Friends or Lovers? 5

 

 

 

 

平次の問いに、コナンは無言のまま頭をじれったそうに引っかく。

その反応をじろっと見ると、平次は身体をソファにもたれさせた。唇

に少し不敵な笑みを浮かべる。

「・・・なんや、言われへんのかいな」

「・・・バーロー・・・」

コナンは、上目遣いに平次を睨む。

「小学1年生相手に、友達も恋人もあるわけねーだろ」

「ふん・・・」

からかうような、平次の視線。その、余裕に満ちた態度に、コナンは

ますますイライラする。

自分といる時よりずっと、リラックスしていたかのような哀の表情。

友達なのか、恋人なのか。

・・・聞きたいのは、俺のほうだ。

「ほな、質問変えさせてもらうわ」

平次は、少し口調をも変える。

「お前、前に聞いたときは蘭ちゃんとあの子の間で心が揺れてる言う

とったけど、今はどうやねん?」

「どうって・・・」

「蘭ちゃんより、あの子の方が好きなんか?」

もちろん。そう、コナンが答えようとしたその時。

彼の眼が捉えたのは、平次の後ろに飾ってある1枚の写真だった。

黒衣の騎士であるコナンと、白いハート姫の衣装を着た蘭。二人が、

周りにもみくちゃにされながら写っている、学園祭の時の写真。

『待っててくれって。絶対帰ってくるから、待っててくれって』

あの時の、自分の言葉。蘭の、涙をたたえた瞳。

裏切れるのか、彼女の思いを・・・。

ぎゅっと唇を引き結ぶコナンに、平次はため息をつく。

「あかんて、お前・・・俺につけこむ隙与えて、どないすんねん」

「・・・うるせー・・・」

コナンは、平次をまた睨み・・・ふと、何かに気づいたような顔をする。

「おい、服部。お前、人のことばっかり言ってるけど自分はどうなん

だよ」

「・・・何が言いたいねん」

「お前にもいるだろう?・・・幼なじみが」

「ああ・・・和葉のことか」

平次は、困ったような顔つきになる。

忘れていたわけではない、彼にとっての大事な幼なじみ。

「お・ま・え・は、どうなんだよ?」

一言一言区切って聞くコナンを、平次はまっすぐ見返して答える。

「もちろん、俺は哀ちゃんを選ぶわ」

自信に満ちた答えにコナンは絶句する。

「服部・・・お前、灰原のこと・・・」

平次はその問いには曖昧な笑みで返すと、立ち上がって少し窓のほう

へ寄る。

「・・・せや。俺は、あの子に惚れてしもた」

瞳に強い意志を秘めて平次が見つめる先は、哀がいる阿笠邸。それは、

今までは事件の時にしか見せていない、彼の真剣な眼差し。

「和葉のことはな、今でも大事やと思てる。そら、ずっと一緒におっ

たんやから当たり前や。これからも、あいつのためやったら何でもし

たろうと思てるよ」

そう。それは、俺も同じだ。

コナンは、平次をじっと見つめる。

「でもな、それは恋愛やない。家族愛みたいなものや、言うたらな。

あいつは幸せになって欲しいし、心からそう願う。せやけど、哀ちゃ

んは・・・」

平次は振り返り、まともに2人の視線が合う。

切なげな、それでいてどこまでも優しい平次の瞳。

「哀ちゃんの幸せは、俺が見つけてやりたい。・・・そう、思うねん」

 

・・・ショックだった。

うまく、自分の中で整理できていなかった蘭と哀への気持ち。

それをこんな風に平次が言葉にしてしまうとは。

コナンは、激しく動揺する。

形に出来ないから。

言葉にはしづらいから。

そう思って、ずっと避けて・・・逃げてきた気持ち。

哀も、気づいていた?

俺が、蘭を忘れてはいないことに・・・。

 

「・・・まあ、お前がそういう態度なんやったら、しゃあないな」

考え込んでしまっているコナンに、平次は冷たく言い放つ。

「ほな、悪いけど遠慮なんかせーへんから」

「遠慮って、お前・・・」

「一応、遠慮しとったんや。前に、相談も受けてることやしな。せや

けど・・・」

平次は、一転して厳しい顔つきになる。突き刺すような、彼の視線。

「お前に、あの子のこと幸せにする権利なんかない。自分の気持ちす

ら、言えん奴には」

コナンの頭の中で、何かがはじけた。

「服部ぃ!」

「・・・なんや」

立ち上がったコナンに、平次は近づく。上から見下ろして、威圧感を

与えてくる。

その目をコナンは、きっと睨みつける。

「俺は、灰原が好きだ。あいつのこと、失うなんて絶対嫌だ」

失いたくない。失うくらいなら、コナンのままでかまわない。

あの時。哀が単身、組織と接触をとろうとした時に湧き上がってきた、

強い気持ち。

新一に戻って、再び『自分自身』を取り戻すこと。脚光と名声に彩ら

れた舞台に、再び舞い戻ること。そして、大事な幼なじみを守ること。

その全てをなげうってでも、彼女を失いたくなかった。

「お前には・・・お前には、絶対渡せねぇ!!」

その小さな体全体で。思いっきり平次を見据え、コナンは叫ぶ。

しばらくの沈黙、行き詰まるような時間。

やがて、コナンとにらみ合っていた平次がにやっと笑った。

「・・・やっと言いよったわ。それでええねん」

「・・・は?」

「せやから、お前は悩みすぎやって言うてんねん」

そういって、平次はおかしそうにくっくっくと笑う。

それから、少し腰をかがめてコナンと目線を合わせてくる。

「ええねんって。わからんのやったら、わからんままで。でも、肝心

なこと忘れんなや」

肝心なこと。哀が好きだと、いう気持ち。そう、それは変わらない。

コナンは、少しほっとしたように笑った。

「ありがとな・・・服部」

コナンの言葉に、平次は少し眉を上げると呆れたような表情をする。

その意外な反応に、再び不安になるコナン。

「お前、ほんまに甘ちゃんやなあ・・・聞いて呆れるわ」

「・・・何がだよ?」

平次はコナンの目の前に、人差し指を突きつける。

再び変わる、彼の目の色。

「ええか。俺が哀ちゃん好きになったことも、お前にライバル宣言し

てることも、嘘ちゃうからな」

「なっ・・・」

「お前のことやから、『嘘までついて助けてくれた』なんて、思てるや

ろけどな。全部ほんまやで」

絶句したままのコナンに、平次はきっぱりと言う。

「俺かって、哀ちゃんの事好きやから。お前に渡すつもりなんて、全

然ないからな」

「バッ・・・バーロー、あいつは俺のこと・・・」

「ほう?哀ちゃんに、好きやって言われたんか?」

「・・・・・・」

口ごまってしまうコナン。

哀の気持ちは、わかっているつもりだった。言葉に出さなくても感じ

取れたし、また、自分の気持ちも哀に伝わっていると思っていた。

しかし・・・。

コナンの戸惑いも気にすることなく、平次は追い討ちをかける。

「言っとくけど、俺はちゃんと哀ちゃんに告白したからな。ま、後は

彼女がその気になるように、アタック開始や」

「はあ?オイ、それって・・・」

「じゃ、俺寝るわ。ここでえーさかい、ほな」

そう言うなり、平次はごろんとソファに寝っころがる。

そして瞬く間にスースーと寝息を立て始めた彼を見下ろし、コナンは

ため息をつく。

全く、こいつは・・・。勝手なこと言って、勝手に寝やがって。

悪態をつきつつも、別室から取ってきた毛布を平次の身体にかぶせて

やり、コナンは1人階段を上がる。明日の朝、毛利探偵事務所には戻

ることにして寝るつもりだった。

自分の部屋の窓を通して、見やる阿笠邸。いつのまにかリビングの明

かりは消え、闇の中に沈んでいる。

もう、灰原は寝たんだろうか。

平次に向けていた微笑み。それを思い出すだけで、息が詰まりそうに

なる。

いつも、コナンを始めとする少年探偵団の面々に、向けられているの

と同じ皮肉な笑みではあったが、平次がそんな顔をさせたことすら、

しゃくに触る。

いつのまにか、少しづつ柔らかくなってきた彼女の表情に、見とれる

男が出てきても無理はない。

・・・哀。哀、ちゃん。

くそっ、そんな風に呼べるわけねーだろ?!灰原は、灰原だ。

ったく。こんなことでも、ライバルかよ・・・。

コナンは冷たい布団の中へと、もぐりこむ。

かつて、新一だった頃寝起きしていたこの部屋。

帰って来れるのは、いつの日か。

俺は、本当に、帰りたいのか・・・。

考えることは尽きない。

それでもいつのまにか眠りにつくコナン。

哀と平次だけ、眠らせるわけにはいかなかったから。

・・・あいつなら、夢の中でも口説きかねない。

 

END


 

やっと、話が終わりました。最終話、遅くなってすみませんでした。

最初は、単純にライバルを出させようと思って書き始めたこの話。い

つのまにか、コナンが悩みまくることになりました。

でもね、コナンにとっての蘭ちゃんの存在ってやっぱり大きいと思う

んです。そんなに、簡単に思い切られないだろうし。だからこそ、哀

ちゃんも悩むのだろうし。

哀ちゃんが幸せになってくれるのなら、相手は平次でも誰でもいいん

ですが、やっぱりコナンにしっかりしてもらわないとねえ。

 

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