Behind

 

 

 

この世の中には、自分と似た奴が3人いるという。

俺は、そんなこと気にしてなかったし、興味もなかった。

そう、あいつに会うまでは…。    

 

「岬太郎です、よろしく!」

全日本Jrユース選手権、フランスでの2日目のことだった。

「岬!元気だったか!」

「久しぶりだな!」

口々に言いながら、奴に駆け寄るチームメイトをぼんやりと眺める。

…そうか、こいつが岬か…。

「おい、反町」

岬を直接は知らないものどうし、固まって立っていた俺達の中。

誰かが言うだろうと思っていたが、予想どおり早田が、俺に話しかけて

きた。

…続く言葉は、大体想像がつく。

「あの、岬とかいう奴、お前にそっくりやなあ」

「…そうかよ」

イラつく。そう言われるのは、初めてのことじゃない。

 

初めて、日向さんと会った時。

「お前…岬…」

「はあ?俺は、反町だけど」

けげんな顔をしたのだと思う。日向さんの横で若島津も、驚いていた。

「お前もサッカーをするのか?奇遇というか、何というか…」

その時は、まだ分からなかった。その言葉が、何を意味するのかなんて。

 

翼の反応が、一番ひどかった。

奴と、初めて顔を合わせた試合。

あの大きな眼を真ん丸にして、俺を見ていた。

その時は、理解していた。あの、俺が予選であっけなく敗れた全国中学

サッカー選手権で、こいつが組んだゴールデンコンビの相手の名を。

…岬太郎。

そいつに、どうやら俺はそっくりだということを。

 

 

練習が始まった。ここで、俺はつくづく岬という奴の実力を、思い知ら

されることとなった。

ドリブルは速く、パスは正確だ。天性のセンスに恵まれているらしく、

ゲームにおける的確な判断力と機動力で翼や日向さんを動かす。

あいつが日本にいない3年間、俺達ががんばって優勝したこと。そのこ

とが、何の意味も持たないのかと思うぐらい焦らされる。

「あっ…」

「何やってんだ、反町!」

あっという間に、ボールが取られる。舌打ちして、岬とボールを追いか

ける。

『同じ顔して、なんてざまだ』

そんな、陰口が聞こえてきそうだった。

 

「交代—!今出ていた者は、休憩!」

ホイッスルが鳴り、ドリンクを片手に木陰へ逃げる。

…休憩中も、岬は人気者だ。

誰彼となく周りに集まり、あいつはその真ん中で笑っている。南葛の奴

等はもちろん、日向さんや若島津、タケシまで。

神様は、不公平だ。

 

「・・町、おい、反町!」

「え?」

見ると、目の前にタオルが差し出されていた。受け取りながら、顔を上

げる。

「まだ疲れるのには、早いぜ?」

「…井沢か。疲れてねーよ」

井沢は、クッと喉の奥で笑うと、俺の横に腰を下ろした。自分も、ドリ

ンクのストローをくわえている。

「…で、どうしたんだよ?」

「何が」

「…元気、無いだろ」

俺は、ちらっと井沢の顔を見る。ひょうひょうとして、何でもないこと

のように言っているが、どうやら心配されているらしい。

井沢と俺は、全日本の合宿が始まってから何故か仲良くなった。今まで

は敵同士、口を聞くこともなかったのだが。

たぶん、追いかけている目標…日向さんと、若林と…がとんでもな

く高く、それでいて追いかけずにはいられない性分が似ているのだろう。

語るともなく、俺はフランスに来てからの漠然とした不安のことを話し

た。

「…つまり、お前は岬に似ていると。で、みんなから比較されているよ

うだと」

「…ああ」

井沢は、話を聞いて俺の方をじっと見たかと思うと、いきなり首に巻い

ていたタオルを引っ張った。

「ぐっ…ぐええ…な、何すんだよ!」

「お前、大バカ。どこの世界に、顔で選ぶサッカーチームが有るんだよ

っ!」

手を少しゆるめ、井沢は穏やかなトーンで話す。

「…そりゃ、お前と岬は似てるよ。だけど、別にそんなの外見だけのこ

とだろう?お前はお前、岬じゃない。誰も同一視なんて、していないさ。

それに…」

井沢は少し照れたように笑い、

「東邦が優勝したのだって、日向や若島津だけの力じゃないさ。お前が

一役かってたのだってみんな知ってる。敵だった俺が言うんだ、間違い

ないぜ?」

と言った。

…まったく。よく、そんな恥ずかしいこと言うよな。

奴の笑顔を見ているうちに、なんだか悩んでいたことなんかどうでもよ

くなってきた。

誰が何と思おうと、そんな風に言ってくれる仲間がいるんだから。

「…ありがとな」

素直に礼を言った俺に、井沢は「よせよ、気持ち悪い」と返してきた。

練習再開の笛が鳴る。

立ち上がった俺を、遠くから呼ぶ声がする。…岬だ。

「反町君、次は僕とツートップだよ!」

「…分かった、すぐ行く!」

…岬。

ひょっとしたら、お前ともいい仲間になれるかもな。

END

 


 

C翼・初作品です。もともとは、友人と作っていた同人誌に載せたもの。

当時、ブームが大全盛の頃でしたね。

岬くんが好きだった私が、だんだん反町くんに転んでいった経過を語る

ような作品(笑)

井沢君とのコンビは、なんとなく始めたのですが以外にしっくり。

私の中でのゴールデンコンビです。

 

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