3つめの理由
登場人物
海良 昧嘩(かいら まいか) 高2
海良 良哉(かいら りょうや) 大2 昧嘩の兄
快打 多久(かいだ たく) 大2 良哉の友達
前崎 戒 (まえざき かい) 高3 昧嘩の好きな人
小枝島 倖(さえじま ゆき) 高2 昧嘩を好きな人
丈島 鈴 (たけじま りん) 大2 良哉の恋人
藍田 映見(あいだ えみ) 大2 多久の恋人
三日月 彩(みかづき あや) 高3 戒の恋人
「きゃあ」
昧嘩は誰かとぶつかった
「あ。ごめん」
「…っ平気です……!!快打先輩」
「あ……確か、良哉の妹の……昧嘩ちゃん」
「はい。」
「ごめんね」
「大丈夫です。急いでましたよね?行ってください」
「ごめん。じゃあね」
「はい。さよなら」
昧嘩の家
「ただいまあ」
「お帰りなさい」
「わあ。鈴さん。お久しぶりです。」
「久しぶりね、昧嘩ちゃん」
「兄、いました?」
「ううん。いないのよ。」
「おっかしいなあ。……ああっ」
「どうしたの?」
「そういえば、今日、私1人暮しを始める予定だったんですよ」
「それで?」
「日にち変わったの、兄に言うの忘れてた。」
「あらあら。」
「ちょっとまっててください」
トゥルルルルル
「はい?」
「あ。お兄ちゃん?どこにいるの?」
「おまえの新しい家に車で向かってる最中だよ」
「いまどこ?」
「・・」
「よかったあ。すぐ引き帰してお兄ちゃんの家に行って。引越し、明日になったの」
「まじかよ?」
「だから、ね」
「わかった。…もしかして鈴がいるのか?」
「うん。」
「ちょっと鈴に変わってくれないか?」
「うん。…鈴さん、兄が」
「じゃあ、ちょっと借りるわね。」
「はい。ごゆっくり。」
5分後
「ありがとう」
「あ。終わりました?」
「ええ。いまから良哉の家に行ってくるわね。」
「行ってらっしゃい。鈴さん」
「ええ。」
「あ。鈴さん、ちょっとお願いが」
「なあに?」
「これを、兄に」
昧嘩は包みを渡した。
「あらなに?これ」
「オソバです。賞味期限今日までなんで、
もし、快打先輩と映見さんが兄の部屋に来たら、
鈴さんたちで食べ尽くしちゃってください。」
「来なかったらどうするの?」
「捨てちゃってください。」
「ええ。わかったわ。ありがとう」
「鈴さん、兄をよろしくお願いしますね」
「ええ」
鈴は微笑みながらそういった。
パタン
昧嘩の家の事情は特別だ。なぜなら、昧嘩と良哉は両親が外国に住んでいる(日本人)
そして今まで昧嘩と良哉が住んでいたこの家も
昧嘩が家を出たいと言ったので、二人で別々のところに住む。
と言う事で、一件落着をした。
両親は、昧嘩が1人暮しをする事を不安がったが、昧嘩は説得して、1人で暮らす事になった。
この時依頼昧嘩は両親にあってもいないし、声も聞いていない。
最後にあったのは2年前の事だった。
次の日
「昧嘩—」
「あ、お兄ちゃん、ごめんね。昨日は」
「いいって。ソバ、サンキュ」
「昨日来た?映見さんと快打先輩」
「ああ。」
「で、昨日もやったの?」
「ああ。」
「ふう。」
「なんだよ。」
「なんでもない。いいね。ラブラブ」
「うらやましいだろ?」
「うん。とっても」
「とりあえずさっさとやるぞ。」
「あ。でも、ダンボールを部屋の中に運んでもらえば、
後は、家具が来るのをまつだけで、家具も、運送屋さんにやってもらうから、」
「そうか?」
「うん。鈴さんから電話かかったらすぐ行ってあげてね」
「ああ。」
トゥルルルル
「はい。」
{あ。良哉?終わった?}
昧嘩は良哉の一瞬の表情で鈴だとわかった。
クスッ ←昧嘩
昧嘩は「いいよ。終わった。って言って」と口ぱくで言った
「…ああ。終わった。俺の家か?」
{ええ。}
「じゃ。待ってろ。すぐ行く」
{ええ。}
「行ってらっしゃい。お兄ちゃん」
「ああ。じゃあ、何かあったら電話しろよ」
「うん。ばいばーい」
「ああ。悪いな」
「気にしないで。今までいろいろお世話になったし」
「他人行儀ないい方すんなよ」
「だって今お兄ちゃんは、鈴さんのタメにいろいろしてあげてるもの。鈴さんを大事にしてね。」
「…」
「あ。照れた。じゃあ、」
「ああ」
夜
トゥルルル
「はい。海良です」
「昧嘩か?」
「あ。お兄ちゃん?」
「ああ。終わったか?」
「うん。夏休みだから、明日はゆっくり寝るよ」
「そっか。じゃあな」
「うん」
カチャン
「さてと、後は明日やろうっと」
次の日
「ふわあ」
昧嘩は昼までに片付け終えた。そして、お米などを買いに出かけようとしたときだった。
トゥルル
「はい。海良です。」
「昧嘩か?」
「はい?そうですが」
「オレだよ。オレ。」
「どなたですか?」
「わかんねぇかな?オレ、小枝島。小枝島倖」
「倖?」
「ああ。」
「なに?」
「おまえ、引越し昨日だろ?」
「うん。」
「終わったのか?片付け」
「ええ。今から買い物」
「ちょうどいいや。オレんとこに、おまえの両親から、米とか届いているんだ。取りに来いよ」
「ええ?マジ?」
「マジ。」
「…」
「どうした?」
「だって……重いじゃん」
「…わかったよ。親父に頼む。」
「サンキュー住所わかる?」
「ああ。夏休み前に書いてもらったからな。」
「じゃあ。よろしく。」
「今から行く。」
ピンポーン
「はあい」
昧嘩はインターフォンをとった。
「はい。」
「昧嘩、来たぞ。」
「倖?」
「ああ。」
「待ってて」
カチャ
「よお」
「ありがと。ごめんね」
「いいって。どこ置く?」
「じゃあ、っとねえ、とりあえず玄関まで。」
「オッケー」
「ありがとう。」
「これからどうすんだ?」
「それは私のセリフ」
「え?」
「おじさんに先に帰ってもらっちゃって」
「ああ。運動もかねて、走って帰るからさ。」
「うそっ…て事は……じゃあ、倖に頼もっと」
「へ?」
「この荷物を、台所に…運んでほしいな。」
「…わかったよ」
「ほんと?ありがとう」
「いいって。」
「ほんとにありがとう。」
「いいって言ってんだろ?じゃあ」
「あ。待って」
「え?」
「はい。お茶」
「あ。サンキュ—………………………ごちそーさん」
「ばいばーい」
「じゃあ」
「うん。」
パタン
「早く終わった。さてっと寝ようっと」
「昧嘩ちゃん、もう、やめてくれ」
「…私もやめたいです。でも、止められないんです。」
「オレにはちゃんと彼女が」
「知ってます。だから、恋人にして下さいなんて言いません…」
「頼むから、オレにもう2度と近寄るなよ」
「前崎先輩!!」
昧嘩は目を覚ました。
戒のことを好きにならなければ良かった。そう、毎日思っていた。
「なに?今の夢……最悪。とりあえず、近寄るのはよそう、彩さんがちゃんといるし。
って私丸1日寝てたの?すごっ…って一人ごとだ」
トゥルルルルル
「はい。海良です」
「あ。昧嘩?どうしたんだよ。昨日何度かけてもでなくてさ」
「だから、1日寝る、って言ったでしょ?」
「マジに取るわけねぇ……昧嘩、ちょっと待て。」
良哉はベッドの上で、電話していた。
そして、「取るわけねぇだろ」という良哉の唇を鈴が唇でふさいだ。
「鈴、ちょっと待ってくれよ」
「何?私より、昧嘩ちゃんが大事?」
突然、受話器から昧嘩の声が聞こえた。
「お兄ちゃん!」
「ああ?」
「じゃあね。ごゆっくり。」
「おいっ昧嘩」
ツーツーツー
昧嘩は電話を切ったようだ。
「さて、昧嘩に電話切られちまったから、やるか?」
「ええ」
「ったく。鈴さんを大事にして。って言ったのに。」
トゥルルル
{え?}
「はい。海良で…」
「あ。昧嘩ちゃん?」
「はい……もしかして映見さん?」
「ええ。ごめんね。ちょっと前に、多久が昧嘩ちゃんにぶつかったって聞いて」
「あ…」
「で、ほんとにごめんね。」
「平気ですよ。私。」
「多久ね、いつもデートの待ち合わせに遅刻してくるのよ。
もっと早く起きればいいのに。で、毎回走ってきてくれるのよ。
それで、きのう、オソバを食べてた時、多久がそう言うから。」
「気にしないで下さい。」
「気にせずにはいられないわよ。ほらっ多久」
「あ。昧嘩ちゃん?」
「快打先輩?」
「ほんとごめん。マジで平気?オレ、なんでもするから。」
「私は…大丈夫です。」
「なんか。言ってくれよ。映見に、何でもするって約束しちまったから。」
「……わかりました。」
「で、何をすれば」
「じゃあ…映見さんを、ず——————————————っと大切に。」
「へ?」
「つまり、映見さんを大事にして、愛しつづけてあげてください。」
「!!」
「あ。もしかして快打先輩、今照れました?」
「ギク」
「当たりですね。それじゃあ。」
「ちょっと多久、昧嘩ちゃんから、何をするように、言われた?」
「……」
「わっ」
映見は多久に抱きしめられた。
「映見をず——————————————っと愛しつづけろだってさ」
「あら。で?」
「もちろん」
「あ。そうだ。」
ピ・ポ・パ・ポ・ピ・パ…トゥルルルルル
「はい。小枝島です。」
「あ。海良ですけど」
「あら。昧嘩ちゃん?」
「はい。倖、いますか?」
「ええ。…倖————————」
「ぁぁ?」
「昧嘩ちゃんから電話」
「ぇぇぇぇぇぇ????」
「早く出なさい」
「・もしもし」
「倖?」
「ああ。どうしたんだ?電話かけてくるなんて」
「昨日の事で、お礼が言いたくて。ありがとう。」
「…おぅ。」
「ん」
「……もしかして昧嘩、寂しいのか?」
「え?」
「だって、オレに電話かけてくるなんて、よっぽどの事なんだろ?
昨日ちゃんと、ありがとうって言ってもらったし」
「…ちょっとね」
「行ってやろうか?」
「……」
「どっちなんだよ?」
「…来て……ほしいかも」
「じゃあ、行く。まってろ。」
「うん」
ピンポーン
カチャ
「いらっしゃい」
「ダメだろ昧嘩」
「え?」
「女の1人暮しの鉄則その1。ちゃんとインターフォンでとって、相手の顔を確認した後、出る事」
「はあい」
「で、どうしたんだ?」
「……倖には、言ったよね?わたしの好きな人の事」
「…ああ。聞いた。前崎戒…だろ?でも、三日月彩さんがいるから、思うだけ。って」
「そう。」
{オレ…昧嘩の事好きなのに。恋の相談か。…むなしいな。でもまじめに答えてやんないとな。}
「で、夢に出てきで、もう、近寄るなって言われちゃった。」
「…」
「で、やめようとは思うんだけど、どうすればいいか、わかんないの」
「…簡単だろ?そんなの。」
「え?」
「他に好きな奴を見つければいい。それだけだ。」
「たとえば?」
「そ—だなあ。…オレ。とか?」
「…ちょっと倖、まじめに言ってよ。」
「オレはいつでも大まじめだ。」
{え?}
「とりあえず。見つければいい。それだけだ。」
「…ん」
「ほんとにどうした?」
「え?」
「だって昧嘩、しんどそうな顔をしてるからさ。」
「風邪かなあ?」
「昧嘩、体温計ってどこにあるんだ?」
「?それなら、あそこに」
「ほら。」
「へ?」
「はやく熱、はかれって」
「……でも私平気」
「はやく」
「…」
昧嘩は体温計を受け取り、はかった。
ピピピッピピピッピピピッ
「倖—」
「あ?」
「ハイ。」
「ゲッ」
「え?」
「昧嘩———、どうして今まで言わなかったんだ?38度5分もあるじゃねえかよ」
「だって」
「…とりあえず、ベッドどこだ?」
「あっちの部屋…きゃっ」
倖は昧嘩を抱き上げて、ベッドまで運んだ。
「倖?」
倖は昧嘩に布団をかけた。
「いたいところは?」
「…ない。」
「頭は?」
「ちょっとだけ痛いかも」
倖は水枕を持ってきた。
「ほら。」
…
「ありがとう」
「いいって。」
「とりあえず、今日1日ぐっすり寝ればすぐなおる。」
「でも…起きたばっかり。」
「寝れんだろ?」
「でも…24時間寝たから」
「ええええええ?」
「…寝れないよ」
「…ったく。」
カチカチカチ
倖は電気を消した。
「ちょっと倖」
「このほうがまぶしくないだろ?」
「そりゃ…まあ。でも倖、今どこにいるの?」
「ちょっと待てって」
倖は持ってきたロウソクに火をつけた。
「わあ」
「とりあえず、これで、眠るための条件はそろったな。」
「…でも」
「とりあえず。眼だけ閉じてろ。ねむくなくてもな」
「うん」
「じゃあ。オレはこれで」
「ウソッ帰っちゃうの?」
「居てほしいのか?」
「……そう言う訳でもないけどさ」
「…わかったよ。電話どこにある?」
「あ。あそこに」
「もしもし?倖だけど、母さん?
オレ今昧嘩の家にいるんだけど、熱があるんだよ。
…ああ。
だから、今日は、看病するから、家に帰れないかも………
ちょ、母さん!!なんでそう言う発想に行くんだよ!!
オレと昧嘩は友達!!
……とりあえずそう言う事だから、間違っても、警察に言うなよ!!
……じゃあ…
わかってるって…じゃあ」
「ねえ、倖」
「ん?」
「聞きたいことがあるの」
「答えてやってもいいけど、ちゃんと眼閉じてろ。」
「わかってるってば」
「さ、どうぞ」
「うん。あのさ、倖って、誰が好きなの?」
「!なっなんでそんな事聞くんだ?」
「だって、しりたくなったんだもん」
「だからってホイホイ言えるわけねだろ」
「居るんだ。へぇ」
「な。なんだよ?」
「ねぇ、倖の好きな人ってどんな人なの?」
「どんな人って言われても」
「じゃあ、倖、その人って倖の事どう思ってるの?」
「…」
「おねがい。そこの所だけでいいから。」
「…わかったよ。……そいつは、オレの事をただの友達としてしか見ていないけど、
オレはいろいろアドバイスとかをしてやってるんだ。
オレなりに思うことは、そいつが、友達としかオレを見なくても、
とりあえず、そいつが悲しむ姿だけは見たくねえ。って感じ…だと思う。」
「へえ、いいなあ。」
「へ?」
「だって倖、その人ともし付き合う事になったら、その人絶対に幸せになれるもん…ふゎあ。」
{「オレの好きな人は昧嘩だ」って言いたいけど、言えねぇよ。
昧嘩、好きな人いるし。オレの事なんて友達としかとってない。
オレが今昧嘩に対して言ったことを絶対に自分の事だなんて思わないし。はぁ。}
「ス—ス—ス—ス—」
「ん?昧嘩?……ぐっすり寝てやがる」
倖は昧嘩の寝顔を見ていた。
{昧嘩}
倖は昧嘩の唇に自分の唇を重ねようとした。…そして後、数センチのところまで来た。
その時だった
{はっ…}
倖は、ある事を思い出した。
「なあ。もう前崎先輩とキスしたのか?」
「なっなにいってんの?するわけないじゃん」
「じゃあ、まだキスした事ないんだ」
「うん。ない」
「でも昧嘩、もしファーストキスをするなら、前崎先輩だろ?」
「…うん。それがいいな。」
倖はキスをすることなく、昧嘩の顔から自分の顔を離した。
{もしオレがここで昧嘩にキスなんてしたら、
前崎先輩とキスしたとき、昧嘩を傷つけてしまう。
…オレは一生このまんまかな?
……こんなにも昧嘩を愛してるのに。いいかげんに気付けよバカ!}
「ん……」
昧嘩は目覚めた。
「ふゎああ。」
「でっけ−あくび」
「!!倖…いつからいたの?」
「…オレ帰るわ。じゃあ」
「ちょっと倖!!」
バタン
「倖……あ。昨日確か、倖に来てもらって、看病してもらったんだ。
…にしてもなんであんなに怒ってるんだろ?」
昧嘩は服を着替えて、朝食を食べながら、テレビをつけた。
「ん?なんかちがうな。もし火曜日なら、こんなテレビ、やってない。
これは、水曜日のテレビ。………
にしても…昨日、こんな事やってなかった。……まさかっ」
昧嘩は急いで郵便受けから新聞を取ってきた。
「!!い…1週間+1日も寝てたの?う…うそっ」
{昧嘩、落ち着いて、落ち着いて、冷静に考えるのよ………ふぅ。1週間+1日。寝てた。って事は、}
「何?もしかして倖、ずっといてくれたの?
それで、いつから言われたのって言われたら、誰だって怒るよぉ。やばいなぁ」
{でも、もしかしたら、途中で何回も家に帰ってるかも。}
トゥルルルルル
「はい。小枝島です。」
「あ。昧嘩ですけど」
「あら。もう元気になったの?」
「…?あの、倖って、ココらへんずっと…私の家にいました?」
「?ええ。1週間+1日。あなたの看病をしてるって毎日電話かかってきたけど?」
「!!あの、倖って、いつも歩きで私の家にきます?」
「ええ。」
「ありがとうございました。もし倖が帰ったら、
私から電話があったことをつたえておいてください。それじゃあ」
「ええ」
倖は物思いにふけりながら、帰りの道をいつもよりかなりゆっくりと歩いていた。
{1週間+1日も看病したのに、いつからいたの?じゃあ、やる気なくすよな。
いくら、ずっと寝てたからって。
…でもなぁ、オレ、アイツを傷つけたかも。…ってそんなわけないよな?はあ。
これで、昧嘩が自転車で追ってきてくれたら、うれしいけど、
そんな時に前崎先輩に会ったら、最悪。}
「倖—————」
「昧嘩?…!!アレは…前崎先輩…」
{悪いな。昧嘩の恋の邪魔をする気がないから。オレ}
倖は突然走り出した。
「倖—————?」
「…」
「あれ?昧嘩ちゃん?」
「あ。前崎先輩…」
「どうしたの?」
「いいえ。なんでもありません。…ぁ!」
昧嘩がふと見ると倖の姿はどこにもない。
「どうしたの?」
「いいえ。あの。私急ぐんで、失礼します。」
「あ…ああ」
{倖、倖?どこ?}
昧嘩がふと公園を見ると、誰かが座っていた。
「倖?」
「!!昧嘩」
「ちょっと—呼んだらちゃんと止まってよね」
「昧嘩、おまえ…前崎先輩は?」
「向こうにいるんじゃない?」
「なんでこんなところにいるんだ?」
「それは倖が…」
「オレがなんだよ?」
「…とりあえず。もう1回家に来てよ」
「…どうして、」
「はやく!!」
「おいっオレ走って行くのか?」
「ばか。幸がこいで、私が後ろに乗るの。」
「え。」
「はやく!」
「幸って結構二人乗りうまいね。でもま、ちっちゃい頃からその辺はかわんないね。」
「まあな」
「つーいたっと」
「じゃあ、オレはこれで」
「倖も来るの!」
「おい!ちょっと」
昧嘩は倖を家の中に押し込んで、倖が家から出ていかないように、
玄関のドアの前にたった。
「なんだよ。急に。」
「ねぇ、どうして?…どうして1週間+1日も看病してくれたの?」
「は?」
「どうして?」
「…昧嘩のことを放っておけなかったから。」
「それだけ?」
「…昧嘩と約束しただろ?そばにいるって」
「それだけ?」
「ああ。{ついでに言うなら、昧嘩のことが好きだからかな。}」
「たった…二つのためだけに…看病してくれたの?」
「ああ。{正確には3つだけど}」
「……それなのに……私」
昧嘩の眼から涙がこぼれおちた
「!!昧……嘩…なんで泣くんだよ?」
「自分が嫌なの。助けてもらったのに。怒らせた事。
助けてもらってるのに、何もして上げられない事が。すごく嫌」
「昧嘩」
「私…………本当にごめんなさい」
「っ」
「きゃ」
倖は玄関のドアに両手をついた。昧嘩は幸の腕に左右を。
玄関のドアに後ろを。そして幸に前をふさがれた。
昧嘩は身動きがほとんど出来なくなった。
「…」
「ちょ…っと倖」
「オレがなんで看病したか。一番大きな理由の三つ目がある。」
「三つ目?」
「ああ。でも、おまえが前崎戒先輩に何も思わなくなったら、教えろ。
そうしたら、いつでも言うから。それだけだ。
昧嘩は風邪が治ったばっかりだから、今日も寝てろ」
それだけ言うと、玄関からでていった。
「ちょっと倖!!」
「ん?」
「ありがと」
「…」
倖は向こうを向いたまま、手を振った。
「三つ目ってなぁに?」
「ふっきれたらだ。」
「ちょっと倖!」
倖はどんどん遠ざかって行き、やがて見えなくなった。
「倖、三つ目はなんだったの?」
トゥルルルル
「はあい」
「もしもし、海良ですけど」
「あ。オレだけど」
「おにいちゃん?」
「ああ。風邪ひいたんだって?大丈夫か?」
「うん。倖が看病してくれた。」
「そうか。」
「あ。ねえお兄ちゃん、倖の事、どう思う?」
「はあ?なんだよ。急に」
「ねえ!」
「そうだなあ…しっかりものじゃないか?」
「しっかりもの?そう……あ…あのね」
昧嘩は良哉に倖が自分を看病してくれた理由の二つをいった。
「それでね。三つ目があるんだって。
でも、前崎先輩の事がふっきれないと、言わないって。何だと思う?」
「おまえがふっきれればわかるだろ?じゃあな」
「あ。うん」
良哉は電話を切った。
「ねえ、良哉、なんで笑ってんの?」
「ああ。鈴ってさ、俺の妹の昧嘩と、あと小枝島倖って知ってるか?」
「知ってるよ」
「で、その小枝島倖が、昧嘩に惚れてるみたいなんだよ」
「そんなのずっと昔からじゃない」
「へ?」
「あら。嫌だ、気付かなかったの?ずっと前からよ」
「てことは、昧嘩が恋の相談をしてるとかっていってたけど、つらいだろうな」
「まあね。でも昧嘩ちゃんがふっきれればいいんでしょ?」
「ま、それまでの辛抱だな。」
「そうね。」
「でもな。昧嘩まだ気付いていないんだ。」
「…でもきっと気付いたら、私達か。誰かに、相談してくるでしょう?
それまで、見守っていてあげましょう」
「そう、だな…」
「何か不安な事があるみたいね。」
「……ああ、」
「良哉と昧嘩ちゃんの、親についてね?」
「…何でもお見通しなんだな。」
「まあ、『これでも』良哉の彼女ですから。」
「…鈴の価値は『これ』ってもんじゃないぞ」
「…ありがと。」
「で。どうだろう?俺達をおいていっちまった親をきっと憎んでるだろうな。
それに…親はもういない…。
でもやっぱりあいつらのことも心配だ。
倖が自分を好きだって知って…あいつはずっと他の奴が好きだって相談してた。」
「…でも。」
「あ?」
「私思うの。もしかしたら、昧嘩ちゃんは、傷つけてしまっていたことを、とても悔やむと思うわ。
それに、まだ好きになれないっていっても、あの子は待つわ。
昧嘩ちゃんが倖くんを好きになれたら、
昧嘩ちゃんは、両親がいなくなったことを知っても、大丈夫だと思うわ。
支えてくれる人がいるからね。」
「そっか。大丈夫だよな。」
「平気よ。昧嘩ちゃんなら。」
「にしても・あいつも大変だよな。
彼女持ちの先輩好きになって、倖が好きなこと、気づかない。」
「…よかった」
「え?何が?」
「私と良哉の間にそう言う事が何もなくて。」
「鈴」
「…良哉」
二人はキスをした。
「にしても、前崎先輩に会っても、一瞬だけ気を取られただけで、
倖の事で頭がいっぱいで。」
{嫌だ。私。倖の事が好きみたいじゃない。!!倖の事が…}
「ああ−もういやぁ」
コンコン
{誰?}
昧嘩はインターフォンを取った。
「はい?」
「あ。私、訪問販売をしているものですが?」
「訪問販売?」
「ええ」
「とりあえず、商品を見てほしいのですが」
「商品?」
「はい。取っておきの」
「…」
「見るだけでもいいのですが」
「…ちょっと待ってください。」
そのとき昧嘩は倖の言ったことを思い出した。
「ダメだろ昧嘩」
「え?」
「女の1人暮しの鉄則その1。ちゃんとインターフォンでとって、相手の顔を確認した後、出る事」
{はいはい。}
昧嘩はのぞき穴からのぞいた。
「!!」
そこからは、とてもガラの悪い人がたくさん見えた。
「あ。あの、」
「はい」
「商品ってなんなんですか?」
「それは………………………ショウガナイデスネ。」
「え?」
「失礼ですが強引に」
「ええ?」
ガチャガチャ
「ちょっと…」
{倖}
昧嘩は倖の携帯にかけた。
ピ・パ・パ・ピ・ピ・パ・ポ・パ
「はい。」
「倖?」
「昧嘩か?」
「どうしよう倖!ガラの悪い人が、今たくさん」
「ガラが悪くてすみませんねえ」
「きゃあ」
「昧嘩!!」
昧嘩はガラの悪い人に捕まった。
「いやっ離して!!」
ガラの悪い人の中心と思われる男は昧嘩の持っていた受話器を取って、しゃべった
「誰かは知らないが、こいつを助けたければ、◇倉庫まで来い」
「おまえらの目的はなんだ?」
「こいつの、命」
「何っ」
「なんですって?私、恨まれた思いは…」
「おやおや。あなたは知らないのですね?海良昧嘩」
「え?」
「あなたの母親そして父親は、1年半前、私達の組織から逃げた。そして、死んだ。」
「え…?」
「あなたのお兄さんのところには連絡が言っているはずですが…」
「…もう…………いない?」
「ええ」
「………いやああああああああ」
「そして、私達は、何も知らないといくら答えても、
海良の家のものをすべて殺せ。そう言われてるんですよ。」
「…」
「しかし、あなたのご両親の意思を引き継いで。
あなたのお兄様は、助けてさしあげることになった。」
「意…思?」
「そう。死ぬ前に言った言葉。子供は、助けて。とね」
「…あなた達が殺したのね!!」
「ええ」
「っ・お…母さ・ん…お父…さ・んっ・・」
昧嘩は声にならない怒りと悲しみを抱えていた。涙は次から次へとあふれてくる。
そのときだった。
「昧嘩————————」
「ちっ忘れていた。この電話の相手の事を。しょうがない。
ここで決着をつけましょう。」
「昧嘩ッ」
「倖」
「おやおや。君は、小枝島倖君じゃないですか」
「!!…てめぇ。なぜオレを知っている?その前におまえ誰だ?」
「ああ。申し送れました。組織No.2の。怠惰(たいだ)と申します。
ところでさっきのあなたのご質問にお答えすると、
もちろん、私達の殺したこの昧嘩さんのご両親を助けていたのがあなたのご両親。
だからですよ」
「!!とりあえず、昧嘩を離せ!!」
「ボス、どうでしょう?
助けていた小枝島の家族は殺せなかったので、小枝島の息子を始末するのは」
怠惰は携帯に向かって、そう言った。
「いいだろう」
「では」
「あ。」
「なんでしょうか?」
「小枝島の息子を連れて来い」
「はい?」
「小枝島の息子をココに連れて来い。」
「あ。はいっ。海良の娘は」
「もういい」
「はい。わかりました。」
「おめでとうございます、昧嘩さん。
あなたは命の心配をしなくて良くなりました。」
「え?」
「変わりに、倖君、あなたに来てもらいましょう」
「?」
「そいつを引っ張って来い」
「はっ」
「!!離せっ」
「じたばたするんじゃない!」
「おまえらが思ってることをするわけじゃない。」
「ほお。と言うと?」
「怠惰とかいったな?」
「ええ」
「オレは、自分で歩ける」
「ほぉ。勇気のあるお子さんだ」
「ばかやろう!高校2年だぞ!オレは」
「おや。失礼」
「オレはなあ、人に引っ張られたり、
無理やり何かさせられるってのが一番嫌いなんだよ!」
「おっと。それなら、ブレイな事をいたしましたね。」
「おまえの口から、そんな言葉が出るなんて思ってもみなかったよ。」
「なかなか勇気、ありますね」
「へっ」
「じゃあ、あなたの周りを、部下に囲んでもらいましょう。」
「…」
「どうかしましたか?」
「いいかげんに、敬語やめろよ!クソジジイ」
「……いつから気付いた?」
「しばらくしてからだ。」
「倖、知り合い?」
「ああ。オレの親父の弟だ」
「にしてもおじさんに対して、クソジジイとはなんだ!」
「だったら、高校生に対してお子さんとはなんだ!」
「ちっ連れて来い」
「ほらっ歩け」
「倖っ」
「心配するな。すぐ戻る。」
「倖ぃ」
「じゃあな」
「………いや……ゆき——————」
バタン
「いやあああ」
トゥルルルル
「?はい。……海良…です…け…ど」
「あ、昧嘩?何かあったのか?」
「お兄ちゃ…ん」
「?何があった?」
「倖が…倖が」
「倖がどうした?」
「ガラの悪い人達に、さらわれちゃったの」
「なにっ?」
「どうしよう。倖が、殺されちゃうよ」
「…」
「どうしよう。ねえ、お母さん達を、呼んで、そうしたら、助けてくれるよね…。」
「オレが助けてやる。」
「ねえ、お母さん達は?」
「…オレが」
「やっぱりもういないんだ」
「!!」
「でも、お兄ちゃんは行っちゃダメ。倖のご両親に頼むよ」
「ああ」
「・・じゃ」
「昧嘩っ」
「なに?」
「ごめん。いえなくて…。ごめん。」
「私のためを思ってでしょ。だからいいの。」
「ありがとう。」
「うん。じゃあ。」
「ああ。」
トゥルルル
「はい。」
「あ。おばさん?」
「ええ」
「あの…倖が、倖のおじさんの怠惰って人に捕まりました。」
「なんですって?」
「すいません。でも…このままじゃ。倖……殺されちゃう」
「…心配しなくても大丈夫。倖は、生きて帰るから」
「?はい」
1週間後
「はい。海良です」
「あ。海良、昧嘩さんですか?」
「はい。」
「あの、お話があります。今すぐ、○×公園まで」
「??はい。」
{今の、倖の声に似てるけど…誰だろ?コンな夜中に}
「ゆ…き」
「海良昧嘩さん?」
「…!!倖?」
「あの……オレの事、教えてください」
「え?」
「オレ、記憶がないんです。」
「!!……」
昧嘩は涙を流した。
「!!昧嘩さん」
「ごめんなさい」
「大丈夫ですか?」
「ええ」
「…オレ、記憶、まったくないんです。」
「それで。なぜ私のところに」
「…オレの記憶を取り戻そうと、あなたのお兄さんが…
オレのところに、昔のオレの写真を持ってきてくれました。
そして、その中の名簿にのっている人の顔を見ながら、下の名前を読んでいきました。」
「…」
「そして、あなたの写真を見て、あなたの名前を読んだ時、
オレは、何かを感じた。そしてあなたのお兄さんは見逃さなかった。」
「…それで……私のところに?」
「はい。」
「…………あなたは、ひどい事を言うかもしれないけど、ひどい人」
「え?」
「私、あなたを…ずっと待ってたのに。
不安な気持ちに押しつぶされそうになりながら、1週間待ったのに」
「…」
「記憶がないなんて………私は嫌よ」
「嫌?」
「そうよ。私の知ってるあなたは、私を昧嘩って呼んでた。
私にあなたなんて使わない。敬語も使わない……どうして?」
「え?」
「どうして……どうして。あなたは私を泣かせるの?ひどいよ。私は、ずっと」
「昧嘩……さん」
「倖ぃ」
昧嘩は倖の胸に顔をうづめた。
「昧嘩さん?」
「…………」
「昧嘩さん………………すいません」
「どうすれば…思い出せるの?倖」
「わからないんです。」
「お願い。敬語はやめて」
「あ………」
「お願い。タメ口で」
「…わかった。で。オレの事を、教えてくれ。」
「……ええ。とりあえず私の家に」
「さ。入って」
「…」
「倖はね、私が熱を出した時、1週間+1日看病してくれたんだよ。それで、」
昧嘩は倖に、倖が昔自分を看病してくれた理由を二つ言った。
「それだけ?」
「違うわ。後一つあるの。私ね。好きな人がいたの。」
「いた?」
「ええ。で、その人のことはちゃんとふっきれたの。
で、ふっきれたら、三つ目教えてくれるって。倖が…あなたがそういったの。」
「……うわっ」
「倖?…どうしたの?」
「頭が……いたい」
「倖?」
「うわああ」
「倖——」
「ま………い…………………………………か?」
かすかだが、自分の名を呼んでくれた気がした。
「倖?」
「昧…………………嘩」
「倖?私のこと……わかるの?」
「…ああ。昧嘩は、オレの大切な…………オレの友達だ。」
大切な人だとは言えずに、大切な友達と、倖は言った。
「倖—————」
昧嘩は倖に抱きついた。そして離れて聞いた。
「倖、なにがあったの?」
「オレ…覚えていないんだ。あの時の事だけ何も」
「でもよかった。」
昧嘩はにっこりと笑った。すると倖の目が急に真面目になった。
「なあ、さっきの前崎先輩の事がふっきれたって」
「…え?ええ。ちゃんとふっきれたよ」
倖は昧嘩を抱きしめた。
「ゆ…………き?」
「三つ目は、昧嘩のことが……………好きだったから。」
「え??」
「昧嘩のことが……好きだった。から。それで、心配だったんだ。すごく」
「ゆ…き」
「昧嘩に好きになってもらえなくても、
いつかきっと好きになってくれるからって思うから。
まだ好きになれないって返事でもかまわない。」
「…」
「昧嘩が…好きなんだ」
「………倖、離して」
「…昧嘩」
「はなして」
倖は昧嘩を離した。すると昧嘩は倖の唇に自分の唇を重ねた。
「昧………嘩?」
「好きよ。倖が」
「昧嘩」
「ファーストキスをまさか倖にあげるなんて。思ってもなかった。」
「ファーストキス?」
「ええ。」
「おま…前崎先輩とキスは?」
「してない。」
「やりぃ」
「…もう。倖ったら」
友達だった人が、急に男の子になったとき、
友達だった人が、急に女の子になったとき、
すごく動揺するけど、、。
でも、
気持ちが伝わったとしたら、、
最高のパートナーに、
なれるよね。