君は、知ってたのか?オレは知らなかった。
だけどオレは気づく事が出来た。
終り良ければすべてよし。そういうだろう?
だから、良いと思ったんだ。
夢は、夢?
目を開けると回りはふわふわした感触の色。
水色みたいな色で、だけど雰囲気はピンク。そんな色が、オレを包んでいた。
オレがいるソコは、見覚えのありすぎるオレの部屋。
ただひとつだけ、いつもと違っていた。
いや・・“いつも”とじゃないな。最近とだ。
“最近”一緒に遊んだりしていない、俺の幼馴染、李織(いおり)がそこにはいた。
手を伸ばしても、触れられない位置に。
「李織?」
何も言わず、ただそこで立ち尽くすその子。
「李織じゃないのか?」
どうしてこんなところにいるんだ?
何を言っても、その子はそこで立ち尽くす。
ただ、ただオレを見ていた。
もう一度名前を呼ぼうとした時、小さな声が聞こえた。
オレの名を呼ぶ声が。
「・・・すけ」
誰だ?誰なんだ?
「夾祐(きょうすけ)!!」
間違いなく自分の名。そしてこのボリューム、迫力などなど・・・
現実である事がすぐにわかり勢いよく目を開ける。そして、
「ぅわっ!」
驚かずにはいられない。
目の前には李織。今度は間違いない。
夢の中より近い位置。目の前でオレを見ていた。
「な・なんで李織が?!」
目の前に差し出された番気に入ってる時計。いつもは李織じゃなくてこの時計がオレを起してくれるはず。
指し示された時間。
8:00
「ゲッ」
いくら遊ばなくなったと言ったからって、今だに一緒に学校に行く。
待ち合わせの後で。
それがいつまでたっても現れなかったら、さすがに俺の部屋まで起こしにくるだろう。
そして“いつも”どおり李織は…
「下で待ってるから!急いで支度してよ!」
そう言って、“窓から”戻っていく。自分の部屋に。
李織とオレの部屋は、窓を2枚隔てただけ。
行こうと思えば、いつでも行き来可能なのだ。
だからだろうか…安心していた。
あの噂を聞くまで。
急いで支度をして外で待つ李織の元へ急ぐ。
いい加減、李織ちゃんに迷惑をかけるのはやめなさいという母の声は無視。
「おはよっ夾祐!」
「おー。あぁ眠い…。」
「…朝ごはんは食べた?」
その言葉に今までの行動を振り返るオレ。
8:00に起こされて(起こしてもらって)今は8:05。
5分で着替えて顔を洗って支度して出る事は可能だが、朝ごはんを食べる事まではさすがに出来ない。
オレでさえそうなのだから、他の奴にできるはずがない。
嫌味か・・・?
「食べれたと思うか?」
「思いません。はい。」
「いつも悪いな。」
そう言って俺の手の中には李織の母さんが作ったサンドイッチ。
ソレを食べながら行く頻度はかなり高い。
「…おいしい?」
5.6年前からいつも聞かれるこの台詞。
「うまいけど?いつもなんで聞くわけ?」
「いっ、いつも母さんが、おいしかったかしら?って言うの!」
「ふ〜ん。じゃあ今度面と向かってお礼とおいしいってのを伝えないとな。」
「大丈夫!私ちゃんと言ってあるし!」
たまに李織の母親に言う礼の事を思いだすと必ず李織はソレを断る。
なぜ?そんな事をオレに聞くな。
いつもの道のり。
いつもの顔ぶれ。
いつもの挨拶。
そして俺達は学校に着くんだ。
学校に着くとオレらは注目の的。
二人に対しての噂が、付き合っているのでは?というもの
そしてオレと李織に対して言われるのが。
格好いい!かわいい!という声。
嬉しいが嬉しくない。
なぜだと思う?
李織がいじめられているらしいのだ。
誰の所為でかわかるだろう?オレだ。
オレのせいなんだ。(オレを好きらしい女達からいじめられているらしい。)
つまり、李織の貴重な学生生活に暗い影を落とした原因が自分。
やるせない。
「夾祐?またオレのせいで〜とか思ってないよね。」
「えっ?」
さすが幼馴染。オレの変化にはめざといわけか。
「思って、ないよね?あんなの噂だよ。噂。」
「でも…っ」
「私こそ、ごめん。友達、減ったんでしょ?」
寂しそうな顔でそういう李織。悪いのはあなたじゃなくて、私。そう言ってくれてるみたいだ。。
でもそれこそ君のせいじゃないし、感謝もしてるのに。
「親友は減ってない。」
そう。オレには友達がたくさんいたが、李織と登校する事により
うわべだけの友達を演じていた奴らはオレから離れて行った。
でもオレはソレが一番良いと思っている。
本当の友人さえいれば、何にもいらないんだ。
「逆に感謝してるくらいだ。だからありがとう。」
「そ、そうなの?」
「あー。」
「そっか。よかった。じゃね!」
李織は隣のクラス。
李織のクラスの事は知らない。
ただ、オレの目にあまる行為があったらぶちのめす。
オレの大切な幼馴染を守るために。
でも、このときのオレには、恋愛感情なんて、かけらも無かった。
「ん」
また目を開けると李織がいた。
やっぱりただオレを見ているだけ。
笑いもせず、泣きもせず…
ただ、オレを見ている。
「李織なのか?」
そう問いかけてもその子は何も言わない。
なぜだ?なぜオレを見る。
ジリジリジリジリ
「ん〜。」
ガチッとうるさく朝を告げる目覚ましを止める。
—また、李織?が出てきた。
いったい、なんなんだ?—
「おっはよ〜。今日は余裕?」
「でもない。」
李織は普通で、変化は何もない。
「はい。」
そうサンドイッチをくれる。
「いつもうまいな。」
「あ、ありがとっ伝えとく!」
いつもなら、大体李織には話すけど、
あの夢の事は何も言わない。
いや、いえない。
なんでだろうな。。
それから1ヶ月間、オレは同じ夢を見続ける。
どんな夢かわかるだろう?
李織がただオレを見ている。そんな夢。
何も言わず、ただ見つめられて。だけど、見つめ返して凝視すると、李織が、李織に見えない。
こんなこと、言っていいのかわからんけど、
すごい、、かわいい。って思うように、、なったんだ。
これ、もしかして重症?李織?におぼれているのかな。
そんな夢を見続けたある日の事だった。
「・・・李織?」
いつもはオレを見ている李織だが、今日は向こうを向いている。
どうしたんだろう?
オレは李織の手を掴んだ。
びくっとしたように振り返る李織。
『李織?!』
はっと目を開けると、目覚ましがなる10分前だった。
「今の夢…まさか?」
オレはちょっとだけ不安になって、いつもより早く家を出た。
案の定、まだ李織はいない。
ガチャ
「行ってきま〜す!って・あっ夾祐!おはよっ早いね!」
「まぁな。」
よかった。心からそう思った。
いつもと同じ李織。笑顔の李織。
本当によかった。
だって、
夢の中の李織は、泣いていたから…
「李織?」
やっぱり李織は向こうを向いている。
「李織?!」
オレは李織の腕を引っ張りこっちを向かせる。
「どうした?何かあったのか?」
聞かずにはいられなかった。
だって李織は、泣いていたから。
首をふる李織。
だけど、李織の目から涙はとめどなく溢れ、俺はその涙を指でぬぐう。
ジリジリ
「ん」
今日も李織は、泣いていた。
何か、あったのか?
昨日みたいに早く出る事は出来なかったから、俺は普通に家を出る。
「おっはよ〜。夾祐!」
「オッす。」
やっぱり李織は笑顔だった。
朝から、元気だった。
また安心した。
李織が元気で、笑顔でいて・・・安心した。
「どうしてだ?」
言わずにはいられない。
だって李織は今日もオレに背を向けていたんだ。
つまり、泣いていた。。
夢の中で。
夢じゃなくて、普通の世界なら李織はすごい元気なのに、どうして夢だと、この子は泣いてる?!
どうしてだ?どうして、、
そう思う俺に、李織は振り向く。
その口がタスケテ。そう動いたように見えたのは、俺の気のせいか?
どうも気になる。気になりすぎる。
だから、いつもより早く李織を迎えに行った。
わざわざチャイムまで押して。
じっくり話をするためには時間が必要だ。
「あら夾祐くん?ごめんね。ちょっと待ってね。」
「はい。」
しばらくしてあわてて李織が出てきた。
「ごっごめん。」
「オレこそ悪いな。」
「ぜんぜんっ大丈夫。」
李織はやっぱり笑顔。
でも、絶対に何かある。
オレの確信とも言える自信が…そう言っているんだ。
「にしてもどうしたの?すっごい早かったよね。」
学校へ向かいながら李織はそう言う。
笑顔で。
「何か、あっただろう?」
「
…ぇ。何もないよ?」
今日ほど李織と幼馴染でよかったと思った事はない。
自信が・確信に変わり、真実が見えてきた。
作り笑いを…一生懸命してくれていた事に。
おそらく幼馴染のオレに、心配をかけさせまいという一心から。
そのあと何度も何かあっただろう?と言っても李織は隠し続ける。
今度から本当の笑顔で。
真実が見えなくなって、確信も自信も無くなった。
だけどオレは夢の中の李織そっくりの(おそらく李織の)流した涙を、オレは信じる。
その日は休み時間ごとに李織を見に行った。
もちろん、李織に見つからないように、ずっと見ていた。
そして、オレはやっぱり自信を持ち、確信を得た。
オレの考えた真実が、紛れも無い事を、オレは知ったんだ。
帰り、李織を待ち伏せた。
誰からも、見えないところで。
李織が来た時、ガシッと腕を掴み、今まで隠れていた草の中に李織をめいっぱい引きこむ。
「きゃっ?」
「うわっ」
力が強すぎたのか、李織が軽すぎたのかはわからないが、李織はオレの方に勢いよく倒れこんできた。
「ったぁ・・なにするのよ。夾祐。」
きっと引っ張られるときに、オレが見えたんだろう。
オレも見えた。
安心したような、李織の顔が。
せっかくだから、上に乗った李織を抱きしめて、李織に問いただす。
「夾祐?!ちょっ!??」
「何か、あっただろう?」
「っ・・・無いって、言ったよね。」
「聞いた。だけど、お前は嘘をついている。」
「ついてないよ。嘘なんて・・だからっ離して!」
「離せるか!お前が嘘をついているって事ぐらい、オレにはわかる。」
「嘘なんて、ついてないっ!」
「嘘を付いている!俺にはわかる!それがわかった時、オレは、
幼馴染でよかったって、始めて思った!」
時々、思っていたんだ。
李織は、とてもよくもてたから。
李織が初めて告白された時、幼馴染のオレに、“断ったよ。”そう教えてくれた李織は
とてもきれいで、
オレを幼馴染と思っていた事に、悔しさを覚えた。
どうしてなんだろう。幼馴染じゃなければ、一番最初にオレが告白していたかもしれない。
いろんな事が頭をめぐって、だけど、幼馴染というレールの上を歩く事が一番良いことだと思いこみ、ずっとそうしてきた。
今も李織を見て、ドキッとなるときが、無いわけじゃない。
心の奥底で芽を出したこの想いが恋だと、オレは思っているから。
だけど、オレは幼馴染で、そのレールを走っているから、やっぱり、やっぱり悔しいんだ。
だけど…オレは…嘘をついているってのがわかったとき、俺の選択は間違ってなかったって、そう思った。
だって・・・幼馴染として一番近くに居る事を許されて、時がたって変わったものより、変わらないものの方が多くて、
ずっと、幼馴染としていたからこそ、嘘をついている事に、気づく事が出来たから。
「じゃあ何?夾祐は私と幼馴染でいることが、嫌だったの!」
誤解されて頭に血が上る。
「んなこと言って無いだろう!嬉しかったんだよ!
今でも嬉しいって言っちゃぁ嬉しい!
だけどな、李織!今大切なのは、お前が嘘をついているってことなんだよ!」
「嘘なんてついてない!ひどいよ!ずっと、ずっと嫌だったの?私の幼馴染で居る事が!」
頭に血が上ると、言葉を選べない。
後で、そう言い訳しておいた。
「っ嫌だったよ!ずっと、ずっと嫌だった!」
「」
李織はオレの胸に顔をうずめた。
「李織?」
「な・・・によっ」
「なっ泣くなよ!」
「泣いて無いもん!」
…。
ずっと嫌だったって言ったけど、それは微妙に真実だったけど、
だけど、多くの思いは、やっぱりこの芽吹いたばかりだろう感情がすべてを握っている。
今はまだ判らない思いだけど、双葉が出るまで…告げるわけには行かない。
李織が泣いている間、オレは夢の中で李織が泣き始めた日の事を、思いだした。
あの日は…
「?李織?」
「夾祐?どしたの?」
「それはこっちの台詞だ。お前こんな遅くまで何やってるんだよ。」
「ん〜。仕事頼まれてね!でも大丈夫。もうすぐ終るから。先帰ってて」
…オレのせいじゃん。こうなったのって、
あの時オレが待っていれば、送っていれば…ウソなんて、つかれなかった。。
「オレの、せいだな。」
「え。」
「あの日、オレがちゃんと、、送って行けば」
「っ」
本格的に李織は泣き始めた。
いったいどんな思いで流している涙なのか、オレにはわからない。
李織…ごめん
「ごめん」
少し涙が収まって来てから李織はそう言った。
だけどごめんという言葉を言ってしまったため、涙がまたあふれてきてしまったみたいだ。
それでも李織は今度こそ、話を止めようとしなかった。
「ごめん。ずっと…ずっと隠してきて、ごめん。」
「も・いいよ。ただ、オレはもっと早く言ってほしかった。毎時間毎時間、泣きそうな顔で過ごしてたこと、気づけなくてごめん。」
今日の李織を見て、初めて気づいた。
情けないよな…
「っずっと・ずっと頼っちゃいけないって、迷惑かけちゃいけないって、ずっとそう思ってきたの!」
「うん。」
知ってるよ。知ってるから。
「帰りながら、話そうか。」
「うん。」
オレは起き上がり、李織も起き上がり、二人で歩いて帰った。
「あの時、私は帰るのが遅くなったの。夾祐より30分は遅く帰った。仕事が、残っていたから。」
やっぱり、オレのせいだな。。
オレに何があったか言いたくなかった理由にも絡んでそうだけど。
「一人で、結構早足で、帰ってたら…痴漢に、あった。」
「は?!」
オレは李織の隣で大きな声を出す。そりゃ毎時間泣きたくなるわけだ。
「痴漢にあって、襲われかけたけど、大丈夫だった。ついつい、蹴っちゃって。」
そう。李織は、とっさになると足が出る。襲われかけたとか、殴られそうになったとか、そういう危険な時に限るけれど。
「それで、逃げて、それからはなるべく早く帰るようにしたんだけど」
「けど?」
「明日…日直で、必然的に遅くなるの。」
「にしても、オレの幼馴染に手を出すとは、、いい度胸だ」
「きょ、夾祐?」
おそるおそるということばが一番当てはまる言葉で李織はオレに話かける
「あ?」
「こ、怖いよ?」
「痴漢がだろ?んなもんわかってるよ」
わざわざ言わなくても、わかってるから。
「ち、違くて…夾祐が・」
オレは苦笑しつつも、まぁ気にしない気にしないと言っておいた。
オレが怖いって?きっと怒ってるからだろ?でもそれは当たり前だ。
ぜってぇ李織に手を出した事を後悔させてやる。
「とりあえず、オレも明日遅くまで一緒に残ってやるから。」
「え・でも。」
別にいいよって言葉がかえってくることは知っていたから、李織が怖いと言った空気を利用して、脅すように言う。
「異論は?」
(・o・)
「ありません。」
じゃな。そう言って一瞬。一瞬だけ李織を引き寄せて(抱きしめて。とも言うけれど)、心の中で“守るから”そうつぶやいて家に走った。(隣だけど。)
夢の中の李織は半泣き状態で、そんな李織を“夢の中だから”今度はしっかり抱きしめて、“夢の中だから”「絶対守るから」そういった。
「ありがとう。」夢の中の少女は、李織は、そう言ってくれた。小さな、小さな声で。でも間違いなく李織の声だと思った。
だから、オレも、(夢の中に出てきてくれたり、李織の本当の気持ちを教えてくれたり。)いろいろありがとうって言った。
暗い暗い夜道。
数日前に目をつけた女が通るはずだ。
目をつけて手を出してから、あの女は早い時間に帰るようになってしまった。
だけど今日は違う。まだ校舎から出てきて居ない。
来た。一人で。おびえた目をしている。
恐怖で顔がゆがんでいる。今日こそ。
あと50cm
あと30cm
あと10cm
あと5cm
あと1cm
あと5mm
あと2mm
ガシッ
目をつけた女に触れられるまであと1mmだったのに、なにかが邪魔をした。
邪魔をした物を見ようとしたけど、それは叶わず、顔に衝撃が加わる。
「っ」
「てめぇ」
男の声。襟首を引っ張られる。
「オレの幼馴染に手ぇ出すとはいい度胸じゃねぇか。」
幼馴染?何の事だ?オレは何も、ナニモシテイナイ。
「言いがかりをつけるのはやめてくれるかな。君。」
「言いがかりだと?ざけんなっ!」
オレをもう一度殴ってからそいつはこういう。
「お前知ってるか?この辺りで最近痴漢がたくさん出没してるんだとよ。」
知ってるさ。
すべてオレがやったこと。
「お前をこれから警察に連れて行く。痴漢の顔を見た人もいるらしいからな。」
言いがかり?をつけた男がそう言うと、周りが明るくなる。
ナンだ?
「警察だ。ご苦労だったね。君達。」
「いいえ。じゃあ、」
「ほら。くるんだ。」
ばれたのか。
もう、終わりだ。何もかもが、終わり。
もう、オワリ。
「終ったな。」
「うん。夾祐〜。」
「?」
「ありがとっ!おやすみなさい。」
「お、おぅ。」
笑顔で言った李織。もうオレの夢に出てくる李織が涙する事は無いだろう。
よかった…
誰かがオレを揺さぶっている。
なんだ?なんなんだ?
「ん」
目を開けると目の前には李織。
「李っ李織?!…なんなんだよ。こんな時間に。」
何も言わないで首を横にふる。
「え?」
「起きて。」
はっきりとそう言う。
「起きてるじゃないか。」
「周りを、見て?」
見回すと、周りは水色。雰囲気はピンク。
「これ、夢か。」
「起きて。外を見て。窓を開けて。」
「起きて、窓を開ければいいのか?」
夢の中の李織がこんなにも話すのは初めてだ。
しかもはっきりと聞こえる。
「そう。さぁ起きて。」
「ん。」
「夾祐、ありがとう。」
笑顔で言って、李織は消えた。
「「李織?!」」
目を覚ます。ほのかに汗をかいている。
空にはきれいな星が輝いていた。
—窓を開けて—
窓を、開ける。
「え」
「ふぇ?夾祐?!どしたの?」
時間は多分真夜中。目の前には久しぶりに見るパジャマ姿の李織。
空を、夜空を眺めていた。
「びっくりした。急に窓が開くんだもん。」
「おれだってびっくりするさ。お前寒くないわけ?」
寒くないって言葉がかえってくるはずないと思いながら、李織に話かける。
「ん〜?寒いよ。」
「なら、俺の部屋来いよ。」
何げにオレの部屋、中から外見えるんだよな。寝ながら外を見れる。
「うんっ!」
李織はオレの手をとり、オレの部屋の中に入ってくる。
オレが男だって、自覚あるのかな。コイツ。
そして俺らはオレの布団の中に二人で入って、空を眺める。
心臓の音がうるさすぎだ(苦笑)
「なんかいいなぁ、家の中から星きれいに見えるじゃない。早く呼んでよ。」
「今まで言わなかったお前が悪い。」
「そりゃそうだけどぉ、、」
オレの隣でそう言う彼女。
李織…ごめん。オレはもう我慢出来ないんだ。
オレは、起き上がり、
「夾祐?」
不安そうに少し起き上がった李織を押し倒して、
「きょ、夾祐?」
李織の顔を手で包み込んで、
「んん?」
キスしてみた。
最初微妙に抵抗していた李織もキスを繰り返すうちに、力が抜けていくのが、わかった。
そして、自分が何をしたのかってことも。
オレは李織の上からどいて、部屋から出て行こうとした。
オレの部屋だけど、ここにいちゃいけないって思ったし、ここにいれなかったから。
そんなオレの背中に何かが当たる感触。オレより少しだけ小さくて、暖かいものが。
なんで、キスしたの…
囁く李織。
「キスしたいって、思ったから。」
誰でもいいの?
「そう思うのは李織だけ。ごめん。」
謝んないでよ。バカ。
「え?」
「謝らないでよっバカ!」
そう言った李織はオレの前に回る。
「それに、ちゃんと、、ちゃんと言って!」
好きだよ。
「好きだ。李織が好きだ。」
双葉なんて、とっくに・とっくに出ていたんだ。
気づきたくなかったんだ。
この関係を壊したくなくて、
愛しているんだ。李織…
「私も、だよ。」
そう言うと、李織は目を閉じる。
そして、オレも。
お互いを求め合うように、キスを繰り返した。
愛しているって言いながら、
好きなんだ。この思いは、ずっと…。
朝、オレは目を覚ます。
あのあと李織は部屋に戻っていった。そしてオレはなぜかいつもより早く起きる。
今日夢の中に李織は出てこなかった。
もう大丈夫だからなのかもしれない。真実はきっと永遠にわからないけど、李織に言ってみよう。
昨日もあの後、どうして私がいつもと違うのがわかったのって聞かれたからな。
オレはとりあえず朝飯を食って、李織を迎えに行く。
「あらいらっしゃい。ちょっと待ってね。」
ふ、と思いだして李織の母さんにお礼を言う。
「あ、いつもサンドイッチありがとうございます。おいしくいただいています。」
「そう?じゃあそれは私じゃなくて李織に言ってあげて?喜ぶわよ〜。」
「え」
いつも、伝えてもらってるはずだろう?李織を通じて。どういうことなんだ?
疑問をあからさまに外に出している俺に李織の母さんはサラッと言った。
「だって5.6年前からあのサンドイッチは李織が夾祐くんのために作っているんだもの。朝早起きしてね♪」
「え」
・・・
なるほど、だからオレに対しておいしい?って聞くのか。なるほどな〜。
知らない間に愛妻弁当を食っていた事実に、オレは顔を赤く染める。
「あれ?夾祐?今日早いねぇ。」
「あ。李織?あなたが作ったサンドイッチおいしいって。」
「?……お母さん!!」
少しして顔を真っ赤にする李織。
オレも赤いけど。
「あらあらごめんねぇ、。話しちゃいけなかったかしら?」
「も〜〜行くよっ夾祐!」
「お、おぅ・」
そして学校へ通う道。俺達はいつもより口数が少なかった。
「いつも、サンキュ〜な。サンドイッチ。」
「う、うん。」
「毎朝作ってくれてたのか?」
「ぇ、うん。」
「じゃあ明日から、昼の弁当。サンドイッチでいいからさ、作ってくれよ。おれ、いつも購買でさ。」
「え?」
「嫌ならいいんだけどさ。」
「嫌じゃないよ!大丈夫!」
そんな李織が愛しかった。
そして学校で公衆の面前でキスをして、関係をおおっぴらにしておいた。
真っ赤な李織には申しわけないけど。気にしない。
そして今日も二人で星を見てる。
「そういえば、あのな…」
そして、オレは話しだすんだ。
夢はただの夢じゃないって思った、李織の出てくるあの夢の事を、君に、話すんだ。