。」 「あっそ。」 「…。とりあえず、ありがと。」 「どういたしまして。」 「田里さん。」 「はい?」 「これ外に干してくれる?」 「は〜い。」 このように雑用を押し付けられることも多いが、別にかまわなかった。 「あ。まだいたんだ。宮坂君。」 「…。」 少しすねているようにも見えた。依南はおかしくなってしまって、微笑みながら言った。 「はやく行かないと、休み時間、終わっちゃうよ。」 「あ…。」 依南は今度は本当に笑い出した。もちろん真吾のリアクションが面白かったから。 本当にその事実を忘れていたらしい。 「おもしろいね。本当に。でも、校舎から出るまでは、歩いていくんだよ。」 「わかった、サンキュー」 ガラ 保健室は一回に位置している。目の前には校庭が広がっていた。 依南はベランダに出ていた。 もちろんさっき先生にいわれた雑用をこなすため。 もくもくと作業をこなしていた。そしてあと一枚というところだった。 「危ないっ!」 誰かがそう叫んだのを聞いた。 そして反射的に校庭のほうを見ると、まん丸いボールが向かってくる。ものすごいスピードで。 「きゃあ!!」 『最悪。誰かぁっ!』 もうボールにあたることは確実だが、避けたい。 誰か助けて。と思った。だが、きっとこのままあたるのだろう。 依南は目を閉じた。 ドンッ 何かが依南にぶつかった。幸いなことにボールではないらしい。 そしてなおかつ、それは依南よりも大きいもの。 そして手のあるもの。しかも人間。 さらに言えば、男の子。 ゆえに、誰かが依南を突き飛ばし、依南を抱えて倒れこんでくれた、ということ。 もちろん自分をクッションにして。 「怪我は!」 「大丈夫。だけど、すごくびっくりして…少し怖かった。」 その人は依南を抱えて置きた。 依南はびっくりして、少し怖くて、顔を上げられなかった。 「よかった。にしても」 大きく息を吸い込んだ音が聞こえたかと思うと大音量で 「おまえら!」 と叫ぶ。 「よかった。あたってなかったんだ。」 と向こうの人の声。 「あたってなきゃいい問題じゃねぇだろ!田里の顔に傷がついたらどうすんだよ!」 「田里だったのか。」 「だったのか。じゃねぇだろ!てめぇらの不注意のせいでこうなったくせに、よくそういう言葉がはけるよな!」 「わりぃ。」 「田里の前に来て、きちんと誤れよ!」 「いいよ。大丈夫。」 「でも」 「でもじゃねぇだろ!」 そして次に向こうから声が聞こえた。 「真吾!!悪かった!」 『真吾??宮坂真吾?宮坂君?』 顔を上げるとまぎれもなく真吾だった。そして手を見ると… 「あぁ!!」 「へ?」 突然出した大声にびっくりした真吾。 「ごめん。私のせいで擦り傷が・・・。」 「こんなのたいしたこと…」 「ないわけないでしょ!」 真吾を引っ張って依南は保健室に入る。 そしてまた上記の会話。 依南は真吾の治療をした。 「どうもありがとう。本当に助かった。」 「よかったよ。田里が無事で。」 「本当にありがと。でもごめんね。二箇所も傷が…。」 「平気。慣れてるから。」 「でも。」 「大丈夫。サンキュ〜。」 こうして真吾は出て行った。 そしてその日の放課後、依南の回りに男の子が集結。 「すいませんでした!」 と声をそろえていった。とても恥ずかしかった。 と同時にうれしかった。真吾が差し向けたものだと思ったからだ。 その事実は、あっていたし。 やさしくしてくれた。 助けてくれた。 自分に気を使わせないようにしてくれた。 明るい人。 元気な人。 頑張っている人。 彼を 宮坂真吾を 好きになった。 4時をすぎても、真吾はやってこなかった。 もしかして来ないのだろうか?それともただ遅れているだけなのか…? 不安は募る。 公園に着いたのは3:30。 それから4時以降のことを考えていた。 4時になって、来たら、思いを告げる。 断られる…確立のほうが高い…。だから断られたら、チョコを渡して逃げ帰る。 もし、万が一、希望通り告白をOKされたらどれだけ嬉しいのだろうか?想像もつかない。 だが、この{もし}は、少ししか考えないようにした。 たくさん考えたら、ふられたときのショックが大きすぎる。 だから考えたくなかった。 4時をすぎて5分、10分…真吾は来なかった。 もしかしたら忘れているのかもしれない。 もしかしたら来ないのかもしれない。 ただ遅れているだけかもしれない。 どれにしろずっと待つ覚悟だった。 「いけなくなりました。」とか「今日は行きません。」というメールが来るまで ここを離れるつもりはなかった。 【行きます。必ず】 と言う真吾のメールを…信じたかった。 「田里!」 後ろからその名を呼ばれた瞬間、依南のコドウは高まった。 ドキィッ その声を知っていた。 その声が聞きたかった。 その声の主に会いたかった。 振り向くとやはりそこにはいた。 「宮坂君…」 来てくれた。来てくれた。 しかも息を切らしていた。自分のために走ってきてくれたことが、すごく…うれしかった。 遅れた理由なんて、どうでもよかった。 「ごめん。……田里知っていると思うけど…今日…バレンタインだろ? だから…告られてた。」 「あ、そっか…忙しいんだっけ…。ごめん。」 その事実を話してくれたことがまず嬉しくて、申し訳なさそうに言ってくれるのが嬉しかった。 気にしていることも1つだけあった。 たくさんの子から告られる日に呼び出してしまったことを申し訳なく思い、誤った。 だからと言って決意は固いから、告白はする。 「いや…ぜんぜんかまわない…」 「ぇ」 『かまわない』といってくれるとは思わず、びっくりして聞き返すと、やさしい声で、嬉しい答えが返ってきた。 「家で暇してたし…平気だから…。」 「ぁ。うん。ところで…その子たちの告白…どうしたの?」 気になっていたことを聞いてみた。答えてくれるだろうか? でも教える義理もないし…関係のないことだから話してくれないかもしれない。 でも、聞いてみた。 「断ったよ。好きな人は…他にいるから…。」 「!そっか。」 とりあえず告白はできるらしい。 誰か好きな人がいるらしきことはふと耳にして知っていたし、 ふられることはわかっていたからなんとも思わなかった。 「で…なに?」 ドキィ! いきなり聞いてくれるな。とは思ったが、もうあとには引けない。言うしかない。 「あの……私………………………」 依南は緊張で真吾の顔を見れなかった。だからしょうがなく下を向いて話す。 「宮坂君…のことが…………………………………好きです。」 「ぇ」 真吾は小さな声をだして、驚いた。 だが今の依南にはそんな小さな声は届かない。 「だから、はい。」 昨日作ったチョコの包みを差し出した。 「返事が『ごめん』だってことは、分かってる。だけど…もらってほしいの……」 言えた、という満足感が依南の心を満たしていた。 …… だが、しばらくたってから肝心のチョコを受け取ってくれていないことに気づいた。 「あの……」 依南は思い切って自分より身長の高い真吾の顔を見上げた。 「ぇ。なに?」 「あの…チョコをもらってほしいんですけど…。」 恐る恐る言うと、やっとその事実に気づいてくれたようだ。 「ぁ。ごめん。………ありがとう。」 「うん…?」 彼が告白の答えを言うときはは即答だと聞いていたのにおかしいな… と思いつつ、もらってくれたことに感謝した(心の中で)。 返事はまだ聞いていないが、『ごめん』だとわかっているから、 ここにはいたくない。 「じゃあ・かえるね。今日はありがとう。」 「ぇ」 いまだに緊張の解けていない依南にはその小さな声は聞き取れなかった。 だから依南は後ろを向いて、帰途につこうとした。 が、その次の言葉で振り返る。 「待ってくれ。」 「え?」 「返事……」 「ぁ。別にいい。わかりきってるもの…。どうせ『ごめん』でしょ?」 今は言われたくなかった…。真吾の目の前で、泣きたくなかった。 「あの……その………明日暇?」 「はぁ?」 突然聞かれてびっくりした。今までのことを思い返そうとするが、 動揺しすぎて考えがまとまらない。 「だから…明日……暇?」 「別に用はないけど…?」 「じゃあさ、、、一緒に…………水族館っ!………いかないか?」 「すいぞくかん?!」 なんでいきなりそんな話になるんだ?と思いつつ、 水族館かぁ嫌いじゃないなぁ。と思っていた。 「好きだろ?…海の生物。」 「そりゃまぁ…好きだけど?」 「だから………一緒に……行こうぜ。」 そういった。こっちはちんぷんかんぷんだ。わけが分からない。 「にしてもさ、何の話をしていたっけ?」 「そっ…それはいいとして………一緒に……行かないか?」 よくない。 といいたかったが、それは我慢した。そしてあることを聞いてみた。 「どうして私を誘うの?回りにいっぱい女の子いるじゃない? 男の子の友達もいるし…。みんな誘えば?」 出かけるという発想から、ある話を思い出して聞いてみる。 「…そういえば聞いた話だけど、 男の子とは遊びに行くのに、女の子とは行かないのね…。なんで?」 ここについてからの真吾はいつもの調子とはまったく違って、 つっかえながら話していたが、 平常心で聞いた依南の問いに対していつもの調子で話し始める。 「だって、好きな奴に誤解されたくないし。男は別だけど、好きだって思う子意外となんて出かけたくね…ぁ」 『ん?』 今何かが引っかかった気がした。 「今…何かいったよね?何か…大事なこと?…言ったよね?」 「…言った。」 「…なんて……言ったの?」 自分にとってさほど悪い言葉ではなかったような気がしたので聞き返す。 「…ちょっと…言葉変わるけど、いい?」 「…うん。事実が同じなら。」 「…同じだよ。」 真吾はそういってまっすぐに依南のことを見つめてきた。 ドキッとする。 目をそらしたかった。 だけど、そらせない。 「………………オレは…依南が好きだから一緒に出かけたい。  と・いった。」 「……ぇ?」 『好き?  誰を?  依南?  私?  …  わたしぃ?』 信じられない言葉に戸惑い、もう一度聞く。 「依南って…私?」 「おまえ意外に誰がいる。」 「…」 視界がぼやけてきた。そしてこらえきれず、涙を流した。 「ど…して?」 「なんか…前から田里のこと、優しい子だなって思ってた。  で、中二のとき、看病してくれたろ?  そしたら…好きになっちまったんだ。」 「そんな…ことで?」 「いいじゃん。俺にとっては……天使みたい…だったんだからな。」 少しテレながら、真吾はそういった。 依南は涙を流し続けていた。 「ごめんな。」 急に真吾の声が近くなった。そして体の周りが温かく感じた。 真吾が…包んでくれたのだ。 「オレ、怖くてさ…断られたら。とか…  だから怖くて言えなくて…  だから…言ってくれたとき、すげぇ嬉しかった……。」 「ありがと…」 依南は真吾の腕の中で涙を流し続けていた。 「ごめんね…服…ぬれちゃうね。」 「やっぱり優しいな。依南は。」 ドキィ! 「ぇ…依南?」 「いやか?」 「いやじゃ…ない。」 「ならいいじゃん?ずっと呼びたかったんだ。  ちゃんと彼氏彼女の間柄になってから、  依南ってずっと呼びたかったんだ。」 「そ…なんだ。……びっくりしすぎて涙止まっちゃった。」 「もう平気?」 「うん。大丈夫。」 依南は涙を拭いて、真吾のほうを向いた。 「先に言わせちまって…ごめんな」 「いいよ。結局的に、よかったから、いい。うれしい。」 「そう?」 「うん。」 「じゃあ、帰るか。送って。く」 「ありがとっ」 「ん…。」 二人で並んで歩いているうちに二人の手は握り合わさった。 最初に手を握ってくれたのは、真吾だった。 依南はこれからずっとこの人のそばに入れることをうれしく思った。 「真吾っ」 「ん?」 「大好きだよっ」 依南は最高の笑顔を見せた。 「あれ?顔…赤くない?」 「…かわいくて…みとれてた……。」 「そっそんな恥ずかしいこと平気で言わないでよ。」 「しょうがないだろ?聞いたのはそっちだろ?」 「そりゃ…そうだよ。はい…そうですね。」 「分かればいいんだ。」 依南は微笑んだ。 そして二人は家路を歩いていた。 二人は…幸せに…今を過ごしています。
ばっく