学習のヒント数学

 数学を勉強する上で大事なのは、几帳面さです。問題用紙に十分な余白がある場合ならともかく、そうでない場合は、ノートを使って丁寧に、一問一問、順を追って、できる限りはっきりした文字を書いて、きちんと計算して欲しいと思います。時には、ずいぶんノートを使わなければなりませんが、それをケチケチしているようではいけません。中には、机に書いて計算したり、せっかくやった計算を消してしまう生徒もいますが、これでは数学ができるようにはなりません。そんなことをすれば、間違いが多くなるだけでなく、どこが間違ったのかも分かりませんし、見直しもできません。かえって非能率的になってしまいます。それどころか、数学特有の式変形について、いつまでたっても習熟できず、数学的な思考法に永久に慣れずに終わってしまうことにもなり兼ねません。

 数学には計算の決まりがあって、そのきまりを守りながら、答えは導かれねばなりません。逆に言うとその計算の手順を守っているかぎり、必ず正しい答えを得ることができるのが数学です。と言うことは、仮に好ましくないやり方で答えが合っていたとしても、それで満足してしまえば、いつまでたっても数学的な思考方法を身につけることは出来ないと言うことになります。その論理の展開の仕方が不十分であれば、それは正解とは言えないのですが、大多数の生徒は、答えさえ合っていれば、それで十分だと思ってしまいます。中学数学は、算数の延長線上にあり、算数のできる生徒は−−ということは、多少計算ができればということですが−−−−ほとんどの場合、中学数学はできることになっています。

 だから、中学のときは、数学が得意だったのに、高校へいってからはさっぱり分からなくなってしまうということがしばしば起こります。それは、彼らが、自分の成績に満足し、算数的な思考法から脱却できなかったからなのです。はっきり言えば、ソロバン的な数合わせに終始していたからなのです。そうならないためには、常に、正しい答えと自分の答えを照らし合わせ、確認しながら進んで行って欲しいと思います。

 まず、自分のノートを眺めて下さい。無駄なく、しっかりとノートが使われているかどうか、走り書きで計算がなされていないかどうか、文字を幾ら速く書こうが、計算を幾ら速くしようが間違っていたのでは何にもなりません。ついでに言うと、暗算はできるだけやらず、計算はあくまで筆算を中心にして、むしろ計算には十分、時間をかけてもらいたいと思います。一歩一歩、着実にやった方が、結局はずっと早く目的地にまで到着できるものなのです。のろくてもよいから、確実に!これは全ての科目にあてはまることですが

、数学においては、特に大切な考え方です。多数の問題を解いているうちには、嫌でも計算速度は増大します。だから、計算速度に気を使う必要は全然ありません。実際、中学程度の数学では計算さえ十分できれば、それだけで半分近い問題は解けるようになっていま
す。それどころか、定期試験では、その大部分が計算である場合も少なくありません。もし丁寧に計算していたのでは時間が足りなくなってしまうという生徒がいれば、それは計算の速度がのろいのではなくて、計算の仕方が分かっていないからだと考えるべきでしょう。はっきり言えば、時間があろうとなかろうとやり終える能力を身につけていないと考えるべきなのです。

 また、図形の問題を解くには直感力が必要なことは事実ですが、それもまた対応と同値関係に翻訳されるのですから、論理の展開の仕方は本質的には同じなのです。その論理の展開の仕方は、正しい計算をすることで訓練され養成されます。また、直感力というと大袈裟に思われるかも知れませんが、要するに同じような形をした図形を見つけることにしか過ぎません。ということは、図形が分からないという生徒は、同じ形をした図形を見つけることができないということになります。そんなことが、本当にあるのでしょうか。あるとすれば、見つけようとしないからではないでしょうか。つまり、初めからできないものと決めてかかっているからではないでしょうか。とすれば、できないのは当たり前で、考え方を変えてもらうしかありません。

 しかし、計算力だけで十分かというと、もちろん、それだけとはいえないことは事実です。様々な問題−−と言っても、その数はごく限られてはいますが−−やはり、基本的な事項を知っていて、それが活用できるようになっていなければなりません。簡単に言えば、式を立てることができなければなりません。しかし、数学の基本的な事項は、他の科目に比べると極めて少ないので、覚えるのはそれほど大変なことではないはずです。それどころか、その大部分は、すでに小学校で習ったものばかりなのです。しかし、その活用の仕方が難しい、ある問題を解こうとすると何を使ったらよいのか中々分からない。どうしたらよいのでしょう。ここでも、大切なのは、几帳面さです。

 つまり、たくさんの問題はやる必要はないが、手をつけた問題は必ず最後までやり通す、分からなかったら教えてもらって、決して分からないままにはしておかない、というようにしなければなりません。もちろん、標準的な問題をまんべんなくやるだけで十分であり、力試しならともかく難問などやる必要は全くありません。そして、その際、答えを覚えるのではなく、まず、何よりも問題をしっかり覚えてもらいたいと思います。問題を覚えてから解き方を覚える、問題も解き方を覚えないで、答えだけ覚えようとする生徒もいますが、このくらい愚かしいことはありません。例えば、x=3と覚えたところで何の役にも立ちません。中学数学は、数少ないパターンの繰り返しに過ぎません。だから、いくつかのパターンを覚えさえすれば、それで十分なのだということを理解してもらいたいと思います。

 数学ができないからといって、あっちの塾に通い、こっちの塾に通って、ひたすら教えてもらおうと考えたり、数多くの参考書などを読みふければ、数学の成績は必ず下がります。なぜなら、数学は、むしろ、無駄な努力をすればするほど、訳が分からなくなってしまう科目だからです。実際、説明されてよく分かった場合はともかく、何となく分かったような気になっても、自力で解いた経験がなければ、試験に出てもまずできないと考えた方がよいと思います。だから、そんなことをするくらいなら、教科書を何回もやり直した方が遙かに有益です。それすらできないとすれば、教科書の例題と、その解答を何回もノートに書き写して下さい。やがて教科書を見なくても、教科書の解答と同じように書けるようになればしめたものです。その時には、相当、数学が分かってきたと考えても間違いないでしょう。