君の願いを叶えよう

 

 

「・・・あら、来てたの」

学校から少し遅く帰ってきた哀は、ランドセルを下ろしてそう言った。

阿笠邸のリビングで、くつろいだ顔で座っているのはコナン。

「おう。ようやく帰ってきたのか。遅かったじゃねーか」

「仕方ないでしょ・・・理科室の掃除当番だったんだから」

「そりゃ、最悪だな・・・あの先生、少しでも汚いとやり直しさせるからな・・・」

「・・・3回もやったのよ」

「・・・ご愁傷様」

話している2人の後ろから、ハッハッハと大きな笑い声がした。

「哀くんも新一も、すっかりなりきっとるな。完全に小学生の会話じゃった

ぞ?」

現われた阿笠博士の言葉に、哀は黙って肩をすくめ、コナンは苦笑しながら

言い返す。

「・・・ちぇ・・・それより博士、見つかったのか?」

博士は、それがな・・・とぽりぽり頭をかく。

「どうも、見つからんのじゃよ。はて、買ってあったと思ったんじゃが・・・」

「ったく、頼んねーな」

「・・・何を、探しているの?」

哀がどちらともなく聞くと、コナンと博士は顔を見合わせる。

「・・・何よ?」

いぶかしげに哀が再度問うと、コナンがしぶしぶ答えた。

「コートだよ。お前の、冬用のコート」

「コート?・・・まだ、早いんじゃないかしら」

「いやいや、そんなことないぞい」

博士はちっちと顔の前で指を振る。

「この季節、寒くなりだしたらあっという間じゃからな。『備えあれば愁い

なし』じゃよ」

大事な哀に、風邪を引かすわけにはいかないと、口には出さない博士の親心。

それがわかるから、哀の表情も自然と和らぐ。

「・・・ったく、見つかんなかったら意味ねーじゃねーか」

「いいわよ、まだ・・・そんなに寒くないから困らないわよ」

「だーめ。俺が困るの」

1人仏頂面のコナンに、哀はため息をつく。・・・今度は一体、何だというの

だろう。

「仕方ないのぅ。今から、買いにいくか」

「いいわよ、博士・・・そんなの」

「よし、行くぞ!今ならまだ、閉店までに間に合うからな」

うんうんとうなずき合うと、さっさと家を出る準備を始めた2人に、哀は慌

てて言う。

「ちょっと!いいってば!」

当然そんな哀の言葉には耳を貸されることがなく、あれよあれよという間に

彼女は米花デパートへと連れてこられた。

「これはどうじゃね、哀くん?」

博士が選んだのは、ピンク色であちこちにリボンがついているコート。

「こっちの方が、いいんじゃねーか?」

コナンが選んだのは、明るい黄色のふわふわのコート。

「・・・だからあの、家にある赤いやつでいいって・・・」

渋る哀に、コナンがやけにムキになった口調で言う。

「だから、あれだと寒いって!」

「そうじゃよ、哀くん。好きな方を、選びなさい」

追い討ちをかけてくる博士。

哀は困った顔で目の前の2着のコートを見比べていたが、やがて「これがい

いわ」と1着のコートを手に取った。

コナンが選んだものでも、博士が選んだものでもない、シンプルな紺のコー

ト。

ただ、袖口とフードのところに真っ白なファーがついているのが気に入った

のだ。

「・・・地味じゃねーか?」

「いやいや、哀くんの気に入ったのでいいぞい」

レジでお金を払ってくれている博士と、なんだかんだと言いながらコートの

入った袋を持ってくれているコナン。

・・・ダメね、お姉ちゃん。こんな時、つくづく感じちゃうわ・・・。

「いくぞ、灰原」

「・・・はいはい」

・・・幸せって、こういう気持ちを言うのかしらって、ね。

 

「・・・天体観測?」

成り行きで、デパートのレストランで夕食を食べていた時。

今日、急いでコートを買いに来させられた理由を聞いて哀は首をかしげた。

「・・・あなた、そんなものに興味はなかったんじゃないの?」

「いいんだよ」

いつだったか、光彦が天体観測に誘ってくれたことがあり、そのときもコナ

ンは興味がないと断っていたはず。

結局、あの日は天体観測どころではなくなったのだが・・・。

「っていっても、博士んとこのベランダから見るだけだけどな」

「ふうん・・・」

「2人とも、暖かくして見るんじゃぞ?」

 

今日は博士のうちに泊まるとコナンは連絡を入れ、哀は研究室へとこもった。

時間になったら呼ぶから、寝ていてくれてもいいとのコナンの言葉。

彼の方は、久しぶりに博士の研究を手伝うらしい。

時間になったらって・・・どういう意味なのかしらね。

哀はいぶかしく思いながらも、パソコンの前へと座った。

数時間後。

哀は、眉間をぎゅっと指で押しつつパソコンの電源を落とした。

・・・ダメだ。完全に、行き詰まってしまっている。

APTX4869は、その組成が複雑すぎる。自分で作り出したものであり

ながら、その難解さには頭が痛くなる。

・・・この分だと・・・完全な解毒剤なんて、いつになることやら・・・。

深いため息をつくと、ふと哀は壁の時計を見上げた。

もうすぐ、午前3時。

・・・そういえば、確か呼びに来るって・・・寝ちゃったのかしら?

そう思ったまさにその時。トントンと、ドアをノックする音がした。

「灰原・・・起きてるか?」

「・・・ええ」

「じゃ、暖かい格好で出て来いよ。コート着ろよな!」

コナンの声に、哀はセーターを着て買ったばかりのコートを羽織る。

部屋を出ると、コナンは階段の所で待っていた。

「・・・博士は?」

「もう、寝た。目がもたねーってさ」

2人は音を立てないように、こっそり階段を上がるとベランダへと出た。

夜の冷たい空気が2人を包む。

「・・・やっぱり、かなり寒いな・・・」

「ええ」

「・・・コート、買ってもらってよかっただろ?」

それには答えずに、黙って肩をすくめてみせる哀に、コナンは素直じゃねー

の、とこっそり悪態をつく。

「で・・・?何を見るの?」

「まあ、待ってなって」

空は、薄い雲がかかっているが、月もなく星を見る分にはあまり影響がない。

冬間近の夜空は、空気が澄んでいるせいか、むしろいつもより多くの星が見

える。

ぼんやりとその空を眺めていた哀の瞳に、すいっと星が流れるのが映った。

「あ・・・流れ星」

思わず彼女の口から漏れたつぶやきに、コナンはにやりと笑った。

「ああ。見えたよな」

「・・・久しぶりに・・・ううん、初めて見たかもしれないわ」

ゆっくり星空なんて、眺める余裕はなかったから。

哀は、心の中でそうつぶやく。

「次に流れたら、願い事を言ってみろよ」

コナンの言葉に、まさか、と哀は苦笑する。

「たしか、3回言わなきゃいけないんでしょ?間に・・・あ」

間に合わない、と言いかけた哀はそのまま言葉を止める。

見上げた夜空で、また星が流れたのだ。そして、すぐまた流れる。

その流れ星の多さに、ようやく哀は合点がいったという表情でコナンを見た。

「・・・しし座の流星群ね?そう・・・今日、だったの・・・」

数日前からそういえばTVで言っていた。宇宙に漂う塵等が大気圏に突入す

る際、燃え尽きていくのが地上で見られる現象が、流れ星。特に、しし座と

ふたご座の方角から、放射線状に大量の流れ星が発生する現象は、流星群と

して天文ファンだけでなく一般にもよく知られたものだった。

今年は特に、当たり年。日本では、降るような流れ星が見られるとか。

「3回どころか、何回も唱えてりゃいいんだよ」

コナンは、そう言って呑気そうに笑う。

「これだけいっぱい、流れるんだ。何かの拍子で3回言えるかもしれないぜ」

「・・・それは、どうだか。・・・あなたは、言わないの?」

「さっきから言ってるよ。『金、金、金』ってな」

「・・・確かに、それなら3回言えそうね・・・」

軽口を叩きあいながらも、夜空を見上げつづける2人。

叶うかどうかわからない、願いだけど。

迷信かもしれない言い伝えだけど。

だけど、今日は特別な夜だから、願いを星にかけよう。

 

どうか、彼の願いが叶いますように。

どうか、彼女の願いが叶いますように。

 

END


 

はい、しし座流星群のお話です・・・。果たして、今年はちゃんと見れたんで

しょうか?(爆)

毎年毎年、今年こそはいっぱい見れるという予測が立ちながら、肩透かしを

喰らってますからね。

かなり信憑性も、薄いんですが・・・果たして、どうなることやら。

私は、高校生の頃、地学の時間に「今日、流星群が見れる」と聞いて、見た

ことがあります。

降るほどとはいかなかったものの、短い時間にかなりの流れ星を見ることが

出来ました。

玄関先に、毛布かぶって座り込んでましたっけ(笑)

一見の価値は、あると思います(^^)

 

HOME / コナンTOP