Spring has come

 

 

 

ある、晴れた日の日曜日。

空は青く、まるで綿菓子のような雲がぽっかりと浮いている。

まるで、2月とは思えないような、この陽気。

「無いなー・・・」

「無いですねえ」

「あー腹減った・・・見つけたら、食おうぜ」

・・・だからって、つくしなんか生えてるわけねーじゃねえか。

コナンは、土手を探している歩美・光彦・元太を見やって、ため息をつ

いた。

いくら何でも、2月につくしは生えないだろう。

とはいえ、「こんなに暖かいなら、あの土手につくしも生えてるんじゃ

ねーの」などと言ってしまった手前、それが冗談だとも言えずに付きあ

わされているコナンであった。

そしてもう1人。

コナンの横で、膝を立てて座っている哀。傍らの草むらを、いつもの無

表情のままで探っている。

ふと、見られていることに気づいたのか、哀が視線を上げる。

「何?」

「いや。・・・あいつらも、いつまで探すんだろうな」

「・・・誰の、せいだか」

そう言って、哀はくすくすと笑う。そんな彼女に、自然とコナンの頬も

緩む。

と、哀がふと歩美たちの方を見る。コナンもつられて見ると、3人はあ

きらめたかのように座り込んでいた。

風に乗って、3人の会話が聞こえる。

「ねえ、いいこと思いついた。歌いながら、探さない?」

「歌いながら・・・何を、歌うんですか?」

光彦の問いかけに、歩美はうーんと考えていたが、ちょっとすました声

で歌い始めた。

「い〜つの〜ことだか〜、おもいだしてご〜らん」

すぐに、光彦と元太も声を合わせる。

「あんなこと〜こんなこと〜、あったでしょ〜」

・・・これ、何だっけなあ。

コナンは、ちょっと考えたもののすぐにその歌を思い出した。

『思い出のアルバム』。幼稚園や、保育園の卒園式で必ずといっていい

ほど歌われる歌。

コナンも、数年前に卒園式で歌った記憶があった。歩美たちなら、ちょ

うど1年ぐらい前だ。

・・・卒園式、か。そういえば、写真も撮ったっけな。

桜のつぼみが少しふくらんだ頃。今の自分と同じ姿の、工藤新一。

後ろに並んだ、両親。・・・そして、横には蘭がいた。

・・・思い出の・・・

「・・・歌?」

「え?」

物思いにふけっていたせいで、コナンは哀が何を言ったのか分からずに

聞き返した。

「・・・だから、なんていう歌?って」

「あー・・・オメー、知らねーのか。あれは、『思い出のアルバム』ってい

う歌だ」

「・・・ふうん」

哀はそう答えたきり、歌う3人を見つめる。

 

・・・思い出のアルバム。その、曲名を聞いてドキッとした。

何か思い出しているようだった、彼。

きっと。きっと、彼の思い出のアルバムには、あの人が・・・。

 

「・・・何、考えてんだ?」

「別に」

哀のそっけない答えに、コナンは内心でため息をつく。

相変わらずの態度に、時々不安になるのだ。この気持ちは、俺だけの空

回りなのだろうかと。

そのまま、奇妙な沈黙が訪れる。

ふいに、哀がコナンに向かって少し困ったような笑みを浮かべた。

「・・・女ってね。過去にさかのぼって、わざわざやきもち焼くのよ、探

偵さん」

その、ミステリアスな瞳に捕らえられるコナン。

・・・やっぱり、こいつにはかなわねえ。

そう、自覚した。

 

「・・・春になったらさ」

気づいたら、コナンはそう声をかけていた。

「春になったら、みんなで花見に行こうぜ」

なぜ急にそんなことを言い出したのか分からずに、哀は黙ってコナンの

顔を見る。

見つめられて、コナンはぷいとそっぽを向いた。

「・・・お前の思い出は、俺が作ってやっから」

心なしか、その顔は少し赤くなっているように見えた。

 

不安な夜は明けない。

だけど、春はもうすぐやって来る。

END


 

相変わらず、微妙な2人ですね。どうも、お互いがまだ自分にも相手に

も不安になっているようです。

この曲は、卒業式ソングの中では、1番好きですね。まだ、卒園式とか

で歌ってるんかなあ?結構、知りたいかも。

 

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