花ふぶき

 

 

春風のように 優しく

春風のように そっと

あなたにこの想いを 降りつもらせて

両手いっぱいのKissを どうか受け止めて

 

「おりゃー!!」

ドンッ!

・・・あーあ・・・やっちまいやがった。

「うわあっキレイ!」

歩美と、光彦が歓声を上げるのを、元太は足をさすりながら満足そう

に見た。

3人と、そして少し離れて立っているコナンの上に降り注ぐ、桜吹雪。

さっき奇妙な掛け声と共に、元太が蹴っ飛ばした大きな桜の木が、揺

れている。

「おーっし!集めようぜ!」

「うん!」

降ってくる桜の花びらを、ビニール袋に集めだす3人。

『桜吹雪をあびて、お姫様ごっこがしたいv』

と、言い出した我らがアイドル・歩美姫のご所望により、必死になって

働く2人のナイト達。

「ほら、コナンも手伝えよ〜」

「・・・ったく」

ため息をついて、コナンもその作業に加わる。

弥生の空はよく晴れていて、いかにも春めいたうららかな日。

校庭の隅にある、ひときわ大きな桜の木の下。

・・・だいたい、きれいに咲いている桜をわざわざ散らすかぁ?全く、ガ

キのやることは・・・。

「何ぶつぶつ言ってるんですか、コナンくん!」

いつのまにかコナンのすぐ横に来ていた光彦がつっこむ。

「なんでもねーよ!」

仏頂面で言い返すコナンの顔を、光彦はじっと見つめる。

「・・・何だよ」

「・・・別に、何でもありません」

光彦は、ぷいとそっぽを向く。

・・・変な奴。

コナンはそうつぶやくと、また花を拾い集める作業に戻る。

何か言いたげだった光彦も、チラッチラッとコナンのほうを見つつも、

手は動かしている。

なんなんだかなー、まったく。

と、その時。歩美がコナン達の方を向いて、言った。

「ねえ、灰原さんは?」

「あー、なんか用事があるから遅れるって。そのうち、来るんじゃね

えの?」

何の気なしにそう答えたコナンは、ふと視線を感じた。

「・・・光彦。なんなんだよ、お前は」

じっと、コナンを見つめる光彦。奇妙な沈黙が訪れる。

やがて彼は、うっすらと桜の花びらのように赤くなって言った。

「その・・・コナンくんと、灰原さんって・・・何かあったんですか?」

「何かって・・・?」

「そのっ・・・何か、ですよ!」

自分が感じているものをうまく表現できずに、もどかしそうな光彦。

2人を包む空気の色が、違う。

そんな表現の仕方は、早熟とはいえ小学生の彼には難しいこと。

しかし、哀に対する彼の淡い想いは、コナンと哀の間の「何か」を敏

感に感じ取っていた。

「・・・別に」

コナンは、短く答えてくるっと背を向ける。

背中に目がなくてもわかる、光彦の視線。

・・・ったく。こいつときたら・・・。

「説明なんか、できねーよ」

ポツリとつぶやく、コナン。それは、限りない彼の本音。

自分でも、わからない。

いつから彼女が気になっているのか。

本当に、自分を待っている幼なじみよりも大切な存在なのか。

この、気持ちは果たして・・・?

コナンは、集めた花びらをそっと両手ですくう。

淡いピンク色。

『キレイね。ねえ、似合う?』

きっと、蘭ならそう言う。

『・・・私には、似合わないわ』

きっと、灰原ならそう言う。

ピンク色が似合い、誰からも好かれる幸せな少女と、白衣に身を包ん

だ、幸せとは縁遠い生活の少女。

同情、なんかじゃない・・・。

ただ・・・ただ、俺はあいつが・・・。

その時。コナンの物思いを遮るかのように風が吹き抜けた。

「え?何だ?」

「あ、きゃ!」

いきなりの風に、子供達は身体をひねる。

春先にありがちな、急な突風。

思わず顔をかばったコナンの両手から、さっきまで抱えていた桜の花

びらが空に舞い上がる。

花びらはくるくるとコナンたちの頭上で踊った後、いつのまにか彼ら

のもとへと歩いてきていた少女の頭上から舞い降りてきた。

・・・灰原・・・。

哀は、足を止めて空を見上げる。伸ばした手のひらに、次々と落ちて

くる花ふぶき。

淡いピンクの桜が、彼女の髪や手や肩を薄く彩る。

「奇麗・・・」

いつもの皮肉っぽい視線とは違う、どこか柔らかい哀のまなざし。

その光景に、コナンはいつしか見とれていた。

・・・ああ、そうか。

ふいに、コナンは気づく。

いつから、とかなぜ、とかそんなことは関係ない。

ただ、俺の気持ちは降り続いていたんだ・・・彼女の上に。

ピンク色が似合わないなんて間違いだ、お前には白衣以外の色も似合

う。

ずっと。ずっと、そう言ってやりたかっただけなんだ。

 

・・・花ふぶきのようにそっと、想いを降りつもらせて・・・。

 

END


 

ずっと書こうと思っていた、桜にまつわる2人の話。

コナンくん、相変わらず悩んでます。・・・少し、吹っ切ったか?

最初に昔書いた乙女なポエム(笑)を持ち出してきて、それにちなん

で書いてみたのですが・・・。

情景描写のへなちょこさ加減に、自分でちょっと自己嫌悪・・・。

もっと、読んで下さる方の心に響くような表現が出来るよう、精進い

たします・・・。

 

 

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