将史と悠樹(仮) 2

あの日から将史の様子はどこかおかしかった。
いつ話し掛けてもボーっとしている。
授業にも部活にも身が入っていない。
そしてそれは堤さんも同じだった。
僕と目が合っても将史と目が合ってもすぐにそらす。
何かが変だ、と思った。
僕は2人をただ純粋に心配していた。
今思えば、それが悪夢の始まりだった。
この小さな親切心が、僕も知らなかった将史の本性を引き出す事になった。


僕はどうしても2人に何があったのか気になって、将史を問いただす事にした。
そして部活がない日の放課後、将史を誰もいない教室に呼び出した。
将史は、初め何を聞いても答えてくれなかった。
それに痺れを切らした僕は、将史に言った。

「どうしても言えないような事なのか?僕にも、言えないのか?」

僕の目にはうっすら涙が浮かんでいた。
こんな事で泣くのは恥ずかしい、と思った。
だけどずっと昔から一緒にいた人に始めて秘密を持たれた。
それだけで僕はもう平常心でいられなかった。
悔しかった。彼の一番近くにいられない自分が。
そんな僕を見て、将史は、静かに口を開いた。

「…そうだな、悠樹になら言ってもいいかもしれない。」

僕はその言葉を聞いて、顔を上げた。
将史は、少し悲しそうな笑顔で微笑っていた。
今思うと、それも作戦だったのかもしれないけど。

「ただ、ここではちょっと話しにくいから、今から悠樹の家に行ってもいいか?」
「もちろん、いいに決まってるよ!!あ、でも、今日母さんも父さんも帰ってこないから、たいしたおもてなしできないかもしれない。」
「ああ、そんな事か。別にいいよ。2人とも忙しいんだろ?第一、今更そんな事言うなよ。悠樹は律儀だな。」
「うん、ごめんな。」
「いーって、気にするなよ。」

“それに、その方が好都合だし。”
将史がそうつぶやいていた事を、僕はずっとあとで知る事になる。

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