君に会えて

 

 

4.哀

 

空が、赤く赤く染まる。

激しく響く、爆発音。まるで空をも燃やし尽くそうとするかのような、赤い

炎。

それはめらめらと立ち上り、黒煙が夜の闇にまぎれて吹き上げる。

『灰原!大丈夫か?』

哀は、今にも燃え落ちようとしている研究所を、じっと見つめたまま動かな

い。

『オイ、灰原!行くぞ、ここは危ない!』

引っ張られた手を無意識に振り払い、彼女はその小さな身体を燃える建物に

傾ける。

『灰原!』

『離して、工藤君!あそこには・・・あそこには、まだデータがあるのよ?!

あなたを元に戻す為の、APTX4869のデータが!』

振り向いた哀は、煤だらけの顔で叫ぶ。

『バーロ・・・わかってるよ、そんなこと・・・』

彼のその表情に、哀は抗いをやめる。

何かを決意して。気持ちをこらえて。切なげで泣きそうな、彼の笑顔。

『でも、これで終わったんだ。もう、終わったんだよ・・・』

『工藤君・・・』

『ようやくこれで、お前もあいつらから開放される。明美さんも、浮かばれ

るだろう』

『でも、あなたは・・・』

言葉を遮るかのように、ぎゅっと彼の腕に抱え込まれる哀の頭。

『大丈夫だ。お前の研究を、信じてるよ・・・』

2人の背後で、ひときわ大きな爆発音がした。

それは、悪夢が終わる最後の瞬間だった。

 

その日以来、彼と哀は一見今までと変わらない日々を過ごした。

解毒剤の完成には、多大な時間を有する。それまでは、今までどおりで居る

しかなかった。

ついに哀の研究が実り、解毒剤が完成したのは2人が中学2年の秋だった。

しかし・・・。

『これで、体が元に戻る確率は・・・50%ぐらい、かしら』

『・・・そんなに、低いのか?』

眉をひそめる彼から、哀は目をそらしてつぶやく。

『・・・そうね。出来るだけ後遺症が残らないように・・・それを、1番に考えた

から』

『・・・・・・限界か?』

彼の、その問いには答えようとしない哀。

『そうか・・・。わかった』

哀の手のひらに乗る、小さなカプセル。それを、そっと彼は手にとった。

その動作を、じっと見つめる哀。ふと、彼は苦笑する。

『バーロ。まだ、飲まねーよ』

小さなカプセル。自分の運命を狂わした、あの悪夢のような出来事。

工藤新一を・・・自分自身を、ようやく取り戻せる。

そんな彼の姿を、それでも哀は見つめつづける。

もう、2度と見られないその姿。

それを、脳裏に焼き付けておきたくて。

彼は、カプセルをぎゅっと握りしめた。

『今夜、飲む。・・・明日っから、江戸川コナンはいなくなる』

 

確かに、その言葉どおりだった。

江戸川コナンは突然の転校、という形で皆の前から消えた。

元から、解毒剤は1つしか作らなかった。

行くところのない自分。そんな自分に、阿笠博士はこのままここで暮らして

欲しいと言ってくれた。

哀にとって、穏やかな・・・そして何処か物足りないような毎日が始まったの

だが・・・。

しかし。

消えたのは、コナンだけではなかった。

・・・入れ違いで戻ってくるはずの、工藤新一もまた。

 

工藤新一が、いつまでたっても帰ってこない。

そのことに哀だけでなく、博士も平次も皆不信がった。

・・・まさか、失敗・・・?いいえ、そんなはずはない。

50%という成功率。それは、哀が彼に対しておこなった、最後のささやか

な意思表示。

たった、50%の成功率しかない解毒剤・・・それは、もはや解毒剤ではない。

そんな内容でいいのなら、あんなに時間がかかったりはしない。

100%、成功するはずだった。工藤新一に、必ず戻れるはずだった。

50%と答えて、彼がためらうならそれでいいと思った。

すぐに、工藤新一になることをためらってくれるなら、それだけで。

・・・本当は、工藤新一には戻らないで欲しい。

あの人の元へは、戻らないで・・・。

そんな、最後の意思表示。

だけど、彼は気づかないまま、行ってしまった。いや、そのはずだった。

なのに・・・なのに、何故戻ってこないの?

待っている、可愛い幼馴染の元へ、何故帰らないの?

やがて、それぞれに彼から手紙が来た。

今、両親とともに住んでいる。しばらく、日本には帰らないと。

それは確かに彼の筆跡で、万に一つと哀が恐れていた彼の存在そのものが消

えたわけではなさそうだったが、それでもその手紙をもらった者達は心の何

処かで感じていた。

もう、工藤新一に会えないのだと。

あれから、もう3年。

 

先日、阿笠邸に舞い込んだ一通のハガキ。

白いウエディングドレスに身を包んだ花嫁は、優しい夫の横で笑っていた。

・・・綺麗だったわよ、工藤君。あなたの幼なじみは。

惜しいことしたわね・・・本当なら、彼女の横に立っていたのはあなただった

かもしれないのに。

彼女は・・・待てるギリギリまで、ずっと彼のことを待っていた。

そんな彼女を支え、励ましつづけていた人。ずっと、彼女を愛しつづけた人。

身も心も疲れきった彼女を、受け止められるのはあの人しかいなかった。

それは、皆知っていた。だからこそ、彼女の幸せを心から祝福した。

工藤新一は、帰ってこない。もう2度と、帰ってこない。

・・・だけど、哀はまだ待っている。

 

ふと我に返ると、哀は阿笠邸のすぐそばまで帰ってきていた。

・・・ぼうっとしながら歩くなんて・・・われながら、平和ボケしちゃったわね。

哀は、思わず苦笑する。

組織が崩壊してからしばらくは、不安で眠れない日々もあったけど。

全てが夢じゃないかと、突然の恐怖感に襲われることもあったけど。

もう、平気だ。

いつものように角を曲がり、見えてきた阿笠邸。そして、その横の・・・。

その、横の・・・。

「・・・・・・・・・!」

工藤邸の前に立つ、人影。

哀は、震えるような声で彼の名を、呼んだ。

「工藤・・・くん?」

 

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えーっと。「あいつ」、登場しました()

って、怒られそうだなあ・・・。めっちゃ、中途半端な登場の仕方で。

しかも、なんか話の内容意味不明だし・・・いや、私はもちろんわかってるん

ですけどね。

次でまた、説明が必要なことが一杯・・・説明・・・出来るのかなあ・・・(核爆)

・・・ちょっと今、逃げたい気分かも・・・。

 

 

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