最終日決戦!

 

 

あれだけうるさかったセミの声も、朝晩は聞かれなくなった。その代

わりに秋の虫の声がする。

そして、日中でもツクツクホーシが物悲しい声で鳴き・・・夏の終わりを

告げていた。

・・・そりゃ、そうよね・・・今日は、8月31日だもの。

哀は、科学雑誌をめくりながら、ふわ・・・と軽くあくびをした。

ダメねえ・・・ラジオ体操の後、寝ちゃったりしていたから。すっかりそ

れに、体が慣れちゃってるわ。

阿笠博士は、昨日の夜遅くまで研究をしていたらしく・・・大きな音がし

ていた・・・まだ、起きて来ていない。朝ご飯を1人で済ませ、それなり

に退屈な一日の始まり。

夏休み最終日って、こんなものなのかしらね。

悟ったように考える哀の耳に、来訪者を告げるチャイムの音が軽やか

に届き・・・

「はい。・・・あら、どうしたの?」

インターホンの受話器を耳にあてた哀は、その表情を和らげた。

 

・・・8月31日。今日は、夏休み最終日・・・。

カレンダーをにらみつけていたコナンは、「よし!」と気合いを入れる

かのようにつぶやいた。

それからくるっと身を翻し、毛利探偵事務所を出て行く。

「あ、コナン君!宿題終わったの?」

「終わったよ〜」

・・・バーロ・・・あんなもの、すぐに終わらせたぜ・・・。

蘭に答え、階段を早足で下りる。

キックボードに乗り、もちろん目指すは阿笠邸。

「今日こそ、夏の思い出を作る(もちろん、灰原と)」の計画発動なの

だった。

この夏は何故か忙しく、毎朝ラジオ体操で顔を合わす以外には、ほと

んど会えなかった。

いや、もちろん一緒に山や海にも行ったが、少年探偵団が一緒だった

り事件が起きたりでろくに2人きりになれていない。

夜に会いたくても、夏休み中は蘭の監視が通常よりも強く・・・。

そんなこんなで、結局夏休み最終日を迎えてしまったのだった。

今朝のラジオ体操では、確か歩美に聞かれて「予定はない」と哀は答

えていたはず・・・。

阿笠邸が見えるところまで来た時、コナンはキックボードを慌てて止

めた。

家をうかがう、1人の影・・・。

その人物は、阿笠邸の前を動物園の熊よろしく、行ったり来たりして

いる。時々立ち止まっては哀の部屋の窓を見上げ、ため息などをつい

ている・・・。

コナンはキックボードを降りてつかつかと近づくと、その人物の肩を

叩いた。

「ひゃわあう!!・・・あ、あ、コナン君でしたか・・・」

「コナン君でしたか、じゃね−だろ・・・こんなとこで何やってんだよ、

光彦?」

コナンのジト目に、光彦はそばかすの浮いた鼻先をうっすらと赤く染

める。

「え、いやだから・・・その、僕の自由研究のですね・・・え〜っと、そう、

研究に対してご意見をうかがおうかと・・・」

「・・・博士のか?」

わかっているくせに、イジワルを言ってみるコナン。

「いや、その、灰原さんに・・・です」

・・ちっ・・・こいつもかよ・・・。

彼女の『夏休み最終日』を狙っているのは、どうやら光彦も同じらし

い。

コナンは、不機嫌そうに聞く。

「で?もう、呼んだのか?」

「いえ、まだ・・・」

もじもじとつぶやく光彦を尻目に、コナンはさっさと阿笠邸のチャイ

ムを鳴らす。

やがて出てきた博士は、2人を見て目をぱちくりと瞬かせた。

「おや、し・・・コナン君か。それに、光彦君・・・どうしたんじゃ、2人

そろって」

「博士、灰原は?」

博士はその問いに、はて?と首をかしげる。

「遊びに行ってくるという、置き手紙があったんだがな・・・一緒じゃな

いのか?」

コナンと光彦は、博士の言葉に顔を見合わせる。

・・・遊びにって・・・誰と?

2人の頭に浮かぶ、同じ疑問。

「歩美じゃあ・・・ねえよな」

「ええ。今日は、家族で出かけるらしかったですから」

「・・・元太でも、ねえよな」

「彼なら、今日は宿題地獄で、それどころじゃない筈です」

・・・じゃ、まさか・・・。

がちゃん、とコナンはキックボードに飛び乗る。

夏休みに、哀を誘い出せるもの。そんな人物の心当たりなど、数少な

い。

まさか・・・。

不安な顔で走り出そうとしたコナンの後ろが、急に重たくなる。

「み、光彦!お前なあ・・・」

「灰原さんを探すんでしょ?僕も、行きます!!」

「・・・・・・ちっ・・・・・・」

なんでライバルを後ろに乗っけて、アイツを探さなきゃなんね−んだ、

全く・・・。

心の中でつぶやきながらも、しっかりつかまってろと光彦に注意する

と、コナンはキックボードの加速装置をオンにする。

とりあえず、まずは電話だ・・・。

 

「あら?コナン君、お帰りなさい・・・あ、光彦君」

「こんにちは、蘭お姉さん」

「蘭姉ちゃん、電話借りるよ!」

電話の子機を持ち、自分の部屋へと向かうコナン。光彦も、その後を

追う。

アドレス帳をめくって、コナンがかけた先は・・・。

「ええ。平次なら、留守してます」

「そうですか・・・ありがとー」

電話を切ると舌打ちして、再度電話をかけだすコナン。

「コナン君、一体どこに・・・」

「さっきは、大阪だ!今度は、平次の携帯・・・」

「平次って、あの西の名探偵ですか?・・・あの人と、灰原さんが・・・?」

首をひねっている光彦を尻目に、コナンは呼び出し音に耳をすます。

「あの・・・コナン君?」

ちゃっらん〜

「ちょっと、待てよ」

「いや、でも・・・」

光彦は、複雑な顔つきできょろきょろする。

ちゃら〜ら〜ら〜

「やっぱり、コナン君この音楽・・・」

「はあ?」

ちゃらららら〜

うん、とうなずいた光彦は、コナンの部屋の窓を開ける。

外から聞こえてくるのは、携帯の呼び出し音。その、聞いた事のある

メロディは・・・。

受話器を持ったまま、窓に駆け寄るコナン。

ちょうどその窓の下にいた人物が、携帯を取り出したところだった。

「おう、お前か。なんや?」

『おう、お前か。なんや?』

右と左の両方の耳から、ステレオで聞こえる大阪弁。そういえば、さ

っきの着信音はあの「六甲おろし」であった。

「服部ぃ〜!!!!!」

コナンの叫び声に、平次はうわあと声をあげ、携帯から耳を離す。

それから頭上を見上げると、怒鳴り返してきた。

「なにすんねん、いきなり!鼓膜破れるんとちゃうかって、思ったや

んけ!」

「うるせえ!今行くから、待ってろ!!」

コナンと光彦は、再び階段を駆け下りると、平次の前へと立った。

「何でお前が、来てるんだよ!」

「何って・・・決まっとるがな。今日は、夏休み最終日やで?1番有意義

に、過ごさな」

平次はニヤリ、と笑ってコナンを見返す。

何の話かわからない光彦は、ただただ2人のやり取りを聞いている。

「有意義な夏休み・・・それは、やっぱり哀ちゃんが・・・」

「それで、灰原は!」

「・・・はあ?」

コナンの性急な問いに、平次は戸惑った顔をする。

光彦も、ようやく合点がいった様子で、平次をキッとにらみつけて言

う。

「あなただったんですか・・・まったく、一体どういうつもりで・・・」

「ちょ、ちょお、待って〜や!」

平次は、慌てて顔の前で両手を振る。

「哀ちゃんを誘いにきたんやけど、おらんて言うやんか。せやから、

お前と一緒かと思ってやな、俺は・・・」

・・・そういえば、確かに哀の姿はそばにはない。何処かに隠れさしてい

ることも考えられるが、平次はそんなつまらない小細工までするタイ

プではない。

それに、哀が大人しく言うことを聞くはずもなく・・・。

「オメ−じゃ、なかったのか・・・」

「じゃ、一体どこに・・・」

「なんや、哀ちゃん行方不明なんか?大変やんか!」

 

こうして、にわか捜索隊が組まれると、3人はそれぞれ心当たりを探

し始めた。

あわよくば、自分が一番に見つけて抜け駆けしようなどと思いつつ・・・。

 

「・・・結局、見つかんなかったな」

「灰原さん、どこいったんでしょうねえ」

「俺の、一日はなんやって〜ん」

夕暮れ時。31日も終わりに近づいた頃、3人はそれぞれクタクタに

なって阿笠邸の前へと戻ってきていた。ちなみに、哀はまだらしい。

玄関先でへばる彼らに、博士が家の中で待ったらどうかと声をかけた

ときだった。

一台の車が角を曲がってくると、阿笠邸の前へと止まった。

「じゃ、今日はありがとうございました」

丁寧な挨拶とともに、降りてきたのは・・・。

「灰原!」

「灰原さん!」

「哀ちゃん!」

哀は、並んで自分を出迎える3人に、いぶかしげな視線を投げた。

「・・・何してるのよ、あなた達・・・」

「何って・・・」

哀を探していたと、正面切って言うのはなんだか恥ずかしくて、顔を

見合わせてしまう3人。

そんな彼らに、開いた車の窓から聞きなれた声が飛んできた。

「え〜?コナン君に、光彦君〜?それに、何で服部のお兄ちゃんがい

るの?」

「歩美・・・ちゃん?」

無邪気に問いかけてきたのは、歩美。よく見ると、運転席と助手席に

は彼女の両親らしき人物が乗っている。

「歩美ちゃんに、誘われたのよ・・・高原に行かないかって」

少し照れた顔で言う哀に、歩美は大きくうなづいてみせる。

「あのね、お父さんとお母さんがね、友達を1人呼んでもいいよ〜っ

て言ったから」

あ・・・そういうこと・・・。

コナンは、脱力したように苦笑いする。

俺の、今日一日の努力って、一体?

「灰原さん、今日は予定ないって言ってたでしょ?」

確かに、それは僕も聞きましたが・・・。

光彦もやはり、大きなため息をつく。

もっと早く気づくべきでしたね・・・せっかく、勇気を出して来たのに。

「歩美ね、夏休み最後の日を灰原さんと過ごしたかったんだ〜♪」

それは、俺も一緒やっちゅうねん!

そして、心の中でツッこむ平次。

新幹線代を返してくれっちゅう訳にも、いかんわな・・・。

 

無邪気で無敵の、歩美姫。夏休みの最終日決戦は、どうやら彼女に軍

パイが上がった様子である。

ちなみにこの後、夜は花火を一緒にするという2人に・・・男3人が強引

に混ざったのはいうまでもない。

 

END


 

え〜っと、北村様からの作品「夏休み・・・その前に」に続く?、『歩美

ちゃん無敵シリーズ第2弾』をお届けいたします・・・(爆)

最初はキッドがさらう話にしようかと思ったのですが・・・それも、あり

がちだし。いや、オチが歩美ちゃんっていうのも、かなりありがちで

すが。

それでも、歩美ちゃん好き〜v 彼女の無敵さは、最高ですね!!

ちょっと、軽めの話を目指してみました。楽しんでいただければ、い

いのですが(^^)

 

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