Black & White  〜side  C

 

 

「ねえねえ、コナンくん?今から買い物行くんだけど・・・」

そう言って、蘭はコナンの顔をじっと見つめる。

「・・・うん、行ってらっしゃい?」

なんだろう、と思いつつ答えるコナン。

そんな彼に向かって、蘭は少し意味ありげに笑ってみせた。

「明日、ホワイトデーよね?お返し、買ってきてあげようか?」

「・・・え?」

「コナン君、歩美ちゃんや哀ちゃんからもらったんでしょ?ちゃんと、知っ

てるんだから♪」

「あ〜うん」

蘭は、ニコニコと言う。

「ちゃんと、お返ししなくっちゃね?」

「うん・・・」

「じゃ、買ってきてあげるね!」

そう言うなり、蘭はくるっときびすを返して家を出て行こうとした。

慌ててその背中に向かい、コナンは声をかける。

「あ、待って!」

「ん?なに?」

 

思い出すのは、数日前のやり取り。

「お前、お返しって・・・何か欲しいのあるのか?」

「あら、何でもくれるのかしら?」

「そりゃ、まあ・・・物によるけど」

「そうね、プラダのバックかしら」

「・・・物によるって、言ってんだろ、おひ」

呆れたように言うコナンに、クスクス笑った哀。

「別に、何でもいいわ・・・あなたが選んでくれるものなら、ね」

 

・・・まさか、蘭にブランド物のバックを買わすわけにもいかないよな・・・。

「ごめん、なんでもないよ。お願いするね、蘭姉ちゃん」

 

 

そして、翌日。

いつものメンバーでの帰り道、寄り道した公園で光彦が2つの紙袋を取り出

した。

「ハイ、歩美ちゃん。バレンタインデーのお返しです」

「え!ほんと?」

嬉しそうに彼女が受け取った袋の中。そこには、溢れるほどの色とりどりの

キャンディーが入っていた。

「うわあ、こんなにたくさん!!ありがとう、光彦くん!!」

「いやあ・・・」

照れくさそうに笑う光彦。そんな彼に、きょとんとした顔を向ける元太。

「光彦、俺には?」

「はあ?なに言ってるんですか、元太くん。今日は、ホワイトデーですよ?」

「ホワイトデーってなんだよ?」

「あのねえ、お返しの日なんだよ!バレンタインデーの!」

歩美の説明に、首をひねる元太。

「じゃあ、俺はもらえないのか?」

「当然でしょう」

呆れたように首をすくめる光彦に、歩美はアハハと笑う。それから彼女は

哀の方を見る。

「ねえねえ灰原さん、わけっこしようよ?」

「あら。いいわよ・・・それは、歩美ちゃんのものなんだから」

「でもぅ〜」

「あ、あの!」

2人の話に突然、割って入る光彦。

彼は、少し照れた表情でもう一つの紙袋を哀に差し出した。

「その、こっちを灰原さんに・・・」

驚いたようにその袋を見た哀は、少し肩をすくめて微笑んだ。

「気を使ってくれなくて、結構よ。私は、何もしてないんだから」

「あ、いえ、その・・・そう、博士と食べてください!いつも、お世話になっ

てるんですから」

「でも・・・」

困ったわね、とつぶやく哀に今まで黙って見ていたコナンが「もらっとけ

ば?」と軽く言った。

「博士、甘いもの好きだしさ。きっと喜ぶぜ?」

その言葉に、哀も少し表情を緩めると、袋をそっと受け取った。

「ありがと。じゃあ、もらっておくわね」

「はい!」

心底、嬉しそうな光彦。その後ろで、元太が俺にも欲しいなあ、とつぶやい

た。

と、コナンもおもむろにカバンから何かを取り出してきた。

「わあ、可愛い!」

目ざとくそれを見つけた歩美が、歓声を上げる。

ピンクのウサギのぬいぐるみ。下げているのは、キャンディーがつまったカ

ゴ。

「はい、歩美ちゃん。俺からのお返し」

「ありがと、コナンくん!!とっても可愛い!!」

飛びつかんばかりに喜ぶ歩美に、コナンはハハハと苦笑する。

「蘭姉ちゃんに、選んでもらったんだよ〜」

「そうなの?さすが蘭お姉さんね〜とっても可愛いvv」

上機嫌の歩美に、光彦と元太が見せてもらおうと近づく。

「うわあ、ちゃんとこのカゴの中、キャンディーが入ってますよ〜」

「うまそうだな、こっちも」

そんな楽しそうな3人をじっと見ていた哀に、コナンは水色のウサギを差し

出す。

「ほら、こっちはオメーにだ」

「・・・・・・」

無言のまま、そのウサギを見つめる哀。手は先ほどの光彦からの袋を抱えた

まま、動かそうとしない。

「・・・なんだよ?」

不思議そうに聞くコナンに彼女はふい、と背中を向けるとそのまま早足で公

園を出て行った。

「あ、おい、待てよ!」

「コナン君?・・・あれ、灰原さんどうしちゃったの?」

無邪気に聞く歩美達に、コナンはちょっとな、と言葉を濁すと、慌てて哀の

背中を追いかけた。

 

家までの道をたどって行くと、案外簡単に追いつく事が出来た。

とはいえ、哀はコナンが後ろから呼んでも、振り向こうとはしない。

「なんだよ、お前は・・・」

「・・・・・・」

「怒ってんのか?」

「・・・・・・」

「あのなあ・・・まさか、マジでプラダのバックとか欲しかったんじゃねーだ

ろうなあ?」

「・・・・・・」

早足で歩く哀の背中で、カタカタと揺れる赤いランドセル。それに向かって

ひたすら話すコナン。

「お前が言ったんだろ、なんでもいいって・・・」

「・・・正確に、聞いてたの?」

ようやく彼女の口から漏れた言葉。

しかし、コナンにとっては意味不明。

「・・・はあ?正確も何も・・・あの時はだな・・・別に、なんでもいいわってお前

が・・・」

確かそうだったよな?

コナンは首をひねって考える。それで、間違いなかったはず。

「いいわよ、別にもう・・・お返しなんて、いらないわ」

「いいって、お前なあ、せっかく俺が・・・」

「せっかく俺が?」

哀は、その言葉に反応したかのように立ち止まり、くるっと振り返る。

「せっかく、俺が・・・何をしたの?」

「え、いや、だから。俺が・・・」

そこまで言いかけて、ようやく気づく。

『せっかく俺が、蘭に頼んで用意してもらったのに』

言おうとした言葉。

『何でもいいわ・・・あなたが選んでくれるものなら』

そう、それが哀が言っていた言葉。

水色のウサギ。これは、自分が選んだものではない。

哀のために、自分が探してきたものではない。

ようやくそのことに気づいたコナンに、哀はため息混じりに微笑んでみせた。

「いいわよ、探偵さん。はっきり欲しいものを言えばよかったのよね?そし

たら、あなたは自分で買いに行ったのかもしれないのだから」

「いや、だからその・・・」

困った顔をするコナン。その表情を見ていると、哀は少し切なくなる。

・・・こんな、イジワルが言いたいんじゃない。

本当は、嬉しい。お返しをくれようとする、その気持ちは嬉しい。

だけど。

だけど、お返しを彼女に買ってもらうなんて。

まるで、旦那の義理チョコへのお返しを奥さんが買うようで。

それが・・・嫌だった。

結局は、ヤキモチね。やっぱり、私のヤキモチね。

「ごめん。もう、いいから」

そう言って、哀は再び歩き出す。

コナンは、その場にしばらく突っ立っていたが、おもむろに先ほどのウサギ

を取り出した。そしてウサギ本体と、手に持たせてあるカゴとをくくってい

た銀色のモールを手早くほどく。

「哀!」

真剣な、コナンの声。呼ばれる、自分の名前。

思わず振り返った哀の目の前に、走りよったコナンがいた。

そして、おもむろにぐいっと左手を引かれる。

「え・・・何?」

コナンの右手には、銀色のモール。それで作った小さな輪っかを手に持ち、

彼は哀の左手を開かせる。

薬指をつかんで、差し込まれたもの。

「あ・・・」

銀色のモールは小さなリングに形を変え、哀の左手の薬指に納まった。

「今・・・今、考えたんだからな!」

赤い顔で、コナンは言う。

「これがお返しだよ、なんでもいいんだろっ!」

ぶっきらぼうな言葉。

それでも、哀の顔には自然に笑みが浮かんでくる。

今度こそ、間違いなく彼が選んだ・・・いや、彼が考え出したお返し。

思っていたよりずっと、魅力的で嬉しいお返し。

「・・・ずいぶん、安物ね・・・」

「うるせえ」

哀の軽口に口をとがらせた後、コナンは心底照れくさそうな口調でつぶやい

た。

 

「そのうち、本物買ってやっから」

 

END


 

すみません、もう5月ですよね。なのに、なんでホワイトデーの話なんだっ

つーの(汗)

とりあえず、ずっと気になってたんで何とか書けてよかった・・・とはいえ、

マジで1ヶ月以上小説を書いてなかったので、なんか文章おかしいです(泣)

さて。昔付き合っていた彼氏の義理チョコのお返しは、私がすべて用意して

おりました。

まあ、長年付き合ってたらそんなもんですわねえ(笑)

そんな事を思い出しながら、書いた話です。

ちなみにこの作品、「コナン&哀」の記念すべき20作品目ですねw

 

 

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