お料理行進曲

 

 

甘い甘い香りが、家庭科室いっぱいに広がっていた。

その香りをかいだ生徒たちは、今日が何の日の前日かを思い出し・・・顔をほこ

ろばす。

今日は、2月13日。きっと、女生徒たちが想いを込めて作っているもの。

それは、どんな贈り物より魅力的なはずだった・・・。

だからこそ、その室内をのぞいたものは目を疑う事だろう。

室内を占領しているのは、なぜかサッカー部の面々だということに・・・。

 

「・・・で。何で俺が、手伝わなきゃいけないだよ、コラ」

ぶつぶつ言いながら、井沢は温度計を取り出した。手伝う気、満々じゃねー

(笑)

「うるせえ、黙って手伝えこのやろう!」

すでにキレまくってるキャプテン・・・じゃない、日向さんがチョコレートを刻

みながら返す。

「日向さん、あんまり大きくっちゃ溶けませんよ。あ、井沢、温度計こっち」

いつものように飄々と、器用な反町。今回も、わかしたお湯の上でボールを

浮かし、丁寧にチョコレートを溶かしている。

ここは、まぎれもなく東邦学園である。ちなみに俺は、若島津だ。

ああ、なぜ井沢がいるのかって?

・・・なぜだろうな。確か、反町が呼んだんじゃなかったっけ?

面白いことやるから来い、とか電話で言っていたような気がする。

なぜかこの2人は、異常に仲がいい。この間も、井沢は練習にというか遊び

にというか・・・とにかくやって来ていたし。

俺も日向さんも最初は戸惑ったけど、なんか最近は井沢が居て当然、みたい

な感じでもあるな。

全く、変に存在感のあるコンビだよ。

「そもそも、日向が負けるから悪いんじゃないの?」

お、井沢。お前、言っちゃいけないこと言ってるぞ、それは・・・。

案の定、日向さんはムキになって言い返す。

「うるせえ!俺だって、まさか俺が負けるなんて思ってもみねえよ!」

「・・・じゃ、なんでメンツがこいつらだけなんだよ、全く」

図星を突いた奴の言葉に、ぐっと詰まってしまう日向さん。あ〜あ、勝てな

いってば。

なにせ、井沢はこの間まで南葛高校の代表としてイギリスに行っていた秀才

だ。

ゲームメーカーだもんな、頭がいいってのは昔から良く知ってるし。

「もともと、なんでそんな分が悪い賭けをしたんだ?」

井沢の問いには、仏頂面の日向さんに代わって反町が答える。

「今回、テスト前に結構日向さん勉強してたからさ。だから、いつも最下位

争いをしている河野が自信有り気にしていたのが、気に入らなかったんだよ」

そうそう。このチョコ作りは、実はテストの点の良さを賭けて・・・負けたバツ

ゲームなのだ。

あいつが『今回は、お前を引き離すぜ?』なんて日向さんを煽るから。

負けず嫌いのこの人が負けない、なんてムキになって。

『じゃあ、賭けるか?負けた方は・・・そうだな、相手に手作りのチョコを渡す

なんてどうだ?』

『おお、かまわねーよ!!』

なんて、バカな賭けが始まってしまったんだ。

しまいには周りのクラスメートまで賭けにのってしまい・・・。

結局、数点差で負けた日向さん。そして、日向さんに賭けてた俺と反町は共

に玉砕。

聞いた話によると、河野は最近家庭教師が代わったらしい。・・・早く教えろよ

な。

よって、俺たち以外のクラスメート・・・総勢30人分のチョコレートを作らな

きゃいけない。

頼りにしようとした女子達も、『頑張ってね〜♪』なんて帰りやがるし。

・・・まあ、そうかもな。俺たちみたいに遊びじゃない・・・彼女達にとってはな。

「それにしても、気持ち悪い賭けだよな・・・」

井沢は、心底嫌そうな顔をしながら言う。

「大体、男の手作りチョコとかもらって、何が嬉しいんだ?」

「あ〜俺、結構嬉しいかも」

指についたチョコをペロっとなめて、反町が言う。・・・おひおひ(^^;

気づくと、日向さんも井沢も唖然として反町を見つめてるし。いや、俺も。

そんな俺たちに、奴は苦笑する。

「だって、俺チョコレート好きだもん。くれるなら、嬉しい」

「・・・そんなこと言ったら、マジで渡す奴出るぞ・・・」

一応、俺は忠告する事にする。

男のくせに、って言えばなんだけど。細くて、少し中性的な存在の反町。

影で、人気があったりとか・・・男子校だったらやばかったぞとか・・・井沢にヤ

キモチやいてる奴がいるとか・・・いや、まあ、内緒だが。

「わ〜か〜し〜ま〜づ〜。お前、さっきから何やってんだよ?」

その井沢から、ツッコミが入る。

「だって俺は、する事ないから」

「じゃあ、これを代われ!!俺ちょっと、抜ける!」

「あ、コラ日向、ずるいぞ!」

井沢が抗議したのにもかかわらず、日向さんはさっさと家庭科室を出て行っ

てしまう。

仕方ないねえ、あの人も。

「じゃ、代わる事にしますか」

とりあえず、チョコを包丁で刻んでみたり。

ああ、ちなみにこのチョコ作りは女生徒達からもらったメモを元に、反町の

指導で行われている。何度も言うが、器用だからなあ、奴は。

「・・・苦労するよなあ、若島津も」

いかにもしみじみ、といった井沢の口調に思わず笑ってしまう。

「・・・序の口だってさ」

と、答えたのは俺じゃない。

「こら、勝手に吹き替えするなって」

「いいじゃん、そう言おうとしただろ?」

・・・確かに、間違ってはいないけど。

妙に、悟ったような口調で、反町は続ける。

「日向さんの言葉とか態度とか見てたら、わかるよ。お前、信用されてるも

ん」

「そうかな・・・」

「・・・キーパーは、信用されてナンボ、だろ?」

横から井沢がそう言うと、チョコレートを流すための型を出してくる。

「お前だって、信用されてるだろ。だから俺たちは、東邦に勝てないんだ」

悔しそうに言う奴に、反町は思わず笑い出す。

「ま、そうかもな」

「認めんじゃねえ」

そう言いながらも、同じように井沢も笑う。

そんな2人の姿に、俺はなんとなく疎外感。

仲がいいのは、知っている。いつからかわからないけど、おたがい代表に選

ばれた時から、なんだかんだと一緒にいるのを知っている。

まあ、俺もさっき言われたように日向さんと仲がいいとは思ってるけど・・・。

でも、なんだろ?この、感覚の違い・・・。

「お前ら、仲いいよな〜」

思わず、口から出た言葉。

反町と井沢は、顔を見合わせて・・・。

「ああ、まあな」

・・・と、綺麗にハモリやがった。

全く・・・。

「・・・2人で作るか?俺、なんか邪魔とか?」

「そんなことないない!」

また、そろってるし・・・。

なんか俺・・・ちょっと、嫌かも(苦笑)

「あ、反町、そんなもんでいいんじゃない?」

「そうか?じゃあ、お前ちょっとその型持っててくれよ」

「あ、こぼれるぞ、コラ!」

「なめとけよ〜」

「・・・お前なあ・・・」

いかにも仲睦まじく、楽しそうに作業をするこいつら。

 

・・・何ていうか、こう・・・

「・・・ラブラブ?」

 

・・・って、思わず口に出したみたいだ。

「コラ、若島津。いくら何でも、それは違うぞ」

「そうだ。勘弁してくれ」

おお、さすがに否定してきたか!

「・・・微妙に、赤くならないでくれよ、お前ら」

「なってねえ!」

・・・また、ハモル。

確かに、よく同人誌とかで書かれているような関係はこいつらにはない様子。

あ、言っておくが俺と日向さんにもないぞ(当たり前だ)

閑話休題。

まあ、しかし、独特の雰囲気があるとは思う。この2人には。

なんていうか、分かり合ってるって言うか。

クラスどころか、学校も違う。仲良くなったのは、中学の時に全日本代表に

選ばれて合宿に入ってからだと聞いている。

だけど、もう何年も一緒にいるような仲の良さだ。

うらやましいと思う。本当に。

俺と日向さんも、確かに仲はいい。だけど、なんていうか・・・やっぱりどこか、

ひいてる部分はあるんだよな。

どこまであの人の心に、踏み込んでいいのか良くわからない。

手探りな友人関係・・・。そんな感じだ。

「お〜っし、出来たぞ!後は、これを冷やすだけだ〜♪」

考え事は、反町の大声でさえぎられる。

「何、出来たのか?」

「あ、日向。お前な〜」

・・・いつの間にか、戻ってきてるよ。

日向さんと、反町と井沢。

それから、俺。

ま、うまくやっていけるのかもしれない。

とにかくは、チョコレートがうまく作れていたらいいけどな(笑)

END


 

す、すみません(^^;

記念すべき1周年の作品だというのに、こんな話です(笑)

バレンタイン連作ってことで・・・コナンを始め、すべての作品で書く予定です

<バレンタインの話を

で、これが第1弾、と・・・(笑)

いやはや、どんな話にするか迷った挙句ですからねえ。

コメディっぽくなったかな?楽しんでいただけたのなら、いいのですが。

 

 

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