好きなのは・・・?

 

 

 

黒の組織は壊滅した。完膚なきまでに。

そして俺、江戸川コナンは工藤新一に戻った。

蘭が、嬉しそうに笑った。俺も、嬉しかった。久しぶりの体。

もう、子供のふりはしなくてもいい。俺の活躍は、俺自身の評価につな

がる。

…毛利のおっちゃんには、悪いことしちゃったけどな。

 

灰原哀は灰原哀のまま、博士の元へと残った。

 

 

〜After  one  year   新一18歳 哀8歳〜

 

「もう、新一!ぼうっとしてないで、ここ教えてよ」

「仕方ねえなあ…こんなのも出来ないんじゃ、米花短大危ないぜ?」

「なんですってえ?」

 

博士の家に入ると、俺はまずソファに足を投げ出す。

「哀!コーヒー!」

「…工藤くん、あなたねえ…」

「なんだよ」

俺が言い返すと、哀はやれやれといったように肩をすくめる。

「…何でもないわよ」

哀は、コーヒーを俺の前に置く。いい香りがするけど、すぐには口をつ

けない。

「…いらないの?」

「いや」

そう言いながら雑誌をめくる。だんだん、哀が落ち着かないような表情

を見せる。それを目の端にとらえると、思わず笑みがこぼれてしまう。

「なんなのよ、一体…」

そんな俺の姿に、また哀はじたばたする。悪魔みたいだな、俺って。

でも、こいつのポーカーフェイスが崩れる瞬間が、すげえ面白いんだか

ら仕方が無い。

「ハイハイ、飲みますよ…あ、ぬるいや」

「あたり前でしょ!」

…そう怒るなって。

わかってるよ、お前が俺を好きなのは。

 

〜After four years  新一22歳 哀12歳〜

 

「ちょっと、新一!ボーナスでたら、おごってくれって言ったのアナタ

でしょ!ドタキャンなんて、許さないから!」

「悪いな、蘭。大学院入試の論文、今日までだって忘れてたんだ。また

な!」

「んもう、新一!…まったく…」

 

「…今から…?」

あきれ返っていることを隠そうともせず、哀は俺を見返す。

「頼む!この通り!」

「…ほんっとに仕方の無い人ね…」

哀はため息をつくと、パソコンに向き直った。すらりとした長い足を組

み替える。

「だから早く書いたほうがいいっていったのに…」

「忙しかったんだよ、デートでな」

俺の言葉に、哀の肩がかすかにぴくっと震える。その反応に、満足する

俺。

「それで…何から調べたらいいのかしら?」

何でもないことのように言う。素直じゃないねえ、相変わらず。

気になるなら気になるって、言えばいいのによ。そしたら、俺も…。

「…工藤くん」

「ああ、はいはい」

にらまれてしまった。まったく、そんな目つきだけ一人前だから女は怖

い。

「そうだなあ、まず警視庁のデータベースに侵入して…」

「…あなた、それ犯罪よ」

「まあまあ、試験のためだよ。お前なら、痕跡残さずにできるだろ?」

哀は、答える気力も無いといった感じで、本日何度目かのため息をつく。

やがて、カタカタと彼女の指が秘密の扉をあっけなく開けていくのを俺

は満足感いっぱいで見守った。なんだかんだ言っても、手伝ってくれて

いる。

わかってるよ、お前が俺を好きなのは。

 

〜After  seven  years  新一29歳 哀19歳〜

 

「ごめん、新一…私、あなたにはもうついていけない。だって、あなた

はいつも事件事件で…。私だって、もう若くないのよ…早く、幸せにな

りたいの。だから…ごめんなさい」

うそだろ、蘭。うそだろ…。

 

…うー…気持ちわりい。

生まれて初めてのやけ酒は、五臓六腑に染み渡る。

強いつもりだったんだが、仕事や付き合いで飲む酒とは、どうやら違う

ものらしい。

すっかり酩酊した頭では、だから気づかなかったのだ。

阿笠邸の電気が、どの部屋もついていないことに。

「…暗いぞ、畜生…」

俺は、よろめく足で玄関に上がりこむ。冷え冷えとした、空気に身を震

わせながら。

「なんだよ…誰もいねーのか…」

パチン、パチンと、電気のスイッチを次々に入れていく。

玄関、廊下、キッチン、ダイニング…。

一つ一つ明かりがついていくごとに、俺のぼんやりした頭にも現実が見

えてくる。

…哀が、どこにもいない。

そうか…哀もか…俺に愛想を尽かして…。

「いてっ」

つまづいてソファに転げ落ちてしまったが、そんなことどうでもいい…。

哀は…哀だけは、いつまでも俺のそばにいると信じていた。

あいつは、俺のことが好きだったんだから。

…好きだった?何だよ、過去形じゃん。そうだよ、そいつは過去の話…。

今も過去もずっと、好きなのは俺のほうだ…。

 

「…なんじゃ、新一。こんなとこで寝おって。風邪ひくぞい」

「泣いてたみたいね…それに、お酒くさい」

「大方、蘭くんにふられたんじゃろうて」

…なんだよ…そのとおりだよ、畜生…。

やたら、うっとうしい夢だな、オイ…。

「…工藤くん、起きなさいよ」

「哀…行くなよ…俺のそばにいろ…」

「え…」

「こりゃ、新一!」

ぽかっ。

「どさくさにまぎれて、うちの娘、口説くんじゃない!待ってろ、今目

を覚ましてやる」

痛みに気づいて、うっすら目を開ける。キッチンで水を汲んでいる阿笠

博士と、そして…。

「バカね、工藤くん」

優しく微笑んだ哀の笑顔。まぎれもない、現実。

「どこにも行かないわよ。私があなたを好きなことぐらい、わかってる

んでしょう…?」

 

END


 

ちょっと、異色の話かな。これも、すらすら書けた方です。

新一の性格、妙です(笑)。でも、こういう調子のいいのもありかな、

と。

哀ちゃんは、何があっても新一を見捨てたりしないけど、うぬぼれちゃ

あかんよという話。

 

 

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