花 唄

 

 

今年の桜の開花は、かなり早い。

校門前の桜並木は、毎年3月から4月に変わる頃に花をつけ出す。

なのに、今年はまだ3月の半ばだというのに、もう満開であった。

・・・卒業式に、桜が満開だっていうのは、初めてなんじゃないでしょうか。

光彦は、青空をバックに淡いピンクがひろがる桜の木々を見上げた。

風が吹くと、はらはらと舞い降りてくる花びら。

いつか、遠い昔。

こんな風に、桜の木を眺めていたような気がする。

 

今日は、帝丹高校の卒業式。

光彦の手には、さっきもらってきたばかりの卒業証書が入った筒が握られて

いた。

先ほどまでは卒業生とお祝いをいいにきた在校生で、ごった返していたこの

道も。いつの間にか、ずいぶん人が少なくなっている。

帝都大学へ特別推薦枠で入学が決まっている光彦は、職員室にて教師達から

激励を受けていて、すっかり遅くなってしまったのだ。

君は我が校の誇りだ、ですか。

・・・やれやれ、何人がそれを聞かされたのやら。

光彦は内心、苦笑しながらその訓示を聞いていた。

彼の学年はかなり優秀だったようで、他にも色々と優れた成績を残した者た

ちがいた。

その中でも極めつけは・・・間違いなくあの、2人だろう。

灰原哀。・・・そして、江戸川コナン。

 

コナンが米花町へと戻ってきて。そして、この帝丹高校に転入してきた時。

学校中が、軽いパニックに襲われた。

教師達・・・とくに、古くから帝丹高校に勤めていた先生は、コナンを見て驚

いていた。

まるで、あの、工藤新一そのものだと。

数年前に行方不明となり、そしていまだに戻ってこない伝説の高校生名探偵。

もはや、この世の人ではないのかもしれないと。そんな噂も、流れている。

・・・俺とは、親せきになるんです。似ていても、不思議じゃないでしょう。

コナンは、そんな風に説明していた。どこか、微妙な表情で。

似ていたのは、顔だけじゃない。

戻ってきたコナンは、工藤新一と同様、高校生探偵として活躍を始めた。

そして、その名前は見る見るうちに有名になり・・・卒業後は、アメリカに再

び留学する事が決まっていた。

まだ、勉強したい事があるんだ。彼は、皆にそう言った。

 

彼を覚えている生徒たちは、懐かしさで大歓迎した。そして、彼を知らない

生徒たちも、すぐにその存在に羨望の眼差しをそそぐようになった。

アイツを見たとき・・・歩美ちゃんは、泣き出したんですよね、確か。

その時の事を思い出し、光彦は少し微笑を浮かべた。

突然の初恋相手の登場。それは、戸惑う事だろう。

元太は少し心配だったようだが、あの頃とは違うってことが、ちゃんと彼女

はわかってたから。

元太と歩美が付き合っている事を聞いた時。コナンは大笑いして・・・そして

その後、満面の笑顔で祝福していた。

そして光彦が高校生作家として作品を発表しているのは、父親から聞いて知

っていたらしい。

『お前なら、きっといい作家になるよ。親父も、言ってた』

そう言われた時、光彦はあいまいに笑っただけだった。

・・・本当は、言いたかった。君のおかげだと、言いたかった。

だけど。

アイツの傍らに立つ、彼女の存在。

コナンと同様、アメリカの有名大学に招致された天才高校生科学者。

たとえ、コナンが帰ってこなくても・・・とっくに振られていた相手ではあっ

たけど。

それでも、自分にとってはずっとずっと想っていた人。

彼女・・・哀の前では、言いたくなかった。

 

また、風が吹いた。

頭上から降り注ぐ花ふぶき。

・・・ああ、そうか・・・あれは、あの春だ。

光彦は、ようやく思い出す。遠い昔、幼い頃に遊んだあの日々を。

まだ、愛とも恋とも呼べない気持ちで哀を見つめていたあの頃。

今と同じように、満開の桜の木の下で。

笑う仲間たち。

そして、桜の花びらに手を伸ばしていた哀。

その姿をじっと見つめていた、コナンと自分。

断片的な記憶を繋ぎ合わせ、光彦は桜の木を見上げる。

降ってくる花びらに手を伸ばしてみる。ふわっと浮かび、そして指からすり

抜けていく感触。

・・・結局、つかみ取れなかったもう一つの夢。

あの頃は、ただそばにいるだけで幸せだった。

遠い存在だと知ってはいたけれど、それでもずっと一緒にいたかった。

光彦はふと、肩に花びらが一枚落ちているのに気づく。

手にする花びら。淡い春の色。

そっと指を離すと、軽く風に乗って飛んでいった。

彼はそれを見上げて、大きく息を吸い込んだ。

胸いっぱいに広がる、暖かな春の香り。

それでも・・・君と会えて、よかった。そう、思いたい。

 

光彦は、再び歩き出した。

 

END


 

・・・一体、何が言いたいのか。すみません、私もわかりません(自爆)

とりあえず、『君に会えて』の後日談・・・光彦バージョン、ですね。

んでもって、卒業と桜を絡めてみた、と。←必死で解説してみる(汗)

これには実は元ネタ・・・じゃない、イメージソング?がありまして。

それが、タイトルにもなっているTOKIOの「花唄」と、ガーネットクロ

ウの「夢みたあとで」なんです。

どこが?とか思われるかもしれませんが、そうなんです〜(泣)

なんとなく、ポエムっぽい感覚で読んでもらえたらいいかと(^^;

 

 

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